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第39話


 シィィン・・・


 さっきまでの悍ましい空気が払拭され、穏やかな静寂に包まれた。もう、炎の人型も、あの気色悪い骸骨も、出てこないだろう。


「あ、あの、マサツカさん」


「リンカさん、大丈夫ですか?」


「はい、私は。あの、マサツカさんは何ともないですか?」


「ええ、特に何も。」


 あいつらのビジュアルは中々エグかったが、終わってみればそんなに手強いこともなかったな、というのが正直なところだ。


「私、全然何もできなくて。怖くて、本当に怖くて・・・体が動かなくて、震えて。さっきの魔物が出てきた瞬間、ああ、もう駄目だって。なんでかわからないんですが・・・」


 辛そうにそう言うと、リンカさんは涙ぐみはじめた。


「私、村で一番強いと思っていました。誰にも負けないって。なのに、情けない。何もできなくて、助けてもらってばかりで・・・」


「リンカさん、情けなくないですよ。あなたは精一杯、自分にできることを果たしました。自分を誇ってください。」


「でも、でも・・・」


 ああ、これは相当落ち込んでるな。涙腺が崩壊して、とうとう泣きだしてしまった。怖かったのもあるだろう。こうなったら、気が済むまで涙を流してもらおう。案内までしてくれて、ここまで一緒に戦って、なお生き抜いたリンカさんを、誰が責めようか。



 夕陽が沈み、辺りは既に暗くなっている。ライトで周囲を照らし、迷子にならないようにしておこう。

 ふと台座を見ると、2つの宝玉が台座の下に落ちていた。もう、嫌な気配は無い。2つとも、無色透明になっていた。

 元々、火山の奥にあった宝玉にはさっきの魔物が封印されていた。で、最初から台座にあった宝玉が、台座とセットで封印の鍵となっていた。だが、時が経つにつれ、封印が弱まった、いや、魔物が恨みや何か良くないものを少しずつ取り込み、力をつけた魔物が封印を破ろうとしたのだろう。そのせいで、火山の奥にあったにも関わらず、強くなりすぎて外にまで影響を及ぼした。更に、俺達が火山から持ち出してここに持ってきたから、強くなりすぎた魔物が鍵となる宝玉を逆に侵食し、封印を打ち破った。単なる推測に過ぎないが、今回の事態はこんなところだろうか。


 あのまま放っておけば、いずれは村に大惨事を引き起こしたのだろう。しかしまぁ、神子がいて、山の神を祭る風習があるのに、山にいたのは神ではなく魔物だったとは、皮肉というべきか。いや、火山の奥にいた巨人は、ともすれば山の神として信仰されていてもおかしくはないのか?当の本人は、自身を神だとは思っていないようだったが。

 村に戻ったらリョウカさんとミヒメさんに訊いてみるか。何かわかればそれでよし。わからなくても、まぁよしとしよう。


 そういえば、あの魔物達、燃える人型は魔石を落としていたが、包丁野郎は落とさなかったな。全ての魔物が落とすわけじゃなくて、何か基準であるのか?

 よくわからん。一応、人型の魔物が落とした魔石を回収しておこう。売って旅の資金にでもなればありがたい。




「すみません、落ち着きました。もう大丈夫です!」


 しばしの休息を経て、よしよし、だいぶ回復したようだ。あたりはもう真っ暗だし、さくっと飛んで帰ろう。


「それならよかったです。今回は、とても厳しい戦いでしたね。」


「ええ、本当にもう。ですが、マサツカさんはそれ程でもないように見えます。本当に大丈夫ですか?さっきの大きな刃の魔物から、強力な恨みや怨念が一気に襲ってきて。多分、普通の人なら一瞬で意識を失います。」


「まぁ、確かに恐ろしい外見でしたし、物騒な物を振り回していたので危険でしたが、私にはなんともなかったですね。」


「・・・今までどんな環境で生きてきたんですか?」


「まぁ、それはいいじゃないですか。」


 思い出したくもない修行の日々よ。アレに比べたらなんてことはない。さ、村へ戻ろう。


「リンカさん、村まで飛んで戻りますよ。」


「ちょ、ごまかしましたね!」


「もう充分元気ですね。ほら、行きますよ。」


 何か言おうとしているようだが、無視無視。所謂お姫様抱っこで、いざ飛翔!





