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第三章 真実は偏見を超えて

王太子殿下との関係にも一区切りがつきます。

主人公は表情が薄いだけです。もちろん優秀。

「……エスメラルダ・ド・ベレッタ嬢、あなたは無実です」


 念の為にと宰相閣下にお願いし、記録が本物かどうかを鑑定してもらう。

 裁定の言葉が響いたとき、会場の空気は一気に解けた。


 わたくしはというと、ほっと胸をなでおろしつつ、

 「よかったですわぁ……お腹がまた痛くなりそうでしたのよ……」

 と、ちょっぴり本音が口をついて出てしまいました。


 この天然発言が、なぜか場をまた和ませたようで――

 周囲の貴族たちは苦笑いしながらも、わたくしの潔白をようやく真正面から受け止めてくれているようでした。


「それにしても……まさかここまでとは……」


 呟いたのは、殿下の補佐官であり、昔からわたくしの家庭教師でもあったオルセイン卿。

 こめかみに手を当てて、わたくしの映像魔導技術への執着(もとい趣味)を回顧しているようでした。


「……その、“記録水晶”とやらは、常に稼働していたのですか?」


「はい。記録水晶はお友達ですの。あと、《魔筆日誌まひつにっし》も毎日綴っておりましたの」


「ま……まひつ……?」


「“侯爵令嬢の気まぐれ写し鏡”という題で……あっ、でも今は封印呪文で非公開にしてありますのよ?」


 オルセイン卿の、天然なのか、計算なのか、というお顔。

 それはわたくしにもわかりませんが、たぶん両方だと思いますの。


 さて、問題は“彼”です。


「エスメラルダ……」


 王太子アルフレッド殿下。

 もともとわたくしの婚約者でありながら、ヒロインの言葉を鵜呑みにし、わたくしを断罪しようとした張本人。


 ……いや、顔はいいんですのよ。眉目秀麗、声も素敵で、立ち姿は美術品のよう。

 でも中身が、ちょっと。ほんのちょっとだけ、いえ、思いっきり“見る目”がございませんでしたわね。


「許してほしい……」


 殿下が、頭を下げた。


「すべて……僕の判断の甘さだ。君を疑い、皆の声に流された。最低だと、今ならわかる……!」


 わたくしは目を瞬かせ、しばし黙って見つめた。


 ──真摯な謝罪。


 なるほど、彼なりに自分と向き合ったのかもしれません。


 ですが。


「……遅いですわ」


 にっこり笑って、そう言い放った。


「え?」


「偏見を武器にしたあなたに、もうわたくしの隣に立つ資格はございませんわ。

 その冠、少し重かったのではなくて? 王太子殿下」


 会場がざわめく。


 殿下の顔が一瞬、痛みを浮かべた。けれど、それも当然。

 わたくし、ほんの少し……いえ、実はけっこう、傷ついておりましたのよ。


「それに……」


 くるりとドレスの裾を翻し、背を向けてから、そっと付け加える。


「わたくし、今では新しい夢がございますの」


 それは──“偏見をぶった斬る令嬢”として生きること。

 わたくしの小さな行動が、誰かの目を開き、心を揺らすことがあるのだと知ったから。


 リリアン嬢は、修道院へ向かうことが決まった。

 彼女は小さく一礼して、わたくしにだけ、こう言った。


「……今度こそ、自分でちゃんと光を見つけます。だから……ありがとう」


 ええ、いい子になりますのよ。

 下剤はもうこりごりですわ。


 そして――

 殿下は王位継承権を自ら辞退し、弟である第一王子レイモンド殿下が新たな王太子となった。


「エスメラルダ殿、改めて、お近づきに──」


「お断りいたしますわ」


 即答しました。


「え、まだ何も言ってない……」


「未来予知ですの」


 レイモンド殿下、ちょっとだけ涙ぐんでおられましたけれど、まあまあ、それも社会勉強ですわ。



 こうして、わたくしは“悪役令嬢”を卒業した。

 偏見にまみれたラベルを脱ぎ捨て、自分らしく生きる選択をしたのです。


 次の道? もちろん、考えてありますのよ。


 ふふ、わたくしの物語はまだ続きますの――

アルフレッド殿下は何を見ていたのか……

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