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敗戦国の訳有り女兵士は、気付かない内に運命の急上昇中  作者: 龍冶


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17/22

第17話 ユーリーンは何度も叫ばざるを得ない状況になる

 

 廊下で二人、沈んだ気分になって来て、ニキは、

「下に行って、お茶をもらって来ようかな」

 と言い出したが、ユーリーンは、

「でも、居候だし、あたしも下に行っていただくわ」

 と階下に降りてロードさんの居間に行くと、髪を振り乱した例の市長が居た。ロードさん夫妻を人質にしているつもりらしい。二人は縛られている。だが、ニキにそう言う事が通用するだろうか。

 ニキは目にも留まらぬ速さで、リミドラ・イチの首を絞めながら、ロード夫妻から引き離した。

「貴様、ここにやって来るとは、良い度胸だな」

 ユーリーンの夫の筈だが、怖い言い方。30歳以上と分る凄味。そのまま首を絞めて、息の根を止めてしまった。秒速だ。すると、ぱらぱらとリミドラの体は枯れて崩れ落ちた。

 ロードさん夫妻、及びユーリーンは驚愕した。恐怖映画の一場面のような状態である。

 辛うじて、

「やっぱり元は木の根だったんだ。実際に見るまで、少し信じられなかったけど。ふう」

 感想は言っておいた。ため息が出たけれど。

「これで伯父上の仇は討てたな」

 ニキは感慨深げに言った。ユーリーンは思った。『ニキはユーリーンの前では普通にしているけれど、皆の葬式を出し続けていて、かなり拗れている。頭を撫でてあげるのは、あたしの方ではないだろうか』

 そこへ、ドスン、ドスンと足音が聞こえて来た。おそらく、例のイチが戻ってきている。パパとリューンの作戦はうまく行かなかったらしい。二人はやられていなければ良いが。

 足音が止み、大男の足が窓のガラス戸を破った。ひょっとしたら、勢いで止まり切れなかったかもしれない動きだ。

 窓際でウトウトしていた、ちーちゃん猫は怒って、かなりのデカさの足なのに、ふうっと爪で引っ掻いて怒りを示した。この猫、足の大きさとか気にしていない。素晴らしい攻撃である。

 するとその傷口から、パワーか何かが噴き出している感じがした。見る見るうちに足がしぼんで来た。まるで風船だった様にしぼむ。まさか、中身は空気だったのかと見ていると、上の方の体もだんだんしぼんで倒れて来た。

「ひょっとすると、茎的リミドラの先が葉っぱのイチって感じだったのかな」

 ユーリーンの思い付きに、ニキも同意した。

「うん、猫のひっかき傷で、やられた訳ではないと思うな・・・」

 大きな服の布の中に、大きさの戻ったイチが倒れている感じになり、それもじきに、ぺしゃんこになった。

 同情すべきではないが、少し哀れな感じがする。それに、伯父様のパワーはどうなってしまったのだろうか。ショッピングセンターを崩してもまだ有り余っていたあのパワーの行方が分からない。

 ユーリーンが不思議がっていると、パタパタと足音がしている。何だか聞き覚えがある足音だ、きっと走って来ているはずだが。やはり来た。

「魔物のイチが急に消えちゃったね。どこ行った?」

 私の姿のままのリューンだ。何だか聞いたことがあると思ったら、自分の足音だった。

「死んだみたいよ。それよりパパは無事?」

 縛られていた紐をニキに解いてもらっていた、ロードさん夫婦は仰天していた。ユーリーンが二人いると思っただろう。

 ふたりを見比べながら、

「確か双子じゃない筈だったが」

「あ、しまった」

 と言って、リューンはまたパタパタと走って戻って行った。

「何なの、あいつ」

 走って行った先を見ると、パパが知らない人に肩を貸してもらって、よろよろ戻ってきている。

「パパ、イチくたばっている」

 リューンが報告に行ったようだ。

 ユーリーンもパパが心配で行こうとすると、ニキに止められた。

「ユーリーンが二人になるのは不味いよ、中で待って居よう」

 ロードさんは、

「そうだろ、双子じゃ無かったよね、あの子はまだ若いようだし、君が本物のユーリーンだよね」

「そうです。パパがリューンを化けさせたんです。驚かせてすみません」

「やれやれ、不思議な能力のある人たちだねぇ」


 そうこうロードさん達と話していると、パパとまだユーリーンに化けているリューンが戻って来た。

 パパは知らない人の肩からリューンの肩にもたれるのを変えていた。

 ユーリーンは、パパはやっぱり具合が悪くなっていると思い、

「パパ、大丈夫。あいつにやられたの」

「いや、違うんだ。あいつに後ろから触って、パワーを吸い取ったんだが、まだ漏れていた量が少なくて、あいつにはかなりの量のパワーが残っていた。パパも魔力マックスになったよ。だけど兄貴みたいに押さえて居られないから、頭から出している所だ。それでふらついている。あの大男の魔物は、具合が悪くなったと慌ててユーリーンが居そうな所へ行って、何とかしてもらう気だったようだが。魔力を取られたと分からない様だったな。魔力が無くなっても、大男のままで小さくならなかった。後ろから見ていると、急に居なくなったように見えたが、消えたのかな」

