私と数学と彼。
「君のことは好ましく思ってる。体の相性という奴も想像以上だ。だけど、それだけだ。私には君がどうなろうと興味はない。最低限、君が君であれば満足なんだ」
ホテルの扉を閉めると、不思議なことに理性の扉が開かれる。一般的に言い方をすれば、理性のタガが外れる。
自分の息が荒い。ランナーズハイのような苦痛と快感が入り交じったようなあま痒い感覚。
死肉を貪り食うハゲタカのように私は彼の唇を犯した。ぐちゃぐちゃに混ぜ込み、目を蕩けさす。短く彼は唸りながらも、頬を染め上げさせ、こすれる私の太ももに股ぐらを硬くさせた。
何度目の逢瀬になるか、それは定かではない。ただ最近は間隔が短くなってきているような気はする。
彼を見る度に私は逢瀬を思い返し、ヘソのあたりを熱くさせ、彼は私を見る度に頬を薄紅色に熱くさせた。
彼の背中を反らすように私は自分の重みを彼に預け、背筋を指先でそっとなぞる。すると彼は発情期の猫のような低い唸り声を上げて、身悶える。我ながら慣れたものだ。
このまま事に及ぼうとゆっくりと腰回りに手を回す。彼は腐った女のように汗臭いのは嫌だというが、私は寧ろその方が燃える。今日は体育が会った日で普段よりも二割増しに臭いが強い。洗わせてなるものか。
そう思ったが彼の私の背を叩くタップによって、一端動きを止めさせられた。
私は心の中で小さく舌打ちをして、財布から金を出し、彼の汗ばんだ手の中に握らせる。一割増だ、文句あるまい。
しかしそれでも彼は首を横に振った。しかたがないと私は汗ばんだ髪を掻き上げ、一割り増し分のサービスとして、彼に背中を流してもらおうと手を引いた。すると彼は重々しく唇を持ち上げて、相談したいことがあると私に言った。
何を打ち明けるつもりなのだろうかと待ち構えていると彼はおずおずとした口調で自分は姉と秋穂に虐められているということをいった。それを聞いた私は知っていると言うと彼は目を丸くして驚いた。
当然だろう、バカにしないでいただきたい。あの小娘が私と彼のことを調べていることも、彼を虐めている知っているし、あのイカれた姉が彼の前で偶に女の顔になることも知ってる。
その時、彼には言わなかったが、あの女は私が思うに、狂ったふりをしてるのだと思う。
知っている。
そう伝えると彼はどうして助けてくれないのかと私に言った。
だから私はそれに答えた。
興味がないからだ、と。