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第十二話 王と王妃の内情


「ひとまず、よくやったと言っておこうか」


 アルストールの自室、軟禁状態の彼の元へやってきた国王は、開口一番にこう言った。

 てっきり罵倒の嵐が降りそそぐかと思っていたアルストールは、真逆のそれに面食らう。


「ど、どういう事でしょうか、父上。よくやった、とは」

「お前が愚かな考えなしなのは、とうの昔に気づいていた。我が妻スヴェアノーラの父、アンセル侯爵がお前達を軟禁する以前からな」

「お、お祖父様は軟禁したのではなく、俺たちを助けるために……」

「どうでも良かろう、そんな戯言は」


 上部だけの言い訳を信じている時点で、お前は王には相応しくないと、国王は言い放つ。

 ならばどういう事なのかと、アルストールは父親の顔を睨めつけるように、その声を聞く。


「お前は幼少期から、妹と違って選民思想が強かったな。常に妹のシェリナースと比較されては些細なことで持て囃され、だんだんとお前は自分が妹より遥かに偉いのだと勘違いしていった。私やスヴェアノーラの嗜めにも耳を貸さず、宮廷雀共の都合の良い言葉ばかりを聞くようになった」


 その言葉にアルストールは思わずカッとなる。幼少期には父からも嗜められたが、年を経て言われなくなったそれに、理解してくれたと思っていたからこそだ。


「そんなの……当たり前のことじゃないですか! だって俺は生まれてからずっと王太子で、不出来なシェリナースよりずっと有能なんですから! どうして父上達はそれを理解してくれないんですか!」

「……はぁぁぁ」


 国王らしくない、やはり長大なため息。

 それに肩を揺らすアルストールへ、国王は実に疲れた様子で目線を送る。


「法令ひとつ知らないお前が、シェリナースより有能? 更に平然と浮気を行って私に嘘を吐き、騙して婚約を破棄させようとしたお前が、有能? 馬鹿も休み休み言え、この犯罪者の大馬鹿者が」

「な、そんなの、大したことじゃ……」

「罪を罪と思わぬその精神性が既に格下だと、何故わからん。やはり王太子を決めるのは生まれてすぐではなく、十を超えてからの方が良さそうだな。自身を過大評価するような馬鹿が王族に増えては困る」


 ボロクソにこき下ろしながら、国王はどこか据わった目でアルストールを睨みつける。

 明らかに敵意を滲ませたそれに、アルストールは怯んだ。


「お前がスヴェアノーラやシェリナースを見下しているのは知っていた。アンセル侯爵の奴がお前を籠絡し、王太子の教育係という立場を手に入れてからというもの、お前の男尊女卑の思想が酷くなると同時、座学の成績も何もかもが遅れていったのもな。王であるこの私ですら、あやつの言葉を無視できなかった。侯爵家は名家であり、その人脈という力は侮れなかったからだ」


 魔女がいるこの国で、王家を転覆させるのは武力では難しい。故に、魔女が干渉できない国政内部から策を巡らすのが、この大陸での常識だ。

 長く続いて功績を残してきた家ほど、その人脈は馬鹿にはならない。そして魔女と国の契約は、王家が別の一族になったとしても、問題なく履行される。


「だからこそ、我らはお前を踊らせることにした。お前が愚かに育てば育つほど、必ずボロを出して王家に泥を塗るであろうと予想しておったのだ。そしてアンセルは馬鹿な傀儡が欲しかったようだから、それはこちらにとっても都合がよかった。……奴にとっての最大の誤算は、お前が魔女を迫害して、それによって顧問魔女が出てきた事だろう。お陰で、謀略を仕掛けずとも奴の口を封じることができた」

