第40話
翌朝、目が覚めたので宿を出る。そよ風と共に、朝日がキラキラと輝いている。今日じは良い祭り日和になりそうだ。
そう、今日から祭りがある。これを楽しみにラルダに来たから、存分に楽しみたい。村の中は、屋台を組み立てたり装飾をしたりする人が多いな。そういえば、ラルダに来たときにはわからなかったが、エルフや獣人等、人間以外の種族の姿もチラホラ見える。どうやら、彼らも祭りを楽しむ為に来たようだ。
さて、リンカさん達はというと、リンカさんとカザリさんは神子と神子の護衛としての準備があり、ミヒメさんも手伝っているようだ。リョウカさんは他の村人に指示を出したりと忙しそうにしていた。リョウカさん曰く、祭りは今日の夕方より少し前に仕切り直して始めるので、それまでは観光客である俺は暇だ。
なので、気になっていたことを確かめに、もう一度山頂の神殿、の最奥へ行ってみることにした。
山頂までは、飛んでいく。文字通り、空を飛ぶ。この飛行魔術、本当に便利すぎる。あっという間に山頂に到着したら、昨日リンカさんが塞いだ大岩を、土属性魔術でまるごと横に動かして、中に入った。昨日と同じように降りていくと、よかった、転移陣が残っていた。また一からやり直しはきついと思っていたところだから、一安心だ。安堵して転移陣に入ると、目の前が真っ白に。と思えば、やがて視界が開けて、目の前は昨日の巨人がいた場所だ。しかしまぁ、ここに来た途端、ものすごく暑い。相変わらず暑い!たまらずバリアを展開。
さて、巨人の爺さんはいるかな?おーい、おーい!
『ほっほ。こんなに早く来てくれるとは思わなんだ。ようこそ。』
マグマの海から声がして、ゆっくりと炎の巨人が現れた。
なるほど。実は、この山の内部が迷宮化していて、宝玉を無効化したから巨人の爺さんもいなくなるんじゃないかと思ったが、その心配はなかったようだ。これで一安心だ。
「早くお礼をと思いまして。無事に騒動も解決しました。昨日はありがとうございました。」
『おお、それはよかったのう。それで、昨日のお嬢ちゃんは見えないが、元気にしとるかの?』
「はい。今は麓の村で祭りの準備をしています。」
『そうかそうか。善哉善哉。』
善哉って、難しい言葉を知っているな。この世界の言語とか翻訳?はよくわからないが。
「実は、あの宝玉を持ち出したので、あなたが消えてしまうのではないかと後から思ったのですが、そうではなくて安心しました。」
『はっはっは。それはまた心配をかけたの。このとおり、なんともない。して、今回はどうしたのかの?それだけを確認しに来たわけではあるまいて。』
「はい。もし知っていればおしえてほしいのです。私と同じ位の年齢で、黒髪の女性、見たことはありませんか?その人を探しています。」
『黒髪といえば、昨日のお嬢ちゃんもそうだったの。そのお嬢ちゃんではなくて、か。んー、見たようなそうでないような。』
しばらく炎の巨人の爺さんは考えてくれたが、難しそうだ。
『うむむ、すまぬが前に見たような気もするがの、なにせ時間の感覚とか気にせんもんでな。会うた気もするが、いつのことかまるっきりわからぬ。すまんの。』
まぁ、仕方ない。そもそも、こんな火山の奥深くにまで来る筈もないか。
「いえ、とんでもありません。私は、その女性を探して旅をしています。しばらくすればここを旅立ちますので、あなたもどうかお元気で。」
『なるほどのぅ。見つかるとよいな。わしゃこのとおりピンピンしとるから、近くに来たらまた顔を見せておくれ。』
「はい、ありがとうございます。お互い元気に、また会いましょう。」
炎の巨人の爺さんへの挨拶を終えた後、転移陣を使って神殿を出て、入口を塞いだ。そうか、ここにも久中さんに繋がる何か、は無かったか。久中さん、あなたは今どこにいるんだろう?焦っても意味が無いとはわかっているんだが、それでも気が焦る。勝手だが、我侭だが、少し、期待していた。何かヒントでもあるんじゃないかって。なんで、こんなことになっている?俺のことはいいが、久中さんにもし何かあったら!ああ、駄目だ、勝手に期待して、それがかなわなかったからといって、自分勝手に不機嫌になるとは、まだまだ甘い。このままでは目の前の祭りを楽しめないな。そのままラルダへ飛行、というのも有りだが、ゆっくり、気分を落ち着かせよう。飛ばずに、この山の探検でも兼ねて、大自然を散策しよう、
