第57話
おお。なんとまあ、これは地が震えるような大賑わい。
ギルドの隣の飲食店。表の看板は巨大な盾と剣を模しており、中は老若男女、種族問わず様々な人で溢れかえっていた。
その賑やかな会話と共に香る、食欲と活力を増幅させる料理の香りを堪能しながら、空いている席を探す。広い店内、人をかき分けかき分けてて進むと、奥より少し手前に空いている席があったので、その席に座った。席をとれて一安心というところで、リンカさんがよく通る声で店員を呼び止める。
「すみませーん!」
「はーい!後ほど参りますのでお待ちくださーい!」
この大盛況、当然ながら店員達も大忙しだ。
待っている間、テーブルの上にあったメニューを見る。ステーキ、ハンバーグ、スパデッテイのトマトソースやバジルソース、シーフードなんかもある。洋風のメニューに加え、お茶づけのような物やうどん、そばのような麺類、更にはカレーライスだろうか、元の世界でいうところの多国籍、バラエティに富んだメニューが目についた。更には、味噌汁と終われるスープ料理。一瞬、元の世界に帰ってきたのかと錯覚するほどだった。
「マサツカさん、お肉料理もいいですし、このミソスープとライスのセットも絶品ですよ。あと、コーンやポテトのスープも美味しいですよ。それから・・・」
と、次々にメニューを見て話し出すリンカさん。まるでガイドのようだ。もしや、過去に来たことがあるのかもしれない。が、今は触れずにおいておこう。
とりあえず、俺はオススメというミソスープとライスのセットに、ステーキを注文することにした。そして待つこと数分。高級そうなベストを身に付けた豹の男性の獣人が来てくれた。
「お待たせしました。二名様ですね。まずはお水をどうぞ。ご注文はお決まりですか?」
「はい。ミソスープとライスのセットを二つ、ステーキを二つ、ミニサイズのハンバーグを一つ、コーンスープとトマトサラダのセットを一つ、ポテトスープを一つ、バジルとトマトソースのスパゲッティを一つ。一旦それでお願いします。」
「あ、あの。これ全部大丈夫ですか?」
「はい。お金はちゃんと持っているので大丈夫ですよ。」
「あー、ではなくてですね、量が心配でして。」
と、心配する店員。それはそうだ。俺達二人が、今注文した料理を食べきるのはかなりハードルが高く見えるだろう。しかしそれに対して、
「大丈夫ですよ。ひとまず様子見ですし、足りなかったらシーフードのフライセットも食べようかと思います。」
と、なんとも的外れな返答。やはり残念な天然か。
「え、えっとですね・・・」
「店員さん、この人は常人の五倍は食べるから大丈夫です。ところで、この店にはダリオさんの師匠という方は働いていますか?」
「ダリオさん?の師匠?失礼ですがお探しの人のお名前はご存知ですか?」
「あー、そういえば聞いてませんでしたね。」
どうやら、豹の獣人の店員は何のことかわからないようだった。たしか、この世界に辿り着いてすぐの頃、フィネアの街でダリオさんの名前を出せばわかるとおしえてもらった気がしたが。ダリオさんがいた時から店員が入れ替わったり、そもそも俺達が店を間違えたのかもしれないな。
「さようですか。お節介でなければ、厨房に行って確認しましょうか?」
「ありがたいです。お手数ですがお願いします。」
「かしこまりました。」
そう言ってから足早に厨房にかけていった。この混雑で忙しいだろうに、手間をかけてしまったな。
で、料理を待ちきれずにあわや先に机を齧るかのように目をギラギラさせたリンカさんを横目に更に待つと、料理が次々に運ばれてきた。運ばれるやいなや、肉を、スープを、パスタを口に入れ、なんとも幸せそうな表情で食べている。ご機嫌で何より。俺も自分の分を一口。うん、シンプルに美味い。元の世界の味に似ている部分もあり、懐かしさによる補正もあるだろうが、それにしても美味い。ミソスープや米も、まるで故郷の味だ。のんびり、とはいかない旅の途中ではあるが、なんともいえないこの心地よさにしばし身を委ねるのもいいだろう。
「すみませーん、シーフードのフライセットを一つ、チキンスープを一つ、グリーンサラダを一つ、追加でお願いします!」
