第6話
「マサツカ、待たせたな。」
俺が傭兵登録を済ませ、近くの椅子に座ってしばらく待っていると、ネイアさんが奥の扉からでてきた。
「お疲れ様でした。さっき登録が終わったばかりで、特に待ってないですよ。」
「そうか、ならばよいが。さて、話すことは多いし、明日から私はすぐにここを発たねばならない。今日は宿をとって、そこでゆっくり話そう。」
ほうほう、明日からネイアさんはこの街を旅立つ、と。んん!ということは・・・
「あの、すみません。ネイアさんが明日から旅立つのなら、俺はどうなるのでしょうか。」
「そのことについても話がある。まずは、そうだな、宿をとるのはもちろんだが、そなたの服もいくつか用意しておこう。」
言われてみれば、俺は高校の制服のままだった。昨日から着替えていないし、どうしようかと思っていたところだ。着替えないと、クサクナッチャウ。
よくよく周りを見回してみれば、周りから変な注目を浴びている気がする。俺が来ている制服、この世界には無さそうだしな。
「近くに安くていい服を売る店がある。あと、武器はその鎌でいいとして、防具は、初めは軽いレザーのアーマーがいいだろう。マントもあるしな。色々用意するものがある。ついてくるといい。」
「あの、それはありがたいのですが、お金は・・・」
「気にするな。どうしてもというのなら、そなたが稼いでからでよい。とにかく、行くぞ。」
服と防具の代金も、ネイアさんが出してくれることになった。この世界に来てから、ネイアさんの世話になりっぱなしだ。いつか恩返しをしないと。
ネイアさんと一緒に行った店で、この世界の服と防具、そして荷物を入れるカバンを購入した。風とおしがよく、軽い。レザーアーマーも軽くて動きやすいものだった。元々着ていた服は、いつか帰るときのために、売らずにカバンに入れて保管しておくことにした。このカバンも、肩からかけるレザーのもので、元々着ていた服を入れても、まだ余裕があった。
「鎌に、マントに、レザーアーマー。鎌はあまり見かけないが、傭兵らしくなったじゃないか。似合っているぞ。」
「それはありがたいのですが、全部でいくらしたんですか。」
「気にしなくていいさ。言っただろう、安いと。始めはこれくらいでいいだろう。」
ここまでしてもらって、なんとお礼をしたらいいのやら。よし、大金を稼いで、必ず代金を返そう。そのためには、まずは依頼を受けまくって、ランクをあげていこう。元の世界に帰るのは勿論だが、それまでにこの恩はかえさせてもらおう。
「では、これから宿に向かおう。この街に来たらいつも利用する宿がある。積もる話もある。そこでじっくり話そう。」
「ありがとうございます。この恩は一生忘れません。」
「大袈裟すぎるぞ。大したことはないさ。」
ネイアさんはそう言うが、決して大袈裟ではなく俺の本心だ。そう思いながら、ネイアさんの行きつけの宿へ連れて行ってもらった。
ネイアさんの行きつけの宿は、ログハウスのような、木材をうまく利用したきれいで大きな建物だった。
さすがは水と緑のまちといったところか。なんというか、落ち着くな。
「この宿、とてもいいですね。」
「そうだろう。ここはこの街でも人気の宿でな。部屋数はたくさんあるが、早くしないと満室になってしまう。この時間なら、まだ余裕があるはずだ。」
ネイアさんの言ったとおり、まだ部屋に余裕があったのか、受付で手続きを済ませると、すぐに2階の部屋に通された。
部屋は、テーブル1つに椅子とベッドが2つずつの、小さいがよく掃除された、綺麗な部屋だった。俺とネイアさんは椅子に座り、一息ついた後に今後のことについて話し合うことにした。
「さて、先程のギルドの話と今後のことだったな。先程ギルド長から、ここから南にあるザレイア砂漠での、行方不明事件の原因究明と行方不明者の捜索、救助を依頼された。よって、私は早速明朝からザレイア砂漠へ向かうことになる。いつこの街に帰って来れるかもわからない。」
「それはまた、急ですね。」
「そう、だな。元々この街のギルド長とは知らない仲ではなくてな。以前からここのギルドへ来るよう呼ばれていて、今回この街へ来たのだ。来て早々、砂漠へ行って事件を解決してほしい、と。マサツカの言う通り、急なことだ。ゆっくり観光もできないな。」
ネイアさんは、諦めたような、それでいてどこか楽しそうな口調で話していた。なるほど、ここへ来る道中で、俺は運よく助けだされたわけだ。となれば、この街のギルド長にも感謝しないとな。間接的になるが、俺は救われたことになる。
「と、いうわけで、せっかく知り合えたが今日で一旦お別れだ。ザレイア砂漠は過酷な環境でな。昼は熱く、夜は寒い。おまけに、時折激しい砂嵐が吹き荒れる。そんなところにマサツカを連れていくわけにはいかない。」
