第46話
「無事に戻って来れましたね。こう言ってはなんですが、苦戦しなかったです。私が聞いていた迷宮はもっと過酷なものですが、実際の迷宮はこういうものなんですか?」
傭兵ギルドへ戻る為、ナビスの迷宮から無事に出てからの、リンカさんの言葉だ。んー、帰りも特に危なげなかったが、この感じだと、かなり浮かれている気がする。
「いや、違うな。今回はまだ上層だったから楽に行けた。通常は下の階層に行くごとに魔物は強くなり、トラップも増える。油断していると、即死に繋がるぞ。」
死に繋がる。脅かす訳ではないが、危機感は持ってもらいたいのでそう伝えた。
「なるほど。マサツカさんが行ったことがある迷宮で、特に手ごわかったのはどんな迷宮でしたか?」
「俺が過去に行ったのは1つだけだ。だが、階層数は100、そこそこ手強いと思うぞ。魔物は、厄介な特性をもつスライムの大群、頑丈な素材でできたガイコツ型やゾンビ型の、所謂アンデッド、レイスやリッチのようなアンデッドもいたな、ああ、アンデッドといえば、デュラハンもいたぞ。あとは、毒ガスの塊のような魔物かどうかもわからない物、様々な金属で造られたゴーレムやガーゴイル、今思えば、さっきの迷宮に出てきたエレメント系だろう、基本7属性全種類の魔物が、上級魔術を容赦無く放ってきたこともあった。あの時はよくわからなかったから、ひたすら倒したな。それに、落とし穴に始まりギロチンや壁から無数の槍が飛び出したりするような罠もあったな。あとは、フィールド全体がこの前の火山のようであったり、水没していたり吹雪いていたり、鎌鼬が襲ってきたり雷が落ちまくるということもあった。話せばキリがないが、だから俺にとって迷宮というのは、そういうものだと思っている。」
「・・・・・ひぇ~~。」
なんか、引いてる。それも、ドン引き。
「なんだ?そのリアクションは。」
「いえ、だって、その迷宮ヤバすぎです!そんな迷宮、きいたことないです!」
どうやら、この世界にも、ヤバいという表現はあるようだな。
「ほう。ということは、ほとんどの迷宮はそんなことはないと。」
「ないですないです。大抵は30階層か、多くても50階層位で終わりますし、それでも多い位です。踏破は可能だけど、迷宮核を取ってしまうと以後魔物が出てこなくなって、倒して魔石を取れなくなるし、財宝も出てこなくなるから、迷宮核はとらず、最奥にある財宝だけ取って帰ってくることが多いです。大抵がそうというだけなので、一部例外もありますし、ナビスのように踏破されていない迷宮も勿論ありますので、一概には言えませんが・・・。それにしても、マサツカさんが言うその迷宮は、難易度が高すぎると思います!」
「俺もギルドのおっちゃんからそう聴いている。えらく迷宮に詳しいな。」
「前から迷宮探索してみたかったので、私も色々調べてたんです。凄いでしょ!」
「ああ・・・まぁな。そこまで調べているなら、決して浮かれず、油断するなよ。」
俺が踏破したあの迷宮、今でも思い出すだけで嫌な感じがする。多分、アレだ、あのクソ師匠がいたからだ。迷宮は悪くない、多分。
「ひとまず、ギルドに行きましょうか。今回は苦戦しなかったし、迷宮にいた時はそうでもなかったんですが、外に出ると、なんだか疲れた感じがします。」
「だろうな。常に気を張っているから、知らない間に疲労は蓄積される。早く換金して、今日は休もうか。」
「そうしましょう。それで、明日は何階層まで行きます?」
「明日、か。5階層まではどうだ?それが終われば、そろそろ次の街に行きたい、できればサナカに行こうと思っている。ナビスの迷宮が50階層以上あるというなら、踏破という目的がない限り、ここに時間をかけすぎたくないのが本音だな。」
「サナカといえば、グルメ!迷宮ももう少し深く潜りたいですが、サナカもいいですね!」
「そういうことだ。情報も集めたいが、美味い物を楽しむのも良いだろう。その為に、集めた魔石を換金するぞ。」
「はい!お金に換えましょう!美味しいご飯が待ってます!」
なんとも俗っぽい、食い意地のはった神子だことで。
しばらく歩き、何事もなく無傭兵ギルドに到着。ギルドに入って、受付のカウンターへ行って、用件を伝えた。
「魔石の換金を頼んでいた、マサツカとリンカだ。昨日預けた魔石の件と、新しくこれらの換金も頼みたい。」
受付でそう伝えて、俺とリンカさんのランクカード、さっき回収した魔石が入った袋を渡した。
「はい、かしこまりました。こちら、お預かりします。ええと、マサツカ様ですね・・・・・・お手数おかけしますが、奥の部屋でお話しがありますので、ご案内します。」
「ん?ここでは駄目なのか?」
「申し訳ありませんが、マサツカ様が来られた場合、奥にご案内するよう指示を受けています。どうぞ、ご案内します。」
と、俺達を案内するのは、小柄な男性、子どもか?いや違うな、おそらく小人族かゴブリン族だろう。その男性に連れられて、受付の喧騒から逃れるように奥の部屋に案内された。
「ご足労かけました。こちらの部屋です。お入りください。」
カウンター横の扉を通り、進む。案内された所にある扉の前で、そう告げたさっきの職員は、そのままカウンターへ戻ってしまった。このまま待っていても何もなさそうなので、言われたとおり、部屋に入ることにしよう。怪しいところは、今のところなさそうだ。
コンコンコン
「おう、手間をかけたな。入ってくれ。」
「ああ、失礼する。」
「失礼します。」
俺とリンカさんがそう答えて、部屋に入った。中は、小さな洋風の応接室の様であり、奥に机が置いてある。その机の前にいたのは、昨日カウンターにいたおっちゃんだった。
「わざわざ呼び立てて悪かったな。ま、座ってくれ。」
おっちゃんに促され、警戒気味のリンカさんと共に席に着く。魔石の換金なのに、明らかに大袈裟だ。何かあったか?
