第14話 戻って来たのは浮かれた伯父様、ユーリーン達は不味い事になると予想する
お館様のお帰りはいつもの書斎ではなく、執事さんがイライラ階段の手すりを磨きつくしていた玄関ホールだった。心配しているのが分かっていたのだろう。昼間、お気楽モードだった身内ではなく、使用人の前に戻って来た。
ユーリーンは、伯父様の本心を少し察した。
「お帰りなさいませ。お館様」
執事さんはいつものように、コートを受け取り、引き下がって行った。遅くて心配したとかは一言も言わなかった。伯父様も、黙ってコートを渡すと、書斎にやって来た。何だかユーリーンはしみじみした。
三人揃って待っていた書斎に入って来た伯父様、何だか様子が違う。すっきりした感じとでも表現できるだろう。
ユーリーンは、
「お帰りなさい、伯父様。随分遅かったわね。どんなだったの」
こっちだって、要点だけを言う。
「ああ、すっかり遅くなってしまったが、懸念は無くなった。市長と別の契約をした」
「どんな契約を、ですか。すっかりパワーを出し切っておいでの様ですね」
ニキは何だか心配気だ。
「うん、市長に会って、ショッピングセンターを崩した件は、不可抗力だったと説明した。わしは魔人で魔力がマックスだから、魔力の抑えが効かなくなると、思わぬ影響を辺りに与えてしまうと言ってみたんだ。するとあの市長は、そう言う噂は聞いていると言ってね、弁償は、わしのパワーを貯めて、エネルギーに置き換える事で、払ってくれと言い出したんだ。セピアの技術者達が何か機械を開発して、色々なパワーをエネルギーにして貯め込み、電気に置き換える開発をしているそうだ。今の所、太陽エネルギーや風力エネルギーで電力を作ることが出来ているが、わしの磁力パワーが発電に変えられるか調べてみたいと言われて、その研究所で、パワーを出してくれと言われた。そういう訳でその研究所でパワーを放出したら、エネルギーにして貯めることが出来て、弁償要求は取り下げになったよ。それどころか、数年先からはわしのパワーに、代金を払うことになると言った。それで、その契約もして、かなり時間が掛かったようだな」
「そう言う事なら、連絡して欲しかったわ。執事さん、心配していたのよ。あたし達も伯父様の帰りの遅い理由が分からなくて、セピアに行こうかしらと思っていた所だったの」
「そうだろうね、磁力も関係する何だかややこしそうな機械のある所だったから、電話とかも繋がらないそうでね。仕方なかったよ。心配かけたね」
「うん、それは良いんだけれど、今、ニキがパワーを出し切っていると言ったけど。体に異変とかは無いの。いつもパワーマックスとか言っていたでしょ。急になくなって大丈夫なの」
「それが何とも無いよ。若い頃はパワーマックスでは無かったが、成人して徐々にたまって来たから、パワーが無くなっても、具合が悪くはならないようだ。思えばこれが正常な状態の筈だよ」
「ふうん」
だが、ニキは納得しなかった。
「しかし、あなたのパワーは尋常な量では無かったはずですが、そう言う大量のパワーをため込む装置がよくセピアで開発されましたよね。何だか信じられない」
ユーリーンは、
「じゃあ、ニキはどんなだと信じられるの」
「ある程度はグルードさんの体に残っていても良いような気がします」
その時、今まで皆の話を黙って聞いていたリュークが、意見を言い出した。
「僕。思うんだけどさ。これからしばらく伯父さんの魔力を渡したら、その後は伯父さんの魔力代を支払うって契約をしたんでしょ。もしも、もしもだけど、伯父さんの魔力がもう貯まらなかったらどうなるの。あと数年したらって、その前にどの位伯父さんの魔力を出せるかとか、はっきり量とか決めたのかな。ニキさんが、伯父さんはすっかり魔力を放出しているって言うけど、今までそんな風に魔力を出し切ったことがあるの。無いのなら、もう貯まらなくなる可能性だってあると思うんだ。そしたらその契約はどうなるの」
ユーリーンは、リューンは利口だと思った。で、意見を言っておいた。
「その時は、夜逃げと違う?」
