第35話
朝の9時過ぎ、晴天。リョウカさん達の家へ向かった。
「おはようございます。マサツカです。」
「お待ちしておりました。どうぞ中へお入りください。」
出迎えたリョウカさんに促されるままに家の中へ。昨日はよく見なかったが、家の中は和風な装いであった。何が和風と言えば、畳、畳がある!これが和風と言わずになんと言おうか!
それで、リョウカさん、ミヒメさん、それに、
「昨日は、本当にありがとうございました。リンカと申します。」
「妹のカザリです。あなたのおかげで、私達の命があります。ありがとうございました。」
昨日の女性2人。巫女服を着ている。姉がリンカさん、妹がカザリさんと言うそうだ。
「主人から聴きました。山頂の神殿に行くのですね。くれぐれもお気をつけください。」
そう言ってくれたのは、ミヒメさん。姉妹の母親だけあって、2人とよく似ている。特に、姉のリンカさんとそっくりだ。
「お心遣い、ありがとうございます。」
「マサツカ様なら大丈夫だとは思いますが、念の為、案内人と同行してください。リンカ、頼んだぞ。」
「はい。かしこまりました。」
ん!んん!?リンカさん!?
「マサツカ様、私、リンカが案内人を務めます。ご安心ください。昨日は不覚をとりましたが、これでも村では強い部類に入りますよ。」
と、リンカさん。この人、見た目は控えめな巫女服女性な印象だが、お茶目感満載な気がしてきた。巫女服もそうだが、それよりも「テヘペロ」が似合いそうだ。間違いない。
「えっと、あー、はい、よろしくお願いします。」
「今回、私カザリはご一緒できませんが、無事をお祈りしております。姉さんは、村一番と言っても過言ではない、お転婆女です。」
「カザリ、駄目ですよ。マサツカ様の前です。」
「事実なのに。マサツカ様、姉さんはお転婆女ではありますが、実力は本物です。昨日、マサツカ様が来てくれるまで耐えられたのは、姉さんがいたからです。」
なるほど、仲睦まじい姉妹ですこと。それは良き。にしても、リンカさんが村一番の実力者か。確かに、昨日、あの地獄のような炎獄を耐えきったことは、その証明となるだろう。
「わざわざありがとうございます。リンカさん、案内をよろしくお願いします。」
「ええ、お任せくださいな。山頂の神殿まで、ご案内いたします。」
今日の旅路は、まぁ平和なものだ。暑くもない、そよ風が癒しをくれる、いいハイキング日和だ。
「というわけで、お転婆と言われますが、私は19歳、立派な淑女なのです!」
「はー、淑女、ですか。」
「あ、信じていませんね!ブーブー言いますわよ。ブーブー!ブーブー!」
いや、ブーブーって、まんまじゃねぇか!この人、まーよく喋る!本人は武勇伝のつもりかもしれんが、やれ、幼いころから木の棒を振り回し、ファイアボールをぶっぱなしまくったりしていたらしい。山を駆ける野生児だったわけだ。それを淑女の嗜みと言ってのけるリンカさんよ。残念女だわ。それに、山頂まで行くのに巫女服のままリュック背負っている。大丈夫か?
