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第9話 修羅場の実家を知ればピンチがもうすぐやって来ると分かるのだが、ユーリーンのお気楽ショッピング行きの結末がすぐそこまでやって来ている

始めは8話で出すつもりのエピソートでしたが、少し文字数が多すぎる気がして、二つに分けましたが、そうしたら8話が短いので(分かり切った結果ですが)今日は8話と9話を投稿しました。明日からは一話ずつ投稿します。


 

 南ニールのユーリーンの実家の父親、ユリリウス・グルードの家は最近不穏な雰囲気に包まれていた。

 ユーリーンの五つ下の弟、リューンはイラついていた。両親に酷い態度を取っていた。両親が話しかけると、喧嘩腰の言い方で、母親は甘やかしすぎたと嘆き、父親は反抗したい年ごろだと慰める。見ているといっそうイライラして、自室に閉じこもる事もあった。父親の言う事成す事にすべて腹が立つ。呆ける年でもあるまいし、どうかしていると思ってイライラする。それでも夕食は揃って食べるものだと母親に言われて、三人で食卓を囲むが、父親は唐突に言った。

「もう、戦争が終わっているのに、どうしてユーリーンは帰って来ないのだろうか。死亡者リストには載っていないのに」

「前に僕か言ったじゃないか、パパ。忘れるなんてどうかしている。本当のママの所に行くって僕に電話して来たって言ったじゃないかっ」

 リューンはイラついて叫んだ。

「まあっ」

 ママが狼狽する。そう言えば、ママのいない時に言ったのだったと思い出したリューンだが、今更後へは引けない気分だ。

「ユーリーンのママはここに居るじゃないか」

 そう言うパパに、また腹が立つ。

「僕は小さい子じゃあないんだからね。ユーリーンのママと僕のママが違うって事くらい、小さい頃から感づいていたよ。馬鹿じゃあないんだ、僕はね」

 ママが泣き出す。パパは、

「君はよく面倒を見てくれていたよ。君の責任じゃあない」

 と慰めている。ムカムカしてきたリューンは言ってやる。

「そうだよ、パパがガイルのカイザーなんかと勝手に婚約させたからさ」

 二人ははっとしてリューンを見た。

「ユーリーンはカイザーのひとつ下の学年だったし、僕は六つ年下だったけれど、カイザーには彼女が居るのは知っている。誰だって知っているよ、13年越しだね。ユーリーンはそいつにいつも虐められていたのさ。あ、そいつじゃなくてそいつらだった。カイザーとその彼女ね。カイザーの父親がユーリーンと結婚させたいと企んでいたからだよ。ユーリーンは迷惑していたんだよ。いやなら自分らで嫌だと言えって言うんだよ。ユーリーンから断って欲しかったんだろうって、言っていたよ。学校に行っている時からね。それなのにカイザーの奴は父親が怖くて言えないんだよな、全く。とうとう本人に断りなく正式に婚約なんかして、ユーリーンは、ほんっとに迷惑していたんだから。もう、この家には戻らないね。僕が保証してやるよ」

 言いたい事を言って、せいせいしていたリューンだったが、嫌いな父親が、一瞬ニヤッとしたのが分かった。不思議な物を見たと思ったリューンだ。ほんの一瞬だったのだが、この父親の本心がちらっと見えた気がするのだ。リューンは内心、表面とは違う何かが、この家には有るのかもしれないと思った。

 実際、ユリリウスはガイルにユーリーンを渡せと要求されて、追い詰められていた。ガイルには魔族特有のパワーがあって、逆らえなかった。魔族を探るためにビビアンと結婚したが、いわゆる、ミイラ取りがミイラになった状態だ。仕方なく婚約の契約のサインをしたが、ソルスロ家と二重になってしまったのは自分の責任である。今後不味い事になれば、神の罰は自分が負う事を覚悟した。ユーリーンは魔族に上手く行方が分からないように逃げていて、ほっとしていたが、ガイルにユーリーンの行方をきつく追及され、のらりくらりと恍けても居られなくなり、今日、食卓で話す事にした。リューンが真相をぶちまける事だろうから、それを妻、ビビアンが兄のガイルに話す事だろう。


 そんな南ニールの詳しい実家事情は知らないユーリーンだったが、リューンが言っていた事から、自分が家に戻らないので、修羅場になっている可能性は有ると思っていた。しかし、スパイしているとは言え、父親は魔族と結婚してしまったのだから、いくら都合の悪い話が沸き起こっても、父親の自己責任だろうと思った。そこで実家の事は気にせず、ニキとの暮らしを楽しむつもりである。

 ニキがその日、急にセピア公国に行く用があると言うので、さっそく例の高級ウェアを着て、ユーリーンもついて行くことにした。

 ニキは少し困った様子だった。

 ユーリーンは、彼が恐らく何かのトラブルで、それを解決するために緊急に行くのだと思った。実際、ニキはセピア公国に居る仲間から、セピア郊外にかなり強い魔物の気配を感じたのだが、魔物自体の姿は見当たらず、どうしたものかと相談されたのだった。ニキもセピア迄行けば、魔物が居るか居ないか判断できるので、急遽出かける事にしたのだ。

