第34話
互いの視線が交錯し、一瞬時が止まったかのようだ。
いや、止まっている場合じゃない!先に時を動かしたのはこっちだった。
「助けに来た!あと少しだ!耐えろ!」
「っ、はい」
ゴゴゴゴゴッ
やばい。こんな時に更に地響きが。早く!
なんとか自分を奮い立たせ、急いで2人に近づこうとしたが、また炎が現れて進路を遮ってくる。さっきの女性の返事は、かなり弱々しく聞こえたし、一秒でも早く助けたい。急げ、急げ!
<ダブルタイダルオーシャン>
普段はしない、上級魔術の二重発動。一瞬ふらっとしたが、そんな場合じゃない。すぐに体制を立て直して、なんとか2人の元に辿り着いた。そして、すぐに2人をまとめて抱えて、そのまますぐに飛び立った。刹那、飛び立った俺達を追うかのごとく、特大の火柱が吹き上がった。
特大のそれは、まるで火の竜が大口を開けて俺達を捕食するかのようだった。これは、恐ろしすぎる。あの迷宮よりも悪質なものは無いと思っていたが、そんなことはなかった。この火柱もかなりエグいし執念深い。そんな火柱に対して必死にタイダルオーシャンを連発し、次々に発生する他の火柱の群れを避けながら、なんとか、死ぬ思いでその場を脱出することができた。これは、嘘偽りなく本気で厳しいものだった。
だが、脱出しただけでは終わらない。一旦2人を、大穴の近くで降ろす。火柱が、今も俺達を追いかけているように思えてならない。
「消耗しきっているところ悪いんだが、火が消えない。何か心あたりはあるか?宝玉が関係していないか?」
「あ、はい。おそらくそうかもしれません。」
「その宝玉、持っているか?」
「それは、私が。」
宝玉を持っていると答えたのは、より消耗しているもう一人の女性だった。
「この宝玉を台座に戻せば、治まるかもしれません。」
「よし、早く戻そう。」
再び2人を抱えて、浮遊したまま大穴を降下し、台座へ向かった。そして、女性が台座へ静かに宝玉を戻すと、この場の気配が急に変わった。それまでは、怒り、荒ぶるような気配で溢れていたように感じたが、今はシン、と静まり返っている。
これで、一旦は治まったか。温度も下がったように思うし、これでひとまずは大丈夫か。
しかし、あんなに異常な状況、何が発端だったのか気になるところではある。早速2人に事情を訊きたいが、2人共だいぶ消耗しているようだ。俺自身はもう回復したが、この2人はそうはいかない。なら、村に戻ることが先だな。
「自己紹介は後だ。2人を抱えてになるが、さっきと同じように飛んで村へ戻る。いいな?」
「はい、どうか・・・お願いします。」
念の為、こっそりヒールをかけたところで、2人共眠るように気を失った。おそらく、ずっと障壁を展開しながら耐えていたのだろう。体力は少しだけ回復したが、心はそうはいかず、相当疲弊したようだった。
2人を抱えて飛行し、無事にラルダへ戻ることができた。浮遊しながら着地しようとする俺達は、村人達からは神子達が空を飛んで帰って来たように見えたようで、
「助かったのか!」「無事だ!」「奇跡だ!」等、安堵の声が聞こえてくる。
「この度は、この度は!マサツカ様、本当にありがとうございました!神子達を、娘達を助けてくださり、もう、何とお礼を申し上げればよいか!」
場所を変え、今はこの2人の家にいる。2人は姉妹のようで、2人の両親から、何度も礼を言われる。礼なら一回でいいし、もう、その言葉と気持ちで充分だ。
「いえ、もう何度もお礼の言葉をいただきました。それで充分です。今は、お二人を休ませてください。」
「かしこまりました。休ませて、目が覚めましたら、この二人からもお礼をさせてください。もう、もうダメかと・・・」
「わかりました。それで訊きたいのですが、この村の祭りは本来どのようなもので?毎回あのようになるわけではないでしょう。」
「そのとおりです。本来なら、神子が洞窟に入って宝玉を手にして出て来ます。その宝玉を村の中にある社に置いて、この村の繁栄を祈り、山の神を奉る祭りを行うこと、それが目的です。実際に祭りで行うのは、屋台が出たり踊りを踊って楽しむ等、よくある祭りです。それが、今回はこんなことに。こんなことは初めてです。」
なるほど。生贄を捧げるといった、物騒なことはなさそうだな。
「ありがとうございます。ちなみに、村にある社というのは?」
「村の敷地の中にあります。よければ、ご案内します。」
「是非とも。よろしくお願いします。」
2人の父、リョウカさんの案内で、村の社へ向かう。母のミヒメさんは、家に残り2人の側について見守っている。俺達が空から戻った時、リョウカさんは奇跡と喜び、ミヒメさんは号泣していたな。
案内されて着いたのは、村の敷地の端、さっきの山へ続く道への出入り口の近くにあった。この社、これを目にした時は驚いたね。そりゃもう。まさに神社そのもの!