「カザリもああ言っていましたが、私程ではないですが充分強いですよ。特に光の魔術は私と同程度はあります。」
「人は見かけによらないですね。お二人とも、こう言ってはなんですが、可憐な印象を受けました。」
「ですよね。お転婆とは程遠いのです。」
「さいですか。失礼かもしれませんが、より強い人が神子になる、と私は思っていて。リンカさんが神子なんですよね?」
「はい、私が神子です。といっても、村では象徴というか、特に重大な使命があるという訳ではないですよ。神子の任命は、先代の神子だった人と話し合って決めました。あ、父と母は神子ではありませんよ。ある程度の、特に魔術の強さを持つ人の中から決めますので、世襲でもないです。祭りの時の役割を、ちょちょいとこなせばいいだけです。」
テヘペロ
や、リンカさんよ、あんた、そこはテヘペロじゃない。
「私、村のことは好きですし、勿論家族のことは大切に思っています。ただ、村の外にも興味があって。村から出られないわけではないですが、祭りの役割であったり、山の神との繋がりの象徴だったりと。悪いとは思いますが、実は神子の役割に窮屈な感じがして。いずれこの村を出て、外の世界も見てみたいと思っています。飛び出す神子とか、おもしろくないですか??」
テヘッ ペロ
「テヘペロはもういいです。妹の、カザリさんは何か言っていましたか?」
「私が神子であることは、順当とは言っていましたね。ただ、カザリも村のことは好きですし、愛着を持っているので、私からすれば神子に相応しいのはカザリだと思いますよ。私よりも落ち着いていますし。」
神子って、そんなものなのか。なんか、予想していたよりも軽い。
神子の扱いが、なんか軽い。そして、道中の足取りも軽い。火山といっても、今のところ全面岩肌、というわけではなく、緑もあり、山の散歩道だ。
だが、山頂に近づくにつれ、昨日の焼け跡だろうか。黒く焦げ付いた場所が目立つようになり、緑も少なくなってきた。雲が分厚くなり、重たい曇り空になってきた。
「昨日のような事態は初めてです。私では原因もわかりませんが、マサツカさんは山頂に何かあると?」
「なんとなくですが、山が怒っているような感じがして。それが、山頂、特に昨日リンンカさん達がいた場所はその気配が強いと感じました。なので、何かあると確信しています。で、聴いてみれば神殿があるとか。これはほぼ確定かと。」
「怒り、ですか。もしや山の神が怒っている。もしや、私が神子だから!?」
いや、多分それはない。この残念神子が、それ程重要な立場だとは思えない。
「おそらく、そういうものではないかと。行ってみればわかりそうですし。」
「ええ、そうですね。さてさて、天気は悪くなってきましたが、もうそろそろ山頂です。あと一息ですよ。」
山頂に着く。曇り空から時折差し込む太陽光が、神秘的だ。一見すると何もないただの岩肌が広がっており、神殿の入口は見えない。
「マサツカさん、お疲れ様でした。到着です。一見何も無いところですが、実は神殿への入口が隠されているのです!」
「そこの大岩ですか?」
「えええ!何故わかったのですか!?」
「魔力が渦巻いてますよ。」
そう、ただのでこぼこした岩場にしか見えないが、俺が指さした先にある大岩、そこに魔力が集中している。
ただ、かなり魔力が荒ぶっている。こんなにも荒々しいのは、高い確率でよくないことが起きている前触れに違いない。
「正直に驚きました。はい、そこに神殿の入口が隠れています。今から開けますが、よろしいですか?」
「いつでも大丈夫です。開けてください。」
そう返事すると、リンカさんが何か詠唱を始めた。その詠唱が進むにつれ、あの大岩がゆっくりと動き出した。そして、大岩があった場所に、地下へ延びる階段が現れた。そうか、ここから入るわけだな。
「お待たせしました。ここから神殿に入ります。」
「な、なるほど、岩を乗せただけだったんですね。」
「はい。なので、帰る時は岩で蓋をします。」
単純だが、なんか効果的な感じがする。
「では、マサツカさん、行きましょうか。」
「え、リンカさんもついてくるんですか?危ないですよ。」
「ですが、マサツカさんが戻って来るまでの間、ここで待ちぼうけも退屈です。退屈すぎてうら若き乙女な私が死んでしまったら、どう責任をとってくれるんですか?」
何を言っているんだ、この残念女は。
「や、多分神殿の中の方が危険かと。退屈かもしれませんが、我慢してくださいよ。」
「マサツカさん、こっちですよ。早く早く!」
ちょっ!待たんか!
俺の制止を無視して、さくさくと階段を降りていくリンカさん。
1分に満たない位だろうか。明かりの無い真っ暗な闇の中、岩でできた階段を下って行く。前方に、リンカさんのライトの光があるので、それを目印に下って行く。よし、追いついた。
「リンカさん、わかりました。わかりましたから、離れないでください。トラップでもあったらどうするんですか。」
「ごめんなさいね。はしゃぎすぎちゃいました。気を付けます。」
お、今回は真面目に反省しているようだ。
「わかれば大丈夫です。それで、ここにある、いかにもな扉はご存知ですか?」
そう、ライトで照らされた前方には、荘厳な石扉が。んー、他に進めそうな入口はなさそうだから、この扉をどうにかしなければならないか。
「えっと・・・はい!わかりません!」
やっぱり。・・・ああ、素直でよろしい。




