第10話 魔物の様なカイザーの父親がやって来た、ピンチの二人を助けに来てくれたのは・・・
魔物がやってきたのかと訝ったが、ユーリーン達の前に現れたのは、噂のカイザーとその父親らしき魔族だった。そいつが最強の魔物のような気配をしていたのだ。カイザーの父親が魔族のボスだったらしいとは、彼を長い間、見知っていたのにやっと分かったユーリーンである。
恐怖で、思わずニキの後ろに隠れるユーリーン。ニキは闘気むき出しで睨みつけた。そんなニキを無視したカイザーの父親は、
「ユーリーン、やっと見つけたよ。私は君のママのお兄さんだよ。まだ会ったことは無かったね。おや、パパから聞いていないのかな。こいつは私の息子カイザーだ。君の婚約者の。さあ、今から魔族の神殿に行き、結婚式だよ。わが一族の永久の繁栄をお願いしに行こう」
それを聞いて、ニキは、
「ユーリーンは私の妻だ。すでに結婚の契約は終っている。お前の目は節穴か。分からないふりは辞めるんだな」
「ほざくな、雑魚め。まやかしの神に何を誓える。我らの魔族の神殿が本当の神がおわす所。北ニールにあるものは、愚か者が突貫で作った拙い小屋だ。その辺りに居たニンフが住んでいるようだな。消えろ」
そう言うと、ニキ及びユーリーンの方に物凄い圧というかパワーが襲って来た。ニキはユーリーンを庇って、その圧をまともに受けたはずだが、ダメージは無いようだ。と言うのも、ニキとユーリーンの前にはいつの間にか、グルード本家のお館様が、立ちはだかっていた。
伯父様、助けに来てくれたんだ。ユーリーンはほっとした。伯父様は最強の筈。
「ガイル、悪あがきは辞めろ。ユーリーンは既に結婚しているじゃないか。婚約じゃないぞ。結婚した後に取り消しなど出来るものか。神の怒りを受けるのはお前だ。覚悟は出来ているのかな」
「何をほざく。お前らのまやかしの神などの誓い何の意味がある。お前こそ身の程をわきまえろ。俺は魔族の王だ。知らないのか」
「知らぬな。魔族の王なら俺の事じゃ無かったかなと思うが、以前神に断ったら、お前にしようと思われたのかな。そんな噂は聞いておらぬが。大体お前は魔人でも無かろうが。昔、神は魔人をお望みと聞き、ニンフが木の根で作ったサンプルだったろう、お前は。神は別のアイデアの方がお好みで、ニンフがお前を焼いて捨てようとしたら、逃げてしまったと聞いている。昔の事を忘れてしまったのか、木の根よ」
「ふざけた事を言うな」
「だが、木の根だから、こうすれば燃えてしまうだろうな」
伯父様は物凄いパワーをガイルに当てた。さっきニキに当たる筈だった物とはレベルが違った。ガイルは、咆哮を上げながら燃えだした。ショッピングセンターも、生憎、共倒れ風に燃え出し床が崩れ出した。
「ユーリーン、危ないから逃げよう」
ニキがユーリーンを抱いて、移動呪文を呟いた。
どこかと思えばグルードの本家の伯父様の書斎に着いていた。伯父様が、書斎に戻ったらお礼を言うべきだろうし。
二人で伯父様の書斎で待っていた。
ユーリーンはニキに、
「伯父様、自分の事を魔族の王だって言ってなかった?あいつは木の根だって。昔話にあったよね。ニンフが木で人形を作る話。あれの事、言っていたの」
「良く知らない。それはユーリーンの方が詳しそうだな。僕はあまり本は読まなかった。魔物を倒す訓練ばかりで、学は無いんだ」
「でも、本棚に難しそうな本が並んでいたよ」
「魔物を倒すのに必要な呪文だったからね」
ぼそぼそと話して居ると、伯父様がもどって来た。
「やれやれ、久しぶりに魔力を放出できたから、すっきりしたな。お前達、そろそろこっちで暮らさないか。養子の筈だろう。それに何処をうろついているか、わしも知っておきたいからな。ユーリーンが困ったときに何処に居るか分かっていれば、直ぐ助けに行けるだろう。今日は、あいつの気配が強力で何処か分かったから、直ぐに行けたけれどね。もしユーリーンが小者と喧嘩して居たなら、ちょっと分からないな。さすがに女の子の喧嘩に割って入る訳にはいかないから、今日の事は仕方ないかなと思うが」
「僕が付いていますけど」
「今日はそうはいかなかったじゃないか。手を痛がっていたのは知っているんだからな。とにかくこっちで暮らして欲しいな」
「はい、わかりました」
ニキは観念したようだった。
「伯父様、あいつ、やっつけてしまったの」
「ああ、元は木の根だからね、燃やしておいた。店も燃えたが、仕方ない。おそらくセピアが建て直すさ。良くない物がセピアにやって来て困っていた筈だから、まさか弁償しろとは言われないだろう。そう思うだろ、ニキ」
「はい」
ユーリーンはまだ、不思議に思っていた。
「でも、木の根にしては、カイザーが居るでしょ。木の根に子供を作れるの」
「木の根は土の中でどんどん伸びていくじゃないか。最近の魔物だってあいつから生まれているし、人間の様な物も生み出している。あいつが不味い所は、木の根だから何でも吸収するからな、殺した魔人の魔力を吸収することで、最近は力が半端なく大きくなった。力が強くなりすぎて、地下に隠れて居れず、地上にのこのこ出てきたのが、あいつの敗北の原因だ。わしら魔人の先祖はニンフから、逃げた木の根を見つけて焼いてくれと頼まれていた。段々強力になって来て、手に負えなくなることは分かっていたのだが、地下に根を張ったあいつは割と利口で行方知れずでね、昔の事だからどんな風貌だったかもあやふやで、今まで探し出すことは出来なかった。最近は出て来る魔物が強くなり、その討伐だけで魔人は精一杯になりつつあった。そこでわしの魔力マックスの登場だ。わしが成人したときに、神の神託が下りて、わしや、グルード家に木の根を片付ける使命が告げられた。ユーリーンのパパは南ニールに木の根が根を張っていそうで、探しに行ったんだよ。わしらの役目だった。そいう事情だ」
