第53話
サナカへ向かう途中のとある街。
にある、とある広場にて。普段とは違うひりついた雰囲気と叫び声、金属が怒号の如くぶつかり合う音が響いた。その正体とは、
「切り結んだ時に固まりすぎだ。隙だらけ、今のでお前は108回死んだ!」
ボゴッ
「何度言えばわかる?動きが型にはまりすぎだ。フェイントでも入れてみろ。そのまま魔物と闘ったら、すぐに首がとぶぞ。お前は迷宮に自殺でもしに行くのか?」
バゴォ
「だから、武器に振り回されすぎだ。使われるんじゃない、お前が!武器を使うんだよ!」
ガキィィン
そう。正体はこいつらをしばきま、いや、鍛えている音と俺の指導の声だ。なにせ、サナカへ着くまでの間しか鍛えられない。となれば、密度を濃く、生かさず殺さずの力技でやるしかない。鍛えまくり、奴らがダウンしたらヒールで回復、再開。これを日が暮れるまで繰り返す。ああ、さすがに大鎌を使ったら手加減は難しいから、その辺の武器屋で剣を買っておいた。真剣だが、これなら手加減もしやすいし、大怪我することも死人が出ることもないだろう。生かさず殺さずというものの、我ながらとても甘いとは思う。
「エルガー、ルウェイル、ガート、もう回復させたぞ。さ、早く立て。お前らに付いている二本の足で立って、全力で向かって来い、死ぬ気で来い。安心しろ、これは俺が用意した鍛錬だ、死にはしない。俺は優しくて甘いからな。」
「ま、まて。もう、限界だ。」
ドカッ
「うぐぅ」
ヒール
「おい、エルガー。声を出せるなら、それは限界じゃねぇんだよ。なんだ?それで時間を稼いで休憩しようって魂胆か?お前馬鹿か?その時間でお前は魔物にすり潰されて終わりだ。バラバラにされて死ぬんだよ。猛獣が相手なら食い殺されるんだよ。いらん言葉を発する位なら、足動かせ、手を動かせ、俺を殺す気で来い。俺はてめぇら雑魚に殺されるほど弱くねぇ!」
「こ、の。言わせておけ」
ドゴォ
「ごふっ」
ヒール
「だから、声だす暇があったら攻撃しろ。」
ヒュン
「エルガー、お前の攻撃はカスか?遅すぎる。だが、今回はそれでいい。」
言われたとおり、声を出さずに攻撃してきた。その点は評価してやろうか。ただ、怒りに身を任せ過ぎて、剣の一振りが雑すぎる。適当に蹴とばしておこう。
バキ、ドガ
「っ・・・」
ヒール
「ルウェイル、ガート。それに見学しているエミリーとルル。お前達は本当に帝国のエリートか?弱すぎて、実は嘘なんじゃないかと疑っている。今からでもいい。お前らまとめてかかってこい。お前らじゃあどうやっても俺を殺すことはできんよ。」
「激流よ、敵を貫」
「エミリー、遅いって。」
アクアショット バシュ
「うっ」
ヒュンヒュン
「ガート、ルウェイル。攻撃の動作が大きすぎて敵に当たるまでの時間がかかりすぎる。」
ルウェイルの剣、ガートの大剣による攻撃は空振り。空を切って隙だらけになったこいつらの後頭部に手刀。で、気絶。渾身の一撃だったのかもしれないが、もっと冷静になるべきだ。大振りすぎる。
「骨まで燃えろ、フレイ」
「だから、詠唱していたら駄目なんだって」
「ひぃ!」
さっと近づいて、アクアショット。これでルルもダウン。
・・・・・・・・
・・・一瞬にして、静かになったな。あるのはそよ風が優しく撫でる音だけ。そこには五人の人間が横たわっている。泥だらけのズタボロのゴミのように。ともすれば人間とはわからないかもしれない。しかし、こいつらは生きている。命ある生命として、微弱であってもその鼓動を静かに刻んでいる。多分。
ヒール
これで大丈夫だろう。ここまでボロ負けしても、今この瞬間にでも一太刀、一撃浴びせて来るなら、それは大したものだと、わずかな期待を胸にこいつらに意識を向けてみるが、
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
駄目だ。ちょっとだけ、やりすぎたか?
