第21話 幸せな運命を遂に!
ぎぎぎと目玉を動かしてユーリーンは魔王を見る。魔王はユーリーンの憤りを見て、
「おや、ご機嫌が麗しくないようですね。ああ、私が勝手に着替えさせたことでしょうか。しかし、食事時は着替えるのが普通でしょう。それが命を頂戴して食する者としての食される物への礼儀では・・・私は決して、ユーリーン様を着替えさせることを楽しんでいた訳では・・・しかし夫婦とはそう言うものでしょう。ユーリーン様、この結婚により、あなたは私が支配する地下帝国の、永遠の母となるのですよ。結婚すれば子供が誕生します。ユーリーン様の素晴らしい能力が与えられた男の子は、私の強力な魔力も受け継ぎ、病も怪我も死さえも克服し、永遠とも言える命を授けられます。女の子なら、我が家臣に降嫁し、同じように永遠の命の子が生まれるでしょう。我が国家は、悠久の繁栄が訪れるのです」
御大層な将来設計を聞きながら、ユーリーンは思った。『ゆくゆくは、死ねない爺婆だらけね。あたしは老化防止の能力とか無いけど。大体、魔王はあのがりがりに痩せた女性を、どう思っているのかしら。食物の不足?それとも身勝手な誰かがひとり占め?たぶん、根性悪の強いもの勝ちの国ね。繁栄なんか無理』
その時、この場に聞こえるとは思わなかった声がした。
「ユーリーンだ。魔王と肉食ってる」
どういう事?リューンの声がする。また聞こえる。
「ニキ、魔王はユーリーンの機嫌の取り方を知っている。利口だな。強敵だ。どうする」
「しっ、感づかれるぞ」
ニキの声。そして、
「もう少し、離れよう」
パパの声も。
ユーリーンは嬉しくて、悲しい。聞こえているよ、あたしの耳にだって。だから、もしかしたら、多分きっと、魔王にも聞こえている。何処に居るかは、見回せないから分からないけど。
多分、皆はこの辺りに地下の魔族の国の入口があると分かっていて、助けに行こうと、来てくれたのだろうけど。あたしの気配が分かって、近くまで来たんだろうけど。リューンのおしゃべりで、おじゃんじゃないか。また段々むかついて来た。
ぎぎぎ、と必死で魔王を見ると、
「身の程知らずが、懲りずにやって来ていますね」
と笑った。ハンサム。悔しいけれど、根性悪だけどハンサム。
「そろそろ、神殿に戻りましょうか。これ以上神官を待たせるのも良くありませんね」
ユーリーンを立ち上がらせるので、きっとこのまま瞬間移動する気だと思った。
しかしそこへ、
「行かせるものか、ユーリーンを返せ」
ニキの激しい声と闘気を感じた。
余裕こいてる風に見せたいらしい魔王は、テーブルに手を乗せ、又座り直している。ユーリーンは立ったまま、その手をじっと見た。
「今朝、私の配下の者にさえ敵わなかったくせに、大口をたたくでない」
と、ほくそ笑み、
「私は、イチ達に命じて、あのグルードの愚か者からマックスの魔力を殆ど吸い尽くしているんだよ。そしてそのことに気付いても居ないようだね、君たちは。私はまだまだ取り込む余裕がある。イチ達に強請られてほんの少し分けたら、彼らは自滅したようだが。お前達の魔力も頂こうかな。お前達の生きる為の魔力も全て取り込んだところで、さしたる量ではないがね」
ユーリーンは、じゃあこいつが伯父様を殺した、本当の犯人だったんだと思った。魔王に支配されているはずの体だったのだが、さっきからの怒りも重なっており、思わず、
「キーッ、これでも食らえ」
とさっきから思い描いていたように、肉切りナイフを魔王の手に思いっきり刺すイメージを沸かせた。
すると実際に刺していた。ナイフは魔王の手を刺し貫きテーブルにまで深く突き刺さっていた。そして、ユーリーンの手は、ナイフを持って魔王の手を突き刺したまま、また動かなくなった。
「ぎゃっ、何故動かせる」
魔王は驚き、ナイフで刺し貫かれた手を動かそうとするが動かず、慌てて刺されていない方の手で、ユーリーンの手を退かそうとするが、弾かれてそれも敵わなかった。
それを見たニキは、好機とばかり、
「食らえっ」
今までユーリーンが見た光線の中で一番の光を魔王に当てた。
パパも同時に魔王に目掛けて、ビームの様な何かの攻撃を出したし、一応、リューンも何かをエイッと出した。
「ギャアッ」
魔王は叫んで消えた。一人で瞬間移動したらしい。
魔王の居た辺りは、皆の攻撃で穴が開いたのか、魔王が地下に穴をあけて逃げたのか分からないが、とにかく真下の地面まで穴が開き、ユーリーンが覗いてみると、土が見えた。
「逃げたね。やったね、みんな。魔王に勝った。でも死んでないかも、また来なけりゃ良いけど」
ユーリーンは皆に言った後、泣けてきてワーワー泣いたけれど、店の被害はきっとニキが払えるほどの額だと安心していた。
