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第5話

「ようこそ、水と緑の都、フィネアへ!」


 門番の歓迎へ受け、俺たちは門をくぐり街へ入った。

 王都フィネアは、中世のヨーロッパを思わせる石造りの街並みに、ところどころで木々が顔を覗かせ、綺麗な水がおだやかに流れる水路が整備された、自然と人が共存する都市であった。うん、ザ・ファンタジーだな。お約束だね。

 街へ入る際に身分確認もなく、金銭をとられることはなかったが、ネイアさんによると、


「王都の騎士団は皆凄腕ばかりで、犯罪者はそうそう近寄らない。仮に街に入って悪事を企てたところで、騎士団からは逃れられんさ。この街の騎士団は存在するだけで犯罪の抑止力となる。それに、ここは広大な農場をもっているから、作物も豊富にとれる。わざわざ街に入る者から金をとる必要もない。」


 ということだった。なるほど、ここの騎士団が治安維持に一役買っているようだ。


「さて、私が王都まで来たのは、ここのギルドに用があったからだ。これからギルドに向かうが、そろそろ昼食時だ、腹が減っただろう?行く前に、休憩を兼ねて食事にしようと思うが、どうだ?」


 ネイアさんのいうギルドとはなんだろうか。気になる、とても気になる。だが、朝から歩き続けている俺は早く飯にしたかった。飯って大事だよね。衣食住ってとても大切だよね。今の俺?ハハ、金が無い。ネイアさんの言うとおりにしようとしたが、そう、俺は、金をもっていない。


「はい、と言いたいところですが、俺はお金をもっていません。先にどこかでお金を得たいのですが、その方法を教えてもらえませんか。」


「なるほど、確かに食事には金が必要だ。しかしマサツカ、この世界にきたばかりで、金を持っていないのは当然だ。金を稼ぐ方法は後で教えるから、今回は私が金を払う。だから、気にしなくていい。」


「えっと、本当に良いのですか?」


「当然だ。遠慮はいらん。」


「ありがとうございます。それでは、今回はお願いします。」


「よし、ならついて来てくれ。久々に立ち寄りたい店があるのだ。王都の中でもトップクラスに美味いと思っている店だ。きっと気に入ると思うぞ。」


「はい。よろしくお願いします。」


 ネイアさん、ご飯、ありがとうございます!ごちそうさまです!

 ネイアさんに案内されて行く間、街中を見ると、気づいたことがある。それは、街中の人のことだ。耳が細長かったり、狼人間のようであったり、小人のような、それでいて筋骨隆々の人であったり、肌が紫色であったり。これは、ファンタジーでお約束の、エルフやドワーフに獣人だろうか。

 これを見たら、流石にもう受け入れるしかないよな。ここは所謂異世界だ。これが壮大なドッキリであったなら、俺は生涯人間不信に陥るね。ヒトガコワイヨ。


 そんなことを考えながら、ネイアさんに連れてきてもらったのは、「剣亭(つるぎてい)」という、一見すると武器屋のようないかつい名前の店だった。


「ここ、武器屋では?」


 思わずそう訊いた俺に対して、返ってきたのは、


「店の名前は、確かに武器屋と見間違うな。ここの店主は、過去に凄腕の傭兵として活躍した経歴をもっていてな。引退後にサナカで修行し、晴れてここで店を開いたのだ。いわば、元傭兵の料理屋、ということだ。そう考えると、店の名前も元傭兵らしいし、しっくりくると思う。」


 なるほど、元傭兵の店か。であれば、納得だ。この店では、肉料理が中心だろうか。異世界の肉はどんなものか、興味がでてきた。


「2名、今から大丈夫か?」


「いらっしゃいませ!2名様ですね。大丈夫ですよ。奥のテーブル席へご案内します。」


 俺達を明るく出迎えたのは、猫耳にしっぽの、猫の獣人?だった。街中でも色んな人をみたが、この世界では人種だとか種族の違いは意識しないのが当たり前なんだろう。

 店の雰囲気は、日の光が窓から店内を照らし、明るくリラックスできるものだった。

 案内された席につくと、先ほどの猫の獣人の店員が、木でできたコップに水を注いでくれた。この世界でも、水はサービスとしてでてくるんだな、と思っていると、


「やはり、この店のサービスは行き届いているな。普通の店では、水もでてこない。もっとも、でてこないのが普通なのだが。ところでマサツカ、この店のオススメだが・・・」


 俺がいた世界と違って、普通は水のサービスはないようだ。水が豊富で、かつこの店の店主ならではらしい。また、この店のオススメは、バジルとトマトソースのスパゲティと、ローストビーフであると教えてもらった。おお!まるで日本のレストランみたいじゃないか!

