第49話
「やっと、やっと出れましたーーー!」
迷宮から出るだけ、とはいえ、敵は出て来るし怪我人を運んでいるし、かなり時間がかかってしまったな。途中、人を担いで運ぶのにも限界がきたので、浮遊魔術でフワフワさせながら運んだが、これがうまくいった。楽すぎる。おっさん曰く、
「なんだと・・・さっきから人間技じゃねぇ・・・何者なんだ?」
だそうだ。失敬な、例え我が身全身機械となれど、心は人間だ。あと、浮遊魔術は他言無用だからな。で、迷宮を出たら既に日が暮れかけていたから、怪我人達を担ぎ直して急いでギルドへ向かった。
「とにかく、5階層目が魔物だらけだ。実力のある調査隊を入れて、その調査が終わるまでは一般人は立ち入りを禁止したほうがいい。犠牲者が増えるぞ。」
「にわかには信じられませんが、わかりました。マスターに報告し、対応します。」
「いいか、すぐにだぞ!」
「なんだなんだ、騒がしいじゃねぇか。何があった?」
どうやら、おっさんの声が余程大きいようで、カウンターの奥からのそっとダルトンが出てきた。
「マスター、この人から迷宮について報告を受けていまして。」
「迷宮?・・・ああ、俺も聴こう。マサツカがいる時点で、嫌な報告なんだろう?」
「おいおい、俺に恨みでもあるのか。失礼極まりないな。」
「冗談だ。で、何があった?」
「迷宮第5層で異常事態発生だ。今すぐ迷宮への立ち入りを禁止し、調査隊を入れろ。犠牲者が溢れるぞ。」
「・・・ほう、そうか・・・ああ、わかった。お前がそこまで言うなら、そうしよう。只今をもって、ナビス迷宮への立ち入りを禁止する。開放時期は未定。悪いがすぐに手続きして、迷宮の入口にも交代での2名体制の見張りを配置してくれ。」
「は、はい、わかりました。すぐに!」
ダルトンが指示を出すと、カウンターの中にいた職員達がキビキビと動き出した。流石というべきか、マスターの一声でギルドが速やかに動いた。
「マサツカ、これでいいんだな。あと、そこの、えーと、」
「俺はエルガーだ。傭兵じゃないんだが、今回の当事者だ。」
「なら、エルガーと、マサツカと、リンカ、それに、その四人は生きてるのか?」
「生きてる。悪いが、どこかで寝かせてやれないか?治癒魔術はかけておいたから、しばらくしたら目を覚ます筈だ。」
「なら、救護所だな。一応ヒーラーも付けておこう。おーい、この4人を救護所へ運んでくれ。そんで、ヒーラーを一人付けといてくれ。」
ダルトンの指示に従い、職員が出てきて気を失っている4人を速やかに運んで行く。指示一つでここまで動けるとは、ギルドの練度はかなり高いようだ。
「さて、これだけ動いてるんだ。大事なんだろう。悪いがもう一度、詳しい話を聴かせてもらおう。奥に来てくれ。」
こうして、俺達三人、マスターの部屋に案内された。
「そうか。そんなことがあったのか。で、今は5階層は変質しており、魔物だらけである確率が高いと。」
「はい。先程の四名を含め、私達が無事なのは、マサツカさんが大活躍したおかげです。」
「あいわかった。極稀にだが、迷宮が変質することがある、というのは聞いたことはあったが、このナビスでは初めてだ。俺達も充分注意しよう。ところで、エルガーとやら。」
「ん、なんだ?」
「エルガーと、救護所にいるメンバーを含めた五人は傭兵じゃないようだな。別に傭兵じゃないと迷宮に入れないわけじゃないが、珍しいこともあるもんだ。目的を訊いてもいいか?」
「ああ、隠していたわけじゃないんだが、俺達はグレルバルカ帝国の騎士だ。迷宮には、戦闘訓練と属性魔石の採取の為に来た。」
「おいおい!お前ら、グレルバルカの騎士だったのか!?」
グレルバルカ帝国?どこかで聞いたような、気もするようなそうでないような。
「なぁ、リンカさん、グレルバルカ帝国ってなんだ?」
こっそりリンカさんに訊いてみる。
「ちょ、マサツカさん知らないんですか?!ここから更に西にある、知らない人はいない位の大帝国ですよ。」
ふーん、大帝国ねぇ。
「グレルバルカの騎士で、国外で戦闘訓練ということは・・・」
「俺はしがない引率兼名ばかり隊長だが、救護所で休ませてもらっている四人は将来の近衛騎士候補だ。」
「おおっと、エリートの卵達ってわけか。」
「まぁ、彼らはそうだな。ただ、俺の引率ミスとはいえ、今回の件でまだまだ未熟だと思い知らされた。」
「あー、話しているところ悪いが、ちょっといいか?」
「「なんだ?」」
ダルトンとエルガーのおっさんの視線が俺に向いた。
「グレルバルカっていう大帝国の騎士だろ?わざわざ国外に出なくても、国内で訓練すればいいんじゃないのか?外に出たら金もかかるだろう?」
