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8.「離婚はしない。何度も同じ事を言わせるな」

 必死に頭の中を整理し、彼女を繋ぎ止める言葉を考える。

 しかし、背を向けている彼女に愛を伝えても無意味だと思った。


「離婚はしない。何度も同じ事を言わせるな」

 俺の言葉にソフィアはため息をつく。

 結婚して、まだ3日目だ。


「はぁ、では1週間後のブラッドリー王子殿下のバースデーパーティーの件ですが、礼服を作っておいたので後で部屋に届けさせます」


 離婚の話をしたかと思えば、次は一緒にパーティーに出席する話をしてくる。彼女は流行を作り出すような仕事をしているので、パーティーは宣伝の場なのだろう。彼女は全てにおいて用意周到で、全てを自分で決める。そして、噂通り仕事を前倒しでどんどんこなしていく。礼服を準備したのは結婚式を挙げる前だ。


 他の女性に自分が着る服まで決められたら頭に来るが、ソフィアは別だ。他の令嬢たちは俺の意見を聞いて優先しようとしてきたから、彼女のような女性は珍しい。このようなやり取りをしていると、なんだかんだ言って俺と離婚する気はないのではないかと期待する。

 

「何色なんだ?」

「初夏らしい、若草色のものですわ」

 脳裏に浮かんだのは爽やかな若草色のドレスを着て、俺に腕を絡めるソフィアだった。俺は夫婦として初めて彼女とパーティーに参加する事に胸が躍った。


「そう言えば、ブラッドリー王子殿下はバースデーパーティーで婚約者指名をすると聞いたぞ」

「ふふっ、ブラッドリー王子殿下が誰を選ばれるのか楽しみですわね」


 彼女の言葉に自分はもう7年前から君を選んでいると言いたくなった。彼女だって「離婚したい」と口では言うけれど、俺を選んで結婚したはずだ。

 

 それからも、たわいもない話を彼女とした。時間が経つのがあっという間で、まるで天国にいるような多幸感に包まれた。彼女の会話のリズムも色々な事に気がつく所も全てが好きだ。彼女の考え方は自分とは真逆でドライに感じるが、その違いこそが刺激的で会話をしていて楽しかった。


 彼女が待って欲しいというなら、初夜もいつまででも待てそうな気がした。俺たちは結婚して一緒に住んでいて、これから時間はいくらでもある。

 彼女が出勤するというので、俺は彼女の経営する宝飾品店に赴いた。若草色のドレスに似合うジュエリーをプレゼントしようと思ったのだ。


 大通りの角にあるソフィアの宝飾品店は大繁盛しているのが外側からでも分かった。店の中に入ると、ソフィアが若く美しい男性店員に指示をだしている。その様子からは男が苦手なようには見えない。

 どんなに多くの人間がいても、すぐソフィアを見つけてしまった事に彼女への想いの強さを再確認した。

 ドレス姿や寝巻き姿とは違い、濃紺に白いストライプが入ったソフィアの店の制服を着ている。ソフィアの店の制服は女性もパンツスタイルで、かなり先進的だ。


 ソフィアは俺が店内に入って来るのを見つけるなり、近寄って頭を軽く下げてくる。

「いらっしゃいませ、グロスター伯爵様」


 ただの客の1人に接するような営業スマイル。


 それだけでも落ち込んだのに、彼女が手を挙げると肩までのピンク髪に空色の瞳をした女性店員がやってきた。ソフィアは何か彼女に小声で指示すると店の奥の方への入ってしまう。ソフィアから常に香っている上品な金木犀の香りが遠ざかり酷く寂しい気持ちになった。


「キーラ・ボルゲーゼと申します。グロスター伯爵様、今日はどういったものをお求めにいらしたのですか?」

 キーラに媚びたような瞳で見つめられて、言いようのない気分の悪さを感じる。


「若草色のドレスに似合うようなジュエリーを」

 店員とはいえ女性に恥をかかすわけにはいかず、目の前のキーラ嬢に微笑みを返す。


「伯爵様には特別な品を御案内したいので、特別室にご案内します」


 案内されたのは、VIP対応の個室だった。品の良い濃紺のレザーのソファーに座ると、シャンパンとチョコレートが2つのったクリスタルの小さな皿が出てくる。

 これはソフィアの店が特別な客に行っているサービスの1つだと聞いた事があった。

「グロスター伯爵様、ネックレスとイヤリングのセットを3点程ご用意しました」

 濃紺のベルベットにのせられたジュエリー、俺は導かれるように真ん中の物を指し示した。

「真ん中のスフェーンのセットにする」

 深いオリーブ色に鮮やかな赤い閃光が屈折する宝石の中でも強い輝きを持つスフェーン。石言葉は『永久不変』。

 俺の永遠に変わらない愛をソフィアに示すのにピッタリだ。

 支払いを済ませ立ち去ろうとすると、キーラ嬢に手首を掴まれた。


 振り向くとキーラ嬢は目を潤ませ、今にも「抱いて欲しい」と言い出しそうな目で見つめてくる。


「店員が客にして良い行動ではないと思うぞ。ソフィアの店も君のような不躾な行動をとる店員がいるとは落ちたものだな」

 冷たく言った俺の言葉は信じられない言葉で返された。


「ソフィア社長も私のグロスター伯爵様への気持ちはご存知です。近々、離婚して伯爵様がフリーになるとお聞きしました。社長が私に勇気を出してアプローチしてみるよう背中を押してくれたのですよ」

 俺はキーラ嬢の言葉に頭に血がのぼるのを感じた。

 彼女の手を振り払うと、特別室を出て店の奥に静止も聞かず押し入った。


 少し開いた扉からソフィアの声が聞こえた。

 そこは休憩室なのか若い男性店員に囲まれ談笑するソフィアが見える。

 俺といる時は強張ってる彼女の表情が緩んでいて、気を許しているのが分かった。

 嫉妬と怒りで頭がおかしくなりそうになりながら、俺はソフィアに近づいた。


「グロスター伯爵様、ここは関係者意外立ち入り禁止です」

 俺を見るなり冷ややかな表情で告げてくる彼女を横抱きにする。

「俺は君の夫で君の関係者だ」

 彼女に抵抗されたが、無理矢理連れ出して馬車に押し込んだ。


 

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