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敗戦国の訳有り女兵士は、気付かない内に運命の急上昇中  作者: 龍冶


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第20話 ユーリーンの必死の逃亡

 

 ユーリーンは馬車風の乗り物に魔王と並んで座り、気分は屠殺場にでも運ばれる感で沈んでいると、

「どうしましたか、ユーリーン様。さっきの元気は何処へ行ったのでしょう、そう言えば朝食の途中ではありませんでしたか。結婚式は直ぐに終わり、後は宴会です。お口に合う料理も取り揃えていますから、どうか、御辛抱お願いしますね」

 ユーリーンは、『この魔王、あたしの大騒ぎを元気が良いぐらいにしか思っていなかったんだ』と解かり、この先が思いやられた。感覚が全く違うのだ。さっきの家来もだったけれど。言葉が違うからかもしれない。意味が通じていないのか、それとも都合が悪い事は聞かないのか、と考え、都合の悪い事は聞かないの方が正解だろうと思う。

 瞬間移動とか言っていたけれど、箱の中に座っているのは10分ぐらいだった。全く瞬間とは言えない。

「さあ、到着しました。ユーリーン様は結婚式のドレスに着替えていただきます。係の者が来ています」

 魔王の話し方もさっきのグレーのも、きっと誰かから、地上の言葉を習ってしゃべっていると思った。地下の国の言葉で言えば、もっと違うニュアンスのはずだ。

 馬車風の箱の外には、がりがりに痩せた女性が待っていた。何だか食べ物不測の可能性とかありそうな気もする。その人は黙って先を行くので、ついて行くべきなのだろう。到着した部屋には、綺麗なピカピカ光るドレスが揃えられていた。かなりピカピカなので、どうしてこんなに光るのだろうと、眩しいけれど、じっと観察した。金糸とかではなく、何だか濡れたような光り方だ。段々嫌な予感がして来た。普通の生地でピカピカ光るなんて、嫌な予感しかしない。濡れていると言うか、ヌラヌラ感で光っている。もしや長いのとは別の、あの虫のヌラヌラでは無いだろうか。こんなの絶対着るのは嫌だ。

 辺りと見回すと、着替えの場なので、ガリガリ女性等しか居ない。今から逃げるしかないだろう。しかし、瞬間移動と言っていて、10分かかっている。どこか分からないが、地上はかなり遠い気がする。第一、土の中を逃げるのは間違いない。いやになった。もう少し、箱にケチを付けたりして、抵抗すべきだったのでは。お気楽すぎたと後悔したが、あの場合は魔王が強すぎたから抵抗しても無理だったしと思い直し、とにかく逃げるしかないと決心したユーリーン。

「あのう、着替える前に手を洗いに行きたいんですけど」

 やせた人は黙って、歩き出した。きっとついて来いと言う事だろう。

 何気ない風を装って、

「地上からずいぶん遠くまで来たみたいだけれど、地上ってやっぱり上ですよね」

 念のため、上を指して聞いてみると、その人は薄笑いを浮かべて、上ではなく、平行な横のとある方向を指さした。

 本当だろうかと思うが、その薄ら笑いは、ユーリーンの無知を笑ったと思い、指さした方向で間違いないと感じた。急に立ち止まると、ユーリーンを案内し終わった風に、その人は立ち去った。到着したようだ。こうなったら、指さした方向に逃げるしかない。

 洗面所に入ると、ドアが沢山あるが、外に出る出入口もあり、鍵は掛かって無いようだ。そこを開けると外に出られた。神殿の一画らしかったが、辺りには誰も居なくて、ついていると思う。教えられた方行へ、神殿の庭園風の場所を横切って、気配を消して走った。気配の消し方など、知らないユーリーンだが、何となく消したつもりになっておく。我ながらいい加減な奴である。そうしたら、それはちゃんと出来ていたようで、人が建物の中を行き来しているのが見えたが、ユーリーンの方を見ないでいて、気が付いてはいない。誰にも見とがめられず、神殿の外に出た。

 此処が正念場だと思った。

 地上の町と似たような建物が並ぶ中の道路を道なりに、教えてもらった方向と思える方へ、角を曲がったりしながらひたすら走った。方向を間違えていない事を祈るばかりだ。

 人通りが無いので何故かと思って、ひょっとしたら、国王の結婚式に行っているのかもしれないと想像した。そろそろ、あたしが居ないことに気付く頃ではないかと思う。急がなければ。

 走っているうちに家は無くなり、田園の道の遠くが茶色っぽいのに気付いた。何だか嫌な感じだ。あそこに行きついて、後はどうなるのだろう。逃げきれるのか。

 段々辺りが茶色くなっている感じの所まで行きつく。何だか分からない茶色の霧とも、煙とも知れない状態が、濃くなりながらずっと奥まで続いている。意外と近くに、地下帝国の果てがあるのに不思議な感じがする。もう少し大きな場所かと思っていたのに。あの魔王の家来どもは、自分の国自慢で、大きな地下都市だと言っただけで、規模は地上よりもかなり狭いようだと思った。

 どうでも良いような事を思っているのは、この茶色の場所を入って行く気分では無いからだ。

 ユーリーンは、この場所に入るのは、かなり不味い展開になるかもしれないと思っていた。どっち道、ニョロつく虫とは縁が切れそうもない。もしもの時の為にポケットに丁度あったハンカチで口を覆った。眼鏡とか無いので、気がかりと言えば泥が目に入る可能性だった。考えても仕方がない。逃げるしかないのだから。