そう言う訳で全て片付き、ユーリーンとニキはグルード本家に住むために、荷物を持って戻って来た。本家の造りは昔風で、夫婦でも別室で一応続き部屋になっているが、寝室、居室共に別にある。ニキはそれをじっと見て、
「まあ良いさ、クローゼットは多い方が良いだろうし」
と言った。
ユーリーンの荷物は、侍女のピアが手伝ってくれた。
「一カ月ご旅行と聞いておりましたけれど、お早いお帰りで、皆嬉しく思っています。御召し物が増えていますね。これが流行りの服でしょうね。私共はこの辺りの事しか分かりませんけれど。ニキ様はよくセピア公国にお出掛けなさるそうですから、退屈される事にはならないでしょうね。お嬢様は、以前より健康そうになられましたし、お幸せそうでようございました」
「ありがとうピア。又お世話になるわね。ニキと食事しにセピア公国によく行っていたのよ。でも火事になったから、当分行かないと思うけど」
「そうですってね、お館様からは、お役目をやり遂げたとお聞きしております。もう、恐ろしい魔物が出て来ることは無いと仰っていただきました。普通の困った生き物はまだ色々居るそうですけれど、今までの凶悪な魔物は、木の根が魔力で魔物を作っていたんですってね。驚きです」
「そうよね、驚きよね」
ピアと話しながら部屋を片付けていると、執事さんがやって来て、
「若奥様、喜ばしい事に、リューン様がグルード家にお一人でお戻りでございます。姉上様への面会をお望みです」
ユーリーンは驚いて飛び上がった。
「良かった、リューン。半分木の根なのに生きていたのねっ」
走って階下に行くユーリーンを見送る、執事とピア。
「半分木の根ですって?まさかね」
「私が拝見したところでは、木の根の資質は無いように見えましたが」
ニキが自分の部屋から出て来て、機嫌良くユーリーンを追っている。リューンがグルード家に来たと言う事は、おそらくユーリーンのパパも戻ってくるつもりだろう。
「僕は跡取りの役目、返上では?」
急に笑いが込み上げて来る。
転がりそうになって階段を下りたユーリーンは、リューンは客間に居ると思い、飛び込んだ。
「リューン、生きていたのね」
「その台詞、僕のだと思うけど」
「やだ、あたしのに決まっているじゃない。リューンはパパ似だと信じていたのよ。良かった。ママに似ていなかったのね。ところでママは死んだの」
「ユーリーン、性格悪くなったね。いくらママが浮気していたからって、勝手に死んだことにしないでよ」
「だって、木の根だったでしょあいつ等、元が駄目になったら、先っぽも枯れるっていう話なのよ。あ、あいつはママの兄だった。しまった、ママは先っぽじゃないよね。間違っていた」
「ユーリーン、相変わらずおっちょこちょいだね。ガイルは木の根だったそうだけれど、あいつはガイル家に男の子が居なかったから、養子に来たんだ。木の根であいつが作った一家の次男という立場でね。ママは人間だよ。でも浮気していて、この機会にパパは離婚するって。それで、まだ手続きでごたついているから、僕だけ先にこっちに行けって言われたんだ。僕の親権で争っているけど、ママの浮気が原因だし、相手の奴はあまり僕を引き取りたくないらしいし、僕もそっちに行くのはご免だから、もめているのはママが僕の事、気にしているだけの事なんだ。だから僕だけずらかった訳」
「そうだったの、じゃあ、カイザーは」
「あいつは現場に居たからね。木の根と一緒に死んだ。本当は人間で、あいつのママの連れ子だったそうだけどね。木の根はあいつをユーリーンと結婚させて、北ニールを支配するつもりだったそうだよ。ユーリーンは王様の義理の娘だってね。でも一緒に暮らして居ないのに、王様達とは家族じゃ無かったんだろう?どうして支配できると思っていたのか、変な奴」
「変よね、そこの所。木の根だったそうだから、頭の中も木の根だったろうし、その所為かも」
そこへニキがやって来た。
「君がユーリーンの弟なの。僕は義理の兄になったニキだよ」
「あ、僕リューンです。どうぞよろしく」
「うん、こちらこそ。ところで父上のグルードさんはこっちに帰って来るとか言っていなかったかな」
「はい、こちらに会社を移して、セピアの武器とか調達するんだそうです。だから、兄上は宰相職を継ぐ本家の跡取り予定のままですから、ご心配なくとお知らせしておくように、と父が言っていました」
がっかりのニキだが、それを顔に出しはしなかった。
「そうなの」
とすかした返事をして、もう興味無さそうに自室に戻った。
リューンはニキの後姿を見ながら、にっこりして、
「ユーリーンが戻って来ないし、会ったら幸せそうだから、きっと良い人だと思ったんだ。パパが会社を移すって言ったけど、さっきの話はニキさんに会ってから考えて言えって言われた。僕って如才無いだろ」
「そうね、あたしと違って。まだ小さいのに、最近はパパに信頼されているのね」
「僕、もう15だし、16になったら昔は成人扱いだったそうだよ。小さい子みたいに言わないでよ」
リューンは胸を張った。しばらく会わない間に弟はすっかり成長したようだ