「おいおい、お前達、そう言うのはマイナス思考と言うものだよ。その内にきっと貯まってくるさ。あと数年したらと言ったのは、一年に一回放出する事で契約している。他に魔力を使う可能性は捨てきれないと言っておいたからね。わしはこの契約は、かなり気に入っている。今まで必死でパワーを抑え込んでいて、かなり辟易していたが、もう自由になった。これからは何処へでも自由に出かけられる。何、パワーなんぞは一年後には遅くとも貯まっていると感じるんだ。こればっかりはわしの勘で、説明のしようが無いがな」
随分なプラス思考に変わった伯父様をあきれて見つめる三人。
ユーリーンは思い至った。
「そうだ、セピア公国の首都に在るセピア市市長は女性だった。前にニュースで見た事あるけど、50半ばの、まだまだ女を捨てていない人よ。伯父様、あの人とお付き合いするつもりで、そんなにもプラス思考の人になったんじゃないの」
リューンは、
「もうお付き合いは、始まっていると思う。浮かれているよ。気分は春だね」
ニキは内心、南ニール育ちの子は北に比べ、かなり進んでいると感じている。自分にはこういう歯に衣を着せない物言いは、年をいくら重ねても言えないと思う。あさっての方向を向いて、この場をやり過ごすつもりだ。
「なんて勘の鋭い奴らだ。とにかく、もうわしは自由の身なんだから、好きにするからな。お前達にどうこう言われるつもりはない。わしの役目は終わった。神託は受けて、やり遂げた。そうだろう?異議のある奴は居るのか」
「いませーん」
甥と姪は声を揃えて言った。
「そうだろうな、ところで養子の息子の意見は聞いていないが、どうなんだ」
ニキは自分に向けられた問いに気が付き、
「私は、意見を言う立場ではないと思いますが。言うべき事があるとすれば、昨日伯父上から、知らない魔人を信用するなと忠告されたような記憶があるのですが、記憶違いでしょうか」
ユーリーンは、
「あ、市長は魔人なのかしら。そう言えば人間にしては、出来る女っぽさが半端なかったわね。魔人でOK?」
ニキは、
「そうでしょうね。伯父上も気付かれていない訳が無いと思いますが」
ユーリーンはじっと伯父様を観察した。
「あの人は信用がおける、わしには分かる」
ユーリーンは、伯父様は魔人の市長に引っかかったと分かった。不味い事になれば、夜逃げで間違いは無いだろう。
夜も更けて来たので、今日の家族会議は解散となった。リューンが眠くなったと言って、書斎から出たので、ユーリーンとニキも、
「では、あたし達も」
と、部屋に戻った。ユーリーンの部屋にニキが付いて来るので、そう言えば今朝、ニキは同じ部屋で寝るという意見らしきことを言っていたと思い出す。付いて来たニキに、また意見を言っておくユーリーン、
「伯父様はきっと市長にたぶらかされているわね。年は取っても伯父様は女性に慣れてはいらっしゃらないと思うわ。たぶらかされたと言う事は、たぶらかしたあの市長は、信用できない奴って事よね。あたしの推察、間違いないでしょう」
「おそらく」
「きっと何かが始まるわ。不味い事よ。夜逃げの必要がある事態になりそう。伯父様のパワーはもうあてに出来ないかもしれないわ。魔人の市長に、伯父様のパワーは吸い取られたみたいだもの。北ニールのピンチと言えるんじゃない。セピアは、北ニールに攻めて来るのかしら」
「セピアは北ニールよりも豊かなのに、攻めて来る理由が分からないがね。その可能性はある」
そこでユーリーンは思いついた。我ながら利口だと思うが、そうだとしても嬉しくはならない結論である。
「ひょっとしたら、伯父様のパワーで、木の根っこの端くれが復活したりするとか?げっ、またあたしがねらわれるの?」
「ユーリーン、とうとう思いついたようだね。僕もそれを考えた。ユーリーンを、あいつ等になど渡すものか。全力で守るから、夜逃げはもう少し様子を見てからにしようね。ここはもう安全ではないかもしれないけれど、ソルスロの家にも戻れなくなった。恐らくイチも仲間だろうし。ユーリーンのお父様が戻って来そうだから、正気かどうか確かめて、それから考えようね」
ユーリーンは黙って頷いたが、パパが正気とは思えなかった。