皆で抱き合って喜び合った。
「頑張ったね、ユーリーン」
ニキは抱きしめてくれた。ユーリーンも『ニキも頑張ったね』と思った。
パパは店の責任者らしい人が現れたので、現金を渡して、
「これで、床の修理は大丈夫でしょうか」
と交渉している。伯父様の事で学習していたようだ。用意が良い。上手く交渉出来た後、
「さっさと帰ろうかな。ニキ。人目があるし。それにしてもユーリーン、今朝はすまなかったね。私の所為だ。パワーは出尽くしたと思って、皆で朝食を取っていたが、魔族がやって来たら、私がまた頭からパワーが出だしたから、かえってニキの邪魔をしてしまった。私が居なければ、あんなのにニキが負けはしなかった。そう言えばユーリーンにも魔力がかなり出たね。ピンチになると、私達は能力が開花する場合がある。ユーリーンは魔人としての能力が普通の男よりは多いね。今度奴らが襲って来ても、今朝の様にはならないだろう。きっとね」
皆で輪になって、ロードさんの家に戻った。ロードさんの奥さんの膝にはちーちゃんが居た。皆で喜び合いながら、
「そう言えば、今朝の騒ぎの時はチーちゃんは居なかったみたいね」
ユーリーンが聞くと、
「そうなのよ、この子は本当は臆病なのよ。知らない人が三人もやって来たから、直ぐに逃げ出していたの。知っている人から気に入らない事をされたり、驚いたりしたら、怒る事もあるけど本当は良い子なのよ。ね、ちーちゃん」
「あたしも、本当は良い子だったのよぅ。信じられない顔の奴が居るけど」
ユーリーンは、誰も信じて居ないようだが、自分の事を一番知っているのは自分自身だと信じている。
最近、皆はユーリーンの能力とかを、かいかぶっている。自分が怪我をした時に、ちょちょいと直していただけなのに。それが、全ての原因なのだ。
ふうっと、ソファに座ったユーリーンは疑問に思った事をパパに聞いてみた。
「ねぇ、魔王が伯父様の魔力を殆ど取り込んだとか、皆気付いていないとか言っていたけど、どうして伯父様みたいに閉じこもっていなくて良いのかな」
パパは笑って、
「魔王には兄貴の魔力は無かったな。属性が違う者が磁力属性の魔力を留めて置けるものか、取り込んだ先から、頭かどこからか放出していた筈だ。あの魔王は愚か者だから何も感じていなかったのだろう。イチは木の根から出て来た者だから、どんな魔力でも取り込む性質がある。多分魔王が放出した磁力の魔力も取り込んでしまって、ああいう巨大な体になるしかなかったのだろう」
「魔王って、根性の悪い愚か者ってわけね」
リューンが、
「まったく口ほどにもない奴だったんだね。もし、また魔王が来たら、ユーリーンは魔王の計画の不味い所も教えてやりなよ。奴はきっと気付いていない。不味い所が分かったら、きっと結婚は諦めると思うな。僕が煽てているのも気が付かなかったし、馬鹿だね」
ユーリーンはリューンの能力の事を思い出した。
「ニキ、あたし達、北ニールに帰った方が良いんじゃない。伯父様が亡くなったんだから、宰相になっているんでしょ」
「そうなんだよ。僕もそれが気になっていた。戻って、宰相職を務めるべきだろうな。リューンの予想では、魔王は諦めるかもしれないしね。ユーリーンひとりだけ連れて帰るなら、僕も移動呪文はちゃんと出来るから、帰ろうかな、今から」
そして、その場から直ぐに、ユーリーンとニキは北ニールに戻ってしまった。リューンの側では暮らせない。
戻って見ると、国王はパパを許していたのが分かって、パパとリューンは北ニールにもやって来たが、拠点は南ニールのままにして暮らした。
気がかりだった魔王は諦めたのか、ユーリーンがタイプじゃないと思ったのか、二度と地上に現れることは無かった。それにひょっとすると、あの時反撃できなくて、魔王は伯父様の魔力が無くなっている事に気付いたのかもしれない。国王は魔王を制圧したニキへの褒美としてソルスロ家の復活を命じた。(ニキは、そう言われても…と思ったのだが)そう言う訳で、ニキとユーリーンに次男が生まれたら、その子をソルスロ家当主にすると言う契約書をニキが自分で書いて国王に収めた。言わば頑張ってみると言う自己申告だ。と言う事で、地上と地下の魔族達が争う事は無くなり、完全に行き来を辞めた。
ユーリーンとニキはその後ずっとグルード本家で幸せに暮らすうちに、ニキは『お館様』と周りの皆から呼ばれるようになった。
完
これで今回のファンタジー小説は完結しました。何とかまとめることが出来て、作者自身ほっとしています。次からは、エピソードをすべて書き終わってから投稿したいものです。そうは言っても懲りない性格ですので・・・
読者の皆様、最後まで読んでくださり、ありがとうございました。




