表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
三題噺  作者:
5/15

「万年筆」「自動販売機」「雪だるま」

【冬のインク】


雪がしんしんと降る午後、駅前の自動販売機の横に、小さな雪だるまが置かれていた。

丸い頭には、なぜか青い万年筆が突き刺さっている。まるでペンが帽子代わりになっているようだ。


僕は足を止め、そのペンを抜いてみた。重さのある、古い外国製。キャップを外すと、中にはまだ青いインクが残っている。持ち主が置いていったにしては、ずいぶん上等な品だ。


寒さに震えながら、自動販売機で缶コーヒーを買うと、背後から声がした。

「それ…僕のです」


振り向くと、マフラーをぐるぐる巻きにした少年が立っていた。息が白く、手袋越しに差し出された手が少し震えている。

「万年筆?」

「はい。…でも、それは僕じゃなくて、父のものです」


話を聞けば、その万年筆は父が作家だったころに使っていたものらしい。父は数年前に亡くなり、少年は今日、父の命日に雪だるまを作ってそこにペンを挿したのだという。

「父は雪の日が好きで…原稿もいつもこのインクで書いてました」


僕はペンを返し、缶コーヒーを半分ほど差し出した。少年は笑って受け取り、雪だるまの隣に腰を下ろした。

「父の小説に、駅前の自動販売機が出てくるんです。…ここで会えたのも、なんだか物語みたいですね」


雪は降り続き、雪だるまの肩に白い層が重なっていく。

別れ際、少年はペンを胸に抱えながら言った。

「父の続きを、僕が書いてみようと思います」


駅までの道、僕の足跡の隣に、万年筆の青いインクの色が、ずっと残っているような気がした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