ぼくとねえさん。
「……その方が都合がいいじゃない」
僕は僕と関係している、あるいは関係のある人に僕の現状を打ち明けて、互いが互いを潰し合うようにした。……したつもりだったけど、思った以上にみんな冷静で、僕の現状には興味がなくて、冷たかった。
僕の計画は早速頓挫し、僕は頭を抱えることとなった。
誰も僕を助けてくれない。
誰も僕を救ってくれない。
誰か……。
姉さん。
無論、僕と関係している人の中には僕の姉さんも含まれているけど、姉さんにそれを伝えてどうなるか、ということを想像できないほど、僕は愚かではなかった。姉さんにそのことを伝えれば、姉さんは奇声を上げ、包丁を握りしめたまま裸足で街中を走り回ることは容易に想像できた。いや、案外最近の冷静な姉さんなら奇声は上げず、ニコニコ笑ったまま、包丁を握って裸足で街中を徘徊するだけなのかもしれない。
姉さんは毎日、僕が先生と会っていたり、秋穂ちゃ……秋穂さんに虐められてボロ雑巾のようになって帰ってくるとどうしたの?と聞いていくる。前者の時は眼の奥が笑っていなくて、後者の時は眼の奥が狂気に笑っている。
そんな時、僕は無理やり唇を姉さんに押し付けて、誤魔化す。それだけで姉さんは数秒前の疑問を忘れ、僕との逢瀬に夢中になるのだ。次の疑問が浮かぶまでは忘れたまま。
それが終われば、いつものように金属バットを握り締めながら家中を歩きまわったり、壁や戸に文句をいって殴りかかる。この前はフライパンに大声で説教してた。
うん、いつも通り狂ってる。
確かに狂ってる。
何故、そんなことを僕が急に思い出したかと言えば、先生や秋穂さ……うん、秋穂さんが「お前の姉は本当に狂っているのか」と聞いてきたからだった。
どうしてそんなことをいうのだろうと僕は疑問に思うけど、彼女たちには彼女たちなりに姉さんの何かを感じ取っているのかもしれない。
だから僕は姉さんに姉さんは本当に狂っているのか、と単刀直入に聞いてみた。秋穂ちゃんや先生や僕以外の誰かだったら、もっと上手い聞き方をするのかもしれないけど、僕にはさっぱり思いつかなかったから、そのまま聞いた。
で、僕の質問を受けた姉さんは以外にも正常っぽい答えを僕に返した。
解答は狂っているけど、どこかそれは利己的で合理的のように思えた。
僕は少し分からなくなった。