「そんな……俺は、踊らされていたと? どうしてそんな……俺は貴方の実の息子なのに! 我が子を貶める王なんて、もし周囲が知ればどう思うか……」

「膿を吐き出す為なら多少の切り傷程度は我慢するものだ。その方が被害が少ない」


 もはや膿呼ばわりである。


「そしてお前が驕り高ぶり、ナーゼス……いや、魔女ヴェスティアへ嫌がらせをすればするほど、お前の格が落ちた。一方、シェリナースは幼少期からメキメキと頭角を伸ばし、今では文官に混じって仕事をこなし、彼らからも評価が高い。男のお前は性別の上に胡座を掻くろくでなしになり、女のシェリナースが王に相応しいとなれば、男尊主義であるアンセル侯爵の教育方針が間違っていたと言う事になる。それはすなわち、この国に蔓延っている男尊女卑思想への否定にもなる。王太子の教育を失敗するとは、そういうことだ」


 つまりは、アルストールは生贄だった、と、王は言っているのである。

 その為にあえて、ヴェスティアへの所業を知っていて放置し、それを庇う王妃を公衆の面前で罵倒した。女風情が、と、アンセルと同じことを叫んでいた。


 それを見ていた者は今夜、思った事だろう。


 ――女風情の警告に耳を貸さなかったから、こんな事態になったのだ、と。


「これで、アンセル侯爵の言う男尊至上主義が否定され、私は見る目のない愚王と呼ばれ、ろくでなしのお前は放逐される。実に良いことづくめだ」

「そ、そんなの……ま、間違っています……だって、だって王自らが、自身の顔に泥を塗ったって事ではありませんか……!?」

「そうだ。だがな、女系制度を取り入れる前段階には、必要なことだった。シェリナースが正式に女王となれば、アンセルと同じ思想を持つ者達は今後、表立って女風情と叫ぶ事はできなくなる。奴らの偏見というカードを一枚、破り捨てることが出来たのだ。性別によって、能力の可否を調べる事すらなく、判断すらされない現状が変わる。実に偉大な一歩だとは思わんかね」

「どうしてっ!? どうして父上はそこまで女を持ち上げるんですか!? だって男は偉大だって、誰もが言ってるじゃないですか!」


 それはアルストールに限らず、この国に蔓延っている常識だ。

 男は強くあるのが普通、泣き言を言わず、一家を支えてあくせく働き、不倫などされない甲斐性を持て。

 対して女はか弱く、主張をせず、一人で子供を産んで、家庭を守るように慎ましく影から生きて、男を立てろ。

 そんな差別意識へ、されど国王は首を振って、こう言った。


「私は、王にはふさわしくない。そういう性格なのだ」

「……は?」

「だが、こんな私がそれでも王を続けられ、賢王などと呼ばれているのは何故だと思う?」

「……え」

「今までの政策のすべては、妻であるスヴェアノーラが提唱した物だった。有事の際のあらゆる判断の全てが、彼女の意志の元に行なわれた。そう、私はあまりにも優柔不断で、意気地のない男でな。冷酷な指示も、切り捨てる判断も、その何もかもを、妻に示され頷いてきただけなのだ」


 思わずポカン、と、間の抜けた顔を晒してから、じわじわとした恐怖に真っ青になる。そんな馬鹿な、と声を大にして叫びたいのに、目の前の人物は一切の冗談を挟む事はなく、真剣だった。

 母親こそが、この国の支配者だった。アルストールにとって、それはあまりにも受け入れ難い現実であった。ずっと偉大だと思っていた人が実はハリボテで、その裏に今までずっと見下していた存在がいたのだから。

 その正体に、中身に、アルストールは幼子のように首を振った。


「そんな、ありえない……だって、だって母上は……そんな様子なんて、どこにもなかったじゃないですか……!」

「だから言っている、彼女は有能だ。私を立てる為だけに自身は影に付し、今の今まで尽くしてくれた。私以上に王に相応しい、まさに女王の風格を兼ね備える傑物だ、と。……だからこそ、私はずっと負い目を感じていた。女だからと発言権を与えられず、ただ茶を啜りながら花でも愛でていろと宣うこの国の有り様が、憎かった。彼女の手柄を全て横取りしていて、何が賢王だ、それなら愚王の方がよほどマシだ、と、常に思っていた……今この瞬間も、な」


