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第58話


 まだ食べる!まだいける!とごねるリンカさんをひっぱり、店を出て宿を探しに行く。街歩いていると、風情があって良さげな宿がいくつも目に入った。その中から、雰囲気の柔らかそうな木をベースにした建物の宿に決めた。値段はそこそこ高かったが、長旅の休息も兼ねて今回はこれ位の贅沢ならバチはあたらないだろう、多分。それに、この宿には大浴場がある。これは見逃せない。というわけで宿の部屋で一息ついているところで、


「まだ食べたかったです。」


 残念神子よ、まだ言うか。


「流石に食いすぎだ、諦めろ。あと、宿も確保しないと野宿になるぞ。」


「せっかくサナカに来たのに、野宿は勘弁です。」


「だよな。さあ、宿は確保したから、次は情報集めを兼ねて散策でもしよう。食の都、と話には聴いていたが、俺はこのサナカのことをほとんど知らん。が、なんだか楽しそうな街じゃないか。」


 街に入って目に映る、賑やかで清潔感があり、何より食欲を刺激する香りがいたるところにある。そんなサナカに対して、素直に楽しそうという言葉が口をついた。


「散策、久しぶりにのんびりできていいですね。サナカは食べ物もおいしいですが、リゾートもあって、海や山といった自然も多く、見どころがたくさんあります。人が集まって情報が多いといえば、お酒があるところや傭兵ギルドでしょうか。意外とリゾートエリアにも人が多いから、何かあるかもしれませんね。まずはどこに行きましょうか?」


「なるほど。さっきの店の閉店までまだ時間はあるから、リゾートエリアはどうだ?ここらへんから遠いか?」


「私も以前から色々と話には聞いていましたが、土地勘は無いに等しいので、そういえば遠いかどうかはわからないです。ギルドなら詳しいと思いますので、戻りませんか?」


「そうか。なら、もう一度傭兵ギルドに戻ろう。」


 人が賑わう道をかき分け傭兵ギルドへ戻って調べると、リゾートエリアはサナカの西端にあるとわかった。実はこのサナカ、ジーン国の王都でもあるようで、かなり広い。リゾートエリアまでは、飛べば早いがこんな街中で飛べるはずもなく。いや、姿を消しながら飛べばいけるのか?仮に俺ができたとしても、リンカさんはどうだ?今からどこかで試して・・・


「マサツカさん、またボーッとしてますよ。どうしましたか?」


「ん?ああ、考え事だ。リゾートエリアは遠いから、このギルドや露店、酒場をあたるとしようか。」


「それがいいですね。夜はあのお店にも行きますし、できるところからやっていきましょう!」


 姿を消してリゾートエリアへ飛んでいく。これは一旦置いておこう。ひとまずギルド、露店、酒場等を巡りつつ、情報集めをすることにした。にしても、今の俺はどうしたんだ?ここにきてから、妙に気が逸っている。もしかしたら、もうすぐ手がかりが見つかるかもしれないからか?それか、その手がかりも掴めないかもしれないから、早くより多くを欲する焦りか?


 思考がまとまらない状態で街中で聞きこみをしてみるが、そうそう手がかりがあるわけもなかった。黒髪で俺と同年代の女性、で探しているが、そもそもこの世界では黒髪が珍しい。ということは、俺やリンカさんもかなり珍しいというわけだ。そんな俺達なので、様々な人種がいるこの街でも一際珍しがられたのかもしれない。ああ、俺達のことは今はいい。とにかく、久中さんについてはやはり何もヒットしない。





「心の疲れにはコーヒーが染み渡る。美味いな。」


「同感です。いい香り。」


 本当に何も見つからないから、コーヒーブレイク。モノトーンを基調としたこのカフェのような店で休憩することにした。意外だが、リンカさんもコーヒーを、しかもブラックで飲めるようだ。


「故郷のラルダでは、元々苦みのある緑色のお茶が多く飲まれてたんですが、少しずつ色んな飲み物、例えば赤や茶色のお茶、このコーヒーも広がっていきました。私は色んなお茶も好きですし、コーヒーもよく飲みます。お茶やコーヒーって、夕陽を見ながら飲むのが格別で、なんだかホッと落ち着くんですよ。」


「ああ、なんだかわかる気がする。落ち着くな。」


 そう。もう日が沈もうとしている。橙に輝いていた太陽が、薄紫のグラデーションを纏いながら地平線に旅立つかのような情景は、なんとも言えない心情にさせてくれる。


「そういえば、ラルダに住んでいる人は、リンカさんを含めて黒髪の人が多かったと思うが、理由は訊いても?」


「んー、私も詳しくないんですが、大昔に勇者と言われていた人にあやかったという言い伝えは聞いたことがあります。その時の勇者と言われた人の髪の色は黒色だったから、黒色に似せようとしていたら、そのまま黒髪の人が増えたとか。ただ、どうやったかという方法までは伝わっていないので、ラルダは元から黒い髪の人種というんでしょうか、そういう人達が集まった場所だったんじゃないかな、と思います。」


 なるほど。黒い髪の人種が集まった村だった、という説もあるわけだ。案外ラルダに何かあるのかも。と考えたが、ラルダを旅立つ前にも手がかり集めはしたし、あの炎の巨人も知らないと言っていたから、久中さんに繋がる手がかりはラルダにはなかったわけだ。ヒントと言えば、黒い髪の人種、一族がその大昔からいた、ということ位か。

 もしかしたら、俺やリンカさんと同じように、なんらかの方法で別の世界からこの世界に来た人が先祖、ということもあるのかもしれないな。もしくは、黒い髪の人種の中から勇者が現れたということも有り得る。



 考えを巡らせつつ、夕陽が見えなくなった後もしばらくの間休憩し、その後は仕事を終えた人々が集まる活気づいた酒場で聞きこみをしたが、やはり空振りだった。まあ、情報はなかったが、サナカを散策できていい気分転換になったと考えよう。普段は残念神子っぷりが目立つリンカさんだが、初対面でも物怖じせずに聞きこみができるリンカさんはありがたく、結果は空振りだったとはいえサクサク進んだ。


 そんなこんなで、約束の時間が近づいたので再びあの店に戻る。店の明かりがついているものの、客の姿はなく、昼間の喧騒が嘘のようになくなり静けさを取り戻していた。


 コンコン


 控えめにドアをノックすると、中から昼間に対応してくれた豹の獣人が顔を出す。


「お待ちしておりました。中へどうぞ。」


「ありがとうございます。失礼します。」


 そう言って俺達は中に入る。客がいない店内は広々としており、他の店員が後片付けをしているところであった。豹の獣人は、俺達を奥の部屋に案内し、


「料理長が参りますので、おかけください。」


 と言い残して立ち去った。落ち着いた部屋で物も少なく、シンプルで居心地のいい部屋だった。座るように言われたソファーに二人で座ってまっていると、数分で、


「待たせたな。入るぞ。」


 年季の入った渋い声で入ってきたのは、筋骨隆々のドワーフの男だった。ドワーフの特性上、身長は俺達よりも低いが、パッと見かなりイカツイと感じる。いやいや、それよりも、


「仕事終わりに失礼します。マサツカといいます。」


「マサツカさんの弟子のリンカです。」


 無理言って時間を作ってもらったんだ。まずは挨拶だ。


「えらい礼儀正しいじゃねぇか。面食らっちまうじゃねぇか。俺はラーグっていうもんだ。」


 そう言ってニカッと笑う姿は、イカツイ中にもユーモラスを兼ね備えた、いわゆるできる人の風格を漂わせるものだった。


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