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第2話 今は父の生家に潜伏中

 

「ユーリーン様どうぞ目を開けで下さいまし」

 女性の声が聞こえ、不思議に思いながら目を開けると、そこはかなり立派な部屋で、バイクはどこかへ行ってしまっていた。荷物も無く、身一つである。ユーリーンは不安になって辺りを見回すと、制服の様なグレーのワンピースの年配の女性が側に立っていた。

「あの、私の荷物とかは・・・」

「お荷物はこちらにございます」

 他の人の声がして、その方向を見ると、ユーリーンのリュックを持つ、中年の同じような服の女性が居た。

 年配の女性が、

「今、執事がお館様にお知らせに行っていますから、直ぐにお館様にお会いできるはずです。そちらのソファにお座りになってお待ちください。お荷物は寝室にお持ちして置きます。あ、お茶の用意が出来たようです。ささ、どうぞ座られて」

「あの、お館様ってどういう人ですか」

「あなたの伯父様でございますよ。お父様のお兄様です」

「ああ、時々手紙が来ていた人」

「そうでございます。あ、それにしても、ユーリーン様が北ニールにお戻りになって居られましたから、お迎えに上がりました爺や、何か粗相はございませんでしたか。能力はあるのですが、少し変わり者でして」

「お迎えだったんですか、いえ、大丈夫です。でも、私のバイクは、何処へ・・・」

「おそらく車庫においてございます」

「そうですか、良かった」

 出された、紅茶、多分紅茶だと思える飲み物は、南のとは少し違う味だった。

 そして直ぐに、執事さんが来て、

「お館様がお呼びでございます」

 そう言われて、ユーリーンは執事さんに付いて行った。魔力って、北に来ただけで親類の子とか分るんだなと感心しながら伯父さんの所へ行った。

 廊下は廊下の筈だがユーリーンの家の客間よりゴージャスと言えた。きっとかなりな金持ちなのだろうと分かった。執事さんに連れられて、伯父さんの部屋へ行くと、部屋の方がもっと荘厳だった。

 父親に少し似て、歳を取った感じの人が居た。

「ユーリーン、よく来たね。元気そうで嬉しいよ。さあ、側へ来てくれ。母親似だね。綺麗な子だ。兵役なんかに行かせて、奴は何を考えているのだか。可哀そうに」

「えーと、それは国民の義務で、特別扱いは無いです」

 ユーリーンは一応説明したが、恐らくこのお方は納得しないと思っていると、やはり、

「何が義務だ、南の奴らは。女の子を兵士にするとはあきれ果てる。だから自滅するのさ。さあ、そこにお座り。きっと酷い待遇だったろう。顔色が悪いな。ここに来たからには、早く元気になってお前のママに会いに行こうね。ママはお前を引き取りたいと言っているけれど、それはやめた方が良いんだよ。知らないようだが、お前のママは今は王妃だ。パパと別れて王弟と再婚したんだが、昨年王が逝去して、今はあいつが王になって、何かと面倒だから、城で暮らさない方が良い。せっかくこっちに来たのに、可愛そうだが色々訳があってね。すまないね」

 伯父さんに驚くような事を言われて、ユーリーンはそういう事なら自分でも母の所は不味いと思ったのだった。


 今日は疲れているだろうから、早く休むように言われて、メイドさんがユーリーンの部屋に夕食を持って来てくれる事になり、気を使わないですんだ。しかし自分の部屋だと言われた部屋は、伯父さんの部屋よりもゴージャスではないかと訝る調度品だ。ドア越しに国王の義理の娘が見つかったという言葉がかすかに聞こえ、なるほどとこの待遇の意味が分かった。何だか思わぬ波紋って奴が起こっている気配である。でも、

「そんな話、聞いた事なかったし」

 と一人、言い訳して眠ったユーリーンである。


 次の日、ユーリーンが目覚めると、昨日の二人の女性より少し若い人がベッドの直ぐ近くに居て、仰天して飛び起きてしまった。自室に知らない人が居る事に少し驚いた。

「驚かせて申し訳ございません。私はユーリーン様付きの侍女を仰せつかりましたピアと申します。どうぞよろしくお願い致します」

 にっこり微笑むその人は、感じの良い人には違い無さそうだが、これでは自室の感覚が無くなりそうだった。

「はあ、こちらこそよろしくお願いします」

 ユーリーンは自分より年上の女性で間違いなさそうな人に、思わずつられて挨拶した。しかし、

「どうぞ、何なりと用事を言いつけて下さいませ。もしや侍女の事が慣れていらっしゃらない様でしたら、お一人の時間も必要でしょうし、隣の私の自室に控えておりますので、ご用の時はその紐をひいていただきましたら、直ぐにお側に伺わせていただきますから。ですが今朝は、お館様がご一緒に朝食をとの事ですから、お仕度させていただきます。毎日ではございません。おそらく、お館様がご在宅の朝だけと思います」

