13.先日結婚したばかりではないか!
シェイラ嬢を見送ると、私は今の状況について見直した。
彼女はあの日アーネストに一緒に死ぬ事を提案するも断られたらしい。
アーネストは一緒に死ぬ相手に私を選んだのだろう。
2人とも命を軽視し過ぎた。
やり残した事がまだ沢山あるのに、身勝手に命を奪われた私の立場に立って欲しい。
この世界は明らかにアーネストを中心に動いている。
彼の要望が叶わない未来なら、他者はやり直しを強いられている可能性がある。そのような不公平な神がいるなら許せない。
何か見えない強制力のようなものが働いているのは確かだ。
私はこの世界がアーネストを主人公とした小説の世界だと仮定した。
この世界が作られた世界なら、アーネストの存在は絶対脇役ではない。彼の顔面が強過ぎて登場すると皆彼の方を見てしまう。
だから、彼はこの小説の主人公だ。
超美形で全ての才を持ったアーネストが愛を求める物語。
ヒロインがアラサーで、この世界では行き遅れの寸胴な私と言うのは首を傾けたくなる。
実家が太く赤髪でグラマラスなシェイラ嬢はスペックこそ悪役令嬢だ。
しかし、それにしては主人公アーネストの為には自己犠牲も厭わないヒロイン的な性格をし過ぎている。
王子の癖にモテない上に、失言の多いブラッドリー王子は脇役臭が強い。
アーネストの幸せをゴールとする世界なら、前回の記憶を引き継がせる必要が1番あるのはおそらくブラッドリー王子だ。私は仕事を中断し王宮へと急いだ。
貴族の邸宅の方が豪華なのではと思ってしまう程、廃れたマゼンダ王宮に到着する。柱の傷や床の汚れがそのままで修繕や清掃が行き届いていない。行き交うメイドの数も少ないから人件費を削っているのだろう。
私は早速ブラッドリー王子に謁見申請をすると、すぐに申請は通って王子の補佐官に執務室まで案内された。
扉をノックし部屋に入る。
私の姿を見るなり、飛びついて来そうなブラッドリー王子を見ながらゆっくりと挨拶をした。
「ブラッドリー・マゼンダ王子殿下に、ソフィア・グロスターがお目に掛かります」
「ソフィア・グロスター伯爵夫人! 会いたかった。実は18歳の誕生日の翌日に目を覚ましたら今日に戻っていたのだ。もしかして、僕はいつまでたっても成人できない『永遠の少年の呪い』に掛かっているのかもしれない」
「ご安心ください。ブラッドリー王子殿下は1週間後には成人できますよ」
私は笑いを堪えるのに必死だった。
それにしても、1つ間違えれば頭がおかしいと思われてしまうような内容の話を彼が私にしてくれるのが少し嬉しい。
「そなた、過去の記憶があるのだな。他の者にこの話をしたら首を傾げられた。それにしても、そなたは本当にクズだな。僕が婚約者発表をした後、1人だけその場を逃げただろう。僕は1人で混乱する場を必死におさめたのだぞ。成人する誕生日という輝かしい日にだ!」
思慮が浅い彼にクズ呼ばわりされるとは思わなかった。
「ブラッドリー王子殿下、時が戻っている事を口外する事はこれ以上は避けてください。そして、今回は私を婚約者指名しなくて結構です」
「はぁ⋯⋯そなた、また王族である僕に向かって上から指図してるぞ。この間もバースデーパーティーの服装まで勝手に決めてくるし⋯⋯僕はそなたの着せ替え人形になったようで不愉快だった」
ブラッドリー王子が頬を膨らませむくれた顔をしている。歳の割に幼い仕草だし感情を表に出すなど王族らしからぬ行動だ。
アーネストのような完成された男と彼は対照的だ。
「不快にさせてしまったのなら、申し訳ございません」
「もう、そなたのポーズだけの謝罪はいらん。そもそも、どうして僕に婚約者指名したいなどと要求してきたのだ」
「私が、グロスター伯爵と離婚したいからです。言いませんでしたっけ? 説明はしたはずですが⋯⋯」
今更、理由を尋ねてくるブラッドリー王子は前回は理由も良く分からず私に従ったようだ。
「なんなんだそれは! 先日結婚したばかりではないか! 7歳も歳下の美形伯爵では飽き足らず、10歳も歳下の僕に手を出そうとしてたのか。本当に下衆な年増女だな」
ブラッドリー王子の解釈は、かなりズレてるが訂正しなくても問題ないだろう。それにしても、私にかなり腹を立てているのか彼の言動に遠慮がなくなって来ている。
「まあ、ブラッドリー王子殿下のお好きにお考えください。今後は私の方で王子殿下を個人的支援をしていくので、私が何かお願いをした時は聞き入れて頂ければ幸甚です」
「お願いではなく、金の支援をするから指示に従えと言いたいのだろう。回りくどい言い方をして嫌らしい!」
ブラッドリー王子は怒りがおさまらないようだった。彼は童顔だからか威厳がなく、全く怖くない。
「そう捉えて頂いて問題ございません。私とブラッドリー王子殿下は金銭を介した協力関係にあります」
ブラッドリー王子は文句を言いつつも、素直に私の言うことを聞くのは証明済みだ。彼は身分社会において王族という確固たる地位がある。今後を考えると彼の協力を仰いだ方が良い場面も出て来るだろう。
私の言葉にブラッドリー王子はため息をつきながらも、コクコクと頷いた。
「今後、ブラッドリー王子殿下の身につけるものは全て私にプロデュースさせてください。宝飾品は私の店のものを使って頂きます」
「えっ?」
どんなに貧しくて腐っても王家だ。
王族が使用したものは王族御用達として注目を浴びる。
「それから、王宮に研修の名目で我が社の従業員を一定期間派遣させて頂きます」
「ええっ? そのような事は僕の一存では決められないぞ」
「国王陛下に人事権を貰えるよう進言してください。ブラッドリー王子殿下は王位を継承したいのでしょ?」
私の言い方が気に入らないようだったが、結局彼は私の言葉に頷いた。
彼の素直なところは非常に好感が持てる。
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