第59話
「ダリオは元気にしてたか?」
「はい。とても快活な方で、私にスパゲッティをご馳走してくれました。」
「やつのスパゲッティといやぁ、トマトとバジルのだろう?」
「そうですそうです!よくわかりましたね!」
「ガハハハハハッ!あれは腕っぷしだけが取り柄のあいつに最初に教えたメニューだ。そうか、フィネアでもしっかりやっているようだな。」
「あの時のスパゲッティは本当に美味しかったです。」
「それは何よりだ。それで、わざわざフィネアからここまで来たんだ。ダリオのことを伝えにきたわけじゃないだろう?」
「もちろん、挨拶もしたいと思っています。それに加えて、実は人を探していまして。もしご存じであればおしえてもらいたいのです。」
俺より小柄でありながらも風格を漂わせるラーグさんであったが、話してみるとダリオさんのようにきさくでフレンドリーな人だったのは一安心。前にどこぞの某学園長と対面した時は酷かったからな。そうならなくてよかった。まあ、ダリオさんの師匠でもあるし、そんな心配はしなくてもよかったわけだ。
「人探しか。俺の専門は料理だから力になれるかわからんが、それでもいいか?」
「もちろんです。お手数ですが、聴いてもらえますか。」
「ああ、聴こう。」
無事に話をきいてくれることになったので、ラーグさんに久中さんの特徴を伝えていく。と言っても、黒髪、女性、俺と同年代であること、位であった。
「あまり、いやほとんど見かけないな。この店には多種多様な人種が来るが、ここ最近では見た事がない。マサツカとリンカ、今俺の目の前にいる二人をのぞいてな。」
「そうでしたか。」
「そう気を落とすな。まだ終わりじゃない。見かけないということは、それはかなり珍しいということにもなる。おそらくだが、マサツカとリンカの髪も黒い。同じ人種なのだろうとは想像できる。ここまでは大丈夫か。」
「はい、大丈夫です。」
「よし。それで、確かリンカの故郷はラルダだったな。リンカは知っているかもしれないが、このジーン国は勇者が誕生した国と言われている。その勇者の髪の色は黒色だったと伝えられている。」
「そうですね。ラルダでそのようにおしえてもらいました。」
リンカさんが神妙な面持ちで返答した。
「それで、その黒髪の勇者の足跡には様々な説があって、どれが本当なのかは正直わからんが、こういう話もある。ジーン国で生まれ、当時世界を侵略せんと戦火を広げていた魔王、今は魔導国ベルゴアと言われているその国の王を倒すために旅を続けた。ついに魔王を倒した勇者は、その後世界の平和のために力をつくし、天寿を全うした。まあ、おとぎ話としてはよくあるんだが、その旅の途中でラルダにも立ち寄っているらしい。他にも色んな伝承はあるが、黒い髪の人種については、このジーン国と、魔導国ベルゴアにヒントはありそうだ。もっとも、そのあたりはなんとなく予想はしているんじゃなか?」
「はい。なんとなくですが。」
「そうだろうな。で、これは過去の話だから、今の話じゃない。だから、探している人物が今どこにいるのか、という話じゃない。しかし、その珍しい特徴は過去の伝承とは引き離せないと俺は思うわけだ。闇雲に探しまわるより、その勇者の足跡を辿ってみると、何かわかるかもしれないんじゃないか。」
「確かに、今までは旅先でただ聞きまわるだけでした。可能でしたら、勇者の足跡を辿るにあたって、何かヒントがあればおしえてもらえますか?」
「ヒントになるかわからんが、この街の迷宮だった場所はどうだ?かつて勇者が修行に使ったといわれている迷宮だ。今は迷宮としての機能は無く観光地になっているが、何かあるかもな。リゾートエリアにあるし、わかりやすい看板もあるから道には迷わないだろう。悪いが、俺が伝えられるのはこんなところだ。気休めにもなりはしないが、若ぇの、気張れよ。」
「とんでもありません。疲れているところ、本当にありがとうございました。明日、早速行きます。」
「おうよ。ここでよければまた食いに来い。聞いたぞ、リンカはうちの料理、たらふく食ったそうじゃないか。」
「えへへ。美味しかったです。次もたくさん食べますね。」
ラーグさんとの話を終えて、店を出る。確定情報はなかったが、それでも次の行き先の指標ができたことは収穫かもしれない。にしても、太古の勇者、か。時間軸が大きく違うし、手がかりとしては遠すぎるとは思う。だが、確率は低めだとは今も思うが他に手がかりが無い以上その勇者の足跡を辿ってみるしかない。
まあ、そううまく事が運ぶとは思っていなかったが、もしかしたら、と密かに期待していたのかもしれない。そんな中で、やはり違うというその事実を突きつけられると、メンタルに少なからずダメージはある。
「マサツカさん、大丈夫ですか?」
「なあ、リンカさん。例えば、だ。」
と、リンカさんの質問には答えずにそう前置きしてから、意地が悪いと自覚しつつもリンカさんに尋ねる。
「家族でも友人でも知人でもいい。その人と旅をしていたとして、何らかの事情があり、故郷のラルダに帰る方法がわからなくなった。共に旅をしていた人も行方不明。そんな状況下になった時、リンカさんはどう思う?どう動く?」
「ん、んー・・・おそらく、それはおそらく、今のマサツカさんの状況と同じですね。」
「ああ、そう思ってくれて構わない。」
「私ならどう思うか・・・・・・やっぱりラルダには帰りたいし、一緒に旅をしていた人も見つけたいです。自分の故郷の場に、自分がもういることができないと考えるのも寂しいし、一緒に旅をした人と離れ離れのままなのも困ります。なので、その為に手がかり探します。」
「もしその手がかりが見つからなかったら?」
「見つかるまで、その人も見つけて一緒にラルダに帰るまで、諦めません!と今は思いますが、もしかしたら挫けそうになることもあるかもしれません。ですが、挫けたり落ち込んだら、回復して手がかり探し続けます。」
「だな。そうだよな。よし、じゃあ、鍛錬するか。」
「え、今からですか!?」
「冗談だ。ただ、明日からは再開するぞ。飛行魔術の練度を上げたり、あの魔術も徐々にだがやっていこうか。」
「あ、あのものすごい魔術ですね!それなら今からでも!」
「駄目だ。宿に戻るぞ。」
「えー。ぶーぶー。」
確定的な手がかりは見つからず、まだ旅は続きそうだが、何とかしていくしかないだろう。少し、ほんの少しだけ弱った心を立て直し、宿へ戻る。宿の部屋に戻ったら、明日からの道筋を考えながら休もう。あと、寝る前にコーヒーを飲んでおきたい。今日街をうろうろしている時に買った、焙煎済のコーヒー豆がたくさんあるから、魔術で粉々にしてお湯を使う。魔術が大活躍だな。この世界では麻の布をフィルター代わりにしているようで、その方法に則って作ってみると、麻の香りが移ると思ったが意外にもそんなことはなく、美味しく飲むことができた。
俺は睡眠を必要としないので、しばらくカフェタイムを楽しもう。ふとリンカさんに目を向けると、既に眠っていた。いつの間に寝たのかと思ったが、よく考えるとここ最近野宿が続いていたから、よっぽど疲れていたのだろう。そう思えば、かなり無理をさせたのかもしれない。この際だ、睡眠は大切だからよく眠れていればそれでいい。さて、エルガー達がいなくなり、久しぶりに静かになった。この静けさにもう少し身を委ねるとしよう。