「ここが社です。この鳥居という赤い門をくぐり、参ります。」
これはこれは。お参りの方法もほぼ同じ。一瞬、元の世界に戻ったのかと思った。
鳥居をくぐると、石造りの一本道、その両脇には白い小さな石が敷き詰められている。リョウカさんの案内のもと、その一本道を歩くと、まさに、神社!というべき和風の建物に辿り着いた。
「この建物の中に、宝玉を安置する台座があります。そこに宝玉を置くことで、祭りが始まります。祭りを終える時は、宝玉を洞窟の中にお返しします。宝玉を扱えるのは、神子と神子の護衛のみとなっています。」
「わかりました。祭りの期間はどれ程でしょうか?」
「3日間ですね。」
なるほど。今の話だけなら、特に不審な点も危険なこともなさそうだ。なら、
「娘さん達が入った洞窟がある山、その山にも、このような社はありますか?」
「山には、社ではありませんが神殿と呼んでいる場所があります。山頂付近に入口があるのですが、道のりが険しく村人が近寄ることはほとんどありません。私も、行ったことがあるのは入口の近くまでです。山の神の本来の住処は山であるが、祭りの時は、一時的に神に村に居てもらう。その為の、神の一時的な住処としての役割を担うのが、この社である、と言い伝えられています。宝玉は、山の神のご神体としての意味合いもあります。」
なるほどな。ここにはそんな役割があるのか。
ここでは、山で感じたような怒りや憎しみは感じられない。やっぱり、山に何かある気がする。山の神が本当にいると仮定し、かつその山の神がこの村を滅ぼそうとするのなら、既に滅びている筈だ。よくわからないが、村に害意を抱く何かが存在するのかもしれないな。
「ありがとうございます。とても興味深いものでした。」
「とんでもありません。こんなことであれば。」
「では、あと2つお願いしてもいいでしょうか?」
「勿論です。」
「一つ目は、この村でオススメの宿に泊まりたいので、おしえてください。二つ目は、明日にもあの山の山頂近くにあるという神殿に行きたいので、許可をください。」
「宿はいくつかお伝えしますので、お好きな宿をご利用ください。どれも素晴らしい宿です。あと、神殿に入る件ですが、本来は誰の許可も必要ありません。ですが、今回このようなことになっており、非常に危険だと思われます。どうか、神殿に入ることはおやめください。」
宿は解決として、やっぱり山に、それも神殿に入るのは難しいか。許可が必要ないのであれば、勝手に行くのも有りだが、
「リョウカさん、ご安心ください。こう見えて私はそこそこ強いです。」
「しかし・・・何故そこまで?」
「これも何かの縁です。大丈夫ですよ。それに、元々は祭り目当てで立ち寄ったのです。無事に祭りを行う為に、是非とも協力させてください。」
「でしたら・・・わかりました。ありがとうございます。明日の、そうですね、明るい時間帯で、マサツカ様の都合のいい時間に、我が家にお立ち寄りください。案内人をつけます。」
「ありがとうございます。」
まあ、純粋に祭りを楽しみたい、というのもあるが、元の世界と似ている物が多いこの村には、何か手がかりがあるかもしれない。久中さんのこと、元の世界に帰る方法とか。
その後、リョウカさんから案内された宿の中から、小さいながらも風呂がついている宿に泊まり、翌日の朝を迎えた。やっぱり、風呂はいい。




