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第7話 ニキから真実を知らされ、忘却中だったと知るユーリーンだが、魔法が解けても・・名言で誤魔化す

 

 ユーリーンが今朝の件を追及すると、ニキは困った顔をして、

「そうだね、ユーリーンに隠し事は良くないね」

 といって、ユーリーンの知らないと言うより、記憶に無い過去を話し出した。

「僕とユーリーンは婚約していた。昨日、婚約の契約書を見ただろう。あの日付の時にユーリーンの父親と僕の父親が魔族の神に婚約の許しを得た。魔族の結婚は神への誓いがある。魔族の血を滅ぼさないために、結婚は大事で、魔物と戦う一族の、滅びを避けたい切実な誓いだ。魔族の神にお伺いを立てて、婚約の許しを得る。そして、神の御加護を願い、一族の永久の繁栄を祈る。魔族の神殿が北ニールの山奥に建っている。婚約の許しを得に行くのは、二人に一番近い年上の近親者だ。神殿に行くのは危険を伴う。その近くに、地下に住む魔族達の入り口もある所だから」

 ニキは、ため息をついた。

「グルードさんは南ニールで今の王妃のリリア様と暮らして居た。南ニールに地下に住む魔族が出て来て集まり、そこに魔族の地上支配の為の陣地を作っているらしくて、その様子を探るためでもあったし、他の理由もあるんだけどね。スパイ行動だったから素性が知られれば、命の危険にさらされる役目。ユーリーンの行く末を心配していただろうから、もしもの時の事を考えて、婚約させておいたのだろう。その後、魔族のリーダーを突き止めることが出来て、そいつに取り入って、親交を深めていると、その一族の娘にグルートさんは一目惚れされたそうだ。それからは三角関係になってしまった。さっき言った南ニールで暮らしている他の理由だけれど、リリア様はソルスロ家の先々代の次男の娘だった。リリア様が結婚できる年齢になった頃は、王家のピーラン家はまだ現王の父親が王として統治していて、王の次男、今の王だけど、彼はグルートさんとリリア様の間に割って入り、リリア様と婚約しようとした。身分が上位な方に決まるのが普通だからね、それで、二人で南ニールに逃げたと言う事情もある。南ニールで内縁関係になった。神殿で認めてもらう正式な結婚では無い。ややこしいけれどここまでの話、分かったかな。何か質問ある?」

「その話が今朝の事と、どうつながるのかなと言う疑問はある」

「僕の話は要領が悪いみたいだね」

「良いから続けてね」

「そうだね。リリア様はユーリーンが4歳の時に、グレートさんと分れるつもりで北ニールに帰ってきたけれど、実家の面々は死に絶えていたから、ソルスロの本家に戻って来た。それをかぎつけた今の王である、ピーラン王家の次男が・・・当時は何の地位もなかったんだけれど、リリア様を自分の家に連れ込んでしまった。残されたユーリーンは、ソルスロ家で過ごしていて、当時はまだ子供の僕になついて一緒に遊んでいたから、さほど孤独では無かったようだな。丁度僕ら兄弟は学生だったから、夏休みで相手をしてやれた。それで家族全員同意見で、こうなったら結婚できる年齢になる迄、ユーリーンをソルスロ家で育てる事になったんだ。当時の、ユーリーンは可愛かったな。今もだけれどね。ふふふ。僕はユーリーンの相手をするのが楽しくてね、朝から晩まで一緒に過ごしていた。夜だけは別の部屋のベッドで眠って居たが。大人達に言われてね。このままソルスロ家で、二人が婚約から結婚まで過ごす事は、決まったようなものだと、僕は思っていた。グルードさんは魔族の中に入り込んで、スパイする計画だったようだし、丁度良いと言えた筈なんだけれど。グルート家の親類達が、不満を言い出した。グルート本家の当主が・・今も同じあの人だけれどね、稀に生まれて来る魔力マックスの魔人だった。その魔力を自分で抑え込むのが精いっぱいで、結婚は出来ないと言い出してね。次男はスパイになり、魔族と結婚したし、そうなると本家の跡を継ぐのは、本家次男の娘ユーリーンと将来結婚する僕と言う流れになるだろう。だから、グルードの血筋の男は他にもいるのに、よそ者のソルスロが本家に入って来るのは承知できないと言う意見があった。だけど当主のグルードさんは、それで良いと抑え込んでくれた。何せ魔力マックスの方だからね。不満があっても抑え込まれる。