「あの、それはわかりました。残念ですが、俺もまだまだ弱い。無理を言ってついて行く気もありません。明日からのことは、自分でなんとかします。それよりも、この件は、ネイアさんでなければいけないのですか?」
正直なところ、明日からのことなんて何も考えられていない。金もない、特技もない、この世界での生き方なんて何もわからない。昨日まで普通に高校に通っていた俺がこの世界で生きて行くなんて、見当もつかない。所詮俺は運が良かっただけのおぼっちゃんなわけだ。
だが、これ以上迷惑をかけたくないという小さな俺のプライドが、なんとかします、と言わせた。それに、今回の件、なぜネイアさんでないといけないのか、気になった。この街の騎士団は強いはず。その騎士団が動けば済む話ではないのだろうか。
「実のところ、必ずしも私である必要はない。いや、なかった。元々この街の騎士団も強いし、他の傭兵にも強い者は多い。その者達が動けばそれで済む話だったはずなのだ。訳を知りたいなら・・・マサツカ、そなたは口は堅いか?この件は広めたくないのだ。」
これまでの、どこか優しさを含んだ口調とは違う。厳しく、心せよ!と言われているようだ。
「口は堅いです。が、そんなに重要なことなのですか?」
一瞬返答に遅れたが、何とかその言葉を吐き出した。
「そうだ。この件は他言無用だ。それが守れないなら、言うことはできない。」
真剣な眼差しを俺に向けながら、ネイアさんは言った。ここで聴いたところで、誰かに言うことはないだろうし、言うつもりもない。口は堅い。そして、好奇心が勝った。俺は好奇心を抑えきれずに、訊いた。
「あの大鎌を軽々と使いこなす程強いネイアさんでなければいけない依頼、とても気になります。口外しませんので、おしえてほしいです。」
「わかった。」
そして、一呼吸おいたネイアさんから発せられたのは、
「行方不明になっている者の中に、この国の王族がいたのだ。それも、腕利きの近衛兵達とともに、だ。こうなれば、私が行くしかない、ということだ。」
「っ・・・」
思わず息をのんだ。言葉が出てこない。え、俺ヤヴァイこと聴いちゃった感じ?
「この件は、当然住人達には知られていない。知っているのは、王族と一部の貴族、ギルド長、そして、我らだけだ。いいな、決して漏らすな。この国が混乱に陥る。」
「わ、わかりました。」
とんでもないことを聴いたものだ。やっぱり、この世界は恐ろしいな。いや、常に危険があるわけではないんだけど、平和な日本で暮らしていた俺には刺激が強いな。
「よし、ならばよい。本来なら、もう少しそなたを鍛えておきたかったのだが、すまないな。明日からそなたは一人旅となるし、私もいつ戻れるかわからない。この街でしばらく鍛えてもいいし、他の街に行って情報を集めてみるのもいいだろう。これは、少ないが餞別だ。受け取ってほしい。」
と、渡された袋には、金貨が20枚入っていた。
「ちょ、ネイアさん、こんなにもらえませんよ!」
「遠慮するな。言っただろ、私からの餞別だ。これからの宿代や生活費のこともある。それを考えれば、寧ろ少ないさ。」
「そう言われましても・・・」
「わかった。なら、出世払いというのでどうだ?何、マサツカ、そなたのことだ、すぐに大金を稼げるようになるさ。」
おいおい、ネイアさん、太っ腹すぎるだろ。まだ会って2日と経っていない。そんな俺にどうしてここまで気にかけてくれるんだ?
「将来有望な若者の為さ。マサツカ、そなたはこの先、強い男になる。今はまだ武器の扱いも魔術もまだまだでも、そのうち私を超える。そんなそなたを、少し応援したくなっただけさ。」
おう、俺の考えが読まれた?何、サイキッカーなの?
「ハハハ。そなたはわかりやすいな。顔に書いてあるぞ。『なんでここまで?』とな。」
「ネイアさん、あなたにはかないませんよ。」
「いや、そのうち私より強くなる。必ず、な。期待しているぞ。」
ネイアさんからの大いなる期待というプレッシャーをうけ、俺は今後に考えを巡らせた。明日からは一人で、この世界を、強く生き抜く。いや、生きるだけじゃない。ネイアさんに恩を返し、そして久中さんを探しだして一緒に元の世界に帰らないと。
ネイアさんから、明日からの詳細をきいて、俺は決意を新たに眠りについた。
「では、私はこれから砂漠へ向かう。もしまた会えたなら、その時はまた美味いものを食べにいこう。」
「ええ、楽しみにしています。ネイアさんも気をつけてください。また会えると信じています。」
「私もだ。では、しばしの別れだ。」
翌日、まばゆい日の出とともにネイアさんはザレイア砂漠へと旅立った。次にネイアさんに会えるのはいつになるかわからないが、それまでに少しでも稼いで恩返しができるようにしておこう。
これから、俺一人の旅となる。いきなり異世界へ迷い込み、魔物に殺されそうになり、しかし運よく助けられ、ここまで来た。本当にネイアさんには感謝だ。




