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第4話 新婚生活中、この環境変化について行けるのかユーリーン、または、ニキはユーリーンに付き合いきれるのか

 

 二人で少し遅い昼食を食べ終えると、ニキが持っている携帯電話が鳴り出した。南ニールでは北ニールの魔人はテレパシーで会話するから、文明の利器はほとんど無いと噂されていたが、そうではないらしい。

 ニキは、ユーリーンに、「失礼」と言って部屋を出て行った。ドア越しに、休暇中なのにとか、本部に言ってくれとか断っている声がした。直接ニキに何かを依頼しているらしいのを、断っているが、話が長い。王子のお守役が仕事では無かったのだろうか、不思議である。ユーリーンは思いついてワゴンを片付けている事にして、ワゴンを押して廊下に出て、様子を窺う事にした。

 ユーリーンが廊下に出てみると、ニキが慌てて廊下を移動していた。残念だが聞こえない所に行ってしまった。きっと聞かせたくない話をしているのだ。仕方なく実際にワゴンを片付けに行く事にして、家の中を探索する事にした。ドアを順に開けていくが、居室ばかりで、キッチンと思しき場所は無い。やはり、普通キッチンは1階だろうからと思う。では、どうやってニキはワゴンを2階にあげたのか。まあ、魔法に決まっているかと思ったユーリーン、2階の様子は分かったので、1階に行ってみたい。

 エレべーターが一般の家にある筈は無いし、魔法が使えるなら尚更だ。階段しか見当たらないので、力技でしか方法は無いと思う。玄関ホールへ降りる階段は急なものでは無く、ワゴンを抱えてもきっと降りていける。少しワゴンを抱えてみた。抱えられないほどの重さでは無かった。上の食器が無事かどうかという所だ。斜めには出来ないから、抱えるのは少し困難な感じだ。斜めにしない抱え方を考え、頭にのせて足を持つことにして抱え上げた。安定感があってこれなら降りられそうだ。足元もちゃんと確認できるし、と満足して1階へ降り始めるユーリーン。しかし、途中でワゴンが無くなった。ニキに見つかってしまった。魔法で下にワゴンを下ろしたニキ、

「ユーリーン、無茶なことしないでね。僕に任せてよ。怪我したらどうするの」

「怪我しないし」

 そう言うと、ニキは首を傾げてユーリーンを見つめた。どうやら察したらしい。

「それでも、こういう事をしてはいけません。奥様のする事ではないですからね。そうだ、家の中を案内しましょう。ほったらかしていて、悪かったですね。2階は見たでしょうから、1階を見せて、それから3階も。3階にはユーリーンの部屋と寝室があります。それと兄弟の部屋だったところとか」

「そう言えばニキ様は三男でしょう、他の方は何処に居られるのですか」

「様は要りません。ニキと呼んでください。兄は二人とも魔物との戦いで亡くなりました。両親は兄達の死の前に亡くなっていますから、親不孝はかろうじて免れました」

「それはお気の毒でした。そういう事なら養子に来て大丈夫なのですか、この家を継ぐのはどなたですか」

「父の遺言で、この家は継がなくても構わないと言われました。それほど由緒正しき家柄ではありませんからね。長兄に息子が居て、今は学校の寄宿舎で暮らしていますが、その子にも好きなように生きて良いと兄が言っていました。家業で魔物討伐をやっていた訳じゃありませんから。我がソルスロ家だけが魔物討伐の役を引き受ける義務は無いです」

 一階のキッチンにワゴンを置いて、ダイニングルームや使用人さんの部屋を教えてもらい、3階に案内されながらそういう事情を聞いて、ユーリーンはふうむと考える、ソルスロ家が無くなるとして、魔物は居なくなっているのだろうか。その後の魔物討伐って言うのは誰がするのだろう。とは言え、北側に来て最初の日に出会った魔物は、ユーリーンを追いかけてくることは無かった。もしかしたら、殺さなければならない魔物は、それほどの数は居ないのかもしれない。