「マサツカさん、やりすぎです。」
「そうか?」
「マサツカさんは、加減というのを覚えたほうがいいかもしれませんね。」
「しっかり回復させているし、五体満足じゃないか。感動して泣くレベルだぞ。」
「またまた。お茶目さんですね。ただ、真面目に言うと、魔術では心までは回復しないと思うので、もしかしたら今日は一日休憩がいいかもです。」
「心が折れる、ねぇ。あれで折れるなら、実戦に出たら駄目だと思うぞ。リンカさんは、あの程度では何ともなかったし、リンカさんへの鍛錬よりも抑えてる筈なんだが。」
「今のは、多分私への鍛錬よりも厳しいと思いますよ。」
「おそらく、リンカさんの時は基礎体力もしっかりできていたし、既に充分な強さと、実戦向けのセンスがあったからだな。だから、あそこまでやる必要はなかった。リンカさんこそ、自分の強さは自覚しておいてくれ。俺と最初に会った時よりも、かなり強くなっているはずだ。」
正直、リンカさんの戦闘センスには驚いている。強くなりたいと俺に付いて来ているが、自分一人で迷宮に潜っていても、勝手に強くなりそうだ。
ただ、そんなリンカさんでも、あのネイアさんにはまだまだ遠く及ばないだろう。あの人はなんというか、反則的に強すぎるゆえに、世界での活動を禁じられるようなレベルだ。もっとも、傭兵の最上位ランクにいるし、今もどこかで依頼を受けて絶賛活動しているのだろうから、俺がどう思おうと関係なくネイアさんは動き回るわけだがな。
「そんな、褒めてもデレても何もでないですよ。もう、愛が溢れてますね!」
「頭は世界の果てまで弱いようだな。」
「ぶーぶー。人はそれをツンデレという。」
「何か言ったか?」
「いえいえ。」
とりあえず、泥に沈んだ屍のような五人にもう一度ヒールをかけて、しばらくしたら起こす。それで、表情が暗く、いや、無表情のこいつらをなんとか歩かせ、今日の宿に向かう。途中、帰りたい帰りたいカエリタイ、嫌だイヤダイヤダイヤダ、タスケテタスケテ、
等々、何かが聞こえてきてすこぶる不愉快ではあったが、金をもらっている依頼である以上、途中で放置してサナカに向かうことはしない。しかしまぁ、なるほど。街に入るなり、エルガーが真っ先に宿を確保したのは、こうなることがわかっているからだな。こういうところはさすがということか。
さて、特に疲れたわけじゃないから、エルガー達を宿に置いたら街の散策でもしようか。
「エルガーさん、正直言うと、かなりキテます。」
「ああ。だろうな。お前達はどうだ?」
「むちゃくちゃ強いっすね。あれはついていけないっす。」
「助けてくれた恩があるのでこう言っては申し訳ないですが、駄目です。人間じゃないです。地獄です。」
「涙も枯れ果てました。タスケテください。」
とある宿の一室。グレルバルカ帝国のエルガーが宿の自室にメンバー全員を招集し、これからについて会議を行っていた。ルウェイルが口火を切って始まったこの会議の議題は当然ながら、
「まあ、そうだろうな。それは俺もわかる。そこでだ、お前達に改めて確認しておきたい。ここで、マサツカ達との依頼を完了し、鍛錬を終わるか。それとも、サナカまで後もう少し、意地でも食らいつくか。」
マサツカに依頼した、道中自分達を鍛えること、それを続けるか否か。
「んー。俺はここで終わっておきたいが、強くなれるのであればあと少し、耐えるのもありかもしれんとも思っていますね。めちゃくちゃ嫌ですが、あのアドバイス通りにやれば、少しは強くなれそうっす。」
「同じく、かなり嫌ですが、賛成です。心身ともにかなり危ないところにいますが、幸い死んでいません。それに、発破をかけるためでしょうが、あそこまで言われたままでは引き下がりたくないです。」
「ほう。ルルとエミリーはどうだ?」
「今すぐ逃げ出したい、プライドなんてどうでもいいから今すぐ終わりたいのが正直なところです。ただ、あの無詠唱は気になります。あれができれば、魔術師としてのレベルは飛躍的に上昇します。」
「私は、もう嫌です。ただただ、嫌です。回復してもらっても、心が持ちません。今すぐ終わりたいです。」
「まぁ、それもわかる。かなりわかる。それに、マサツカの奴、特に俺に対するあたりがめちゃくちゃきつい気がする。」
「この中で一番強いのがエルガーさんですからね。」
「一番かどうかはわからんから置いといて、やりすぎだ。ぶっちゃけ、最初は俺は鍛錬に参加する筈じゃなかったのに。なんでこんなことに。」
「それは、エルガーさんがあんなこと依頼するからですよ。引率とはいえ、道ずれにできてよかったです。」
「ルウェイル、お前なぁ、ひどい奴だな。あー、じゃ多数決とるか。サナカまで、依頼を継続したい奴、挙手。」
そこで手が上がったのは三人。ルウェイル、ガート、ルルだった。
「では次、依頼はここで終了。念の為いっておくと、ここで終了したとしても、依頼料は払うからな。では、ここで終了したい奴、挙手。」
手が上がったのは二人。エミリーと、エルガーだった。
「多数決の結果、サナカまで依頼継続だ。おい、エミリー、そんなに泣くなよ。俺だって泣きたいんだ。」
「そんなこと言っても。うう、あんまりです。」
うぐ、えぐ・・・・・・うぇぇぇぇぇぇん!
ついにエミリーが大粒の雫を流し、叫び声をあげた。
「エミリー、諦めてください。というか、なんでエルガーさんも手を挙げてるんですか?」
「この中で、俺が一番終わりたいと思っている。その自信は誰にも負けない。」
「あー、そうですね、はい。一番被害受けてますからね。わかります。」
五人いれば狭苦しくなる宿の一室の中で、エルガーに対してメンバー全員からの悲哀の視線が集まる。それは哀れみのオーラで部屋が破裂するかのごとく。大泣きしていたエミリーでさえも、涙が途中で止まって視線を向けるほどに、マサツカからのエルガーに対する鍛錬は厳しいものであった。
かくして、ここでやめれば楽になるというのに、自らの多数決により、鍛錬は継続されることになった。