山頂付近はゴツゴツとした赤褐色の岩が多いが、ところどころに鮮やかな緑の草木がある。森林限界というのか、高所になるにつれて背の高い木は減っているように感じた。そよ風が迎える山道をゆっくり歩く。ところどころ、この前の火災のせいだろうか、不自然に黒くなっている場所もちらほら視線に入ってきた。残念に思うが、これも自然の営みになるのか。高所から下山しているので、最初は背が低い木々ばかりで視界が開けていたが、やがて背の高い木々が空を覆うようになり、木漏れ日が煌めきながら山道を彩る。いつも飛んで移動していたから、こういう風景を見逃していたようだ。加えて、そよ風が優しい。これからは、たまにはゆっくり歩いてこの世界を見てみるのも、悪くないかもしれない。
よし、心が落ち着いてきた。このままゆっくりのんびりしていたい、とはいえ祭りにも間に合いたい。少しばかりの駆け足で下り、風景を楽しみながらラルダへ戻った。
ラルダへ戻ると、もう日が傾きかけていた。幻想的な夕陽に照らされたラルダでは、屋台がほとんど完成していて、いよいよ祭りの始まりという空気になっていた。見れば見るほど、ますます元の世界の縁日の祭りに似ているように感じられる。
「もー、マサツカさんどこに行っていたんですか?もうそろそろ始まりますよ。」
ラルダに戻った俺に声をかけてきたのは、巫女服姿のリンカさん、それにカザリさん。どうやら、神子達の準備も終わったようだ。
「ああ、ちょっと山に。もう始まるんですね。」
「そうです。これから姉さんと私で、山の洞窟にある宝玉をとってきて、社の台座に安置します。それから祭りが始まりますので、たくさん楽しんでくださいね。」
「ありがとうございます。なら、社にいたほうがいいですか?」
「はい!私達がササッと行って戻ってくるから、社で待っていてください!宝玉を置いたら、一緒に屋台を回って楽しみましょう!」
おお、リンカさんはやたらと明るい。この姉妹、見た目は当然似ているとして、姉はやんちゃな野生児、妹は聡明な勤勉娘、といったところか。
2人が村から出るのを見送って、村をブラブラして、社で待つ。待つこと30分位だろうか、今回は何事も無く2人が戻ってきた。この時だけは、神子とのその護衛以外の人は鳥居から出て社の周りで待たなければならないようで、外で見守る。リンカさんは、宝玉2つを手にしており、その手にした宝玉を、社の中のある台座に置く。気が付けば周りには村人や観光客だろう、多くの人がその光景を見守っていた。その人々が、宝玉が台座に置かれるのを見届けると大きな歓声をあげた。これが、祭りの始まりの合図だ。
祭りは、まぁ賑やか賑やか。村中に設置された松明が村全体を明るく照らし、村全体に活気が溢れている。先程の大役を終えたリンカさんがすぐに合流してきたので、早速一緒に屋台を巡ることにした。屋台の料理はどれも美味そうだ。できたてのパン、良い香りのスープ、肉の串焼き、野菜焼き、お、飴玉もある。酒売り場もあるな。他にも、木でできたお面売り場や的当て等、遠い異世界にいながら、どこか懐かしさを感じさせるものだった。で、俺が手に持っているのは鳥の串焼き、所謂焼き鳥だ。タレの味がしみ込んでいて、美味い。これも、他の料理も、大目に買ってアイテムボックスに入れておこう。デュラハンの魔石の売り上げ金がまだまだある。これからも旅は続く、味気ない旅より美味い旅が良いに決まっている。
今日は、初日の締めくくりとして、村の広場で演武があるそうだ。なんでも、カザリさんが演武に参加するらしい。役目を終えて、先程合流したリンカさんは、屋台で買った料理を両手にたくさん持ちながら、とても上機嫌だ。
「美味しい物を食べながら、悠々自適に演武を見る。マサツカさん、良き良きですね。」
「ええ、一時はどうなるかと思いましたが、ほっとしますね。心置きなく楽しめます。」
「マサツカさん、私、今回のことで決めました。もっともっと強く、賢くなります!」
「それは、良い決心ですね。」
「そう思いますよね!私、まだまだでした。村の中でいきがっていた若輩者だったんです!」
若いことは別にいいだろうに。この饒舌ぶりは、酒でも飲んだのだろうか。
用意された椅子に座り、俺の横に位置するリンカさん。彼女の、松明に照らされたその顔は、どこかこれまでよりも赤みがかっているように見えた。やはり、酒を飲んだか?