 人には、生まれ持った性質や才覚がある。魔女の性質のように、人それぞれに向き不向きが存在する。

 性差や年齢など関係なく、王たるに相応しき者が座るべきなのが、玉座なのだ。

 だからこそ、相応しき者へ与えられるようにする第一歩の為に、国王は自身の顔に泥を塗りたくったのだ。


「私はな、血統だとか、男だ女だとか、そんな事を叫ぶ輩がこの世界で一番憎いのだ。外様の妻より無能な男が、神聖なる血統を証明する有能な人間だと? 母方の義父に子供の教育すら取り上げられた軟弱者が、誰よりも男らしくある傑物の王だと? 噴飯物だ、くだらない、周囲の見る目がなさすぎて絶望的な気分にすらなる。私を持ち上げる連中全てを縊り殺したい程にな」

 

 クツクツと肩を揺らして含み笑う。ドス黒い声色は、まさに煮え固まった絶望を表すかのように、口端から溢れてきていた。

 今まで、一度たりとて見たことのなかった父親の顔に、アルストールはもはや恐怖しか抱けなかった。

 そんな息子へ、父親は澱んだ眼差しで見つめてから、薄暗く笑った。


「我が国の初代王は、女王だった。何を隠そう、あの魔女ラライアこそが、この国の発祥だったのだよ。魔女が国政に関わる危険さを理解している彼女は、それを隠そうとしているがな。……だからこそ、金の瞳の子供を王家に入れているのだ、初代王の恩恵にあやかれる様に、始祖の女王たる彼女の子孫として。……それがいつの間にか、女王を認めない国となったわけだ。実に滑稽だとは思わんか?」


 もはやアルストールは返事すらできない。

 教えられた秘密に、おそらく墓まで持っていくべき荒唐無稽なその真実に、自身の価値観がガラガラと打ち崩れていく気分になっていた。

 ハリボテの全てが崩れて現れたのは、この歳まで打ち立ててきた、自尊心。

 未練がましく残り続けるそれは、自身の手で崩すか、それとも共に瓦解するまで縋り付く未来しか、存在しないだろう。


 国王は、穏やかに黒い笑みを浮かべたままに、再びこう言った。


「だからこそ、アルストール、よくやったな。これで心置きなく、王としてお前を捨てることができる。本当に、よくやってくれた」


 とうの昔に自分を切り捨てていた父親に、目の前が真っ暗になっていく。



 肉親への愛も情も何もなく、そこは既に仄暗い憎悪しか存在していなかったのだと、ようやく悟ったのだ……。



・・・



「終わりましたか」

「うむ」


 アルストールの部屋を出て自室に戻れば、そこにはお付きの者と共に、国王を出迎える王妃の姿があった。

 王が椅子に座れば、王妃もまた向かいに座る。

 侍女が淹れた茶を啜っていれば、王妃は美しい顔を伏せて言う。


「元々、婚約者への扱いを理由に廃嫡するつもりではありましたが、ラライア様へヴェスティアを保護するようお頼みしたのが切っ掛けで、ここまでスムーズな交代ができるとは思いもよりませんでしたね。これでアンセル侯爵に邪魔されることもなく、シェリナースへ王位を渡すことができます」

「……お前はどうなのだ、スヴェアノーラ。実の父親を貶めたことについて」

「私の心の内など、陛下は既にご存じでしょう?」


 こちらを見通す言葉に、国王は皮肉げに笑う。

 元々、アンセル侯爵とスヴェアノーラは不仲であった。家族としての関わりは薄く、互いにビジネス関係のような上部だけの家族ごっこを続けていたのは、知っている。

 そして王妃を輩出したアンセル家に人が集い、その発言力を高めていった事に、王妃自身が眉を顰めていたのも知っている。


「領民を重税で喘がせ、裏で奴隷業を営み、魔女の怒りを買った某国と繋がりがある男。そんな膿は早々に吐き出した方がよろしいでしょう。四大魔女は何が何でも、味方でいてもらわねばなりません」


