ぼくとねえさん。
情景描写、人物描写、会話文等はほぼありません。非常に短いです。
九割主観によって構成されております。
暇つぶし兼練習目的に書いたものですから、面白くないかもしれません。
「お姉ちゃんが守ってあげるからね」
それが僕の姉さんの口癖だった。母さんと父さんが会社の赤字がどうとかいう話でずっと喧嘩してて家が大荒れになった時、姉さんは僕と押入れに隠れて、そればかり言っていた。
今思えば、あれは自分に言い聞かせていたのだなあと思う。自分が暴力を振られるのは弟を守っている為だと自分に言い聞かせ、その辛い気持ちを前向きなものに変えていたのだと。
いつも押し入れから引きずり出されて折檻されている姉さんの僕を見る目は薄暗かった。僕は押入れの奥で、自分の口に手を当てて、僕の身代わりに引きずり出されている姉さんの顔眺めながらいつも思った。頭を抱えていつも思った。
ごめんなさい。
すみません。
許してください。
僕が出て行けば何かが変わったのかもしれないと。そう思う、思うけど僕は幼くて、心が弱くて、痛いのが嫌で、どうしようもなくて、その自分の弱さにに甘んじているが故に前に出ることができなかった。
いってしまえば僕は自分の未熟さを盾に姉さんが僕の代わりに折檻されるのは当然だと思っていたわけだ。姉さんが身代わりなのは年長者として当然のことだと。
外での姉さんはいつものように優しく微笑んでいて、辛いことなんて最初からなかったかのように笑っていた。どこか歪ながらも当たり前のように授業を受けていた。そして家では毎日毎日辛い思いをしていて、誰も助けなくて、僕をあてにはできなくて。
だから、そんな姉さんが酷く歪んでしまったのは当然のことなのかもしれない。
姉さんは僕が外に遊びに行くことを嫌がった。嫌がると言い方には可愛げがあるけれど、そんな可愛いらしいものではなかった。
簡潔に言えば激怒、あるいは憤怒。
僕が自分の目の届かない場所にいるのは嫌がったし、友達と公園で遊ぶことも嫌がったし、僕が外で転びようものなら一緒に遊んでいた友達に怒鳴り、そして喚き散らした。
本当に姉さんがおかしくなったんだなあと認識したのは割と最初の方だった。
僕が近所の友達と秘密基地で遊んでいた時のことだった。家では姉さんのすすり泣く声と父と母の喧嘩が酷く、僕は家にいることが酷く嫌になっていた。だからよく秘密基地に入り浸っていた。
日が沈み、友達は先に帰り、僕も嫌でも帰らなきゃいけないという時間帯になり、僕が外に出ると姉さんが赤いポリタンクを持って扉の傍に立っていた。いつものように笑ってて、いつものように静かに立っていた。
僕がどうしてここに……という前に姉さんは秘密基地のあばら屋にポリタンクを投げ入れ、中身をぶちまけ、火をつけた。中身はガソリンか灯油か何かで、勢い良く火は燃え上がり、あっという間に秘密基地は炎に包まれた。
メラメラパチパチと燃え上がる秘密基地を僕が呆然と眺めていると、姉さんはいつものようにニコニコ笑って、これでもうここに来なくていいねと言った。
その日から僕は姉さんが壊れてしまったんだと認識するようになった。