1-2話 金属工業の街 ルーチス
前回のあらすじ
能力を使い異世界へ来たルヴェルは、混乱しているところを親切な貿易商の方に拾ってもらった。
彼の目的地だと言うルーチスの街へ赴くことになったのだが、もちろん以前の世界の貨幣は使えるわけもなかった。
「お前さん、もしかして一文無しか?」
いや、一文無しというわけでは決してない。ただ今までの貨幣が使えなくなっただけだ。確かに出てきたのは銅貨のみだったが、それは馬に積んでいた財布が消えてしまっただけで、一文無しなどでは絶対ない。しかし、言い訳をしたところでいくら金を持って来れても、この世界では無価値なので考えても仕方のない話なのである。
「いやー、ちょっとたまたま手持ちなくて」
「どういう言い草なんだ、それは」
「あは、あははははは~」
「まぁいい、、仕方ねぇ、拾ったのも何かの縁と思って街を案内してやる。荷物にはなるなよ?お前さんみたいな調子者が積み荷になるなんて御免だからな」
「ありがとうございます!!」
こうして、僕はこの貿易商のおじさんと街を回ることになった。
最初に向かったのは貿易場。ここでは馬車や金属でできた不思議な乗り物で運び込まれた荷物や、街からの生産品はもちろん、外から運びこまれた品々が集められていて、売り買いされて入っては出ていくということを繰り返しているようだ。ここら辺は前の世界でも経験したことなのでなんとなくわかる。しかし貿易場の大きさに対して物流の量がかなり少ないように見える。
「どうだ!ここがこの街の貿易場だ。なかなかに大きいだろう?」
「すごいっすね!あと、ちょっとだけ質問してもいいっすか?」
「おう!なんでも答えてやるよ!」
「あの金属製の乗り物はなんなんですか?」
「あぁ、あれは車って言ってな。馬よりも力もスピードも早えーんだ。しかしだな、燃料入れねぇと走れねぇし、そもそも値段もバカにならないしで使う人は少ねぇな。ま、いわゆる金持ちの証ってこった。」
「ロマンがありますね!あ、あとここの貿易場、大きさに対して物流が少ないと思うんですが、」
「お、お前さんはこういう仕事やったことあるのか。確かに今は少なぇなぁ。少し前まではあふれんばかりの人でごった返していたんだが、何せ荒野にあんなバケモンが出たせいでここへの街道の大半が危険な状態でな、来ようと思う人はいねぇんだ、ここにいるのは仕事で嫌々来てるやつがほとんどだよ。」
「出現確率が低くても遭遇したら確実に死ぬから、近づきたくもないってことですか。」
「まぁ早いとこそうだな。しかし車だったら決死の覚悟でなら乗り切れるかもしれないとは俺は思ってるぞ。実際そう信じてるやつらが街から多く来てるしな。」
そう会話するうちに僕たちの番が来た。この馬車に積んでいたのはどうやら食料品らしい。この街より東側の山岳都市ではで食料品を生産する街は少なく、物流の量が減ってしまった今、一番枯渇しやすい物品らしい。そんな雑談をしながらおじさんは、積み荷のリストと出発伝票を兼ねた板を係員に渡し、係は素早く到着伝票を違う板に書き上げ、買取金と一緒に渡している。後ろでは別の係員が素早く荷下ろしがしていて、効率化と時短がされているのがわかる。この量を数分で降ろす人たちに対してとても感心する、僕もこういう所だけに配達したかったもんだ。そうこうするうちに取引は終わっていた。
「これで取引は終わったんだが、お前さん、一文無しだしここのことをなにも知らなそうだから案内してやるよ。」
「何から何までホントありがとうございます!」
そして街を一緒に回ってくれることになった。その時に名前を聞いたのだがタイダードというらしい。そしておじさんと思っていたが意外と若かったらしい。ホント申し訳ない。いや顔に傷入ってて仕事の疲労で顔にしわが集まってたから多少は仕方なくないと思う。そして、タイダードさんがこの街の核とも言える、工業が盛んな地域に連れて行ってくれることになった。そして、そこに近づくにつれて空気がさらに汚れていくのを感じる、息がしずらい。いやしづらいどころではない気がするが。そして黒煙が空を覆っているせいで入り込む光も非常に少ない。
「ここがこの街の中心、工業地域だ、排気を垂れ流しているせいで空気は汚ぇし、空もまともに見れねぇんだ。肺をやられないように気を付けとけよ。」
「げほっ、、はい、、」
相当苦しい。煤が雨のように舞い降り続けている。息を吸うと煤が入り込んでくるので非常に吸いずらい。一方で街の景観と言えば、そのほとんどが金属で出来ている。人通りもそこそこあって、轟音がけたたましく響きあっている。建物の見た目はひどいもので、錆びや煤で黒くなった所が多く見られ、所狭しと建物に建物がねじ込まれるかのように窮屈に配置されている。そのせいで、この地帯一帯が大きな一つの建物であるかのようになっている。そう見えるレベルで入り組んでいて、非常に窮屈なのである。
「街としてはひどい姿だろうが、一つのクソデカい工場と思ってしまえば案外悪いもんでもないんだぜ!」
「そっすか、、げほっ」
「ま、一回見に行ってみようや。この辺に知り合いの工場があるからな。」
そう言われて案内されるがままに付いていく。まじでこの街の騒音がうるさい。耳が悲鳴をあげている。
「着いたぞ、ここがその知り合いの工場だ。」
「すっごい複雑な場所ですね。」