 茶色の霧の中に思い切って入ると、嫌な気分が押し寄せて来た。思わず、目を瞑り、「キイッ」と悲鳴のような声を出して、気合を入れたつもりになる。目を開けると、周りの茶色い霧が、少しユーリーンから離れているような気がした。いやなものを弾く能力が出たようだ。

 気合を入れて走り出すと、前の方向を順々に茶色い色が無くなってくる。本気になればなんとかなると、気合を入れて移動した。

 誰かが追いかけて来ないのが不思議だったが、実の所、魔王達は気付いていてユーリーンが上の方向に逃げたと思っていた。神殿の側にはこの国一番の高い塔がある。ユーリーンは上を観察してはいなくて、知らなかったが、塔の天辺は天井に届いている。魔王達はそこに上がったと推測していて、天井を捜していた。気配は消せる能力を持っていると思い、彼等は当てもなく天井を捜している所だったのだ。

 おそらく天井を捜しつくせば、ユーリーンが逃げた方向にやって来ることだろう。それまでにどれだけの距離を逃げることが出来るかが、勝負である。

 ユーリーンは走りながら、周りが霧ではなく実際の土になっているのに気付いた。土を自分の周りから弾きながら走っている感じである。気合を入れていないと押しつぶされるだろうが、そう言う事を考えると、気合が入らないだろうと感覚で分かり、集中して走った。

 ユーリーンの一世一代の根性の出し処である。必死なので、疲れは感じない。多分、ゾーンに入ったとでも言うのだろうか。どの位走っていたのか分からなくなった頃、辺りが急に変化した。不思議だが、平行のまま、地上に居た。

「やった。出られた」

 しかし、ここは何処だろう。辺りを見回すと、見覚えがあった。セピアの郊外。ニキとこの前行ったショッピングセンターが見えた。

「まさか」

 ユーリーンはあまりのお手軽さに驚いた。知っている場所とは。しかしお手軽ではない。家に戻れた訳ではないのだから、偶然過ぎると言うべきだろう。

 ショッピングセンターへ行きながら、セピアのニキの家の近くだし、イチの家の近くでもあったのだから、この辺に地下帝国へ行ける入口があると分かっていて、ニキの一家が家を構えていたのではないかと思った。

 ショッピングセンターにたどり着いた頃には、ユーリーンは緊張感も集中力も取れていて、へとへとになっていた。お腹が空いたからだと思ったが、お金は無い。しかし、お店の人にお願いして、ニキに連絡出来ないだろうか。

「あたしって頭良い」

 我ながら、利口だと思う。ほとんどの人が思いつく事ではあるだろうが。そんな事はユーリーンは思い至らない。

 ふらふらと、店内に入り、入口近くの最短の場所に居る店員さんに近寄る。声を掛けようとしたその時、ユーリーンは声を掛けられた。そう、あいつに。

「ユーリーン様、探しましたよ。やっと見つけることが出来ました。お疲れの様ですね。御一緒に食事でもしませんか」

 声を掛けられ、疲労感最高潮になっているユーリーンは、振り向く気もしなかった。しかし最後の一言に反応してしまった。

「焼肉定食にしてね」

「はい、えーっと、レストランは何処でしょうね」

「あっちよ」

 ユーリーンは指さした。

「そうでしたね、では行きますか」

 魔王は、ユーリーンの腕を掴んで、他人には一緒に歩いているように見えたはずだが、ユーリーンの足が意思とは別な動き、前、後ろにかってに動いている感じで、魔王の命令通りになっている。自由意志の動きは出来無くなった。絶体絶命である。恐怖でドキドキしていると、いつの間にかレストランのテーブルに着いていて、座っているのに気付いた。魔王が気を失っているユーリーンを動かしていたのだった。

 ウエイトレスさんが目の前に分厚いステーキを置いて行った。ユーリーンの言ったメニューより高額になっている。少し癪にさわった。良いとこの生まれ感が皮肉っぽいと思った。

「さあ、ユーリーン様。いただきましょうね」

 魔王に促された風だが、ナイフとフォークで、魔王に食べさせられている。自分で食べるやり方では無い。ユーリーンはある程度肉を切ってしまうが、今の食べ方は口に入れる分しか切ってはいない。切っては食べ、切っては食べ、自分の意志では無いのがイライラしてきた。内心、『このナイフで魔王を切るには、切れ味が悪そうね』と思いながら食べていた。

 チラッと上目遣いに魔王の座っているあたりを見ると、魔王はさっきの金ぴかの衣装ではなく、セピアで見かける普通の男性の服になっている。何だかむかつく。下の方にグッと目を向けて、自分の汗だくの服装を見ようとすると、驚いた。着ている物が変わっていた。さわやかなブラウスとカーディガンが見えた。奴に着替えさせられたのも嫌だが、普通の服装もそろえようと思えばできるのが腹が立つ。

 さっきの結婚式用ドレスは嫌がらせだった気がした。ユーリーンが付いて行くのを凄く嫌がった事で、魔王は内心腹を立てているに違いない。ユーリーンは、段々はらわたが煮えくり返って来る。成り行きで、魔王にユーリーンのマジ苦手なのが虫だと教えてしまったからだと思う。地下に居続ければ、あれをネタに虐められ続けるだろう。魔王は究極のいじめっ子タイプと解る。今は捕まってしまったが、地下に戻されるつもりはない。持っていたナイフで、魔王を切っているイメージで、肉を切る。ユーリーンはうつむいていたが、魔王はこの憤りに気付いているだろうか。



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