 俺に対してスパゲティとローストビーフの良さを嬉々として語るネイアさんを見ると、ちょっぴりカワイイと思えてきた。昨日助けてもらってからこれまで、凛としてとても強くて、なのに親切な完璧超人のように思っていたが、なんだろうか、こういうところは可愛く見える。強くて美しく、そして可愛い。世の中不公平じゃあないかい??


 ネイアさんの語りをきいていると、料理が運ばれてきた。俺はバジルとトマトソースのスパゲティ、ネイアさんはローストビーフにした。運んできたのはがっしりとした体格で、身長は190㎝はあろうかという大男だった。


「よう、ネイア!久しぶりじゃないか!元気しとったかぁ!」


 外見のとおり、豪快な人物のようだ。年齢は50歳位だろうか。どうやら、ネイアさんの知り合いらしい。


「うむ。久しぶりだな、ダリオ。そなたこそ元気そうじゃないか。」


「おう!当然、俺は死ぬまで生きる!ところで、そっちの大鎌持ちはだれだ?変わった格好だが、この街じゃ見ない顔だな。」


「名はマサツカという。道中リッチの襲撃を受けていたから、討伐してここまで共に来た。是非ともこの店を紹介したかったのだ。」


 この大男はダリオというらしい。ネイアさんが紹介してくれた。なんでも、引退前は大剣使いで、様々な魔物を討伐してきたAランク傭兵だという。Aランク傭兵というのは、数々の依頼をこなす傭兵の中で最高ランクを意味するらしい。


「リッチの襲撃!?なんだマサツカとやら、災難だったな!あれに狙われたら、大抵はアウトだ!ネイアに助けてもらえなかったら、多分死んでるな、こりゃ!それより、この店の飯はうまいだろ!自分で言うのもなんだが、どれも自信作だ。」


「はい、とても美味しいです。」


 俺の命が「それより」扱いされたのには少々複雑ではあったが、まぁいいや。俺生きてるし。

 運ばれてきたスパゲティを口に入れると、トマトに酸味と甘さが絶妙で、バジルが程よいアクセントになり、お世辞抜きで美味かった。元の世界にも負けず劣らず、とにかく美味かった。侮れんな、異世界料理。


「サナカに寄ったときに食った飯が美味過ぎてな。それからその店に弟子入りして、晴れて故郷のこの街に店をだしたのさ。もし、サナカに行くことがあったら、師匠の店に寄ってみるといい。サナカの傭兵ギルドの隣の店だ。ダリオの名を出すといい。何かと助けてくれるぜ。」


「ありがとうございます。サナカには今後行ってみようと思っていました。助かります。あと、このスパゲティ、とても美味しいです。」

「わかってるじゃねえか!そうだろそうだろ!サービスだ!もう一皿いっとけ!」


 自分の作った料理が好評だったことに気を良くしたのか、その後俺はダリオさんからもう一皿スパゲティをご馳走になった。うん、美味かったから二皿目もすぐに食べ終えた。ご馳走様だ。


「さて、美味いものも食ったし、これからギルドへ向かう。ギルドは何なのか、説明しておこう。」


 ダリオさんの料理を食べたからなのか、ネイアさんはギルドへの道中、上機嫌にギルドのことについて教えてくれた。ギルドというのは、この世界では一般的に傭兵ギルドという。傭兵というのは、言うなればなんでも屋のことで、魔物の討伐や迷宮等の調査、旅の護衛に始まり、手紙の配達や薬草等の採取、果ては1日ペットの世話等、多岐にわたる。ギルドから依頼を受けた傭兵は、依頼を達成して金銭を稼いでいる。

 この傭兵にはその実力によってランクが定められており、上からA、B、C、D、E、Fの6ランクがある。傭兵になるには、ギルドの受付にて手続きをすればすぐになれるが、初めはFランクからスタートとなる。依頼にはランクが付けられているものもあり、高難易度と判断された依頼は、例えばBランク以上といったようにBランク以上でないと受けられないものもある。


「傭兵について、おおまかなところはこんなところだ。もうすぐギルドに着く。マサツカ、先ほど言った金を稼ぐ方法とは、傭兵になって稼ぐことだ。」


「え!?俺が傭兵ですか?」


「そうだ。金を稼ぐには色々方法はあるが、てっとり早いのは傭兵だろう。最初はFランクからだが、簡単な依頼から始められるからな。やってみるといい。」


 突然、傭兵になれと言われた。傭兵って、魔物の討伐とか迷宮の調査とかをやるんだろ?さっき教えてもらったばかりだ。この前まで、いや、今も平凡な高校生の俺に、そんなことができるわけが・・・。異世界はいきなりハードモードだったのだ。