 魔女を敵に回すことの恐ろしさは、戦時に隣で見ていた国王も、身を持って知っている。


 十年前、猫の魔女が姿を隠しながら他国を惑わして戦争を仕掛けて来たが、それをラライア単身で叩き潰すのに、数日もかからなかった。魔女が表立って出てこなかったが故に、対外的に王が向かう必要があったからこそ、兵を集めるのに数日も要した。つまり、叩き潰すのは一瞬だったのだ。

 猫の魔女を戦場へ釣り出し、他国へ魔女が関与した証明をした後、敵軍ともども嵐によって全てを吹き飛ばしたその威力は、味方であってさえ心胆を震え上がらせた。

 敵に回して良い存在ではなく、また手放すという選択肢もない。他国は、ラライアが去れば嬉々として攻め立ててくるだろうからだ。


「魔女を軽んじる愚か者が時折、現れるが……まったく、人間とは厄介な生き物だな」


 老齢ゆえに、十年前の戦争に参加しなかったアンセル侯爵は、ラライアの恐ろしさを身をもって知らないのだろう。ただの伝聞と直に見ることでは、抱く恐怖が天と地ほどに違う。

 だから恐怖が薄れれば、要らぬ欲が湧くのだ。


「ですが、その膿は丸ごと取り払われ、実に風通しが良くなりました。全ては陛下の功績にございます」


 素知らぬ顔で宣うそれに、王は渋面を作る。

 次いで、御付きの者達を下がらせる。

 本音で話したいというそれに、王妃は目を細めて、扇を閉じた。


「陛下、私は別に自らの功績を掲げたいと思った事はございません。貴族の女として、貴方を支えるべき役割を受け入れるのは、当然のこと。これは私の仕事ですから」

「私はそうは思わんよ。だからこそ、次代は違う道を用意したいと思っておるのだ。そしてお前の功績が後世に残るように、取り計らいたいのだ」

「では言わせてもらいます、陛下。貴方は私を過大評価しているようですが、私はただ選択を示しただけです。それを選び、そして矢面に立ったのは、まごう事なき貴方の功績です」

「自国の膿である我が子を切り捨てる事に、躊躇するような男が、か?」


 自嘲気味に低く笑うそれに、王妃はため息を吐きながら目を伏せる。

 そして目を開き、夫へと真正面から言った。


「陛下、私は貴方のそんな、優しいところに救われているのです。貴方が優しき道を模索するからこそ、私は躊躇なく厳しき道を指し示すことができるのです。折衷案を出すよう促すのは、いつだって貴方でした。私が女王であっても、貴方がいなければきっと、ただの暴王となっていた事でしょう」


 スヴェアノーラは、時として苛烈な選択を躊躇なく掲示する。しかし王がそれに足踏みし、違う道を模索しようとする姿に、彼女は初めて中庸の道を見出そうと思うのだ。

 この国の真なる王とはすなわち、王と王妃、二人のことを指すのだろうと、スヴェアノーラは考えている。


「私たちは互いがいなければ、良き道を歩めません。だからこそ、我々は互いを大切にせねばなりません」

「……では、私が執筆した、お前の功績を残す自著伝を出版する件については」

「それは嫌です」


 にべもなくバッサリ拒否する。

 ガックリと項垂れる王へ、王妃は溜息を吐いてから、次いで軽く微笑む。


「国内を混乱させるような行いは、謹んでくださいませ。もっと後年、シェリナースが女王として安定してからです。まあ、私の本を出版するなど凄まじく拒否したいのですが」


 それでも妥協はしてくれているのである。彼女なりの優しさであろう。

 両者は見つめ合ってから、互いに笑い出す。どちらも、変なところで頑固なのは似た者同士だ。


 ひとしきり笑ってから、次いで向き直りつつ、真剣な顔になる。


「して、スヴェアノーラ。アルストールの処遇についてだが。どう思う?」


 愚息の件について、国王は非常に渋い思いをしてきた。王妃自身が切り捨てる事を提案し、それに頷いた以上、こうなる事は分かりきっていた。

 更生の余地を、王妃自身が叱咤という手を差し伸べることで試したが、その全ては空振りに終わった。未だにお世辞を真に受けるレベルのアホでは、気づくことすらなかったようだ。

