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第54話


 街を散策しながら、食料等を買ってこれからの旅に備えた。途中、街中に出ていた屋台を見かける度に、リンカさんが


「食べましょう!」


 と、駄々を捏ねたのが少々鬱陶しかった。金には余裕があるが、食い過ぎると眠くなるし、いざ戦闘となった時の動きが鈍る。だから、晩飯まで耐えろ。で、以前の反省を踏まえ、リンカさんの近距離用の武器を何か購入しようと思ったのだが、


「うーん。なんでしょうか、あまりしっくりこないですね。」


 と不満顔。我侭言うなと言いたいが、実戦で実力を最大限発揮できる武器というのは結局本人にしかわからない。下手に妥協すると却ってそれが足手まといになることさえある。なら、ここで無理に用意する必要もない。

 街中は、これまで見てきたような雰囲気で、これと言って珍しい所もなかったため、必要な買い物を終えたら早々に宿に戻ることにした。


 で、宿に戻ったら当然エルガー達がいるわけで。宿に戻ったことを伝えに行ったら、全員が異様に悲壮感漂う顔つきを見せたのにはうんざりだ。辛気臭い。


「なあエルガーよ。何があった?今のお前ら全員だめだぞ。」


 とりあえず全員、は暑苦しいしメンドクサイから、エルガーだけ呼び出してみた。


「何がって。自覚持てよ。」


「自覚?何のだ?」


「あー。うん、それはもういい。さっきの鍛錬で疲れてるんだよ。」


「疲れる?おかしいぞ。ちゃんと回復させた筈だが。」


「お前、それ確信犯だろ?」


「言っていることがわからんな。」


「あの、マサツカさん。エルガーさん達はきっと心が疲れきってるんです。」


「そう!それだ!リンカの方がわかってるじゃねぇか。お前、リンカの師匠なんだろ。少しは弟子の言葉に耳を傾けろ!」


「さっきリンカさんにも言ったが、あれで心が疲れる、折れるというのなら、実戦はだめだ。自殺しに行くのと同じだ。引退しろ。いや、エルガーはともかくあいつら四人は始まってもないな。よし、もう始めるな、諦めろ。」


「そ、そこまで言うか!」


「ああ、言うぞ。敵は、魔物は、本気で殺しにくる、そいつらの攻撃を受けたら、負けたら、死ぬ。ナビスの迷宮で、お前らは本当に死にかけただろうが。だが、俺がお前らに何を言おうと、死にはしない。いいか、命は一つだけだ。戦って死ぬ位なら、戦わずに生きろ。戦うなら、生き残れ!」


「・・・お、おう。」


 と、言いつつ、これではあのクソ師匠と同じだな、と思ってしまった。流石に言い過ぎたか。しかしまぁ、それでも死ぬよりマシだと思うがな。


「今日はこの後の鍛錬は無いから、ゆっくり休んでおけ。その心の疲れというのも回復させておけよ。」


「ああ、わかった。」







「なあ、リンカさん。」


「はい、どうしましたか?」


「あれは、少し言い過ぎたか?」


 さっきのあの場面で、一緒にいたリンカさんに問いかけてみた。というのも、今俺とリンカさんは宿の一階の食堂、他の宿泊者も利用するいわゆる共同スペースで夕食を食べているのだが、エルガー達五人の気配が食堂に近づいてきたと思ったら、止まって引き返してしまったからだ。


「マサツカさんには申し訳ないですが、エルガーさん達にとっては言い過ぎだったかと思います。もっとも、言っている内容は間違っていないとですし、むしろありがたいと思います。誰に何を言われても命までは落としませんが、魔物は平気で命を奪ってきますから。」


「俺もそう思うし、死なないように鍛えるし、弱いままでいるなら戦わずに普通に生活していきてほしいさ。だが、今更だがやりすぎたかと反省しているところだ。」


「マサツカさんが反省だなんて!明日は大雨、大嵐ですね!」


「調子乗るな、頭ん中お花畑。」


「ぶーぶー。あと、私を鍛えてくれている時は、身体はともかく心はそれほど辛くなかったですよ。これからもぜひおしえてほしいです。山の頂上で死にかけたことに比べれば、五体満足死ぬことがないだけでどんなに安心か、改めて思います。」


