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第4話

「マサツカ、起きろ。朝だ。」


 翌朝、ネイアさんに起こされて目が覚めた。目の前には朝の陽ざしと草原が広がっている。異世界でも、当然だが朝には日が昇るようだ。


「ネイアさん、おはようございます。」

「うむ、おはよう。早速だが、朝食の後すぐに出発したい。いいな。」

「はい。」


 俺は渡されたパンを食べ、水を飲んだ。昨日の夜に食べたパンと同じく硬いパンだったが、充分だ。感謝感激、パンうます。


「すまないな、硬いパンだろう。最近サナカへ行くことがなくて、美味い物が中々手に入らなくてな。今はそれしかない。」

「いえ、とんでもないです。ご馳走様です。ところで、サナカのパンはそんなに美味しいんですか。」

「ああ、そうだ。昨日言った、過去にニホンから来た者が作ったと伝えられる街でな。革新的な技術を持ち、何よりも食文化が発達している。パンだけでなく、他にも美味いものがたくさんある。」


 ニホンから来た者が作った、というなら、和食か?いや、パンもあるというなら、比較的俺がいた世界と時代が近いのだろうか。


「ここからは遠いが、もし機会があれば行ってみるといい。食の都とも言われている街だ。商人も多く集まる。情報も集まりやすいから、マサツカが探している人物の情報もあるかもしれないな。」


 そのとおりなら、可能性は高い。王都に行った後は、そこに行くのもいいかもしれないな。


「ありがとうございます。王都の後に、行ってみます。」


 そう答え、俺は出発の準備に取り掛かった。服装は高校の制服のままで、着替えはなかったので、制服の上からネイアさんに貸してもらったマントを羽織っただけだ。カバンは元の世界において来てしまったようで、見当たらない。財布や携帯電話も入っていたのだが、まあ、この世界では意味はないだろう。マントを羽織って、準備ができたと思ったとき、


「マサツカ、そなたは丸腰だろう。これを持っておくといい。」


 と、渡されたのは、昨日俺を襲ったガイコツ死神が持っていた、大鎌だ。俺の命を刈り取ろうとした、あの大鎌だ!


「こ、これ!あの死神の!?」

「そうだ。あれはリッチという、アンデッドの中でも上級で珍しい魔物でな。そのリッチの大鎌は、強力な武器となる。」

「と言われましても、呪いとかあるんじゃ?」

「心配するな。リッチそのものは危険でも、その大鎌には特に呪いはない。それに、そんなに重くなく、寧ろ軽いだろう。自分に合った武器が見つかるまでは、それを使うといい。」


 呪いがないなら、とにかく大丈夫だろう。持った人間をあの世へ誘う不吉の塊、みたいな物だったら、なんて心配したが、ネイアさんが言うなら大丈夫だろう。俺のネイアさんポイントが爆上がりだね。

 それに、確かに軽い。異世界でのファンタジーといえば、武器といえば剣だと思っていたが、なるほど、実際はこういうこともあるか。

 こうして、俺の武器は大鎌となったのである。死神になったみたいだな。フフフ、夜道に気を付けな、深淵はいつも君を覗いている。なんちて。


 渡された大鎌を持ちながらそんなことアホなことを考えていると、ネイアさんも準備ができたようだ。ネイアさんは、黒い皮でできた軽装鎧に身をまとい、剣を装備していた。朝の陽ざしをバックに赤髪が輝く。なんというか、とてもカッコイイです。


「では、行こう。今日の昼には着くと思う。」

「はい。よろしくお願いいたします。」





 道中は特になにもなく、順当に進むことができた。周りは緑の美しい平原が広がっており、道はアスファルトで舗装もされていない、元いた世界の、のどかな田舎道を思わせた。


 道中、ネイアさんからこの世界のことを教えてもらったので、道中に整理しておこう。

まず、暦であるが、1年は1月から12月、1か月は30日又は31日で、閏年はない。秒、分、時間も日本と同じく存在しており、1日は24時間、1時間は60分、1分は60秒。つまり、俺がいた世界と同じだ。

 次に通貨だが、ギルという単位があり、鉄貨、銅貨、銀貨、金貨の順に高価になる。鉄貨100枚で銅貨1枚、銅貨10枚で銀貨1枚、銀貨10枚で金貨1枚に値する。鉄貨1枚で1ギル、金貨1枚で10,000ギルとなるわけだ。

 また、この世界では15歳で成人となるようで、高校生の俺はこの世界では立派な大人というわけらしい。

 他には、この世界ならではというのが、魔術の存在である。大きく分けて、火、水、土、風、雷、光、闇の基本7属性に、時、空間、無の特殊な3属性がある。また、魔術の使い方として、魔物等を攻撃する際の攻撃魔術、身を守るための防御魔術、怪我や病気の治療のための治癒魔術、生活するための生活魔術、等がある。