 だからこれは、とうの昔に決まりきっていた内容だ。


「市井に出したとはいえ、その血は確かなもの。後顧の憂いを断つためにも出奔させて後に、処分することが順当と判断します。正当な王家の血を引くと名乗る輩が、どこかの貴族の神輿に担ぎ上げられて、私たちの死後に現れないとも限らないのですから。不穏分子の種は、撒かれる前に除去すべきです」


 ひどく打算的で、感情が見えないそれ。

 その顔は妻としてではなく、国の為政者としての冷徹な顔だった。

 それに、国王はやはり諦観の混じった敗北感を抱くのだ。


(ああ、敵わぬな、やはり)


 我が子を殺すことを厭う自分では、決して至れぬ高みだと、どこか憧憬すら浮かぶ思いで息を吐く。

 そして、王は未練がましい己を自覚しながらも、自身の心を素直に吐露する。事前の取り決めすら無視するそれに、自身で嫌悪感を抱きながら。


「だが、やはり殺してしまうのには躊躇する。我が父祖の血肉を受け継ぐ者が、王家の正当な血筋が絶えて後に、立ち上がる可能性もまたあるのだ。我が王家は魔女の、そして初代王の血を色濃く受け継ぐ一族。その血を絶やすような事があってはならない」


 先ほどの血統主義を否定した口で、その血統を利用する。どの口が、と自身で思いながらも、父親としての情によって、その甘っちょろい言葉を吐く。

 普通ならば一顧だにされる事すらなく、笑い伏せられるような内容。

 だが王妃は頷いて、しばしの後に、言った。


「では、ラライア様の手によってあの子の外見を変えて、記憶を消しましょう。全ての記憶を消して後、隣国の信頼できる修道院へ匿ってもらえるように手配を。その後、基本的な再教育を終えてから市井へ出せば、問題はないかと」


 記憶の消失とは、すなわち現在のアルストールという人間、その人格の死に等しい。顧問魔女の強力な魔法ならば、その記憶が蘇る事は二度とないだろう。

 殺すことに等しい言葉だったが、肉体ごと滅びるよりかは、遥かにマシではあろう。


「あとは……そうですね、王家の血筋だと顧問魔女でなければわからない印を、罪人の印として血に仕込んでもらいましょう。直系の子孫に継がれるような、魔法の印を。それらラライア様の仕事は、将来的にヴェスティアが継いでくれるでしょうから、判別にも問題はないかと」

 

 必要でなければ、彼の血は市井で永遠に眠り続ける。後に王家の血を引くと名乗る者が現れたとしても、その判別は容易となり、例え本当にアルストールの子孫であったとしても、国家転覆を図るつもりならそれが罪人の印だと主張できる。

 そしてそれを知るのは、魔女とここにいる二人だけ。罪人の印だと証明できるのは、二人の死後には顧問魔女だけとなる。

 後継者の印か、それとも罪人の印か、その判断は、その時代の魔女に任せる事になるだろう。


 そう述べる言葉に、王はやはり苦笑して頷く。

 嗚呼、まさに頭の上がらない相手だと、改めてそう思うのである。

 だからか、王は思わず、こう告げていた。


「お前は本当に頼りになる、スヴェアノーラ。我が生涯の伴侶は、この世界ではお前しかいないだろうな」


 そんな甘い言葉に、王妃は悠然と笑みを広げて、こう答える。


「ええ、もちろん。もしアルストールのように浮気などしたら、ヒールの踵で爪先を踏み潰しますから。こう見えて、私はとっても嫉妬深いんですからね、愛しきアルヴィオル様」


 そうお茶目に微笑む姿に、王は愉快げに肩を揺らして笑う。


 頭の上がらない要因の一つが惚れた弱みである事は、きっと相手も理解しているだろうな、と、国王は胸中で呟くのである。



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