第38話
突然の事態に、俺達は困惑している。特にリンカさんは、見てわかる位に、明らかにガタガタと震えてしまっている。
「リンカさん!何でもいいです、とにかく結界か障壁か、何でもいいので身を守ってください。」
「は・・・はい。」
まずいな。俺は大丈夫だが、リンカさんは怯えきってしまっている。加えて、急に暑くなってきたな。これは、昨日と同じような大火災が起きるのか。
「ニクイニクイニクイ」
「どうして、たすけて、ここからだして」
「オマエタチだけずルい」
「コんナニクルシイのに」
「オマエたチも」
ああ、これは、うわぁ。例えるなら、まるで怨念の渦にいるようだ。なんとも形容しがたいドロドロした声が響き渡る。おそらく、持ってきた宝玉に封印されていた悪意か何かが、完全に解き放たれたかそんなところだろう。で、元々この台座にあった宝玉が・・・
「リンカさん、走って!!早く!!」
ガッキィィィン!
なんとか間に合ったが、危ない危ない。いつの間にか現れ、リンカさんに振り下ろされるギロチンのような刃。咄嗟にマジックバッグから取り出した大鎌で防げたが、こいつ、容赦ないな。しかし、最近魔術ばかりで使っていなかったが、大丈夫、大鎌は問題なく使えるな。
で、このギロチンはなんだ?怨念と、殺意に溢れてやがる。上から振り下ろされ、今も大鎌とガリガリいわせているギロチンをよく見ると、バカデカい包丁のような、とにかくそれは、ギロチンだと思ったが違ったようで、デカい四角い包丁だった。その柄を掴むのは、暗くてよく見えないが、ズタボロの布の塊みたいな何かのようだ。
ああ、あの時と似ている。この世界に来て、最初にネイアさんに助けられた時と。今回は、俺が助ける側だ。助ける側にいるのなら、俺も少しは成長したってところか。
「リンカさん、どいてください。早く!安全なところへ!」
「・・・・・ッ」
返事もできない位やばいのか、この包丁野郎は。
キィィン
斬り結んでいた刃を、無理やり押し返してはずす。その勢いのまま包丁野郎は壁に激突。これで終わってくれりゃあいいんだがな。
「キヒャハハハ、ヒヒヒハハハ」
いやに気味が悪い笑い声が響く。今度はなんだ?と思えば、炎を纏った人型が、いつの間にかぞろぞろと。どうりで暑いわけだ。見た目、火をまとった幽霊みたいだな。にしても、コイツらはどこから湧いてきた!?
「リンカさん、燃えているそいつらをお願いできますか?!多分、水ぶっかけるだけでなんとかなると思います。」
「はい、それ位でしたらなんとか!」
よし、リンカさんは動けそうだ。燃える人型はリンカさんに任せて、俺は包丁野郎をブッ倒そう。
ゆらぁ
本当にゆらぁ、という音がしそうな動作で浮かびながら、包丁野郎は俺に突っ込んでくる。恐怖感はまぁまぁあるが、スピードはなんてことはない。包丁を振り上げた瞬間に大鎌をぶつけて奴の体制を崩し、続いて奴の本体に一撃を加え、もう一度壁にぶつける。
そして、ぶつけた衝撃で見えてしまった。周りの燃える人型に照らされたボロ布の中は、びっしり詰め込まれた大量の頭蓋骨だった。これは・・・とにかく見た目がエグすぎる!このビジュアルに引き気味になってしまうが、落ち着け落ち着け。こいつは多分、本物の人骨だとすぐに砕け散るから、頭蓋骨の形をした岩か金属ってとこか?怨念が土や金属で形を成して魔物となる、そう考えると、こいつは典型的なアンデッドモンスターだろうな。
「オレの、ワタシの、ワシラノ、ウラミくるシミシれーーー」
うっお!!こいつ、いきなりあのバカデカい包丁をブンブン振り回してやがる。振り回すスピードもさっきよりも段違いに速くなってるし、全く油断できねぇな。それに、風貌も声も、恐怖心を煽ってくる。
まずは本体と包丁を切り離そうと、包丁の刀身や持ち手を狙って斬撃を当ててみたが、大きなダメージはなさそうだ。どうする?考えている間にも、包丁で俺を狙ってくるから、何度も切り結び、また鍔迫り合いのような恰好となる。ダメージを与えられないと、キリが無い。
「オマエも、こっチにオイデ・・・」
気色悪い声が耳元に響く。これが何よりも・・・鬱陶しいな!誰が行くか!大鎌に光属性魔術を付与!これならどうだ!?これで持ち手を攻撃すればどうなる?こんのやろーが!!