 ユーリーンはニキが連れて行くのを渋っているので、

「邪魔せずに、一人で買い物しているから。それに、あたし一人で留守番できると思う?グルードに戻る訳?」

 と言うと、

 『ユーリーンをグルードに戻せば、その後二人はグルード家で過ごさざるを得なくなるし』とニキも思い、連れて行くしかないと言う結論になった。

 ニキがユーリーンに、

「何を買いに行くの」

 と聞くので、

「メイク売り場に行って、店員さんにメイクしてもらって、そのメイクに使ったのと同じのを買って、その後、髪をイケてる感じにカットしてもらうの。全部2階にあるお店よ」

 と答えると、ニキは、

「僕も同じ階に居るけれど、一人で大丈夫かな」

 と、過保護に心配する。ユーリーンは心配性のニキだと思いながら、

「ショッピングセンターに魔物は来ないよ。セピアなんだし。人さらいは撃退する自信ある。これでも普通の子に比べて、兵役の時に訓練をいろいろしているの。割と強いのよ、あたし」

 と胸を張って言っておいた。ニキは、そうだろうねと笑うので、きっと本性は分かっているのだと思った。

 ショッピングセンターに着いて、2階のホールで別れた。用事が済めばここで待ち合わせる事にした。

 メイク売り場に行くと、ユーリーンが着ているブランドを見て、一応上客と思われたようで、店員さんに上手い具合にメイクしてもらった。出来栄えはかなり良い。やはり私は美しいと確信した。

 次はヘアカットだ。今の場所からは、ショッピングセンターの反対側になるので、ウィンドウショッピングをしながら、ふらふら歩いていると、数人の女の子が回りを取り囲んだ。どうしたのかと見回すと、メイクが濃くて最初は気が付かなかったが、例のカイザーの彼女のビリジアニとその仲間らしいの4,5人だった。

「あーら、久しぶりじゃないユーリーン、こんな所にいるなんて以外ね。兵役で肉体労働しているのかと思っていたら」

「最近終わったのよ、戦争は。ニュースとか見ないでしょうから、知らないかもしれないけど」

「そうなの、でも、色黒はメイクでは隠せないわね。不細工女」

「あら、あんたみたいに厚化粧していないだけよ。婆さんは化粧が濃くなるわね。粉が皺に寄っているよ。トイレで直したら」

「何言っているの、囲まれているのが分からないの。余裕こいているんじゃないわよ」

 ユーリーンは、女の子たちに囲まれているつもりだったが、少し離れて、嫌な雰囲気の男らが数人たむろしているのが見て取れた。仲間と言う事らしい。思わず、言う必要もない憎まれ口を言ってしまった。

「あら、カイザーに振られたら、男の趣味が悪くなったみたいね。カイザー本人もどうかなと思ってはいたけれど」

 怒ったビリジアニは、ユーリーンの腕を掴むと、

「自分の状況が分かって無いお馬鹿さん。あんたがトイレで化粧を流してしまいなさいよ。おかしな化粧して」

 と言い、トイレに連れて行くつもりらしい。

「皺の中、綺麗にするのはあんたの方よ」

 と腕を掴み返し、お互いあんたの方だと、ワーワー騒いでいると、周りの男たちが慌てて引き離そうと近づいて来るが、ニキも仲間と駆けつけて、男たちを追い散らした。

 その間も、ビリジアニと格闘していたユーリーンだが、警備員の制服が寄ってきているのに気付き、

「騒ぎが大きくなったわ。また今度にするから、憶えときな」

 と、ビリジアニを蹴飛ばして、立ち去ろうとした。警備員さんに声を掛けられそうなので、このままでは自分が加害者風にみられると思い、丁度手をきつく握られた跡があったので、

「ああん、手が、手が折れたのかしら、痛いわ」

 と嘆いて見せた。ニキが驚いて手を見て、

「手は折れていないよ」

 と言ってくれたが、内心分かっているさと思いながら、

「あのば・・、あの子が強くねじったの。前にあたしに寄ってきた男の元カノで、逆恨みされていたのよ」

 と、事情を大雑把にニキに話した。ニキはじろりと辺りを見回したので、野次馬は恐怖で散って行ったが、警備員とビジリアニはまだユーリーン達を遠巻きに見ていた。しつこい。しかしニキは有無を言わさずそこから移動した。さっきまでニキたちが居た奥まった場所だった。ショッピングセンター内にはちょっとしたテーブルや椅子の置いてある奥まった一角がある。休憩所のような場所だ。

「目立ってしまったね。ユーリーン。次からは僕と居ようね」

 一緒に居た人が、

「彼女、少し落ち着くまで此処にいようか、それから解散しよう」

 と言った。

 ユーリーンは、ふうと、椅子に座っていると、ニキたちに緊張が走った。ユーリーンにも分かった。何かが来る。ショッピングセンターなのに。魔物だろうか。


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