表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

51/59

第51話


「お前ら、一から、いやゼロからやり直し。」


「あー、あれだけズタボロにされたんだ、返す言葉もない。」


 今日の夜営中の一コマ。全員で焚火を囲んで飯を食いながら、耳が痛い嫌事になるが、はっきり言う。


「帝国内にいて、実戦がいらない、形式美だけを求めているなら、全く構わない。だが、依頼を受けた以上、実戦で使えるレベルにはしたい。お前達は、実戦に出ないで延々と訓練だけをするわけではないんだろ?」


「ああ、実戦で使えてこそだ。と、偉そうなことは言えないな。」


「正直、帝国内では一番だと思っていましたが・・・驕っていたようですね。」


「全く駄目でした。魔術のスピードが速すぎて何もできませんでした。」


「情けないです。今すぐ帰りたいです。」


 ガート、ルウェイル、ルル、エミリーが各々反省している。多分、これまで挫折知らずのエリート街道をひた走ってきたのだろう。昨日の迷宮も含めて、長い目で見ればここで挫折しておくのも悪くない筈だ。あとは、ここから這い上がれるかどうかだな。


「今日はもう訓練はないから、食べ終えたら休んでおいてほしい。それで、明日に備えて言っておくと、ルウェイルは動きが正直すぎる、だから読みやすい。ガートは動きが遅すぎる。その大剣に振り回されていると言ってもいい。その大剣を使いこなせないなら、武器を変えてみて自分が使いやすい物を探すのも方法としてはありだ。特に拘りがないなら、真剣に考えてみろ。ルルとエミリーは、残念だが詠唱している時点で論外だ。前衛が機能していることを想定しているだろうが、前衛、この場合ルウェイルとガートとエルガーが機能しなくなったら、2人はただの的だ。詠唱している間に命が終わる。体術もそう強くはないから、せめて最低限、短剣を使うとか、魔術が使えなくなった時にも備えないと、実戦になれば生き残れない。」


「ズ、ズタボロじゃねぇか。」


「そこまでとは。マサツカさん、明日と言わず今からでも鍛錬しましょう!」


「ルウェイル、駄目だ。いいか、もう夜だ。ここは訓練所と違って、明かりはこの焚き火だけ。それに、夜営中に不用意に明かりを広げたら、それに引き寄せられる動物や魔物もいるかもしれない。盗賊が狙ってくることもある。他にもデメリットはあるが、とにかく今は休む。休める時は徹底的に休む。強制的に休めることを幸せに思え。心配しなくとも、明日から遠慮なく鍛錬してやる。それこそ、俺を呪い殺したくなるような鍛え方をしてやるから、期待しておくといい。」


「あ、ああ。わかりました。」


 少々きつい言い方だが、ルウェイルを説き伏せる。


「ううう。怖いです。」


 すると、今のやりとりを聴いていたエミリーから弱音が漏れる。その内そんな弱音すら吐けなくなるから、安心して楽しみにしてほしい。


「なあ、マサツカ。俺達が弱すぎるのはわかったが、俺にはともかく、こいつらにはちょっと厳しすぎる気がするが、大丈夫そうか?」


「ああ、大丈夫だ。嫌事なんざ、実戦で命を落とすよりも何倍もマシだ。さすがに命まではとらない。俺がどんなに嫌なことを言っても、それで腕や足がちぎれたり、腹に穴が開くこともない。訓練課程とはいえ、帝国のトップ4なんだろ。大丈夫さ。」


「そう言われたら、確かにそうだな。」


「そういうこと。さて、ルウェイル、ガート、ルル、エミリー、この4人は夜の見張りは無し。しっかり寝ておけ。エルガーは今から見張り。だいたい4時間位頼む。その後俺と交代、俺が日の出まで見張る。リンカさんは見張り無しで休んでもらうが、何かあった時は俺のサポートを頼む。」


