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挨拶

あとがき

〇補足情報

ニートシティの英語表記は"neat city"です。

皆さんが想起したニートではないです。


『魔法少女を排斥しろ!!』


閑静な住宅街に響く怒声。


シンシンと雪の降る月夜であった。


一角で大勢の人間が狂気をもって叫ぶ。


『魔法少女を排斥しろ!!』


相当な怒号で叫んでいるが、住民にとってはただの騒音でしかなかった。


閑散としているはずの空き地を、異様な熱気が占めている。


耐えきれなくなった住民達が、わざとらしく音を立てながらシャッターを閉める。


だがそれでも止まらず、また一斉に叫ぶ。


中には、”No magical!"と書かれた板を掲げる者もいる。


『我々は暴力をも厭わない!!魔法少女を排斥しろ!』


各々が手に何かを持ち掲げる。


金属光沢が、月光でキラリと光った。



■     ■  




キーンコーンカーンコーン―――――


嫌にはっきりとしたチャイムが教室に響き渡る。


「きりーつ、れーい、はーいさよならー」


気だるげな教師が拍子抜けな声を発して学校は終わる。


これはいつもの日常。


繰り返される日常。


その中で、俺は目を開けた。


「……今日も寝てたの?」


開けた視線の先には、ビクビクとした様子の眼鏡をかけた青年がいた。


やけにチビで、やけに臆病な、毎日会話する相手。


「……ああ、暇だった」


「よ、よく先生の前で堂々と寝れるね。陰キャとして誇らしいよ」


「……慣れたら楽だからだ」


背伸びしながら答えると、彼は納得したのかは分からないが、次に懐から漫画本を取り出した。


「それよりも、こ、これっ凄く面白いから是非読んで!」


そう言って絵柄の描き込まれた表紙を俺の前に突き出し、動きを止める。


「どんな話なんだ?」


「よ、よくぞ聞いてくれたね!これはね主人公が―――――で、それで―――――」


彼の口が何で出来ているのか不思議になるほどの速度で動く。


だが俺はそれを一つ一つ確実に聞き取り、理解する。


何事かに夢中になれるというのには一種の尊敬を抱くからだ。


畏敬といってもいい。


何もやることがなかった俺は偶然的に出会った彼からサブカルチャーを学んで、結果かなり好きになることができた。


彼ほどではないにせよ好きな物がはっきりと出来るのは喜ばしいことであり、

俺は彼に多少なりとも感謝の意も抱いている。


「中々面白そうだ。借りていいか?」


「う、うん勿論だよ。同担万歳」


彼から漫画を受け取る。表紙はいたって普通だが、中身はそうではないという手の物。


それを鞄へと突っ込み、立ち上がりながら背負う。


「……じゃあ帰る」


「えっもう帰るの?」


「今日は用事がある」


鞄を背負いながらの俺に、彼はビクビクとしながらも少し悲し気な表情をした。


「わ、わかった。じゃあね」


「ああ」


挨拶と共に教室を後にし、下駄箱で靴を履き替える。


学校を出てすぐに鼻を掠めるのはただの秋の香。


銀杏っぽいような、そうでないような香。


そんな香を纏いながら、いつもの帰途に着く。


だが、途中で”いつも”は変わることになった。


パキン、とまるで鏡の割れるような音が突如聞こえた。


気づけば俺は、真っ暗な道に立っていた。


空を見上げると、まるで墨汁のように黒に染まっていた。


嫌な予感がして前を見ると、そこに異形が立っていた。


人型であるが、あちこちから影のような手が伸びている。


それが、俺を目掛けて何かを叫びながら勢いよく迫ってきていた。


何かを思う前に、俺の目の前に迫った。


そのときだった。


「退け」


ドン、と何かが目の前を過ぎる感覚。


次に目の前に立っていたのは異形ではなく、可憐なドレスを纏った少女だった。


舞い上がる深紅の短髪が、やけに鮮明に網膜に焼き付く。


「おいよくも逃げてくれたなコラ。これでもくらえ」


そのままドンと地面を蹴ると、そのまま異形に匹敵し、豪速の回し蹴りを放った。


避けられるはずもない。


異形はその蹴りを受けくの字に曲がり、そのまま壁に吹き飛んだ。


壁を破壊するほどの衝撃が辺りに響き、異形は痙攣していたが、やがてピクリとも動かなくなった。


それを見た少女が、フンと鼻を鳴らした。


「ったく変な手間かけさせんなよな」


夜の一筋の街灯に照らされて、粗暴な口調でもひどく美しく見えた。


俺の視線と、少女の視線が合う。


「お前、大丈夫か?」


どうやら心配の視線らしかった。


「……ああ、お前は?」


「お前て……まぁ、私は、そうだな、これでも魔法少女をやっている」


自信気のなさそうな声でハハ、と情けない笑いをしながら言う。


「……そんな外見でそれ以外ないだろ」


「まぁ……確かにそれもそだな。じゃもう行くわ。魔法少女はお邪魔虫だろ?」


「いや別にどうとも思わない」


俺があたかも当たり前であるかのように言うと、少女は目を見開いた。


「いや、お前、珍しいな。いつも私を見るといやな顔をするやつが多かったのに」


「俺は漫画で忙しい。だから魔法少女反対とかいう国の方針になんの興味もない。お前にも」


俺が漫画の入った鞄を軽くポンポンと叩く。


「今拳が出かかったわ」


少女が呆れたように肩を落とす。


俺は国の思想、政策なんてまるっきり興味がない。


それに踊らされる気もさらさらない。


街灯が一瞬チカリと明滅した。


早く帰りたかった俺は、少女から視線を外した。


「じゃあ俺帰る。忙しいんだ」


「……そかい。ならさいなら。もう二度と会うことはないねぇと思うけど」


