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第47話


 ギルドを出てからというもの、リンカさんは上機嫌だ。そう、とても上機嫌だ。


「さ、今日は贅沢しましょう!晩御飯は豪華に!るんるんるん。」


 大金を得た、その嬉しさとやらはわからんでもない。なのだが、俺達の旅はこれで終わりじゃない。これから何があるかわからないからできれば倹約したい。というか、自分でるんるんなんて言うなよ。


「普通でいいだろ。それに、自分でるんるんとか言うなよ。」


「おケチ」


 思わず声に出してしまった俺も悪いかもしれないが、間髪いれずにこの言いよう。ちょっとがめつすぎないか?大金が入ったからといって生活水準をあげると、後に響きそうだがな・・・。


「あー、それじゃあ」


「ありがとうございます!」


「まだ何も言ってない!」


「みなまで言わずとも、私にはわかります。豪勢にいこう!これです。」


「・・・ああ、もう。今回だけだ。今後何があるかわからないから、節約を覚えろ。これは修行の一環だ。」


「はい!わかりました!」


「なら、よし。」


 正直、半信半疑ではあるが、まあ、本人がわかったというなら、もういいだろう。あまり堅苦しいのもストレスになるだろうし、な。今日の夕食は、そこそこ良い物を食べようか。

 そうと決まれば、明日に備えて今日はゆっくりしよう。いや、違うな。


「じゃあ、今日は夕食と休息、の前に修行だ。そろそろ飛行魔術、習得したんじゃないか?成果を見せてもらおうか。」


「おお、そうでしたね。修行の成果、とくとご覧あれ。」


 本当、この人修行とか強さとか、そういうことになると急に真面目になるよな。性格が極端な気もするが、まあ投げ出したり逃げ出すよりはよっぽどいい。





 で、今日はもう迷宮探索はやらずに、人気のない所に行ってからリンカさんの飛行魔術の修行だ。どれだけ上達したのか、師匠役として確認したいのが理由だが、大金を手にして浮足立ったリンカさんを迷宮に連れて行くのは、なんとなく暴走しそうで危ない気もした。そんなリンカさんだが、


「マサツカさん、見てください!浮いてます、ふわっと動けます!」


「ほう。やるじゃないか。動きもスムーズだし、魔力操作が上達している。」


「ですよね!ヤッホー!」


「調子に乗るな、声がでかい。誰かにばれたら面倒だ、静かにしろ。」


 とは言ったが、これは・・・正直驚いた。すぐに調子にのるところは残念だが、この上達スピードは、普通の人からすれば早すぎるだろう。迷宮内でも思っていたが、戦闘に関することになると本当に天才だな。こうなると、油断していたら俺もすぐに抜かされてしまうかもしれないな。まぁ、それはそれで構わない。俺が教えたことが役立ったのなら、それで充分だ。


「マサツカさんみたいな速度はまだ出せませんが、これからに期待してください。これで歩くよりも早くなりますね!」


「ああ、よくここまでできた。あとは俺の速さについてこれるようになればいい。」


「はい!お任せあれ!」


 本当、あとはこの調子乗りの性格がもう少しなんとかなれば。いや、これも個性か。ムードメーカーにはなっている、筈だ。


 で、訓練を終えた後、俺達は昨日と同じ、宿にある食堂へ向かった。もうすぐ夕陽が眩しく差し込もうという頃、夕食には少し早い時間だと思ったが、迷宮帰りなのか依頼を終えた人達だろうか、その人達で賑わい緩やかな空気が流れていた。なんだろうか、異国、いや異世界を旅しながらも、こうして戦闘から離れて一息つける場所にいると、思えば遠くに来たものだと、元の世界が懐かしくなる。もし、久中さんが側にいて、元の世界に戻る方法もわかっていればどうだっただろうか。懐かしいと思う感情に浸りつつも、もう二度と帰れないのではないか、という今俺が感じている一抹の気掛かりは、もしかしたら湧き上がらなかったのかもしれない。


「ささ、ピザにステーキにライスにミソスープ、どんどん食べましょう!」


「ゆっくり食べろ。逃げやしないぞ。」


 心ここにあらず、の俺をここに引き戻したのはリンカさんの食い意地だった。我に返って反射的に返答したが、しまったな。目の前にいる仲間を蔑ろにしてしまった。これは反省だ。しかし、ゆっくりとは言ったが、これまた驚いたな。米に味噌汁もあるのか。懐かしくて、俺が早食いしそうになる。ああ、元の世界が懐かしい。