誰もが知る大帝国という位だ。なら、わざわざ国外遠征なんでする必要があるか?訊いてみたい。
「もちろん、ほとんどは国内で訓練するぞ。帝国内にも訓練施設はあるし体制もある。ただ、国内だけではどうしても視野が狭くなるから、皇族や近衛騎士候補に魔導士とか、そういう一部だけになるが、国外に出て訓練したり留学したりすることになっている。あんまりオープンにしているわけじゃないから、それを知っている人は意外と少ないがな。」
「で、その一部に選ばれたのが、エルガーだったり、今休んでいる四人ってわけか。すげぇな、ダルトンが言うように、エリートじゃねぇか。」
「あの四人は確かに帝国内でもエリートだ。だが、勘違いしているようだが、俺はただの引率だ。形は臨時の騎士隊長だが、それもこの旅が終わるまでの話だ。」
「その旅ってのは、あとどれくらいで終わるんだ?」
「全員が回復したら、明日にでもここを出て、一旦サナカを経由し、帝国へ戻ったら終了だ。」
ほーう。こいつらもサナカに行くのか。
「マサツカさん、私達と目的地が一緒ですね。」
とは、小声のリンカさん。小声で話しているから二人には聞こえないとは思うが、こいつらと目的地が同じ。さてさて。
「リンカさん、ここではちょっと。後で話そうか。」
「あ、はい。そうですね。」
「おーい、こそこそ何を話してる?」
「ああ、悪かった。こっちのことだ。」
「ところで、お前らはこれからどうすんだ?」
「迷宮には入れないし、明日にはナビスを出ようと思っている。」
「そうか。もし二人がサナカや帝国に行くなら、そこまで一緒にどうだ?お前らの強さなら、あいつらの勉強にもなると思う。もちろん、ギルドに依頼を出すから、護衛名目で。」
なんとまぁ、向こう側から同行のオファーがあったよ。しかし、急だな。
「なぁダルトン。この場で依頼を出したり受けたり、ってのはいいのか?」
「んー、まぁ、俺がいるから、いいぞ。」
「そうか。なら・・・リンカさんの意見は?」
「私は・・・グレルバルカという大帝国と繋がりを持てるというのは、後々何か良いことがありそうだとは思います。ですが、私が言えたことではないですが、かなり急な話だと思います。ごめんなさい、わからないというのが正直なところです。エルガーさんに悪意はなさそうですが、救護所にいる人達が回復して、会ってから決めてもいいと思います。勿論、マサツカさんの決定が最優先です。」
なるほど。
俺とリンカさんだけなら、飛行魔術でサナカまでの時間はかなり短縮できる。しかしまぁ、急いで行ったとして、確実に手がかりがあるわけではない。もしかしたら、グレルバルカ帝国にこそ何か手がかりがあるのかも。そう考えるなら、スピードは重視しなくてもいいかもな。あとは、リンカさんの言う通り、他のメンバーが回復してから決めてもよさそうだな。一応ここでは条件だけ確認しておこうか。
「エルガー、依頼として俺達に金を払ってまでの同行、そっちのメリットはなんだ?」
「お前達は強い。だから、道中あいつらを鍛えてやってほしい。それが帝国の底上げに繋がると思っている。」
んー、エルガーはそう言うが、やっぱり話が急すぎる気もする。他に意図がある、いや考えすぎか?あんまり手の内を見せたくないのが正直なところだが・・・。
「あてのない旅だから、サナカに寄るのは構わない。秘匿したい魔術もあるから、教えられないこともある。あと、今救護所にいるメンバーを見てから決めたい。それでもいいか。」
「ああ、勿論構わない。」
「ちなみに報酬額は?」
「サナカまで同行してくれるなら金貨五枚、帝国まで同行してくれるなら金貨十枚でどうだ?」
帝国まで同行は・・・んー。いざとなったら俺とリンカさんだけでも行くことはできそうだし、一旦様子見でサナカまでの同行にしておこうか。
「・・・・・・わかった。サナカまでの同行で金貨五枚だ。で、道中エルガー達を鍛えればいいんだな?」
「お、おう。え、俺も?」
「当然だ。もしこの依頼を受けることになったら金を貰うんだ、手加減無く鍛えてやるから安心しろ。」
「お手柔らかに頼むぜ、マサツカさんよ・・・ああ、余計なことをしちまったかも。」
「何か言ったか?」
「いやなに、遺書が必要かと思っただけだ。」
「賢明な判断だ。他の四人にもそう説明しておけ。俺達が泊まっている宿に、朝に全員で来い。出発日は延期しないから、もし明日の出発が無理だというなら、諦めてくれ。」
「ああ、わかった。その時は諦めるさ。」
こうして、かなり急な話だが、エルガー達一行が加わる、かもしれないことになった。