 と言ってにっこり微笑んだ。きっとギョッとした顔になっていたと思うユーリーンである。ピアさんの説明で目に見えてほっとしていただろう。

 南ニールの女性としては、普通、スカートは何かのイベントぐらいしか着ないのだが、クローゼットの中は、ドレスしかなかった。上下に分かれても居ない代物ばかりで、毎日が何かのパーティーっぽい感じで驚いた。

「あのう、普段着とかは入ってないみたいですけど、そう言うのは何処に・・・」

 ユーリーンの希望的呟きは、見事に打ち砕かれた。

「左側は一応普段着になって居ります」

 ピアに指し示された、明らかに何処かのイベントに着ていけそうなドレスの数々を見て、それから一応右側を見る。何処が違うのかじっと観察して、恐らくお針子さんか誰かの気合の違いと見た、ユーリーンである。高価な衣装を、何かの拍子に引き破る訳にはいかないと思い、大人しくピアさんに着せてもらう。

 髪は自分で乱雑に数日前に切っていて、どうしようもないのではと思っていると、さすが侍女歴も何年かはあるらしく、後ろにひっつめて飾りとヘアピースでまとめてくれた。プロである。赤みがかった茶髪の自分の髪と同じ感じのがたくさん並ぶ引き出しを見て、感心してしまう。何時から揃えたのだろう。

「これっていつから揃えたの」

 不思議で聞いてみると、

「昨日でございます」

「どうやって」

「ユーリーン様のお姿を拝見しました、侍女の一人が御髪関係は全て揃えました。御召し物も全て昨日揃えました。私は、この普段着を注文して、今朝届けられたものを、ちゃんとユーリーン様にフィットするか調べました。楽しかったです。こういう事めったにありませんから」

 にっこりされたのは、おそらく達成感の微笑みだと思ったユーリーン。一晩で揃えるとは、ここの侍女と言う方たち、それに、ドレスを何着も一晩で作る方達は、只者ではないと思ったが、館の内外に居る護衛が任務らしい人達も只者ではない雰囲気である。北は魔法を使うので、筋肉技はあまり使わないのではと思っていたのは、間違いだとすぐに分かった。無駄のない筋肉の、格闘技得意げな護衛達がわんさか控えている。兵役でそれなりに格闘技を習ったユーリーンだから分かる、優れもの達である。ここは一般の家ではないのかもしれないが、兵隊でもないのにこれだから、戦争をするこういう感じのプロの兵隊だと負けるに決まっている。比べれば南ニールは素人集団とはっきり言える。

 だいたい、女性でも駆り出される始末だし、金で兵役を逃れる男が一定数存在するのだ。男が素人だから、女性ならなおさらである。自分でもよく生き永らえたと思う。ユーリーンの家はいつも金欠だから仕方がないのだが。小さい頃は分からなかったが、父親は会社経営に向いていないのではないかと思う。内容は知らないが、毎年赤字だなんて、どうなっているのやら。あの人の実家から借金するとは、呆れてしまうし、勝手に婚約させられているなんて、絶対家には帰らないからと、ユーリーンはつくづく思いめぐらしながら、ピアさんの後を追って、朝食を食べるために一階に降りて行った。

 ダイニングルームには伯父さんはすでに席についていた。さして準備も必要ないし。早く来ることが出来るだろうなと思うが、

「おはようございます。お待たせしました」

 と言って、ヘラリと愛想笑いをしておいた。兵役ではヘラヘラは不味かった。最初のヘラヘラで、あいつに勘違いさせた自覚はあった。しかし、伯父さんに愛想笑いしたところで、勘違いは無いだろうと思った。

「おはよう、ユーリーン。ママに似て美人さんだね」

 伯父さんの様子で、ギリギリだったのが分かった。そこで思い至った。ここには伯母さんが居ない。何時からだろう。後でピアに確かめなければならない。


 ピアに伯母さんについての情報を尋ねると、何と独身だと言われた。魔力が強くて誰も相手をしてくれなかったらしい。それじゃあ、誰が跡を継ぐのかと思うと、訊ねもしないのに教えてくれた。私を養女にして婿養子を迎えるつもりらしい。なるほど、さすがに自分の相手は無理だと思ったらしい。ほっとするが、なんだか不安になる。一体だれを婿養子にするつもりだろうか。誰にしろユーリーンの知らない奴だが、そいつに彼女がいて引き裂かれて来られるのは御免なんだけど、大丈夫なのかなと少し心配になってしまった。

 何もすることが無いので、部屋で退屈になっていると、ピアが午後から城に登城してママに会いに行く事になったと報告してくれた。

「お昼は軽めにしてくださいね。このドレス、ホントにピッタリなのです」

「え、もっと余裕があるのを手配して欲しかった・・・」

 ユーリーンは今朝出された朝食は完食していた。この家の食事は朝食でさえ美味しいので、昼や夜のを期待していたので、少し悲しくなった。

 では、夕食はきっちり食べてやると決心した。ドレスが着られなくなろうと、例え体重10%増しになろうと、まだデブと言われる迄にはならないと目論むユーリーンだ。



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