「お前さんは機械を見るのは初めてか。ここではこういった機械を使って金属を精錬していくんだ。お、ここの工場長のお出ましだ。」
「んな大層な言い方やめてくれタイダード。僕の名前はヴェン、ここの工場で責任者をやっているよ。」
「んじゃ、ヴェンはこいつに少し工場を見学させてやってくれ。俺は暇しとくからよ。」
「それはタイダード。作業員に絡んで作業を停滞させるのだけはやめてくれよ。」
そうして、ヴェンさんにここの工場を案内してもらえることになった。機械の動く音と共に、中はとても熱い。
「これが溶鉱炉。この中に選別された鉱石を入れて、純粋な金属にしていくんだ。」
「とても赤いですね、、」
「まぁ、石を溶かすことになるわけだから、相当火力がいるんだよ。この中は灼熱のプールだから絶対に入らないでよ?」
「だれもこんな中入らないっすよ、、」
「そして、ここが溶鉱炉から運ばれてきた金属を延べ棒にして固めているところだ。これはまた別の工場に回して加工されて製品になっていくんだよ。」
「かなり大きな延べ棒ですね、、」
「工業用だしね。民間用の希少金属の延べ棒とかはまた別のところだね。そして、こっちは溶けた金属をそのまま加工する場所。溶鉱炉から運ばれた溶けた金属を型に入れて成型したり、刃物製品の鍛造を行っているよ。あとは、銃やその弾も作っているね。少し前から武装品の需要が上がっているんだ」
「かなり大掛かりで大規模な作業場ですね」
「基本的にはこの街ではこういう作業を分業で行ってるよ。鉱石を延べ棒などにする精錬、成型、焼き入れ、鍛造などを行う一次加工、一次加工でできた部品を組み立てる二次加工と行っているんだ。うちでは精錬と一次加工をしてるよ」
当たり前と言えば当たり前なのだが、見学に来る人などいないらしく、興味を持った人が来たからうれしいのか、終始かなり興奮した様子で説明をしてくれた。僕も科学技術の片鱗を見れたからとてもよかった。そして、タイダードさんの元に戻ると、作業員と思わしき人と楽しそうに喋っていた。
「お、終わったのか。ありがとな、ヴェン」
「それはいいが、邪魔だけはするなと釘は刺したよな?」
「ま、まぁいいじゃないか、俺たちは先にバーへ行くとするよ」
「はぁ、まあいい。僕も仕事が終わったら行くとするよ。」
そうして、工場見学が終わったのであった。ヴェンさんの殺気が凄かったが、それを物ともしないタイダードさんの図太さ、どっちもすごいと思う。バーに行くと言っていたのでこの世界にも酒はあるんだろう。どんな物があるか楽しみである。
バーに着いたらしい、看板にはハルの酒場と書いてある。
「一文無しのお前さんは俺に頼りな。奢ってやる。」
「あざっす!!!!!」
着いたら飲む気満々だったが、一文無しだったのをすっかり忘れていた。タイダードさんのご厚意がとてもありがたい。そうしてベルの軽快な音と共に店へ入った。
「おっす。マーチェ姐さん。とりあえずビール一杯!」
「僕も同じもので!」
「はいよ!んで、タイダード、その呼び方はやめてって何度も言ったわよね??」
「あー、忘れてたわ、あっはっは!」
「ふーん、忘れるねぇ、じゃあ体に覚えさせてやるよ、ちょっと来い!」
「あぁ!?いででででで!!!」
入るなり酒を頼み、怒涛の勢いで話が進んでなぜかタイダードさんは連れていかれた。少しだけ体格のいい女性がさらに大きな大男を軽々と引きずっていく様子には少し驚いた。そしてそのままタイダードさんは店の裏へ引きずり込まれていった。
「あちゃー、ついに怒らせちまったか、あの姐さんおっかねーからなぁ、」
そんな声も聞こえてくる。大丈夫なのか、、?あの人。そんなことを気にしながら席に着き、別の人に酒を注いでもらい、飲んでいると、店の隅のある一席に人だかりができているのを見つけた。不思議に思って近づいてみると、
「お前も、占ってもらえよ!」
「よっしゃ!大金持ちになれるかもだってよ!」
「お前だけずりぃぞ!!」
とかそんな声が聞こえる。どうやら占いをしているようだ。僕も占ってほしいものだなぁ。と考えていると、話しかけられた
「ん?お前だれだぁ?見ねぇ顔だなぁ?」
「おい、タイさんの連れだってよ!」
「そ、そうなんすか!?すいませんっした!」
絡まれたかと思ったけどなぜか助かった。タイさんってのはタイダードさんのことなのだろうが、名前だけでここまで態度が急変するって、あの人そんな有名なの?
「せっかくなら占ってもらえよ!おい!開けてやってくれ!!」
「お、おう!!」
「タイさんの連れだー!通してさし上げろー!
ずるずると流されるままに話が進み、なぜか優先的に占ってもらえることになった。願ってもいないことだったのでほんとにありがたい。そして占い師は少し年を取った女性で、顔を隠している。なんとなく、それっぽい独特の気配を感じる。
「では、占うぞ、、」
「お、おねがいします、」
「ムムムムム、、」
そういいながら水晶玉に手をかざして唸っている。おい、偽もんじゃねぇだろうな、こいつ。
「ムム、、?何も出てこないぞ。ひょっとして、お前さんはこの世界の人間じゃないのか、、?」
「「「「は!!???」」」」
占い師の疑いの目、ルヴェルが転生者だとバレたことに対する動揺、ギャラリーの驚愕する声、それがバーの一角で静かに、大きく叫ばれた。
次回は、占い師から告げられる運命、その重さに重圧を感じるルヴェルの話、、になると思います。乞うご期待