俺は少女を置いて、振り返らず一人歩き出した。


気づけば、俺はいつも通りの通路に戻っていた。


先ほどまでスポットライトのように煌々と光っていた街灯は鳴りを潜めている。


俺は歩いて角を曲がった。


すると、少し先に大勢の集団が見えた。


何人もが同じ怒りの顔をしていた。手には金属光沢で光るバールや刃物が握られている。


「なぁお前」


視線が合った先頭の男が、いきなり俺を溝鼠のような目で睨んできた。


俺は何もしていないのに、全くもって理解不能だ。


「魔法少女と随分楽し気に会話してなかったか?」


「……ああした」


そう俺が返事をした瞬間、突如狂ったように俺との距離を詰め、手に持つバールを力限り振りかぶってきた。


突然で成す術もなかった俺はそれを頭で受け止めるしかなかった。


ゴン、と辺りに響く重低音と同時に頭が激しく痺れる感覚。


霞む視界には舞う鮮赤の液。


バランスを崩したらしい俺は、そのまま地面になだれ倒れた。


怒号が上から降りかかる。


「お、お前がっ、お前のようなやつがいるから魔法少女は居続けるんだッ!」


視界が薄くなっている俺に、何度も蹴りを入れてくる。


腹から聞こえるバキリという音。


唯一意識に響く痛覚。俺は何をしたというのだろう。


蹴り音が、夕日が横から全てを照らす道によく響いた。


「お国が許可してくれてるんだッ!。今日はこのくらいにしてやるが次見かけたらただじゃおかないッ!おい、向こうの魔法少女探しに行くぞ!!」


満足したらしい男は、俺の薄い視界を通り過ぎていく。


それに従い他の人間も過ぎていく。


「オラッ!」


途中で何度も踏まれ蹴られた。


やつらが角に消えていく。


ああ、全く何て最悪な日なんだ。


頭が小さな赤の水たまりに浸かった頃、街灯がようやくそれを照らした。


より鮮明に俺の姿が映る。きっと無残な姿だろうが俺にとっては慣れたものだった。だがここでこのままなど許されたものではない。


―――――そうだ、歯には歯を、暴力には暴力を。いつも通りに。


俺の身体を淡い光が包んだ。




■     ■





「おいッ!さっきの魔法少女はどこに行った?!」


男は狂ったように地団太を踏んだ。


周りの人間も悔しそうに各々が叫ぶ。


パッと点いた街灯が、それをサーチライトのように照らす。


「くそ! ようやく捕まえれるチャンスだったのに!」


溢れる怒気は一体何処へ向かうのだろう。


「こうなったらさっきのガキを使って―――――」


「どうも暇人」


突如道の先から聞こえた声に、人間が一斉に視線を向ける。


「は?魔法少女か?!―――――いや待て」


男はジッと先の、街灯の下に立つ者を見る。


それは小さな少女。


黒の軍服のような華美な服を身に付け、上に白の刺繍が入った青のローブを纏っている。


そして、神々しささえ感じる白のロングヘア―。


その髪には、彼岸花のヘアピンが一つ。


その周りには2つの宝珠のようなものが静かに浮かんでいる。


男は当初魔法少女かと思った。


だが、少女の背後に見えたものがそれを否定した。


二つの光が形作る光輪。そして、そこから広がる注連縄。


「お前……まさか守護四天か」


そのシンボルに、男は見覚えがあった。


その光輪は、この都市―――ニートシティ(NEAT CITY)で守護四天と称される4人が持つもの。


昔、この都市を不毛の大地と瘴気から救った4人の英雄。


魔法少女であるが、魔法少女であって、魔法少女でないような存在だった。


「そうだ」


距離を空け、短い返事が鈴の音のように聞こえてきた。


「どうしてこんな所に……?」


男はいやな汗をかいた。基本的に彼女らは中立だが、別に平和主義ではない。


態々目の前に現れる理由は考える必要などあるだろうか?


少女が静かに口を開く。


「お前たちが煩いから、いなくなって貰おうと」


街灯がジジ、と電気的な音を鳴らす。


「固有魔法――――生命の衰微(モールス・バイタエ)


瞬間、宝玉が回転し、一つから赤い光が放たれた。


「―――ッ?!」


男は一瞬身構えたが、赤い光はただ照らすだけだった。


「……何だ?」


いやな空気が、汗が、男の思考を乱す。


呼吸が荒くなる。


だが一向に何も起こらない。


そう乱れだした頭で思ったときだった。


「ぐッ、ぎゃあああ!」


突如聞こえた仲間の歪むような悲鳴に振り返る。


そこには、体中の穴から暗赤の液体を撒き散らす何かの姿があった。


額から、手から脂汗が吹き出す。


鼻に違和感。男が手で押さえると、ツーと赤い液体が垂れてきていた。


気づいた時には想像を絶するほどの激痛が襲った。


「ぐッ!ぎいいいい!」


視界が赤く染まる。内臓がグルグルとかき回されるような感覚。


必死になって耐えながら、男は視線を先へと送る。


すると、何の前触れもなく目の前に少女は立っていた。


街灯が二人を照らし出す。周りの人間は、既に血の海に沈んでいた。


「なッ!!ぐぅぅぅうううう!!」


男が言葉にならない悲鳴を上げながらも目を見開き、少女を睨みつける。


だが少女何の気にしないように、再び静かに口を開いた。


「じゃあな」


酷く澄んだ声が死刑執行の合図のように響く。


宝玉が回転し何かが起きるのを最後に、男は深い海へと沈んだ。


チカン、と街灯が再明滅する。


その場には、物言わぬ体だけが生暖かい鮮血に沈んでいた。






























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