0-1話 僕の1ページ目
「おい、手をさっさと動かせよ無能w」
「可哀想だから手伝ってやるよw」
そう言って先輩は能力で箱を浮かせ、僕にぶつけてくる。箱には中身が入っていて、その辺にある鈍器よりも痛い。そして地面に落ちた箱は所々凹んでおり、恐らく中の荷物も傷んでいるだろう。
「痛い、痛い!」
「おいおい、さすがにそれは良くないだろw箱ぶつけるとかw」
「そうだぞ、やめてやれよw」
無抵抗なのをいいことに、周りの連中も思い思いに攻撃してくる。防ぐ術もなければ、抵抗することもできない。僕みたいな弱者にはみんな冷たく当たる。この世はなんて理不尽なものなのか。
「や、やめてください」
「やめてほしいならさっさとやればいいじゃんw」
「ギャハハハハw」
「う、うぅ」
僕はルヴェル・ハーマ。僕はここの大きな運送屋で働いていて、この会話はいつもの光景の一コマである。
僕は無能力であることを理由に先輩などから虐げられていて、体にはその時にできた痣や傷が無数に付いている。そのせいで僕の見た目は見るだけで痛々しく、僕に配送の依頼が回されることはほとんどない。
しかし今日は、人手不足で僕にも依頼が回ってきた。しかも、国ぐらいの大口の依頼だった。
でも、その依頼内容はどこか変わっていた。その要件は、
・中身を開けてはいけない
・中身に傷がつかないように丁重に扱うこと
・時間には一秒違わず正確に
・荷物の詳細は一切記載なし
・不必要な詮索は禁止
・報酬は沢山
というものだった。上三つはよく見る要件だが、下三つが変わっている。運送屋である僕たちも詳しい詳細を知らない荷物なんて今までになかったし、何より運送事故のリスクにもなる。
でも、その高額な報酬に目がくらんで依頼を受けてしまったそうだ。
「おいルヴェル!早くしねぇと時間に間に合わねぇだろうが!」
「すいません!今すぐ行きます!」
「口じゃなくて手を動かせ!もしお前のせいで損害が発生したらどうする気だ!」
「すいません!」
「お前みたいな無能、雇っているだけ感謝しろ!」
いつものように怒号を食らいながら、疲れ果てた心と体に鞭を打ち、僕は馬車で作業所から勢いよく飛び出した。
今回の荷物の届け先は遠方の遺跡群の村、人はほどんどいない場所で、なぜこんなところへ荷物が運ばれているか分からない。
何も考えずただひたすらに走り、平原や山などをすっ飛ばしていく。いつもの道が使えなかったりして、予定よりもかなり進みが遅い。しかしそんな事情があっても、時間厳守なので時間通りに着かないといけない。
多額の報酬、時間厳守、中身や用途の詮索禁止。そんな依頼なのだから、ミスをすればただでは済まないだろう、、
しかしその後数時間走ってきた辺りで、荷物の中身がさっきまでよりも気になってきた。
見るなと言われた物は見たくなってしまうのが人間というものなのだ。幸いここの街道は人通りも少ないし、誰かに目撃される心配もないだろう。そう考えた僕は、馬を止め、荷物を開けてみることにした。
そして、荷物に手をかけようとして、僕は躊躇した。
開けてしまえば契約違反になる。そうなれば僕はもちろんただでは済まないだろう。いや、僕だけじゃなく、会社にも不利益が生じるだろう。それに、頑張って職に就いたのに、それも手放してしまうことになる。職もなく、負債だけ背負うことにもなるかもしれないし、最悪殺されるかもしれない。
荷物だって、中身が何かわからないのだから、有害なものだったら死んでしまう。
そう悶々と考えていたが、会社の先輩、後輩、上司の顔を思い浮かべて腹が立ってきた。
僕のことを雇ってくれた会社には一応感謝している。でも、そこで働いてる奴らは僕のことを散々虐げてきた。
今はもしかしたら報復できる絶好のチャンスなのかもしれない。契約違反をしてバックレてしまえば、責任は全部会社に行くだろう。そうすれば最悪倒産だ。そうすれば今の従業員全員職なしだ。ざまぁみろ。
自分の中で折り合いがついたので、開けてみることにした。すると、中にはボールのようなものが入っていた。到底今の技術では作れないような、機械のようなものが入っていた。しかし、機械ならどこかに動かすためのスイッチがありそうなのだが、見当たらない。
仕方がないので、叩いてみたり、音をたてたり、ありとあらゆることを試してみた。最終的には、地面に投げつけてみた。その瞬間、その物体は突然発光しだした。それも電球とかと比べ物にはならない、失明するレベルの光が出た。
次に目が開いたのは数分後だった。どうやら光によるショックで少し気絶していたようだ、周りに変化が起きているわけでもない。あの機械は何のためのものだったのだろうか。そして、その装置はどこに、
「って、なんじゃこりゃぁぁ!?」
思わず声が出てしまった。壊れてしまっている。一回きりの機械ってなんだよ、そして責任は会社に擦り付けるとは決めてたが、大事な荷物を壊してしまった。これが依頼主に知られたら誤魔化しようがない。直そうと思っても直せるはずのない代物だ。ヤバい、終わった。そう思ったその瞬間、
[入手]【世界転移】
そんな表示が目の前に現れた。
これって、能力がある人だけが見れると言われている、 [ステータス] だよな?
ということはさっきのからくりは能力を授けるからくりだったらしい。しかし、そんなことがわかっても現状は何も変わらない。やっぱり、もうバックレるしかないかもしれない。
たとえ逃げることに成功しても、依頼主と会社はずっと僕のことを追いかけ続けるだろう。そうなればまともな生活は二度と送れないかもしれない。
でも、待てよ?さっきの能力、世界転移って書いてあったよな?字をそのままの意味で捉えるなら、別の世界に行けるということかもしれない。さすがに別の世界まで逃げられれば、もう追われることはないだろう、これに賭けるしかない。そう考えた僕は深く考えずに能力を使う選択をした。そして、
【世界転移】
そう叫んだ。その瞬間、先ほどとは違う穏やかな白い光に僕は包まれた。