・・・・・・まぁ、こうなるだろうなとは思った。おい、追加するのはシーフードのフライセットだけじゃなかったのか?なんか増えてるぞ。
「マサツカさんも食べましょう?」
「ああ。」
仕方ない、道中かなり過酷だったんだ。ご褒美ではないが、好きにしたらいい。それはそうと、気になるのは・・・
「お客様。先程の件ですが、おそらく料理長です。ダリオの知り合いなら、仕事が終わった後なら会えるということでした。閉店後になりますが、会われますか?」
と、気になっていたところにさっきの豹の獣人の店員が来てくれて返事をくれた。ありがたい、勿論会うことにする。
「お忙しいところ、お手数かけましてありがとうございます。ぜひお願いします。」
「かしこまりました。そのように伝えます。では、閉店後にもう一度当店におこしください。」
そう言うと、さっと踵を返して去っていく。それと入れ違いに、今度は肌が黒めの、ダークエルフというのだろうか。その店員さんがリンカさんの料理を持ってきた。
「マサツカさんもどうぞ食べてくださいね。野菜が足りてないんじゃないですか?」
「やかましい。」
相変わらずこのマイペース。前から思っていたが、リンカさんは戦闘中とそうでない時の差が激しい。まるで多重人格?いやそこまでではないが、違いが大きく見える。少し、いや過分に変なところが多いが、一緒に旅をするうえで特に支障はないから別にいい筈だ。むしろ、戦いのセンスはよく、上達も早い。良い面もたくさん?ある。ならば気にすることもない。
この世界には様々な人種がいる。当然性格も千差万別。だから色んな個性がある。ここを見渡しても、それがわかる。当然リンカさんのような人がいても何ら不思議はない。だが、相変わらず久中さんが見つかる気配はない。わかっていはいたが、そう簡単に見つかるはずもないか。
「マサツカさん、さっき言っていたダリオさんの師匠という人、誰ですか?」
ふいにリンカさんが訊いて来る。あれだけ夢中で食べておきながら、そういうことはしっかりと聴いているな。
「ああ。リンカさん達に会う前、旅の途中に立ち寄った店がフィネアにあるんだが、その店のダリオさんという人の料理が美味くてな。で、ダリオさんはどうやらここで修行してからフィネアで店を持ったそうだ。そのダリオさんから、サナカに行ったら店に寄って、自分の名前を出したら師匠は何かと助けてくれる、と聴いていたから、会ってみようと思ったわけだ。」
「そうだったんですね。フィネアに行ったことが。ちなみに、どんなことを助けてほしいんですか?」
「情報が欲しい。」
「それは、前に話していた友人の、ですか?」
「ああ、そうだ。」
「なるほど!そういえばそれが旅の目的でしたね。早く見つかりますように。ん?そうなると、旅も終わる。なら、私との旅はどうなるんでしょうか?」
「見つかったならそこで終わる。強くなったリンカさんは晴れてラルダに凱旋するわけだ。」
「それは・・・寂しいです。そうだ!私はまだまだ全然強くありません。その人が見つかっても、引き続きご指導お願いします!」
「もう充分強いと思うぞ。まぁ、その時のことはその時考える。ダリオさんの師匠に会えたからと言って、それで欲しかった情報が手に入るとも、その人が見つかるかどうかもわからない。もしかしたら旅が長引いて、その内リンカさんがギブアップして逃げ出すことも、あるかもしれない。俺の鍛錬は、まだ本気じゃないからな。」
「望むところです!これからもご指導お願いします!」
さて、久中さんが無事見つかったとして、元の世界に帰る方法も見つけなければならない。そうなるだろうから、旅はまだまだ続くだろう。
だが、その長い旅も少しずつ積み重ねることで、やがて終焉に辿り着く。ここではまず、閉店後にこの店にもう一度来よう。たしか、表には夜の九時までと書かれていたはずだから、食べ終えたら宿を探して、時間までそこで待機だ。
そう段取りを考えてから、ふとリンカさんを見れば、追加された分もしっかり完食していた。なんだ?俺にサラダをくれるんじゃなかったのか?この残念神子。




