第42話
リンカさんと旅をするようになってから、早数日。道中、晴れの日ばかりではない。時には豪雨にさらされたり、雷が轟くこともあったが、無事に旅は続いている。
飛行魔術も繰り返し練習し、少しずつであるがリンカさんも形にしつつある。そんな、ある夜に焚き火を囲みながらの一幕。
「マサツカさんは、なんで旅をしているんですか?」
「旅の理由、ですか・・・」
正直に話してよいものか非常に迷う。違う世界からやってきた、片思いの人は行方不明、だから探し出して、元居た世界に帰る。単純な、これが理由だが、それを正直に言っても信じてはもらえまい。頭のおかしいイタイ奴認定だな。いや、ネイアさんは信じてくれたな。案外、そういったことはこの世界ではあるのか?
「あ、訳ありでした?」
「いえ、まあ。同郷の人がいるんですが、行方不明になってまして。その人を探す旅です。」
「そうだったんですね。で、その人は女性ですか??」
そこかよ!唐突だな。んー・・・
「ええ、そうです。」
「おお、幼馴染ですか!?いや、愛を誓い合った恋人同士、いや、もう夫婦!?」
「話が飛躍し過ぎています。まぁ、友人です。」
そう、今は。いずれは、と願いつつ。
「くー、幼馴染がやがては愛を!それは、旅の理由になりますね!本当、見つかってほしいです。」
なんか、キャラ変わってないか?
「案外、可愛いところがあるんですね。私よりも年下なのに、年上みたいですし、なんか影がありましたので。マサツカさんも、やっぱり人間なんですね。私、感激です!」
リンカさん、あなたはそんな事を思っていたんですね。しかしまぁ、こういうことが言えるのは、少しは仲良くなれたということか。そうだ、きっとそうなんですね、残念神子さん。
・・・・・・体の半分以上が機械の俺は、人間、でいいのか?
「なかなか、言いますね。」
「少し、お茶目してみました。ああ、それから・・・」
「それから?」
「旅の仲間、私達はいわばパーティを組んだも同然です。私に対して、敬語なんて使わず、もっとフレンドリーに接してもらってもいいんですよ。マサツカさんに、敬語は似合わないです。」
「それを言うなら、リンカさんこそ。年上なんですし。」
「いえ、ほら、私は麗しき淑女ですから。」
・・・誰が淑女だ?淑女なんざ見当たらん。
「んー、それじゃあ・・・飛行魔術、できるまでバシバシ鍛えてやるから、覚悟しとけよ。」
「おお、いいですね!若々しくて格好良いです。それでいきましょう。」
「ああ・・・よろしく頼む。」
なんか、調子狂うな。いや、このくらい砕けた方がいいのかもしれない。いつ終わるとも知らぬ旅、軽いほうがいいに決まっている。
さて、焚火を囲った休憩は終わり。宣言通り飛行魔術は容赦なく鍛える、叩き込む。バシバシ鍛えるとは言ったが、今日のリンカさんの動きはこれまでと違い各段に良くなっている。体のバランスもそうだが、魔力をうまく安定させている。リンカさんの言動は残念な部分が多いが、やはり魔術のセンスはとても良いようだ。このままいけば、俺よりも上手くなるかもしれない。期待できるな。
「もー、ダメです。疲れました。バテました。お休みを要求します。ご飯ください!」
「いーや、ダメだ。・・・嘘だ。お疲れ様、よく頑張ったな。だいぶ上手くなっている。明日からは、日中進みながらやってみようか。」
「おお、マサツカさんがデレてる。」
「やっぱりもう一回・・・」
「よ、優男、慈愛の神!お慈悲をくださーい!」
・・・まあ、いいだろう。少し遅めの夕食としよう。
せっかくなので、マジックバッグに入れておいた食料を。お、どこで買ったか忘れたが、串焼き肉がたくさん。2本ずついただこう。
「ほらよ。こんなのはどうだ?」
「わ、美味しそう!しかもアツアツ。マジックバッグ、やっぱり反則ですね。入れておけばどこでも出来立てを食べられる。」
