エピローグ 悪役令嬢、電影魔法で世界を変える
いよいよ最終話です。
偏見ざまぁの先にある、ちょっとだけ前向きな未来を描いてみました。
主人公の最後のしれっとっぷり、見届けてもらえたらうれしいです。
「ごきげんよう、皆さま。偏見をぶった斬るお時間が、まいりましたわ♡」
鏡面のように澄んだ《電影水晶》が、わたくしの姿を空に映し出す。
王都のあちこちに設置された《伝導鏡》では、町の人々がわたくしの映像を見て、にこにこ笑っているらしい。
「本日お届けいたしますのは――『貴族式お茶会での偏見あるある・その三』ですわ!」
そう、《電影魔法》。
これは最近ようやく確立された、新しい魔導技術でございますの。
魔力を通した水晶に記録された映像を、空中や鏡に映し出す術式。
貴族の舞踏会や王国の広報に用いられていたものを、庶民にも届けられるよう改良されたのですわ。
わたくしはこの魔法を使って、偏見に満ちた“見られ方”を、華麗にひっくり返していく。
「“レース三段スカートを着る令嬢は気が強い”ですって? それ偏見ですわよ!
フリルは、わたくしの心のクッションですの!」
空の投影が揺れ、視聴者の《共鳴石》から反応が飛んでくる。
「そのフリル、癒し」
「我が家の母にも見せたい」
「ベレッタ嬢、最高すぎる」
「それ偏見ですわ、が口癖になりそう」
ふふ。偏見という曇りガラスを、ユーモアでぴかぴかに磨くのは、心地よい作業ですわね。
「最初めっちゃ冷たい令嬢だと思ってたけど、普通に優しかった」
「あの落ち着き、今思えばかっこいい」
「黙ってるだけで怖いって思われるの、損だよね……」
「……よく言われますの。『怖い』『冷たい』って。
でも本当は、紅茶で指を火傷したら普通に泣きますわよ?」
くすくす、と笑い声が流れた。
活動のきっかけは、あの断罪劇だった。
あの後、街の人々から「もっと話を聞きたい」「自分も誤解されやすくて……」という声が届き始めたのです。
わたくしはそれに応える形で、日々の映像を編集し、《電影の間》を開設いたしました。
「“侯爵令嬢って何食べてるの?”という質問が多かったので、今日は朝食をご紹介いたしますわ!
本日はくるみ入りパンと、南方から取り寄せたハチミツに、ミントのハーブティーで……え? 食べすぎ?」
ちょっぴり天然な一面も、どうやら好評らしい。
「お嬢さま、今日の《電影水晶》の魔力視聴数、十五万を超えております!」
側仕えのシェリーが、目を輝かせて駆け寄ってくる。
「まぁ、それは嬉しゅうございますわ。でも……十五万という数字、実はよくわかっておりませんのよね?」
「すごいってことです!」
「ならよかったですの♡」
わたくしの活動はやがて、各地の魔導学院にも広がり始めました。
《偏見学》という新しい授業ができ、生徒たちは“自分の思い込みに気づく”トレーニングを受けているとか。
気がつけば、“かつて悪役令嬢と呼ばれた令嬢”は、
“偏見を晴らす魔導解説者”として、新たな道を歩んでいたのです。
そうそう、王太子アルフレッド殿下から、こっそり手紙が届きましたの。
『あの日、君を疑ったことを悔いている。
でも、今の君は、僕の手の届く存在ではない。
映像で語る君を、尊敬している』
……少しだけ、胸が温かくなりました。
でももう、振り返りませんわ。
だって、わたくしの前には、偏見という名の霧に覆われた未来がある。
それをひとつずつ照らしていくのが、今のわたくしの役目ですもの。
「では皆さま、また次回の《電影の間》でお会いいたしましょう。
偏見をぶった斬る麗しき剣――
それは、フリルと誠実さでできておりますのよ♡」
軽やかにウィンクして、わたくしはて電影水晶の前で小さくくるりとターンする。
フリルがひるがえり、鏡の中に希望がきらめいた。
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