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山の端

作者: 大橋勇

          〇


 一歩一歩、息を切らしながら登る秋のこの山に私は魅せられたわけでもないのだが、登山道は私を快く迎えてくれている。木の根が這う森の中を登ると、茶畑の端に出る。オナモミなどのヒッツキムシと俗称される草草が種子を垂れながら、私の靴下やズボンを狙っているかのように、小径の脇に戯れている。これらヒッツキムシを足元に見ながら茶畑の脇を登っていると私の意識は遠い追憶の中にまどろんでいった。



          *


 小学校の裏の山は、私たち男の子にとって格好の遊び場だった。山と言っても、向こう側は田んぼであるし、こちら側は住宅地の低い山に過ぎなかった。それでも小学生の私たちにとってそこは魔法の国のように煌めく冒険の舞台だった。

 小学四年生当時、私とゲンとマックンは小学生三銃士と称してほとんど毎日つるんでいた。放課後になると、私は急いで家に帰り、ランドセルを置くと、母が用意してくれたおやつを頬張りながら、靴を履いて、「行ってきまーす」と言い捨てて自転車に跨って遊びに出かけた。

 狭い町内だから、友だちの家までほんの数分で行ける。私はゲンの家に行き、ゲンが自転車に跨ると、そのままマックンの家に直行する。マックンはすぐ玄関に出て来て、自転車に跨る。こうして自転車を馬に見立てた三銃士が揃う。

 遊びの計画などはない。とりあえず、集まって自転車を漕ぎながら決める。

「どこ行こうか?」

「リュウちゃんちに行こうか」

「リュウちゃんちか・・・あいつがドラクエ終わるのを待って、それからみんなでファミコンやるのか・・・僕は今日はそんな気分じゃないな」

「じゃあ、どこ行く?」

「山、探検がいい」

いつもそう言うのは私と決まっていたようだったと記憶している。私はファミコンも好きだったし、公園で鬼ごっこなども好きだったが、数ある遊びの中でも山探検が一番好きだった。ゲンもマックンも私がそう提案すると必ず賛成してくれた。私たちの住む住宅地は一丁目から五丁目まであり、その町内だけを学区とする小学校が北側にこんもりとした山を背にして私たちを見守るかのように位置を占めていた。学校のグラウンドには山が迫っていた。ネットの向こうは笹薮で、私たちが昼休みなどに球技をしていると、何度もその笹の中へボールを入れてしまって、その度にネットの破れ目からガサガサと笹をかき分けボールを取りに行くので、藪の中には人間の子供の作った獣道みたいな笹のトンネルが出来ていた。

 茶畑の脇を登って行くと、秋などは必ずヒッツキムシが靴下に付いて、降りてきた後に取るのがめんどくさかったが、私たちはそれを男の勲章みたいに思っていたかもしれない。山は持ち主がいるのだろうが、私たち小学生にはそんな大人の世界の法律臭いことはどうでもよかった。とにかく冒険ができれば満足だった。山の尾根の茶畑の境い目にある垣根を突き破って反対側に出ると、山の北側の西陽を遮って陰となった田んぼが広がる平野を見渡すことができた。心まで秋晴れにするような広い空が私たちを迎えてくれた。私たちは隣の学区である山の北側に降りて道路に出て、わざわざ山を廻りこんで、登り口に置いてある自転車に跨った。ちょうどその頃には日暮れになっていた。

「じゃあな」

「また明日」

そんな風にして、私たちの秋の一日が終わるのだった。



          〇


 私はようよう山の頂に着いた。西側を振り返ると、眼下には大きな川の土の体積によりできた私の故郷(ふるさと)の平野を見下ろすことができ、その中に小さな山が見える。私の今いる頂から見ると相当に低くほとんど木の生えた盛土と言えるかもしれない。それこそが私の子供の頃の冒険の舞台だったあの山だ。あの頃は満ち足りた完璧な幸福だった。あのミニチュアの世界がすべてだった。

 南を向けば、山々の連なりの向こうに青い太平洋の水平線が見える。ここからは遠く潮騒は聴こえないが、山の端の断崖には繰り返し波が打ちつけては砕けているのだろう。

                                     (了)


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