1-1話 未知との出会い
運送屋に勤める主人公、ルヴェル・ハーマは運送中のひょんなことから世界を移動する能力を手に入れた。その能力を使ったところ、、、
ドサッ
「いってぇぇぇっ!!!!」
鈍い音と共に僕は地面に叩き落された。なんという仕打ちなのだろうか。すごく痛い。
そして、周りを見渡してみると、さっきまでとの様子が見違えるほど変わっている。
とりあえず能力は使えたらしい。だから多分ここは別の世界なんだろう。
周りを見ても人影が全く見えない。とりあえず人の気配のある所へ移動したい。
馬車があってよかった。と思い乗っていこうとしたが、いなくなっている。
つまり積んでいた食料や水、その他積み荷もなくなってしまったらしい。
このままでは脱水や餓死でいずれ死ぬし、移動手段もないから動けない。詰んだ。
とりあえずこうなった原因でもある能力の説明でも見てみよう。
【世界転移】
今いる世界から別の世界に転移することができる。
移動先はこの能力では指定することができない。
転移できるのは本人と持っている能力のみ。
転移先の世界のルールに反する事項があれば、自動で調節される。
移転先の世界の言語は、翻訳できる。
ただし、一度この能力を使うと、しばらく使えなくなる。
もう一度使うためには、その世界で特定の行動をしなければならない。
なるほど、これで異世界に来たことが確実になった。ひとまず向こうでの仕事の心配はする必要がなさそうなのでとりあえず安心なのだが、改めて考えてみると、ここでは戸籍や身分などを証明できない。だとすると働くこともできないし、住む場所も確保できない。向こうの世界での責任追及がなくなったことだけは良かったが、その他の面でよくないことが多すぎる。これじゃこっちに逃げ込むより向こうで大人しく大目玉を食らっている方がまだマシだったのかもしれない。そう考えると帰りたくなってきた。しかし能力の再使用にはなにかしなくちゃいけないらしく、それが何かもわからない。仮に達成できても、転移先はランダムで、必ず元の世界に帰れるわけじゃない。これからどう生きていけばいいというんだ。
とりあえず辺りの観察をしてみよう。辺りには砂や岩肌の剥き出た地面が広がっている。つまりここは荒野のようだ。そして僕のいるところは地面が周りよりも固められていて、道みたいになっている。おそらくこれが街道なのだろう。しかし人の気配は全くない。周りに動物のいる様子もない。なんなんだここは。違和感しかない。
「ぉーい、、おーい、」
人の声が遠くからかすかに聞こえる。周りには他の人も生き物もいないので、多分僕を呼んでいるのだろう。この世界の人が僕に話しかける用事なんかないと思うので、なぜ呼んでいるのかさっぱりわからない。
「おーい!!!」
何か用があるのだろうか。いやないと思う。それにしても、僕は今後のことを考えるので必死なんだ。ほっといてくれ。あとここでやっと視認できた。いや、できたというか、見もしてなかっただけなのだが、、
そう思っていると、馬車は目の前で止まった。身構えていると、
「何やってるんだお前は!?こんなところで立ち止まっていたら、’’アイツ’’に襲われるぞ!?死ぬ気か!」
そんな風に言われた。いや、死にたくてここにいるわけじゃないんですけど。たまたま飛ばされた先がここだったからここにいただけなんですけど。ひどくね?
そう言えるわけもないのでとりあえず違和感がない形で応対しておこう。
「し、死ぬ!?」
「あぁ、ここにいたらいつか死ぬだろうな。知らずに来てるお前さんに俺もびっくりだよ。」
「まぁこんなところで長話してたら俺もお前さんも死んでしまうから、とりあえず乗っていけや、近くの街ぐらいまでは運んでやる」
「あざっす!」
何という幸運、乗せてもらえるとは。そうして、僕は馬車にゆられながら、さっきの’’アイツ’’について聞いてみた。
「アイツってのは、なんなんですか?」
「俺も詳しいことはわからないな。」
「え?それってどういう、、」
「見ることに成功した者は必ず死んでしまうから、情報を持ち帰ることができないんだ。ただわかっていることは、今言った通り、遭遇すると死ぬってことだけだ。」
「ただ、決死で手に入った情報もあるんだが、巨体で、動きが素早いっていうのと、砂嵐が出現の予兆ってことだけだった」
「そうなんですか、、」
この世界には怖いものがいるようだ、あっちの世界ではそういった類のものはいなかったから予測がつかない。とりあえず関わりたくは絶対にないな。
「じゃあこちらからも質問させてもらおう。なぜあんな所にいた?そしてなんなんだその恰好は?」
「へ?あぁ、それはいろいろとあって、、」
「ふぅん、対価があった方が平等だとは思ったが、必要以上の詮索はしないでやるよ、誰にだって言いたくないこともあるだろうしな、こんな他人なんか特にな、」
そんな話をしながら移動すること数時間、、ついに街が見えてきた。大きめの都市のようで、防壁が周りを囲んでいて、迫力がある。監視塔のようなものなども壁に付いていて、行き交う馬車や、中には黒煙を上げる建物が見える。ていうか黒煙が雲のようになっているのだが、環境的には大丈夫なのだろうか。
「ほら、あれが俺の目的の都市、ルーチスだ。王都や商業区の都市に比べると多少見劣りしちまうけど、希少鉱石などの鉱山や、産出量の多い炭鉱に近いおかげで、金属類の精錬・加工が盛んに行われているのと、山岳都市への引継ぎの市場や関所として機能しているおかげで栄えてるわけだ。いくら僻地に住んでいたとしても名前ぐらいは聞いたことあるだろ。」
「なるほど、精錬って、、あんな煙出しながらやるんですか?こう、能力で燃やしたり、、」
「あっはっはっ!お前さんは面白いことを言うなぁ!そんなのはおとぎ話の世界の話だ!そんなことできるわけないだろう!」
「は、はぁ、、」
どうやらこの世界では能力や魔法という概念はないらしい、僕たちの世界では栄えなかった科学ってやつなのかもしれない。つまりあの黒煙は燃料となる石炭などが激しく燃えているために出た排気ということなのだろう。街に近づくたびに空気がしづらくなってくる。空気が著しく汚染されているようだ。
そして運転手のおじさんが門番と思われる人へ通行許可証?を出し、町に入っていく。
「さて、目的の街についたぞ。約束した通り、俺が送るのはここまでだ。お前さん、金は持ってるのか?」
「こ、これなら、、」
そう言って、着ていた衣服からお金を取り出す。何かあったときのためにと、なけなしの金をとっておいていたのだ。そこにはもちろん金貨や銀貨といった高価なものはなく、大銅貨1枚と小銅貨が3枚手のひらで虚しく光を発しているだけだった。しかし、そんなほぼ何の役にも立たないなけなしのお金は
「なんだそりゃ、おもちゃか何かか?精巧にできたおもちゃだなぁ、」
その言葉と共にこの金属はここでの価値を失った。そして僕の中でも何かプライドがへし折れる音がした。なんとなくは分かっていたのだが、流通している通貨もこの世界では違うらしい。この先ここでどう生きていけばいいというのだろう。
次回ははルーチスでの探索回です。精錬所に、鍛冶屋、金属部品の工房から、バーや店まで…そんな話です。