「そんな顔をしなくともよい。すぐに慣れる。何事も、とは言わんが、やってみてから判断するといい。」


 傭兵になることに対して、どうやら俺の顔は相当な拒否反応を示していたようだ。しかし、やってみてから判断、か。なるほど、元の世界に戻るには、そうでないといけないかもしれないな。




 しばらく歩くと、周囲の建物よりも一際大きな建物が見えてきた。


「あれがギルドだ。さあ、行こう。」


 炎を背景に、剣と盾が記された木造の看板が掲げられた入口をくぐると、中は掲示板を見ている人、集まって酒を飲んでる人、談笑している人で賑わっていた。

 ネイアさんに連れられて、奥にある受付へと向かった。


「いらっしゃいませ。ご用件はなんでしょうか?」


「ここにいる青年を傭兵に登録したい。あと、例の件だ。」


 ネイアさんは受付の人にそう伝え、一枚の紙を渡した。


「これは!?ネイア様でしたか!?」


「そうだが、私に様なんて付けるな。堅苦しいのは苦手だ。それより、例の件だが・・・」


「はい!その件についてはギルド長が対応させていただきますので、少々お待ちください。」


 受付の人はそう答えると、奥の扉へ入って行った。おそらく、そこがギルド長の部屋なのだろう。

 繰り返しになるが、この世界の住人は本当に多種多様な種族がいる。今受付をしていたのは、耳が普通の人よりもかなり長い女性だ。所謂エルフという種族なのだろう。エルフは美形ばっかりかな?街ですれ違うエルフも、受付のエルフも、超絶美人だな。エルフに生まれた時点で勝ち組じゃねぇか。邪なことを考えていると、その女性が戻ってきて、


「ネイア様、お待たせしました。こちらへどうぞ。」


「わかった。それと、さっきも言ったが様は辞めてほしいな。そうだな、さん付けでいい。それでいこう。マサツカ、登録が終わったら、どこか適当なところで待っていてくれ。」


「わかりました。ところで、これからなんの話が?」


「色々だ。ギルド長との話が終わったら話そう。」


 俺にそう言い残して、奥の扉へ入ってしまった。となると、あとは傭兵登録をして待つことになる、か。


「お待たせしました。では、早速登録の手続きをいたします。まずは、こちらの用紙に名前を記入してください。」


 先程の受付のお姉さんに名前を書くように言われた。ネイアさん曰く、この世界での俺の名前は変わったものらしいが、特に気にすることもなく、「マサツカ オオガミ」と書いた。すると、


「マサツカ オオガミ、ですか。とても変わった名前ですね。ひょっとして、どこかの貴族の方でしょうか。」


 貴族?俺は貴族でもなければ、過去に歴史の授業で習った農民でもない。平凡な一般ピープルだ。不思議に思っていると、この世界では苗字を持つのは貴族や王族等ある程度の身分の者に限られる、と受付のお姉さんが丁寧に教えてくれた。


「まあ、貴族のご子息が家を出て傭兵となることは珍しいことではありません。そうですね、苗字がついていると目立ちますから、単にマサツカと名乗ってはどうでしょうか。」


「ああ、はい。では、それでお願いします。」


「かしこまりました。では、登録いたしますので、少々お待ちください。」


 待つこと1分位だろうか。受付のお姉さんからランクカードというものを貰った。このカードは身分証にもなり、ギルドでの依頼を受けるのに必要となるものだそうだ。初回発行は無料だが、再発行には銅貨5枚が必要となるみたいだ。


「では、そのランクカードの真ん中に触れてください。これで登録完了となります。」


 言われたとおりにすると、カードが一瞬光った。


「はい、お疲れ様です。これで登録完了です。これがあれば、この街以外のギルドでも依頼を受けることができます。依頼の受け方や完了、ランクアップについて説明しておきましょうか?」


「是非とも聴きたいです。お願いします。」


 お姉さんによると、初めはFランクからのスタートとなる。これはネイアさんからも聴いたとおりだ。依頼を受けるにはギルドの受付へ、受けたい依頼を伝える。依頼完了は、依頼達成となる証拠物や依頼者からの証明書類をギルドへ提出することで行われる。また、依頼失敗となった場合も、ギルドに報告する必要がある、というものだ。

 ランクアップには、各ランクで一定以上の難易度の依頼を規定の回数完了し、ギルドの試験を受けて合格する必要があるそうだ。


「これがおおまかな概要ですね。ひとまずはEランクを目指すとよいと思います。」


「ありがとうございました。」


 こうして俺は、この世界で晴れて傭兵となった。


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