広場を円状に囲んだ俺達観客の前で、様々な演武が繰り広げられる。その中でも、特に注目されていたのは、やはりカザリさんだ。日が落ちてすっかり暗くなった闇を背景に、火や光を中心とした魔術を使いながら舞う姿は、生ける芸術だ。まるで花火を纏っているようにも見えた。他の観客も釘づけになっている。やがて燃え上がる轟音と共にカザリさんの演武が終わると、観客全員が大きな、万雷の拍手を送った。
「マサツカさんは、この祭りが終わったら、やっぱり旅立つのですか?」
「はい。やらなければならないことがありますので。」
「そう・・・ですか。そうですよね。明日も屋台が出ます。最終日の明後日は、宝玉を山に戻して終わりとなります。最後まで、たくさん楽しみましょうね。」
そう言ったリンカさんは、さっきまでの、言っては悪いが酔っ払いのような口調とは違い、どこか憂いを帯びた言葉は、炎に照らされた横顔とともに、強く心を打たれるものだった。
今日はカザリさんの演武で終了、皆各々の家や宿に戻っていく。こうして、初日は無事に終えることができた。
その後、2日目もたくさんの屋台が出た。特筆すべきは、おしるこだろうか。餅のような団子にはしっかりとした歯ごたえがあり、あずきの味がしみ込んでいた。故郷の味のように感じられ、とても美味かったが、この世界に餅とあずきが存在することにも驚いたな。これはリンカさんのオススメだけあって、大当たりだ。これも、大量に買ってアイテムボックスに保存だ。
3日目は、朝から昼過ぎまで開いていた屋台が終わり、夕方頃には広場から出発したリンカさんとカザリさんが社に宝玉を取りに行き、山へ向かうのを見送ることになっていた。2人が社に行って宝玉を手にしてから山へ行き、何事も無く戻ってきた姿を見届けた俺は、本当に何事もなくてほっとしている。夕陽が沈む頃、色々な騒動があった今回の祭りは、無事に幕を閉じることができた。食べ物や催しを、リンカさん達と共に楽しむことができて、とても充実していたな。この世界に来て色々あったが、久しぶりに心身共に休息できたような気分になれた。
祭りを終えた次の日の朝、準備を終えて宿を出た。宿を出ると、観光に来ていた他の人達がたくさん集まっていて、とても活気があった。どうやら、ラルダを出発して自分達の家に帰ったり新たな場所へ旅立ったりするようで、このガヤガヤした感じは祭りの賑やかさの名残であるように思えた。
さて、切替て俺も旅立とう。色々あったが、とても楽しませてもらった。次の目的地は、予定通りサナカだ。
その前に、リョウカさんの家に旅立ちの挨拶に行こう。
「祭り、たくさん楽しませてもらいました。ありがとうございました。」
「それはこちらも同じです。あなたが来てくれなければ祭りどころか、村が無くなるところでした。本当にありがとうございました。」
「娘達も無事で、感謝の気持ちでいっぱいです。よければ、また来てくださいね。」
「私からも、ありがとうございました。次の祭りも来てくれましたら、更に磨き上げた演武をご覧に入れます。楽しみにしていてください。」
リョウカさん、ミヒメさん、カザリさんから暖かい言葉をもらった。リンカさんはというと、
「助けてくれたこと、感謝します。あなたでしたら、もう少しいてくれてもいいんですよ?」
「お気持ちはありがたいです。ですが、やることがあるので。名残惜しいですがそろそろ行きます。また、会いましょう。」
リンカさんだけは、少し拗ねているような、むくれている感じだった。そんな顔するなよ。これじゃあ、ただの駄々っ子じゃないか。
挨拶も無事に終えたし、旅立とう。他の観光客は馬車を手配したりして出発に時間がかかりそうだが、俺の場合は自分の足と魔術でなんとでもなる。
村を出て、サナカの方角を目指して、歩き始める。一気にダッシュしても飛んで行ってもいいが、なんとなく、始めはゆっくりと歩きたかった。
ラルダの村の外は、柔らかい緑の平原が広がっており、とても歩きやすい。ゆるやかな風が頬を撫でていき、良い旅路を予感させる。
「ふーーー、のどかだねぇ。」
「本当、のどかで癒されますね。」
思わず漏れた独り言に返事をもらい、しばらくはゆっくりと自然を感じながら進もう・・・・・・
ん?んん!?
「あれ、マサツカさん、どうされました?らしくないですね。」
な、な、な・・・・・・・・・なんかおる!?




