第55話
その後、何事もなくあの街を発ち、サナカへ向かう旅を続けた。道中、エルガー達五人をしばき、いや、鍛えつつ時には魔物を討伐し、時には盗賊を追い払いながら、全員怪我も無く無事だ。
特に事件らしい事件もなかった。変わり映えしない鍛錬では物足りないだろうから、五人で協力して夜中に俺が寝ているところを襲撃してみろ、という課題を出したが、気配がわかりやすすぎて相手にもならない。そういえばその時、いつも丁寧な口調のルウェイルが、ブッ○○してやる!と意気込んでいたのは、とてもおもしろかった。ケラケラケラケラ。動きに野性味が出るようになり、少々マシになったルウェイルだが、まだ甘い。俺の手加減たっぷりの攻撃を受けてぶっ倒れているルウェイルの目の前でしっかりとケラケラと笑ってあげたのに、ギロっと睨まれた。解せんな。ルウェイルはキレ芸でお笑い芸人を目指したほうがいいかもしれない。この世界に芸人という職業があるかは知らんが。とにかく、スベッたら悲しいだろうから笑ってあげたのに、感謝どころか敵意を向けられるとは。恩を仇で返すなんて、何たる理不尽。
他には、そうだな。割と黙々と鍛錬についてきていたルルだったが、無詠唱ができずにイライラしたのだろうか、ある時目を血走らせながら素手で攻撃してきたこともあった。所謂殴りかかるというやつだ。これは無詠唱ができないストレス故の行動だと思ったから、頭を冷やして冷静になれるよう、氷水をたっぷりとかけてあげたところ、フルフルと震えてむせび泣いてしまった。イライラしたりフルフルしたり、忙しいことだ。で、ひとしきり泣いた後は、目の焦点が合わないような、感情が消え去った表情になってしまった。んー、残念ながら、感情が無くなっても詠唱は無くならないようだ。しかし、詠唱が短くなったのは収穫かもしれない。元々使うことができていた上級魔術、これまでは長々と詠唱していたが、今では○ね!エクスプロージョン、というように、短い言葉と魔術名だけで発動できるようになった。せっかく少しはマシになったんだ、感謝こそすれど、俺に敵意を向けるのは筋違いじゃないか?
ついでに他のメンバーについても。今回の鍛錬で一番成長したのはガートかもしれない。今まで大剣頼りのワンパターンな戦い方だったのが、今はフェイントを使ったり、大剣の重さを利用した戦い方ができている。多分、元々足腰もそんなに鍛えておらず、基礎ができていなかった状態から、体力筋力を鍛え直したから上達したのだろう。しかし、よくそんな体力筋力がおざなりな状態で帝国訓練生の上位になれたな、と褒めたのだが、無言で反撃されてしまった。おかしい。別に命中はしないし当たったところで俺にとっては大したことはないが、感謝されども攻撃されることはない筈だ。なので、冷静に考えられるよう、ガートにもたっぷり氷水をプレゼントしておいた。そうするとどうだろう。歯をガチガチ震わせながら、おとなしくなった。そうか、震える程感謝しているのか。そうだろうそうだろう。なんなら礼の一つでも言ってくれていいんだぞ。少しは強くなったんだから、帝国に戻っても精進しろよ。
で、最初に病み始めたエミリーだが、あれから病むスピードが順調に加速した。病みならぬ闇である。このまま闇魔術でも使えるようにならないかと淡く期待したが、そんなことはなかった。どうせ病むなら徹底的に病んでほしい。どん底まで行きついた時、初めて這い上がることを知ることができるのに。だがまあ、俺もいじめたいわけじゃない。温室育ちの貴族達が実戦で死なないように鍛えているだけだ。真面目な話、エルガーを含む五人の中で、エミリーが一番上品ではあった。おそらく性格も気立ても良いのだろう。戦う以外ならなんでもできそうな才能もあるだろうが、戦うことを選ぶなら、生き残れるようにしなければならない。卑怯フェイントだまし討ち上等、敵は正々堂々と向かってはこない。上品だけでは命を落とす確率が上がるだけだ。この辺はエミリーだけでなくルウェイルにも言えることだな。まぁ、ルウェイルに関しては、今回で殻を破った感があるから、少しは成長したのかもしれん。で、そんなエミリーに話を戻すと、エミリーは目つきがナイフのように鋭くなり、俺を見る度に舌打ちまでするようになった。拗ねてやがるな。肝心の実力は、ルルと同じく無詠唱まではいかないが、詠唱が短くなった。ただ、更にこれもルルと同じく、短く刺々しい言葉と魔術名という、八つ当たりとしか思えない詠唱となっている。まあ、それで魔術が出せるようになったんだから結果オーライ。