 さらっと飛んで、よし、無事にラルダの村に到着。


「私、未だに空を飛ぶのは慣れません。マサツカさんが凄いのはよくわかりましたので、できればもう少し低めに飛んでもらえませんか?落ちそうでヒヤヒヤでした。」


 あー、それはすまない。つい、いつものように。


「まぁ、早く着いたので、良しとしてください。」


「むぅ・・・。」


 拗ねた。放置しよう。それよりも、


「早くリョウカさん達の所に戻りますよ。」


 で、リョウカさん達が待つ家へ。夜を迎え暗くなっているが、村の家々にはまだ明かりが灯っており、ほのかな暖かさを演出していた。最初に来た時は騒々しくてわからなかったが、なんだか平和な田舎町という感じで、和む。



「と、いうことがありました。おそらく、もう大丈夫だと思います。」


 無事に帰還した俺達を、皆喜んで迎えてくれた。そして、リョウカさん、ミヒメさん、カザリさん、リンカさん、そして俺。5者が集う家の中で、焚火を囲みながら、今日の経緯を説明した。


「そんなことが・・・。」


「ええ、そのような魔物が山に住み着いていたなんて。」


「伝承にもそのようなことはなかった筈です。昔のこと過ぎて、風化したのでしょうか?」


 家で待っていてくれていた三人は、今回の件についてかなり驚いた様子を見せている。当然だろう。今まで山の神が住むと信じていた山に悍ましい魔物がいて、しかも村が壊滅するかもしれない危機を招いたのだ。


「その、神殿の奥にいた巨人が、私達が山の神と思っていた存在なのかもしれませんね。巨人本人は、そうは認めていなかったようですが。」


 それは有り得るな。この様子だと、村の誰もあの巨人に会ったことがなさそうだし。


 俺とリンカさんの話を聴いて、皆であーでもないこーでもないと議論していたが、俺からも質問させてもらおうか。


「訊きたいのですが、ラルダの伝承というのはどのようなものですか?何かヒントがありそうです。」


「そうですね。少々堅い言葉で伝わっているのですが、簡単に申し上げると、山の神が村を守っている、その山の神はとても穏やかで、村に来る者、山に来る者、みなの救いとなる。そのように伝わっています。」


 とはカザリさん。こう言ってはなんだが、リンカさんの妹とは思えない程、知性的だな。


「んー、となると、その救いを求めて、無念や恨みの念が山に集まって魔物と化した、とか。」


「あるいは、良くない何かを封印したあの宝玉を、浄化されることを期待して神殿の奥に安置したのでしょうか。」


 お、残念脳筋神子のリンカさんが、良いことを言った。そう、ここまで話し合っているのは、その点を確認したかったからだ。

もし、山に勝手に悪いものが集まるのなら、何年か後に再び同じことが起きる。だが、あの魔物が原因であれば、それを倒した今、再び同じ事が起こる確率は限りなく低くなる。


「何かを封印した、という記録はありませんか?」


「私達は聴いたことはありません。ただ、昔からある資料には、忘れられて伝わっていないことも書いてあるかもしれません。ここからは私達の問題です。今一度、調べてみます。」


「ええ、そうですね。調べてみましょう。ひとまず、今回の騒動は治まりそうかと思いますので、明日以降、祭りを再開しようかと思います。よければ、マサツカさんも是非楽しんでいってもらえたらと思います。」


「それはありがたいです。元々、祭り目当てに来ましたので。ただ、宝玉の取り扱いのことはいいのですか?確か、宝玉を社に安置するとかの儀式があった筈です」


「宝玉の数は2つになりましたが、やることは変わらずにしようかと思います。ただ、今後調べる中で新しい発見があれば、儀式の方法も変えるかもしれませんが。ひとまず、今回はこれまでと同様に行おうかと思います。最初と最後の儀式以外は、屋台を出して、皆で楽しもうという祭りなので、マサツカさんも楽しめると思います。」


 ということは、元の世界でいう露店が集うってことか。そう、それを期待していた!どんな飯が出るか楽しみだな。


 祭りも再開することになったし、俺は宿に泊まって休むことにした。色々あったが、祭りを楽しみにして今日は寝よう。


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