タレの味がしみ込んだ串焼き肉を、焚火を囲みながら2人で食べる。特に変わらない普通の料理だが、普段街中で食べるよりも数倍は美味い気がする。
よし、ご馳走様。食べ終わった後、クリーンの魔術で自身の汚れを落とし、寝る。リンカさんは飛行魔術の練習でいつも疲れ切っているから、最初は俺が、その後にリンカさん、更にその後に俺の順番で夜の番をしている。
当然だが、この世界にはテレビもスマートフォンも無い、元の世界のような娯楽なんてものも無い。なので、夜の番は何事もなければ退屈な時間が過ぎるのを待つだけだ。それでも、迷宮内で一人で常に気を張っていたことに比べれば随分と楽だ。音は、風と焚き火の音だけ。静寂な夜は深い闇の底のようで、ふと考えてしまう。久中さんは無事だろうか。もし、何かあったら。そもそも、あの誘拐犯から守ってあげることができたら。いや、きっと無事だ。根拠は無いが、いや、根拠が無いからこそ、自信を持て。
それと、あの森で俺を襲撃した奴らは何者だ?何故俺を?偶然あの森にいたから?考えても今は答えがでないが、俺がこの体になったのは、あいつらが原因でもある。この体で、半分以上機械となった俺は、元の世界に帰ることができたとして・・・
いや、駄目だ。弱気になっている。夜の暗闇は時に俺を弱くする。あの時の修行や迷宮を乗り越えてもなお、メンタルは強くはないらしい。しかし、その大して強くもないメンタルが実に人間らしくて、俺が人間である証明のように思えた。
無事に次の日を迎えることができた。夜の番を交代する時、顔色が悪い、とリンカさんは驚いていたな。おそらく、考えすぎたのだろう。心配をかけたようだ。
朝日が輝きながら昇ってきた。今日は晴れ、運が良いな。リンカさんと旅をするようになって、日の出があれば毎度その瞬間に立ち会っている。この瞬間が、実は結構好きだったりする。
「んーーー、綺麗な太陽ですね。」
「よう、今日は早起きだな。」
「なんとなく、いい日の出が見られそうな気がしまして。それより、大丈夫ですか?」
「大丈夫、とは?」
「昨日交代する時、なんだかとても疲れているように見えました。私が足を引っ張っていて、無理をさせてしまっているんじゃないかと、正直心配でした。」
「ああ、そういうことか。リンカさんが悪いとかではないし、そんなに疲れているわけでもない。大丈夫だ。ありがとう。」
「そう、ですか。悩んでいることとかあれば、言ってくださいね。聴くだけになるかもしれませんが、役に立ちたいです。」
「ああ、ありがとう。その時は相談させてもらう。」
それは・・・頼りになるな。よし、もう大丈夫だ。
起床後、テント等夜営の道具を片付けて、出発。これも、ここ最近はとてもスムーズにできるようになった。今日は移動の時にリンカさんに飛行魔術の訓練を行う。低空でふわふわと浮いて、やがて体を地面と水平にして浮くことができたと思えば、ゆっくりではあるが滑らかに進んでいた。魔力操作に神経を集中しているからか、なかなか面白い顔になっていたが、言わないでおこう。
必死の形相でゆっくり進むリンカさんを見つつ、笑みを抑えつつ進んでいくと、正午を迎える少し前、大きな街らしきものが見えた。
「リンカさん、あれは何かの街か?」
「え、ちょ、わ!・・・・・・落ちちゃいました。」
「ちゃんと足で着地できてるから大丈夫だ。随分上達したな。ところで、あの街は何か知ってるか?」
「ふっふん!うまくなったでしょう!えー、この辺りであの大きさの街となると、ナビスだと思います。」
「ナビス?」
「街の近くに迷宮がある、というより、迷宮があったから財宝を目当てに人が集まり、徐々に栄えていった街ですね。」
「街か。となると、今日は久々に宿に泊まるか?」
「勿論です!やっと柔らかいベッドで眠れます!」
よし。なら今日はナビスに泊まろう。ついでに、リンカさんの傭兵登録と、火山で集めた魔石を換金だな。
久々の街に期待を抱き、俺達は街に入ることにした。