「そう警戒するな。俺はこのナビスの傭兵ギルド、マスターのダルトンだ。昨日も会っただろ?怪しい者じゃない。」
「あんた、マスターだったのか。」
「そうだ。」
そう言って、ニィ、と笑うおっちゃん、いや、ギルドマスターのダルトン。そうか、このおっちゃんマスターだったか。してやったり感を出しているが、俺にとっては別になんともないぞ。
「で、ここに呼んでまで話す用件があるんだろ。どうしたんだ?」
「金額の話だ。表のカウンターでするにはデカすぎる。」
「ほう。いくらだ?」
「金貨200枚。どうだ?」
なるほど。大金だから、受付のカウンターだと大事になるということか。で、ここに呼ばれたわけだ。で、肝心の換金額は金貨200枚、ねぇ。
「・・・それは、相場、適正価格か?」
「おいおい、勘弁してくれよ・・・金貨、230枚。正直、他の傭兵ギルドでもこれ以上は無い。つまり、金貨230枚が最高額だ。これで承諾しないなら、あの魔石は諦める。」
「ああ。わかった。金貨230枚で。」
「成立だな。今ここに金貨200枚がある。追加の30枚を持って来るから、そこで待っていてくれ。」
言うやいなや、ダルトンは部屋を出る。そんなつもりはなかったが、少し意地の悪いことをした。だが、貰えるというならありがたく貰っておこう。
「マ、マサツカさん。金貨230枚・・・私達、どうしましょう・・・」
「どうするとは?」
「金貨230枚なんて大金・・・震えがとまりません。」
「それだけの金貨があると、どうなるんだ?」
「えーと、多分、2人なら少なくとも1年は働かずに生活できると思います。」
ほう、そうかそうか。なら、当分は金の心配はしなくてよさそうだ。これはありがたい。先立つものは金だ。そして、金があれば時間を買うことも、場合によってはできる。
「それだけの金があれば、しばらくは依頼を受けて金を稼いで、ということが必要なくなるな。予定を変更して、明日からすぐにサナカへ向かうか?」
「んーー、むむむ・・・・・・迷宮、行きたいです。」
「オーケー、わかったわかった。わかったから、そう睨むな。」
リンカさんの心、それはサナカのグルメと迷宮の間で揺れ動いたようだが、どうやら迷宮が勝ったようだ。2つの欲望に揺れ動くその様は、つくづく残念神子だな。
「待たせたな。ほらよ、追加の金貨30枚だ。」
ダルトンが戻ってきて、金貨30枚が入っているであろう袋をテーブルに置いた。
「リンカさん、確認してほしい。最初の200枚も含めて、な」
「わかりました。すぐ確認しますね。」
そういうと袋を開けて、テーブルに金を出して数えるリンカさん。さっきは残念神子だと思ったが、意外や意外、すらすらと手際よく数えている。
「はい、マサツカさん。間違いなく金貨230枚あります。こんな大金、夢のようです!」
おいおい、大金を前に目がキラキラしてるぞ。前言撤回、リンカさんはやっぱり残念神子。
「そう警戒するなって。ちゃんと金は用意している。ちょろまかしたりなんざしてないさ。」
「わかってる。念の為確認したまでだ。ここではっきりさせておいたら、後々トラブルにもならないだろう。」
「ま、そのとおりだ。ホント、Fランクのままにしておくには惜しすぎる。」
「ランクの話はもういいだろ。あと、追加で渡した魔石の換金はどうなった?」
「あれは通常通り、受付で金を用意してあるから、受付で貰ってくれ。」
「ああ、わかった。今回は世話になったな。」
「かまわん、またこいよ。」
こうして、金貨230枚という思わぬ大金を手にした俺達は、ギルドマスターの部屋を出た。