「じゃあ、最近は魔物が少なくなっているとかですか。お兄様達が相打ちで始末してしまったとか」

 ニキは少し不機嫌そうだ。

「いや、魔物は増えている。僕の家は全滅したから他の奴がやってくれと言う事だ。ソルスロ家が煽てられて、馬鹿を見ていることに気付いたんだな。親父も、やっとね。僕は子供の頃、どうして我が一族ばかり、ばたぐるって魔物と戦っているのか不思議で、親父に聞いたことがある。子供でも疑問に思ったな。随分魔物が現れる年にね。あれは丁度、ユーリーンとママが南ニールからこっちに戻ってきた頃だった」

 そう言われても、ユーリーンは全く覚えがない。

「じゃあ、そんなに魔物が現れても、他の家の魔法を使える人は、魔物退治はしなくて良い事になっていたと言う事ですか。そんなの変です」

「冷静に見ればそうだが、ソルスロ家の男じゃ無ければ倒せないとか煽てられて、長年せっせと魔物退治をしていて、その流れだった。段々ソルスロの男が少なくなって来て、我に返ったという所だな。親父が若い頃は、兄弟や従兄弟が十数人いたが、親父の代になった頃は本家の男だけしか生きてはいなかった。そして今は養子で家を出た僕だけさ」

 どうやらニキは今まで貯めていたうっぷんを、新妻に言い募る事にしたようだ。『夫の不満を聞いてやるのも、妻のつとめかしら。あたしって信用できる人間よね』等とユーリーンはひとり合点する。ニキは妻を他の魔人に会わす気がないのを、知らないユーリーン。

「皆でどうしてやっつけないの」

「魔物退治は人間の戦争とは違って、一対一でしか戦えない。魔法を使う奴はそれぞれ属性があって、違う家の魔法使いは共に戦おうにも、属性によっては力が相殺される場合があるんだよ。火属性と、水属性みたいに。この属性があなたには分かりやすいだろうけど、他にも土や金属や色々あって相性がある。同じような属性でも、能力に差があれば組んで戦うのは不味い事もある。皆、自分の能力は他人には知られたくないから、魔物を倒す力があっても隠している奴がいるだろうな。ソルスロ家の人間は愚かで、能力を目いっぱい出して使っていたな」

「そうなの。でもそういう潔さの方が、私は良いと思う。能力を隠すのはずるいと思う」

 ユーリーンは大層な意見を言った後、自分も治癒能力を隠している事を思い出して、我ながら調子良い奴と反省した。

「私も隠してたっけ」

 小声で白状すると、

「ユーリーンの事は違う話だよ。魔物討伐の能力では無いだろう。他の奴に知られたら、城に幽閉されそうだ。隠しておくんだよ」

「幽閉っ」

 ユーリーンは驚くが、これからはニキに幽閉されそうになっているのは、まだ気付いていない。

「ユーリーンのお婆様にあたる王妃も、強力な治癒魔法を使えるのは有名で、当時は幽閉されているような待遇だったそうだよ。それと言うのも、その能力を使える者は魔族が欲しがっていて、知られればさらわれてしまうからね」

「魔族が?」

「しまった、話してはならなかったんだった」

 ニキは何だか狼狽し始めた。

「魔族って何?南では北の人を魔人とか言っているよ。魔人達が集まったのを、魔族と言うのとは違うんでしょうね。ニキの言い方だと」

「うーん、口が滑ってしまった。もう言いかけたから言ってしまうけど、誰にもこの事を話すんじゃあないよ。北では自分らが魔人だと皆知っているけれど、公然の秘密って事だ。僕たちは魔人で正解。集まれば魔族と言う事だ。でもユーリーンをさらいに来るかもしれない魔族はまた別物で、この人間界で暮らしていない魔人達の事だ。この地上にではなく地底に住処がある。そして、本当の戦争をしているのが俺等北ニールの魔人と地底から出て来た魔族達だ。本当の事は、南ニールに地底に住む魔族達が出て来ていて、今までの戦争は、俺等と南に居る地下から出て来た魔族との戦いで、とりあえず今は俺らが勝ったと言う事だ。これが本当の事実だ。普通の人間は魔族の駒でしかない。ユーリーンは最前線に行かされたけれど、南にいるグルードさんはどうなってしまったのかなと、こっちの皆は噂していたよ。ユーリーンは王の義理の娘だし、王は王妃に願われてユーリーンの保護を命令したよ。ユーリーンを見つけたから、第3部隊とは戦えなくて、陸上戦で南に入るつもりだった作戦は止めた。そして、北ニールの陸軍の兵は南ニールの第2部隊相手に戦う事になった。陸上戦はユーリーンを北ニール近くの第3部隊に留めておく時間稼ぎで、海戦でさっさと勝敗を付けた。グルードの本家の兵が第3部隊に居るユーリーンを保護する計画だったけれどね。ユーリーン自身はそういう事情を知らないだろうし、うまく行くのか心配だったな。保護する前に、ユーリーンが北に自分で来たから、グルードの本家も王達もほっとしていたよ。僕もだけど」