「わかりました!寝ていても遠慮なく起こしてください。全力でサポートしますね。」


 頼もしい返事だ。このメンツだと、リンカさんの明るさがかなり際立つ。なんせ、今のエルガー達が暗い、暗すぎるのだ。だから対照的にリンカさんが目立って仕方ない。





 そういえば、エルガー達五人は手際よくテントを張り、夜営の準備ができていた。このあたりは、訓練課程とこれまでの旅で培ったのだろう。道中聴いた話では、彼らは皆貴族家出身、貴族といえば横柄で自分の身の回りのことも執事やお手伝いにやらせているダメ生物だと思っていたが、貴族全てがそうというわけではないらしい。

 そういう類のことを見張り中のエルガーに話していたところ、


「いや、今は俺が見張り中なんだから、マサツカは休んどけよ。貴族になんか恨みでもあるのか?それと、あいつらは貴族家出身だが、おれは平民だぞ。」


「色々あってな。俺は少ない睡眠時間でもなんともない。それよりも、エルガーは平民なのか?」


「そうだ。物心ついた時から孤児院にいた。孤児院にも、親や育てる人がいない子どもが集まる所もあれば、盗みや暴力とかで、親の手に負えない子どもが集まる所、病気というのか、心に傷を負った子どもが集まる孤児院とか、とりあえずここにいろ、みたいな一時的に生活する孤児院まで、まあ色々ある。で、俺が育ったのは、親、親戚、育ててくれる大人がいない子どもが集まる孤児院だったわけだ。」


「そうだったのか。兄弟姉妹もいないのか?」


「ああ、いない。いたとしても、会ったことも見たことも聞いたこともないから、知らん。」


 エルガーも孤児だったのか。にしても、この世界、少なくともグレルバルカ帝国の孤児院は、俺がいた世界の、よく言う施設に似ている気がする。


「平民から貴族の引率役にまで成り上がるのは、かなり苦労したんじゃないか?言っては悪いが、今まで見てきた貴族は平民を見下している奴らばかりでな。」


「国やその時の情勢によって変わるが、今の帝国の皇帝は良くも悪くも実力主義でな。だから、出身や身分で苦労したことはあまりない。身分や出身で差別する風潮も少ない。逆に言えば、公爵家や大公家であっても、能力がなければ要職にも就けず、名ばかり貴族となって代を経るごとに次第に落ちぶれていく。そんな皇帝がトップにいるから、今は仕事に就くのも仕官するのも昇進するのも、試験にさえ通ればなんとかなる。まあ、俺がやっているのはあくまで訓練課程の引率だから、大したことはない。それこそ、俺と同じ位の年で、皇帝直属の騎士や魔術師になっている奴もいるぞ。ただ・・・」


「ただ?」


「その皇帝にも一人息子、所謂王太子だな。王太子がいるんだが、その王太子にはかなり甘くてな。あまり大きな声では言えんが、中々我侭放題しているらしい。一応基本的な武術や魔術はできているということを理由に、皇帝は将来その王太子を後継者に考えているようだ。これだけは実力主義の例外、と言われている。」


「んー、それは帝国としてはどうなんだ?」


「まぁ、この話自体は帝国内外で有名な話だから、隠すことではないし、皇帝がそう思っている以上俺達からはなんとも。良くも悪くも、皇帝に大きく影響されるのが帝国だ。ぶっちゃけると・・・いや、ここまでにしておく。すまんな、忘れてくれ。」


「安心しろ。他言しない。勉強になった。」


 ちょっと帝国のことを、と話しかけたら、思いがけずおもしろい話を聴けた。それに、全ての貴族がダメ生物じゃないこともわかったのは思わぬ収穫だ。というのは冗談だが、グレルバルカ帝国の一面を少しだけ知ることができた。今の皇帝は実力主義ということだが、次の皇帝に例の王太子が就いたら、なんというか、腐敗が加速しそうだ。よくも悪くも皇帝次第か。頂点に君臨する者次第で、強くなったり弱くなったり、情勢が大きく変わるのは、その国に住む者からすればある種のギャンブルではないだろうか。下手を打つと、国民が大きな規模で流出することも有り得そうだ。


「とりあえず、マサツカはもう寝とけ。夜はまだ長いし、後で交代してもらうんだからな。」


「わかった。何かあれば起こしてくれ。」


 帝国の弱点に触れたからだろうか。俺を遠ざけるような気がしないでもないエルガーの言うことに、ここはおとなしく頷いてテントに戻ることにした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