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19.そんな変なところに口付けをしないでください

「ウェズリー・マゼンダ国王陛下、ご子息が私の妻を所望した件について意義を申し立てさせてください」


 ソフィアの隣にいたアーネストは突然、険しい顔でブラッドリー王子の隣にいた現国王に詰め寄った。

 白髪にサファイアの瞳を持った現在58歳の好色王ウェズリー・マゼンダだ。

 ソフィアは突然の出来事に真っ青になる。

 彼女は自分がしっかりとブラッドリー王子を監督しなかった事を後悔していた。


「ブラッドリー⋯⋯お前は、まさかとは思うがソフィア・グロスター伯爵夫人をゆくゆくは妻にと考えているのか?」

 ウェズリー国王の軽やかな口調から、明らかに場を和ませようと冗談を言ったのは明白だった。

 しかし、ウェズリー国王自身が臣下の妻を横取りし自分の女にしてしまった過去があるので全く笑えない。

 ソフィアは直感的に嫌な予感がして俯いて震えていた。


「はい。父上の仰る通り、僕はゆくゆくはソフィア・グロスター伯爵夫人と結婚しようと考えています。夫人もグロスター伯爵とは離婚するつもりだと申しておりました」

 思ってもみないブラッドリー王子の返しに、ソフィアはまた自分がまた死ぬ運命に近づいているのではないかと泣きそうになった。


 思わず自分を2度も殺したアーネストの服の裾を掴み、彼を縋るような目つきで見てしまう。普段強気のソフィアが決して見せない弱々しい男の庇護欲を擽る視線。

 その視線が命を懸ける程に燃えるような恋を7年もソフィアにし続けるアーネストの心に余計な火をつけた。


 アーネストは徐に自分のグローブを外すと、それをブラッドリー王子に向けて投げ付ける。これは決闘の合図だ。それまで思わぬ余興に騒いでいた周囲も彼の衝撃的な行動に静まり返った。


「王族である僕に、今、グロスター伯爵は決闘を申し込んだのか? 受けてたとうじゃないか」

 まだ精神的に幼く、売られた喧嘩を買うことしか知らないブラッドリー王子は乗り気だ。

 彼は自分が王族だから花を持たせて貰えるとでも思っているのだろう。

 しかし、そんな彼の甘さもアーネストの恋に命を懸ける本気もソフィアは理解していた。


 アーネストは決闘をするならば、殺す気でブラッドリー王子と戦うだろう。

 実力差を考えると秒でアーネストの勝利が決まる。アーネストはソフィアへの気持ちを示すためなら、王族相手にも手加減はしない。これから起きるだろう事を、客観的に状況を見られるソフィアは予測できていた。


 ソフィアはこの場をおさめる手段を頭をフル回転させて考えた。

 彼女は自分自身に「歳下の男たちを手玉にとり食い散らかそうとしているようなイメージ」がついてしまうのを恐れた。彼女のマイナスイメージは彼女の事業に悪い影響を及ぼすので避けなければならない。

 頭の中で急速に損得勘定をした結果、ソフィアはアーネストに擦り寄った。


「アーネスト様、私はただ貴方と住むこのマゼンダ王国をより良くしたいだけですわ。私の心は貴方だけのものです。私が貴方と離婚したいですって? そのような事を思う訳がありません。2年目の結婚記念日にペリドットの指輪を私の指に嵌めてくださいな」


 短時間で捻り出した言葉と共にソフィアは初めて自分からアーネストに抱きついた。

 わざと彼女が周りに聞こえるように言った台詞に、なぜか会場が割れんばかりの大きな拍手が巻き起こる。

 アーネストは顔を珍しく真っ赤にすると、ソフィアを横抱きにして会場を後にした。

 それはまるで、ロマンス小説の語り継がれるような名場面だとその場にいた令嬢たちは感動した。


♢♢♢


 必死に場をおさめたけれど、馬車の中で私とアーネストは今にも熱烈なラブシーンを始めてしまいそうな雰囲気だ。


 目の前にいるアーネストが私を見つめる瞳が熱っぽくて目を逸らせそうもない。彼の瞳には私しか映っていなくて不思議な気分になる。


「ソフィア、君が人は持っているものが違うから嫉妬などしても意味ないと言ったのに俺はブラッドリー王子に嫉妬してしまった。実は君が吸う空気にさえ毎秒嫉妬しているんだ。俺が君を見ているように君にも俺だけを見て欲しい」


 私はアーネストの言葉が場に酔い過ぎて爆笑してしまいそうなものだと思った。


 それなのに目の前にいる彼が美し過ぎて、彼だけは空気に嫉妬するバカでも許される気になってしまう。


「私はアーネスト様だけを見てますよ。今、馬車の中には私と貴方しかいないではないですか」

 私の言葉にアーネストは私の手首を掴み、手のひらの下辺りに口付けをして来た。


「そんな変なところに口付けをしないでください」

「ふふっ、ソフィア⋯⋯俺は君の体中に口づけしたいのを必死にいつも耐えてるんだ。そろそろ、先程の賭けの褒賞を貰っても良いかな?」


 アーネストが口の端を上げながらニヤリと笑う。そのエメラルドの瞳は溶けそうな程熱く私を見つめていた。

 馬車の窓から差し込む光にアーネストの銀髪が照らされキラキラと光っている。私はその美しさに思わず手を伸ばしてしまった。

 それを合図にアーネストが私をゆっくりと馬車のふかふかのソファーに押し倒してきた。

 私は策略を散々巡らして避けていたのに、その夜アーネストに純潔を捧げてしまった。

 それは記憶にあるよりもずっと良くて、私の頭を混乱させた。

少しでも面白いと思っていただけたら、ブックマーク、評価、感想、レビューを頂けると嬉しいです。貴重なお時間を頂き、お読みいただいたことに感謝申し上げます。

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