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破壊神で歩くファンタジー世界  作者: アメジスト太郎
第零章 転生と脱出
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第三話 文明喰らい

巨人の足元から血のような粘性の塊が広がる。

塊は瞬く間に床を覆いつくし、壁へ、天井へと伸びてこの広間全体を地獄の沼地に変えてしまった。

これは奴が敵対し、戦闘が始まった合図だ。

同じダンジョンの敵ゆえに最初は友好的なのかもしれないと考えていたが、それは甘かったようだ。


巨人は腕をだらりと垂らした直立の状態から、急速に四つん這いへ姿勢を落とした。

そして身体を俺の方向に曲げ、その大きな口をがばりと開いた。

口がみるみる頬の後ろ側まで裂け、中に潜む深淵の奥には赤い光が一等星のように輝き始めた。


俺は壁を蹴って弾丸のようにその場を離れた。

直後、すぐ横を極太の赤い光線が、真っ黒な粒子を撒き散らしながら空気を裂いて通過した。


極太ビームはこいつが初手で必ずやってくる大技だ。喰らったらプレイヤーなら即死か瀕死。この身体でもどうなるかわからない。


光線は壁を即座に焼き溶かし蒸発させ、その直径よりはるかに太いトンネルを岩盤の深くまで掘り抜いた。


俺は翼の力で真っ直ぐに急速接近し、剣をできる限りの速さで2発、3発と振った。

想像のはるか上を行く速さで剣は振り下ろされ、衝撃波が巨人の頭を襲った。


「オオオオオオ!!グオオオオオオ!!!」


衝撃波がぶつかる爆発音と共に、巨人は空気を震わせる悲鳴を上げ、血しぶきを散らした。

俺は剣を振り続けた。

これだけでも倒せそうな気がしてくる。

通常攻撃だけでプレイヤーキャラクターでは考えられない破滅的な威力が出るからだ。


しかし、血の洪水を流しながらも、巨人は兎のように瞬時の軽やかな跳躍で斬撃の嵐から逃れ、離れた場所へ猛烈な地響きと共に着地した。


再び直立した巨人の後方が一瞬輝き、背中から夥しい量の丸いものが放出され始めた。

数百、数千とあるそれはひとつひとつが、当たると苛烈な爆発と共にHPを吸い取られる魔法の弾だ。

この魔法弾は高速で飛翔するだけでなく、こちらを狙って飛んでくる。


俺は力任せに飛び回って攻撃を避け続ける。

蝗の群れのごとく湧き出る弾を避け続けるのは根気を要する作業であり、このモンスターの強みのひとつでもある。

ふと、あるアイデアを考えた。


試しに、後ろ向きに飛んで魔法弾の軌道を見据え、両断するように剣を振るった。

衝撃波は進行方向にある2つの魔法弾を破壊して進み、最後にもう1つにぶつかると爆発して互いに消滅した。


壁や敵に対して破壊の描写が見られるなら攻撃を攻撃で相殺することもできるんじゃないか、という考えは見事に的中したようだ。


「迎撃できるならもうちょっとやりやすくなるぜ」


回避優先の動きをやめた俺は、四方八方から近づいてくる魔法弾を撃墜しながら、三次元的ジグザグ軌道を描いて巨人に迫る。

誘導ミサイルの雨を掻い潜るSF戦闘機のようだ。


間合いを詰めると、こちらを狙って亜音速の巨大な拳が飛んできた。

今の俺の動体視力はそれをも見逃さない。

翼の加速で勢いをつけ、剣で拳を弾き飛ばす。

そのまま滑り込むように懐に入り込み、剣を頭上に振り上げた。


「喰らえええっ!」


俺はひときわ大きな円弧を描いた。

衝撃波が飛び出して、巨人の胸に突き刺さる。


「ギャゴッ」「ギャギャギャ」「イ゛ーーー」


胸にびっしりと集まった無数の亡者の顔が、くしゃくしゃに皺を寄せて苦痛の表情に変形しながらそれぞれの悲鳴を絞り出した。


巨人の動きはそれでも止まらず、一歩下がって俺を間合いに見据え、的確に拳を繰り出してきている。

体格に偽りなく屈強な奴だ。

拳を弾いて胸を斬り、また弾いて頭を斬る。

さらにその間に近づいてきた魔法弾は全て叩き落す。


巨人の攻撃は次第に加速していく。

それに対応するべく思考も尋常でないほどに加速し、意識は時間の流れを鋭く捌き、今や秒間数十手という速さでカウンター攻撃のサイクルを回していた。


一瞬の隙を見抜いた俺は剣を縦向きに構え、ひといきに心臓まで貫いてやろうとした。

その時、目を煌々と輝かせた巨人の頭が俺を見下ろしていることに気が付いた。


「なっ......!ヤバい!」


俺が回避を始めた時には、既に四本の光線が真っ直ぐに俺を突き刺していた。


「ごふっ!」


腹と肩にとんでもなく鋭い痛みが走る。

力を後ろ向きに大きく作用させ、緊急回避を行った。

俺の身体に遮られることのなくなった光線はそのまま地面を抉り、巨人が頭をもたげるのに合わせて爪痕のような溝を壁まで深々と引いた。


俺が生まれてから味わったことのない痛みに悶えていると、巨人は低い姿勢で、獲物に飛び掛かる貪欲な獣のように跳躍し、先ほど開けた間合いを一瞬で詰めてきた。


俺は拳が飛んでくることを想定し、迎えうつために剣を正面に構える。

しかし巨人が動かしたのは腕ではなく、頭だった。