 魔術には、この世界の住人であれば誰もが使えるものらしいが、適応する属性や使い方に向き不向きがあるらしく、総じて魔術に優れている者は、例えば宮廷魔術師として国に仕えたり、治癒院にて治療を職業にする等、魔術を仕事にしている場合が多い。


 ちなみに、俺の魔術といえば、


「ファイアボール!」

「アクアショット!」

「ストーンブラスト!」

「ウインドエッジ!」

「ライトニング!」


 シーン・・・何も起こらない。マジで何も起こらない。


「うーむ、違う世界から来た者には魔術の適正がないのか。今のは全て初級魔術。初級であれば、大抵の者はどれかの属性で使えるものなのだが・・・」

 

 このとおり、俺には魔術の適正が皆無らしい。元々この世界の住人ではないし、やはりというか、予想はしていたが少しショックだ。

 敵の大群を前に、たった一人、殿として残された俺が、敵を豪炎で焼き尽くし、味方を守る。俺はヒーロー、久中さんは俺に惚れまくる!

 なんてことは、まぁ、それこそ夢だわな。


「魔力は血液のように体の中を駆け巡る。その魔力を体外に、自分のイメージをいかに具現化し、発現するかが重要だ。要はイメージの力でもある。体内の魔力量には個人差があるが・・・マサツカ、そなたには難しいか。」


 ネイアさんが、半ば憐れむような眼差しを俺に向けてくる。そんな目でみないでほしい。


 道中で魔術について教えてもらい、歩きながら練習してみようということになったのだが、試してみればこの結果だ。繰り返すが、俺には魔術の適正が無いらしい。正直、これはへこむ。


 魔術の適正がないことがわかり、それじゃあ大鎌はどうか、と振るってみるものの、これもムズイ。剣や槍のように、単純に切ったり突いたりできない。リッチの大鎌は、刀身が両方とも鋭い刃になっているため、通常のものよりも戦いに向いているのだろうが、それでも攻撃が大振りになってしまい、スキが大きい。

 

「やはり、鎌、それも大鎌となると難しいか。だが、コツを掴めばこれ以上ない程に頼もしい武器となる。少し貸してみろ。」


 そう言うネイアさんに渡してみると、手をうまく使い大鎌を高速回転させている。まるで黒い嵐のようだ。触れれば命はないだろう。正に攻防一体の要塞だ。


「うまく使えばこんなところだ。大変だろうが、しばらくはそれで鍛えてみるといい。」


 大鎌を返してくれたネイアさんは、平然と言ってのけた。軽いとはいえ、柄が俺の身長程もある大鎌を振り回したのに、呼吸一つ乱れていない。腕力が、いや、全身が鍛えられている。きっと、多くの修羅場をくぐってきたんだろう。強すぎる。マジパネェ。


「そう言われましても、ネイアさんみたいにはとても。」

「なに、簡単だ。全力で、振り回す。これだけだ。」


 なんという暴論だろう。あなたにしかできません。


「これもそうだが、世の中の大抵の事は、実は単純で、シンプルなものだ。深く考えず、鍛錬してみるとよい。」


 深く、真理をついているような、そうでないような名言だった。


 こうして、魔法の素質が無いこと、武器の扱いも未熟なことがわかったところで、目的地のフィーゴ王国の王都が見えてきた。


「あれが目的地ですか?」

「そうだ。フィーゴ王国の王都、フィネアだ。水と緑の街と呼ばれている、自然豊かな王都だ。」


 歩いていくと、だんだんと大きな、いや、巨大な木が見えてきた。城壁に囲まれているであろう街中から見えるそれは、近づくほどに大きく、深緑を湛えていた。


「これは、この大きな木は、何ですか?」

「これは、王都の名物にして象徴、世界樹だ。」

「世界樹、ですか。」

「そうだ。まだこの世界の大半が荒地ばかりで、人々は苦しい生活をしていた時代に、この世界樹が現れたことで、大地は緑にあふれ、綺麗な水や食物に恵まれた、と伝えられている。世界の元となった、という意味をこめて、世界樹とよばれているそうだ。伝承となっている話で、太古の話になるから真偽の程はわからないが、世界樹はこのとおり巨大だ。太古の時代から存在しているというのは、本当であろう。」


 なるほど、しかし、巨大な木だ。王都の入口までまだ距離はあるが、存在感がある、ありすぎる。まるで、世界の中心のようだ。

「マサツカ、あと少しで入口につく。王都についたら、しばし休憩をいれよう。」

「はい。」


 俺達は、世界樹の深緑を眺めながら、王都への入口へ足を進めた。


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