「それが、風船がしぼんだみたいにぺしゃんこになったのよ。あそこの大きな布きれの中にしぼんでいるの」

 リュークが、

「ひぇっ、僕さっき踏んだよ」

「おそらく枯れて死んでいるから、気持ちの悪い潰れ方はしていないと思うな」

 ニキが微妙な保証をした。

 パパがヒョロヒョロ、布きれの中を確かめに行っている。

「一応確かめておこう。おや、そっちにも、もう一つ死骸があるみたいだな」

「それは、市長の成れの果てです、あいつもここに来ていました。ユーリーンを狙って来たようですが、父上が魔力を吸い取ってくれた後の様で、あっさり枯れました」

 ニキが説明した。

「ほう、そうか」

 そう言いながら、大男の方の布をめくると、

「わっ」

 と言いながら飛び退いた。中から、ヌルッとイチらしき人に近い形が、出て来てユーリーン目掛けて飛び出してきた。

 ユーリーンは、

「ぎぇー」

 物凄い悲鳴を上げた。

 ニキが急いで、持っていたナイフでイチの首を切り落とした。何か変なものが首から飛び出てきたが、ユーリーンはそれにかかるようなへまはしない。素早くソファの陰に座り込む。リューンの化けていたユーリーンは変な汁が掛かった様で、

「きゃー」

 と言った。バカな奴。ユーリーンは4歳の記憶が戻ったらしいあの後から、こういう場合の危険は想定していて、対処は考えていた。隠れるのだ。

 立ち上がりながら、

「魔物のドロドロに対する対応は、あたし、年期が入っているのよ」

 とリューンに自慢げに話していると、死んだと思った首なしのイチが、ユーリーン目掛けて飛びかかった。ユーリーンはまた、

「ぎよぇーっ」

 と叫んで思わず尻もちをつく。内心カッコ悪いと思う。ニキは今度は、手からビームの様な光を出し、少しニョロつく人型の物を燃やした。

 ユーリーンは肝を冷やした。何が何だか分からない。パパが、

「悪い、悪い。頭からパワーが漏れているから、それを吸収してしつこく動き回ったな。燃やすのが正解だった。そうなると、この市長の粉は大丈夫かな」

 パパの懸念は図星だった。パパが言い終るか、その前か分からないが、段々粉が集まって来て、人型になりつつあるのが見て取れた。ニキはまたビームを出して、燃やしたのだが、燃え出した粉が、驚いた事に、ブワッとユーリーンに目掛けて飛んで来た。

「ぎゃぁーっ」

 床に座っていたユーリーンは、とうとう座ったまま腰が抜けたと思った。ニキは燃える粉を見て、水を掛けて消火したが、ユーリーンはそうなるときりがないのではと思った。ニキもそう思ったのか、バリアを張った水の球の中に粉を集めた。見事と言えるがその後どうするつもりだろうか。

 パパも、

「しつこいなぁ」

 と言いながら、水の球に触って、外側からパワーを吸い出したようだ。ニキはそれを外に放り投げて、燃やした。

「やっと片付いたな」

 パパはそう言って、ソファに座り、

「まだ、かなりパワーが漏れているが、もうすぐ私も抑え込める段階になりそうだな。ニキは工夫したな。自分にバリアを張っているようだが、それでパワーに当てられることは無くなったのかな」

「いえ、辺りが磁気にあふれていますから、動きにくいですね。ユーリーンに何度も怖い思いをさせてしまいました。すまなかったね。ユーリーン、手際が悪くて」

「あれで手際が悪いの。ちゃんと守ってもらったと思うけど。汁もかからなかったし、火傷もしなかったし」

「それはユーリーンの、対応が良かったからだよ」

 ニキはそう言ったが、ユーリーンには良く分からない。

 するとリューンが、観察していたらしく、

「ユーリーンが大声で叫んだら、木の根の先っぽ達は少し怯んでいたね。声にパワーでも出たのかな」

 パパは、

「少し、反発力を出していたね。リューンはよく気が付いたな」

「そうなの、叫んだだけのつもりだったけれど」

 ユーリーンは自分にも少し能力が有るらしいが、自覚は無いのだがと思った。

 何はともあれ、何とか片付いてほっとしたつもりだったユーリーンだが、パパは

「それにしても、兄貴の残りのパワーは何処へ行ったのかな」

 がっくりする事を言い出したのだった。



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