第32話
学院長との面談は見事に大失敗。穏便に済ませられればよかったが、仕方ない。さっさとここを出よう。
「マサツカさん!お、お待ちください!」
その声に振り返れば、フランシス教授が息も絶え絶えに走って追いかけてきたのが見えた。
「マサツカさん、この度は重ね重ね本当に申し訳ありませんでした。」
「いえ、フランシス教授、あなたが謝ることではありません。私こそ、急に申し訳ありませんでした。ただ、参りましたね。あれでは取り付く島もありませんでした。」
あれは仕方ない。人生全て上手くいくとは限らないし、な。とはいえ、これからどうするか。さっきは結界でも何でもぶち壊そうと思ったが、やっぱりそれはやり過ぎだから、忍び込むか。
「悪い人ではない筈なんですが。いえ、これは言い訳になってしまいますわね。」
「いえ。その言葉だけで充分です。ひとまず、依頼は完了ということなので、これで帰りますね。」
「あ、そうでしたわね。そうですよね、もうお帰りですよね・・・。」
「ええ、まぁ、帰りますよ。」
「よければ、また講師の依頼を受けてくださいませんか?マサツカさんのような優秀な方に講師としてきてもらえれば、学生達の将来は明るいと思いますの。」
ほー、そこまで言ってくれるか。俺のことをそこまで言ってくれるのは嬉しい。嬉しいんだが・・・
「そこまで言ってもらえるのは嬉しいです。ですが、他にも行かなければならない場所があるので、しばらくすれば旅立つと思います。お役に立てず残念です。」
「ああ、そうですか。そうですよね。傭兵ですし、仕方ありませんわね。」
「また、ここに寄ることがあれば、その時はよろしくお願いします。」
「絶対ですわよ!待ってますからね!!」
こうして、フランシス教授に学院の門まで送ってもらい、外に出た。
さてさて、只今の時刻は深夜の真っ暗な時間帯。街頭なんて無いこの世界では、何もなければ本当に真っ暗、真っ黒。明るい内はあんなに賑やかだったのに、今は静まりかえり、眠っているようだ。普通なら、明かりの一つもなければ出歩くのに不便極まり無い。しかし、
「潜入日和とはこのこと。」
これだけ暗ければ潜入もしやすいというもの。認識疎外の結界を自分に纏わせ、図書館前に到着。人の気配は無いが、やはり入口に見えない魔術の膜のような、結界ある。これは、誰かが通った場合に反応するセンサーのようなものか。通ったらセンサーが反応し、警告音がなる、それを聴きつけた衛兵なんかがすぐに飛んでくる、というものだろう。もしかすると、このセンサーを解いた場合、解かれたことに反応するセキュリティもあるかもしれない。魔力の流れが図書館全体を囲んでいるように見える。ここまで厳重なので、念の為自分自身を結界無効の魔術で包みこむ。言うなれば、結界無効のバリアを纏う感じだな。これを纏った状態なら、俺が扉を通っても大丈夫の筈だ。図書館の扉を慎重に開こう、と思ったが、なるほど当然か、扉だけでなく鍵にも結界魔術があるな。鍵穴に魔力の塊が見える。なるほど、二重に備えているな。んー、解くのは簡単だが、解いたことで何か作動するのは駄目だな。この結界の魔力の流れはどこに繋がっているか見ておこう。
お、魔力の流れはこの鍵穴だけに留まっている、他に伸びていたり繋がっている気配は無い。この鍵穴その物が魔力源であれば、解いても他の魔道具とかに影響することはなさそうだ。解いてしまおう。ああ、念の為、鍵穴だけにしておこう。
鍵穴に手をかざし、結界の糸がスーッと消えるイメージ。俺が入るだけの数秒でいい。糸が消えるようイメージすると、結界は解かれ、鍵は開いた。鍵が開いたなら、音を立てないよう扉を開け、充分注意して入る。