「このあたりは、サナカ原産のライスとミソスープもあって、んー、美味しい!あれ、マサツカさんの顔が悪いです?」


「顔が悪いとはなんだ?この人相は元からだ。」


 どうやら、気付かない内に暗い顔をしていたようだ。ごまかしはしたが、表情に出るのはよくないな。


「ステーキ・・・おかわり?」


「・・・ああ、いいぞ。」


「ムフフ。あ、店員さん、ステーキおかわり!」


 嬉々として注文するリンカさん。よく見ると、最初に注文した料理がもう無い。この人、どんだけ爆食いしてるんだよ。


「マサツカさん、何か元気がなさそうですね。やっぱり、おかわりしてはいけなかったですか?」


「いや、そんなことはない。なんだ、そう見えるか?」


「見えますね。よし、ここは年長者である私がお話しを聴きましょう!何か心配ごとでもありますか?」


「そういうわけじゃない。ああ、そうだ。リンカさんが年長者と言うなら、俺に対しても敬語はいらないぞ。そのほうが堅苦しくなくていいんじゃないか?」


 何故だろう。ふと、こんな言葉が出てきてしまった。どうした?望郷の念というやつで弱っているのか、俺は。ああ、らしくもない。


「おお!マサツカさんから意外な提案!もしかして、心の距離を縮めたいということですね!ああ、でも困りました。私はお淑やかな淑女、敬愛するマサツカさんに敬語無しなんて。それに、敬語であってもなくても心の距離はすっかり縮まっています。その距離は最早無いも同然です!」


「いや、ただ堅苦しい。それに、この世界に生きる人類全てが、リンカさんを淑女とは認めない。断固としてな。リンカさん、この世界の淑女の定義とやらは、いつの間に変わったんだ?ん?」


「・・・今、聞き捨てならない発言があったような気がしますが・・・」


「気のせいだ。」


「むー。えっと、そういうことでしたら・・・ゆっくり、私のペースでいいですか?徐々に、自然な感じにしていこうと思います。」


「ああ、構わない。急に言って、悪かったな。」


「いえいえ、とんでもないです!私のことを思って言ってくれたんですよね。寧ろ、ありがとうございます。」


 少々ぎこちない感じになってしまったが、まぁ、大丈夫だろう。この後、運ばれてきた料理を、主にリンカさんがたらふく食べ、俺は米と味噌汁に感激し、部屋へ戻った。




「早速だが、これからについてだ。明日、迷宮の5階層まで進んだら、もう1泊してからこの街を出る、もしくは早めに終えたら、明日中に出る。明日中に出る場合、おそらく野宿だろう。サナカまでは、まだ遠い。」


「5階層までとなると、時間はかかりそうですね。今日の感覚だと。早く終わるとは思えません。なので、追加でもう1泊することもあるかもしれません。」


「なるほど。じゃあ、もう1泊する予定で、宿には話しておこう。」


「そうですね。念の為そうしておきましょう。もし、本当に早く戻って来れましたら、食料を買ったりして旅の準備をしておきませんか?」


「ああ、それがいいいだろう。おしえてほしいんだが、サナカまで遠いのはわかるが、途中に街はあるのか?」


「小さな街はいくつか。街というより、村でしょうか。それらがありますので、そこに辿り着けたら野宿しなくていいですね。」


「わたった。移動はリンカさんの飛行魔術も使えるから、歩くよりも早く進める。野宿も悪いわけではないが、体力の面ではなるべく宿をとるほうがいいだろう。」


「そうですね。野宿にも慣れましたが、やはり宿に泊まれるとありがたいです。」


 部屋に戻り、明日以降の行動について決めておく。俺達の当面の目標はサナカだ。ナビスの迷宮にも興味がないことはないが、あくまでサナカへ向かうことを優先したい。そのあたり、リンカさんからも反対意見はなく、スムーズに決まった。決まったところで、念の為防犯用に結界を張ってから、明日に備えて早めに寝ることにしよう。


「あの、マサツカさん・・・」


「ん?なんだ」


「えっと・・・・・・おやすみ!明日もよろしくね!」


「お、おう。」


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