間合いが詰まった時には、既に奴の顎は最初と同じように大きく開いていた。

回避を取るには、既に相手との距離が近すぎた。



正面から、極太の光線が発射される。


「うおおおおおおおお!!」


俺は少しでもダメージを軽減せんと、剣で光線を真っ直ぐに受けた。

翼であらん限りの推進力を発生させるも敵わず、たちまち身体が後ろに吹き飛ばされ、壁に激突する。

それでもまだ勢いは止まらずに壁を崩壊させながらめり込んでいく。


剣から放射された謎の衝撃波で防げていたのは束の間であり、すぐに光線は剣の横をすり抜けて俺を灼熱で包んだ。


光線が止むと、深々と形成された穴の奥に俺は満身創痍で横たわっていた。


「グオオオオオオ......!!!」


虚ろな4つの目が穴を覗き込む。


拳が振り下ろされ、俺の横に落ちて巨大なクレーターを作った。

拳というよりも、それは隕石のようだった。

衝撃で横に転がった俺に、今度は真っ直ぐに拳が落ちてきた。


立ち上がる暇も与えられず、必死に剣で受け止める。


「くそっ!」「このっ!」「はあっ!」


しかしあまりに不利すぎる体制はそれを許さず、徐々に防ぎきれなくなってきた。

成すがままに打ち付けられていると、突如、背後の壁が崩壊して俺は広い空間に投げ出された。


どうやら広間とボス部屋は直接通路で繋がってはいないながらも近い位置にあり、俺と巨人は岩盤を削りながらボス部屋まで来てしまったようだ。


すぐに穴を崩壊させながら巨人が顔を出し、こちらを見て不気味に吠える。


俺はこのまま死んでしまうのか。

正直言って、基本の「こうげき」だけで挑むなんて無謀すぎる相手だったなあ。何やってんだろ。


いや、でも......ここで死んで目を覚ましたら、果たして自室に戻って来られるのか。



頭を生存本能が駆け巡った。


このヴァスタトールとかいうボスは、様々な技を行使していたはずだ。

思い出せ。一番派手な技を。この巨人を吹き飛ばせるくらいの技を。


記憶に、ボス部屋全体を埋め尽くさんばかりの赤い炎がフラッシュバックした。

時間が鈍化し、全身が燃え上がった。


「はあああああああ!!焼き尽くしてやる!」



俺は噴火した。


地獄を焼き尽くす終末の炎が螺旋を描いて立ち上り、巨人の胴を貫いた。


「グオオオオオオ......!!」


炎は天井に到達すると横に分かれて広がり、それでも止まらず湧き続けてついには空間をすべて埋め尽くしてしまった。


力を振り絞って翼から推進力を生み、獄炎の嵐の中で飛び上がった。

見下ろすと巨人の腹にはぽっかりと穴が開いていた。

広間を飛び交う俺の炎は、元々巨人の肌を覆っていた炎をかき分けるように食い込み全身を蝕んでいた。


血を滝のように流してふらふらとしながら、巨人は次なる技を繰り出そうとする。

巨人の身体の半分ほどもある魔法陣が出現し、その腕と同じようなものが何本も這い出た。


魔法の腕はまもなく触手のように伸び、俺を打ちのめしにかかるだろう。

しかしこちらもまた、次の攻撃の準備が完了していた。


俺は剣を高く掲げ、力を貯めきっていた。

こいつの使っていた攻撃を思い浮かべると、自然と実際に俺も使える気がしてくる。

さっきもそうだった。


翼が燃えて巨大化し、先端から毛細血管のようなものが無数に伸びて規則的に絡み合い、俺の背後に後光のような、しかし邪悪な印象を抱かせる紋様を浮かび上がらせた。


部屋のどこに居ても届いた、長射程の大技。


「受けてみろ!!」


剣を振り下ろすと、よくわからないものを斬った感触がした。

光の平面が生まれて部屋を二つの領域に分けた。境界線である光の平面は、巨人をちょうど通過していた。


突如、今まで経験したことのないような地震が起きる。

部屋の半分が沈んでいる......いや、空間そのものが断裂し、断層のように生き別れとなっていた。


巨人の運命もまた同様だった。

空間ごと己の身体が分かたれれば、防ぐ術もない。

断末魔の彷徨を上げることも許されず、血と内臓と不可思議な魔法の物質を吹き出しながら、巨人は真っ二つになって左右に倒れて息絶えた。



「はあ......はあ......!」


俺は地面に膝と拳をついて喘ぐ。

強大な力の行使によって、辛くも生き延びることができた。

鎧はめちゃくちゃに歪んでいた。


呼吸を落ち着かせ、痛みに耐えながら立ち上がってあたりを見回した。

俺と巨人の神話的な大戦闘の余波で、神殿はひどく崩落していた。


よろめく足取りで、半分だけになったボス部屋の奥に向けて歩き出す。

最初に通った通路とは、反対側だ。


そこには、人が入れる大きさの円柱のカプセルが配置されていた。

ボスを倒した後にダンジョンから脱出するための設備だ。


これを通れば、俺はこの夢から醒められるのかもしれない。

しかしゲーム通りに行くなら、この先は町だろうか。


俺は、静かにカプセルの扉を開けて中に入り、倒れるように壁にもたれかかった。


扉は自動で閉まり、まもなく視界が白くなった。

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