「ああ、あの時か。よく頑張ったな。」


「フフン!もっと言ってくれていいんですよ。」


「はいはい。で、それ美味いか?」


「美味しいですよ!カレーって言って、サナカが発祥なんですが、スパイスという物がポイントなんです。これがあるということは、サナカも近いですね。そもそもカレーはですね・・・」


 急にカレー語りを始めたリンカさん。元の世界で馴染みがある料理が出てきたことは、懐かしいと同時に不思議ではあったが、サナカが近いことの方が興味があった。


「あ、話聴いてないですね。目が無視してます。」


「いや、カレーも懐かしいと思ったが、サナカってどんなところかと思ってな。」


「カレーが懐かしい?食べた事あるんですか?」


「ああ、以前な。」


「むー。マサツカさん、ホントにどこでそう生きてきたんですか?」


「別にサナカ限定の料理というわけじゃないだろ。ところで、エルガーはサナカまではだいぶかかると言っていたが、近いのか?」


 全く、油断も隙もない。ふいに元の世界に触れそうな話題が出たからごまかしたが、リンカさん、最近妙に勘が良いというか、探りを入れている気がする。気のせいか?


「徒歩ですとまだ距離はありますが、なんというか、文化が近づいている気がしますね。カレーも勿論サナカ限定というわけではないですが、スパイスの原産地がサナカなので、サナカから遠ざかる程珍しくなると思います。サナカは食の都と言われるだけあって、食べ物に関しては何でもありますよ。楽しみですね!」


 サナカ、食の都。ここに来てよく聞くフレーズだ。この世界に辿り着いた時、助けてくれたネイアさんも言っていたな。最も、俺の場合は久中さんの情報集めが目的だ。料理を楽しむのもいいが、同時並行で情報も集めないとな。

 そう思うと、最近の手がかりの無さには焦りを感じる。この街でも聞きこみはしてみたが、黒髪で俺と同年代の女性、これが全くヒットしない。あと、元の世界へ帰る方法も探さないと。それを考えると、この世界に来てから色々動いてみたが、今のところ成果無しというのは、正直辛い所がある。だが、今は


「そういうことか。ありがとう。サナカまでまだ先だが、今は料理を楽しむとしよう。」


 そう言って、良い感じに締めた筈だったが、その後リンカさんがカレーをお替わりし、オニオンコンソメスープのような物を何杯も注文し、更には焼きそばだろうか、そんな料理を追加して食べる等、爆食い残念神子っぷりをいかんなく発揮し、


「もう無理です。お、おぶ、おぶってください。」


 自力で動けなくなり部屋へ運べとのたまうダメっぷりを追加で発現するというグダグダぶり。もう料理のお替わりもグダグダの追加も求めてない、いらん!更にはその様子を、意を決したような諦めたような、絶妙に微妙な表情を張り付けて食堂に入って来たエルガー達五人が見て、


「ついにリンカまで犠牲に!」


 と根も葉もない勘違いを起こして五人が一斉に引きつり、エミリーは大声で泣き出す始末。なんなんだコイツら?帝国のエリートじゃないのか?ここは宿の食堂であって、動物園じゃない筈だ。


 全く締まらない。今日はもう部屋で休もう。この残念さ加減に少々うんざりしつつ、なんとなく平和だなぁと感じながら、リンカさんを部屋に運んで一息ついた。その後、食堂でコーヒーを買って部屋に持ってきて、本人たっての希望で俺と同室のリンカさんが、ベッドの上で苦しむ姿を眺めつつ温かみのあるコーヒーを一口含む。すると、ほのかな苦みの後に染み渡る安心感に、自分にもまだ人間としての感覚があることを実感できたのは、素直に嬉しいものだった。この世界にコーヒーがあったことにも驚きだが、今は驚きよりも感謝の念が強い。


「あ、このいい匂いはコーヒー。一杯ください。」


「もういい!さっさと寝ろ!」




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