「4歳なのに、あたし、その頃の事は覚えていない。頭悪いのかな」

「悪いはずが無いだろう。忘れさせられたんだ。思い返して見ると、グルードの親類達に図られたのではないかと思っている」

「どういう事」

「あの日、僕とユーリーンは家の近くの原っぱでいつも通りに遊んでいた。あの時まで、近くに危険な魔物が出る事など一度も無かったんだが、そこに狂暴なデカい奴が現れて、ユーリーンを狙った。僕は変だと思ったが、倒すしかない。日頃大人たちから、魔物が出たら、大人に連絡してとにかく急いで逃げろと言われてはいた。だが、幼いユーリーンが居ては逃げ切れるはずがない。魔物は逃げれば逃げるほど、追って来る習性がある。面と向かって戦う方が助かる確率はある。僕位の能力が有れば、戦った方が良いと、父親から言われていた。それで、逃げずに戦う事にした。ユーリーンが泣き出したのは、僕が戦いだしたからであって、魔物が現れた時ではない。きっと僕の身を案じての事だったはず。でも、僕が魔物を倒した後も、何故かユーリーンは泣き止まず、僕が側に行くといっそう泣き叫んだ。そんな時に討伐役の男たちがやってきたが、遅すぎるんだ。近所の原っぱなんだから、魔物が現れたことは分かり切っていたはず。直ぐ来なかったのは変なんだよ。兄達や本家のグルードさんも来ていた。討伐隊が行かないことに気付いた面々だ。父は魔物討伐に神殿近くの山に行っていて留守だった。不味い時期と言えたな。皆、泣いているユーリーンをなだめる事が出来なかった。そして泣きすぎたユーリーンはひきつけた。痙攣し出して、皆で慌てて病院に連れて行った。僕も行こうとしたけれど、次兄に汚れを落とせと指摘された。洗浄魔法はかけたつもりだったが、疲労しすぎて魔法が効いていなかった。言われてやっと気づいたけれど、もう後の祭りだったんだ」