「ふうん」

 ユーリーンは相槌を打ちながら、ニキに付いて行って3階の寝室に行った。寝室はグルード家の自室に負けず劣らずの内装で、おまけに想像を超えるベッドのでかさに驚いた。『でか、これなら二人と言わず、四、五人寝れそう』と思いながら観察し、よく見てみると、枕も四、五個は並んでいた。今、自分でアホな想像していた通りのようで、ぞっとして思わず叫んだ。

「わあ、枕がたくさん」

 そうしたら、ニキをきっと刺激したのだろう、

「ユーリーン・・・」

 と、キスで口をふさぎながら飛び掛かられた。まだ夕飯のお出かけ前なのに。

 結局、夕飯を食べに出かける事は無く、ニキはキッチンに行って、セピア公国のピッザ風の軽食を作って持って来た。ユーリーンは、きっと北ニールもセピアと交流があると思った。

「セピアの料理みたい」

「そうだよ、北もセピアとは国交がある。向うとは別に戦争をした事は無いからね」

 ユーリーンの言う事に、可笑しそうに笑って答えた。ユーリーンは納得しながら、食べる。

「これも美味しい。ニキって本当に料理が上手ね」

「ふふ、料理と言うほど手が込んではいないけれど」


 ユーリーンはすっかり満腹になって食事を終えた。ニキが片付けに行っている間、窓際のデスクに寄ってみると、ニキの私物が無造作に散らばっていた。あまり神経質な人でなくてほっとする。ユーリーンもあまりきちんと片付けるタイプではない。何も相手の事を知らないまま、あの書類にサインしてしまったなと思った。けれど、ユーリーンが忘れているだけで、子供の頃、母に連れられて此処へ来ていたそうだから、きっと会った事があるだろうなと想像できる。

 引き出しの中は見てはいけないだろうと思って、次の探索は本棚にした。しかし、驚いた事にあの結婚のサインの紙に書いてあったのと同じような、古文書の本がかなりの数並んでいた。それで、これは古文ではなく魔族の言葉ではないかと推察した。きっと今でも使われているから、こんなにたくさん本が有ると思った。

 ユーリーンは何だか頭がくらくらする。自分もその仲間だそうだから、怖がる意味が無いと思うが、何だか薄ら寒い。地底で暮らす方に生まれなくて良かったと、つくづく思う。ユーリーンは土の中にいるニョロつく虫は大嫌いだ。そしてはっと気が付く。さらわれる訳にはいかない。用心しないと。

 そう言えば、ニキは、北ニールの魔人と言われている人たちは皆、ユーリーンがいる所を知っていたような口ぶりだった。どうして分かった?そうだった。あそこでは治癒魔法を再三使っていた所為だ。

 誰かが、魔法を使うと、能力の高い人ほど仲間が使っている場所とかが分かるとか、言っていなかっただろうか。誰から聞いたんだったか・・思い出せない。

 そこまで思い至って、恐怖を感じた。しまったと思った。魔族にだって分かるのではないだろうか。最近しまったと思う事が多い気がする。後悔は知恵がついた証拠と誰かに言われた気がする、誰が言ったか忘れたが。誰かに小さい頃言われた気がする。この家に来て、色んな事が複雑に思い浮かぶ気がする。

 ユーリーンは新婚気分が吹き飛んで、疲れを覚えた。ベッドに突っ伏し、休憩しないとやってられないと思って目を瞑った。


「ユーリーン、眠って居るの。疲れたのかな。僕が疲れさせたのかな」

 ニキが頭を撫でている。髪の飾りは外しているので、自分でカットした不揃いのみっともない髪型の頭を、である。何が良くて撫でているのやら分からないが、眠ったふりをしておく。ばれていたとしても、相手をしてやる気分ではなかった。




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