さてさて、期待のエルガー。言い出しっぺのエルガーには他の四人よりも数段上のレベルの鍛錬を行ったためか、かなり強くなったと思う。特に、気配や敵意を読むのがうまくなった。俺やリンカさんには遠く及ばないが、そこいらの兵士や傭兵と比べると段違いのレベルにあると言えるだろう。とはリンカさんの考察だ。で、それをエルガーに伝えたところ、
「夜休んでいる時、いつかお前に不意打ちをかけられるかもしれんと考えたら、気が抜けないんだよ。」
と言っていた。本当はやってみようとしたが、リンカさんに止められたし、流石にそれはやりすぎと思い直してやめておいたが、有り得ると見越していたとはな。訓練生と実戦を知っている者との違いがここに出たわけだ。
今回の鍛錬で、この五人の実力は少しはマシになっただろうし、目つきも鋭く顔つきも悪く、いや間違えた、精悍な表情となり、少しは戦う者へと近づいたと思われる。
「ぶーぶー」
「リンカさん、豚さんの真似、少しは上達したか?」
「うら若き乙女になんてことを!違います、最近私の影が薄いです、もっと構ってください!」
「いや、リンカさん。リンカさんは基礎もしっかりできているしあの五人よりもちゃんと強い。それに、毎日の基礎鍛錬は欠かさずやっているだろう。」
「無詠唱はまだまだです。」
「魔術名だけ言えば発動できるところまでできている。あと少しだと思うぞ。」
「それはありがたいのですが、なんか最近私に構ってくれない。」
「めんどくさいな。」
リンカさんがむくれてる、拗ねてる。そうは言っても、エルガー達五人が束になってリンカさん一人にかかっていっても、リンカさんは傷一つなく勝つ。それ位力の差があるんだから、鍛錬するとなれば必然的にリンカさんに割く時間は減ることになる。
「そんなこと言わずに、そうだ!あれ教えてください!」
「あれ、とは?」
「ほら、ナビスの迷宮で、あの雷の!」
「ああ、あれか。あの時少しだけ伝えたが、かなり厳しいから覚悟しておけよ。まぁ、リンカさんならいずれできるようになるだろう。」
「師匠からのお墨付きですね。それに恥じぬよう精進します。」
こうして、エルガー達を鍛えつつ、夜営中にはリンカさんにボルカニックサンダーを伝授しながらサナカを目指すことになった。リンカさんは戦闘の才能はあるが、さすがにボルカニックサンダーは難しいようだ。実はリンカさん、どの属性も満遍なく使えるという凄いことことができるらしいが、そんなリンカさんでも苦戦している。そもそも、俺のオリジナルだからな。俺以外が使いこなすのは相当難しいはずだ。
「うー、できませーん。」
夜営中、地面に仰向けになって弱音を吐く残念神子が見える。
「諦めるか?」
「諦めませーん。」
「真面目に言うと、これは俺のオリジナルだから、難しいのは当たり前だ。リンカさんはどの属性も満遍なく使えるが、その中でも火と光が得意なんだよな?」
「ええ、そうです。よく憶えていましたね。」
「ああ。それでだ、無理に雷に拘らなくてもいいんじゃないか?あの時、俺は雷を使ったが、その気になれば火でも光でも闇でも、他の属性でも同じことができる。リンカさんの場合は得意な火か光で試してみたらどうだ?」
「あれを全属性で・・・師匠はまごうこと無き凄い人です。」
「色々あってな。ま、雷に拘る必要はない、好きな属性で似たようなことができればそれでいいってことだ。」
「ありがとうございます!流石師匠です!」
本当、リンカさんは戦いに関しては天才的と言える。それ以外は中々ポンコツだが。さ、あとはリンカさん次第。
そして、旅を続けること更に数日、いよいよ、いよいよ、目的としていたサナカが見えてきた。