 ユーリーンは気分が悪くなって、テーブルに突っ伏したが、ニキの話は終らなかった。

「ひきつけて痙攣するのは長時間になると、小さな子には負担が大きくてね、なかなか意識が戻らなかった。医者はユーリーンが魔物の恐怖で泣きすぎたし、その怖い魔物を倒した僕も怖かったのだろうとか、変な言い草の結論を出し、癒して目覚めさせると言って、記憶を消す忘却魔法をかけたと聞いた。僕のユーリーンがユーリーンで無くなったと聞いて、あの時、僕は絶望した。おまけに、僕との婚約は取り消しだと言う事になり、グルードの血筋の年輩の男が、自分が婚約するとか言い出しやがった。知らないおっさんをユーリーンが気に入る訳がない。ユーリーンは意識が戻ったが、その男を嫌がっていると聞いて、僕はユーリーンに会いに行った。グルードの本家に居たから、そこの大人の男たちに見つかって、散々だった。ユーリーンは僕の事を忘れてしまっていて、また泣いたしね。グルードの親類達は婚約破棄で意見が一致した。本家当主も、その時は仕方ないと同意した。魔族の神の神殿に契約解除のお願いをしに、次の婚約者候補が親類を引き連れて、出発したと聞いた次兄が、それを止めに出かけた。僕は落ち込んでいて知らないうちに、そういう事になってしまっていた。契約解除は、契約書を魔族の神の神殿で真夜中に焼く決まりだったそうだれど、次兄が奴らを出し抜いて、契約書を手に入れて戻って来た。だけど、体中剣で切られたり、殴られたりしていて、戻って直ぐに死んでしまった。グルード本家のお婆様が、ユーリーンの身内としてついて行かされていて、後で僕らに教えてくれたのは、グルードの大人達が、契約書を戻して欲しいと説得に来た無抵抗の次兄に、寄ってたかって危害を加えたんだ。兄は気を失い、皆が深手を負った兄が瀕死状態だと思い、監視しなかった。その隙に意識が戻った兄は、契約書を見つけて手に入れ、戻ってきたんだよ。契約書は神殿に捧げてあって、それで、これを持って帰る力を与えてくれと神に祈ると、移動呪文が言えて、戻れたそうだ。まだ、覚えていない呪文の筈だったけれど、神は兄の願いを叶えてくれた。この前、兄達は皆、魔物征伐で死んだと言ったけれど、嘘で、次兄はグルードの親類達に殺された。その後、彼等は本家当主から追放されたけれどね。そう言う訳で、グルード家も血筋の男が居なくなった。僕との婚約はそのまま続いたけれど、ユーリーンは僕の事は忘れていたし、北ニールに居てもどうしようもないって事で、父親のグルードさんに南ニールに連れて行かれたよ。僕は危険じゃないかと思ったけれど、グルードさんの娘をどうこうするほどの愚か者は、いなかったね。次兄は亡くなる前に、婚約の契約書をユーリーンが19歳の大人になる迄隠して、19になったら本人二人のサインで結婚できるから、それまで頑張れと言った。グルード本家当主が次兄を殺した皆を追放してくれる前の事だったけれど。死ぬ間際まで自分の事のように、算段してくれた。次兄が魔物征伐じゃなくて、弟の婚約の契約書なんかを取りかえして死んだことを、他人に馬鹿にされたりしたけれど、父や長兄は一番マシな理由で死んだと言ってくれたんだ」

 ユーリーンはたまらなくて、泣きだした。

「今朝は、ユーリーンから、あの時、魔物やそれを倒した僕を怖がって泣いた訳じゃないと、魔物の汚物が嫌だったとはっきり言われたからね。もう思い出させるのを、躊躇する理由が無くなった。ずっと、僕の事を思い出して欲しいと思っていたけれど、あの時の事が気がかりで、ずっと忘れさせたままにしていた。後悔しても過ぎた年月は戻って来やしない。当時、父なら医者に交渉し、魔法を消して記憶を戻させる事が出来たと思う。またユーリーンと暮らすことが出来たはずなのに、勇気が無くて、ユーリーンとの絆に自信が無くて、父に頼む事が出来なかった。むなしい日々を過ごしてしまっていた。つくづく自分が嫌になったよ」

「自分を嫌になったらだめ。あたしはニキを嫌になっていないから。ニキはだいたい自分に厳しすぎると思う。それにあたしに執着しすぎている。あたし無しで過ごして良かったと思うよ。今までずっと一緒に暮らして居たら、きっと今頃は倦怠期が来る時期だと思うの」

「倦怠期はありえないな。だが、ユーリーンがそう言うなら、そういう事にしておこうかな」

 そう言ってニキは、またユーリーンの頭を撫でだした。

「頭を撫でたら思い出すの」

 聞いてみると、

「撫でれば少しずつは思い出すかも知れないが、もう、すべて思い出させても構わないから、違うやり方にするよ」

 そう言って、ニキはユーリーンを抱きしめ、それから頭に両手を添えた。

 ニキはユーリーンにかけられていた、忘却魔法を解いたらしい。けれど、そもそも4歳の記憶であり、魔法などかけられていなくても、忘れてしまう事もある幼い頃の出来事なのだ。生憎だが、別に変化はない・・・そう思ったユーリーンだが、ニキが期待して見つめるので、

「ずっとニキを知っていた気がするわ」

 と言っておいた。我ながら名言だったと思うユーリーン。しかしニキが、記憶に変化がないのを気付いていそうな気がするが、満足そうなので、良しとする事にした。


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