「グギャギャアアアアアーーー」
一度奴を弾き飛ばしてから放った斬撃は、包丁の持ち手に命中した。この奇声から察するに、アタリだ。あの包丁は重々しく地面に落ちたし、後は本体を攻撃すれば・・・
「いや、いや!助けて!来ないで!」
リンカさんの悲鳴だ!悲鳴の方へ視線を向けると、さっきの燃えるの人型が群れを成してリンカさんに押し寄せている!マズイ!
アクアウォール
包丁野郎も気にしつつ、燃える人型の群れに向けてアクアウォールを放つ。当然、人型の火は消えて終わり、と思ったのだが、
「や、や、いやーーー!」
火が消えて現れたそれは、まさに真っ黒に焦げたガイコツの群れだった。見た目の衝撃が半端なく恐怖心を煽る。しかも、また発火してリンカさんに迫ろうとしている。甘かった。何が水ぶっかけるだけだ!
「こんの!失せろ!」
油断してイライラした八つ当たりに、人型の群れに大鎌一閃。当たると、そいつらはガラガラと崩れ落ちた。コイツら、岩か何かでできたガイコツ型の魔物か。ここまで崩せば流石に大丈夫、いや、油断できん!
「クキャキャキャッーコッちにオイでー」
またあの奇声が響き渡ると、また燃える人型がワラワラと出現した。魔術が一般的なこの世界でこんなことを言うのはナンセンスだが、完全に物理法則を無視しているな。召喚術?があるのか知らんが、コイツらどっから湧いてきやがる!?
「リンカさん、俺の側にいてください!一ミリたりとも触れさせません!」
「はい!!」
リンカさんの返答と同時に、大量の燃えるガイコツへ向けて、今度は水属性付与の斬撃を放つ。すると、命中した奴の火が消えて崩れ落ちた。やはり、これは効果的だったようだ。さっきのように水魔術だけでは中身が残るから、水と物理攻撃を同時にぶつけたら、一撃で倒せる。
そうとわかれば、水属性付与の斬撃を打ちまくるのみ。さっきの八つ当たりの続きだ、コイツらを殲滅させよう。
そうして、ひたすら大鎌の斬撃を放っていると、やがて大量にいたガイコツ達が出現しなくなった。
ギイィィンッ
だろうな、と思った。あの本体が包丁を叩きつけてきた。しかも、俺の後ろから、しかもしかも、リンカさん狙いだ。燃えるガイコツ共を倒し切ったこの隙をついてくることは、わかってはいたさ。わたってはいたが、本当にこうなると、何か腹が立つな。俺じゃなくリンカさんを狙うところが、小物すぎてイライラする。
本体からの、この姑息で見え透いた斬撃を大鎌で受け止めて、弾き返す。その際、強めに壁に向けて弾き返したから、やっぱり壁に激突、する前に包丁を持つ手に向けて光属性付与の斬撃を飛ばした。
ザシュ
「ウォォォォォォ」
よし、命中。そして、落下した包丁をすかさず奪い、アイテムボックスへ入れてみた。かなり曰くありげな包丁だったが、特に問題なく入ったから、一旦これでよしとしよう。で、すぐにリンカさんの側に戻り、今度は本体に光の斬撃を加える。
「リンカさん、もう大丈夫です!さっきの包丁野郎にトドメを刺します。」
「あ、ありがとうございます!!」
リンカさんの返答から、疲弊しているが命は大丈夫そうだと把握したので、一安心。さあ!そろそろトドメといこうか!
「シネシネシネシネーーーー」
ほう、向こうから来たな。しかし、本当にどこからその声出してんだ?という位恐ろし気な声を出しながら、本体が燃えながら体当たりしてきた。おいおい、お前も燃えるのか。しっかしよぉ・・・舐めるな!武器がなくなったからといって、やけっぱちのそんな単純な体当たりで、俺をどうにかできると思ったか!少々自惚れがすぎるぞ!
「消え失せろ!!」
大鎌にもう一度光属性魔術を付与、それを迫って来る本体の上から、思いっきり振り下ろした。
「アアア!あああ、アああアアアアアアアぁぁぁぁ・・・・・・」
振り下ろした大鎌が、綺麗に本体を捉えた。大鎌で串刺しになるような状態となったそいつは、無念を絞り出すような声をあげながら、やがて鎮火し、そして灰になり、崩れ落ちていった。