中は、今朝来た時と変わらないのは当然だが、やはり明るい時と暗い時とでは印象が違う。昼は学生や教師が集う知識の場という印象だったが、今はなんと表現しようか、何かを隠している印象を受ける。何かはわからないが、特別配架に何かがあるのだろう、多分。
特別配架は受付横の階段を地下に下ったところにある。階段の入口には結界は無い。そのままスルー。暗い階段を静かに降りていく。ライトの一つでも使用したいところだが、見つかるわけにはいかない。幸い、暗闇でも俺なら見えないことは無い。暗視ゴーグルの要領で、見えるっちゃ見える。魔術にしても魔眼にしても、便利すぎるな。
地味に長い階段を降りきったその先、重そうな扉が俺を出迎えた。重すぎて、歓迎されていない感がある。扉にまで嫌われたようだ。だけど、俺は用がある。通してもらおう。
この扉は、なるほど、普段はカードキーのような物で開け閉めしているようだ。扉の前に台座があるから、そこに何かを載せるんだろう。俺はそんな物は無いから、無理やり開けるしかない。が、この扉、結界だらけだ。幾重にも見えない鍵があり、もはや封印だな。幸い、魔力の流れは扉と台座を繋いでいるだけなので、一度に全て解いても問題はなさそうだ。
入口と同様、結界を消すイメージ。今度はまとめて全てだが、結局やることは変わらない。複雑な術式も無視。消えたままだと何かあるかもしれないから、入る間の一瞬だけでいい。静かに、一瞬だけでいい、消えてくれ、俺に道を開けろ。
強く念じたところ、よし、成功だ。結界を解いた後、手で押せば扉は開いた。
中は、一般配架と変わらず、机と椅子、本棚がある。肝心なのは配置してある本だが、なるほど、古代の魔術に関する本や俺が探していた歴史の本、それに加え大量の論文だろうか、それらが多数を占める。一般的な論文ではなく、過去に賢者と呼ばれたお偉いさん方の考察書のような物だ。後、死者蘇生についての、この世界で禁忌と言われる魔術の本もあった。
俺が知りたいのは、歴史関係だ。暗闇でも見える俺は、目的の本を見つけ、内容を確認していく。色んなことが書かれてある中で、気になったことがあった。なんでも、当時勇者と呼ばれた英雄と魔王との戦いがあり、魔王は敗北した。その魔王は魔術に優れた自分達が全てを支配すべきとの思想を持ち、周辺国を侵略して勢力を広げていたようだ。で、その魔王が敗北した、敗北は国の恥であるから、敗北したその事実を消すかのごとく、その次の代の王を初代とした。敗北した王の国は滅びたが、我らの国は新しい国である、我らは一度も敗北していない、という理屈を作り出した。
こういったことが書いてあるが、嘘くさいな。いや、本当かもしれないが。根拠は無いが、なんか怪しい。噂では、初代魔王が今も存命というが、となれば勇者に敗れた魔王の次の代の新しい魔王が初代だから、そいつが今も生きて国を裏から操作、いや統治していると。うさんくさくなってきた。
他の本にも、表現の仕方は違うが、魔王が勇者に敗れ、新しい魔導国が始まった、という書かれ方が多い。んー、魔王もだが、勇者って何者だろうか?よくある、悪い魔王を正義の勇者が仲間と共に倒した、という単純な話ではなさそうだ。それまでの魔王は侵略なんかしていないし、過激派だったのは敗れた魔王だけだ。よくわからなくなってきた。
結局、久中さんの手がかりもなさそうだ。もう少し読み漁りたいが、気になることがもう一つ発生した。この特別配架に入って真正面の奥、本棚が並んでいる場所だ。一見するとただ本が並んでいるだけだ。だが、本棚の裏だろうか、強い魔力とおぞましい気配が感じられる。ここ、本当に何か封印してるんじゃないか?
何か面倒事が起きたら嫌だな。今回はこの辺で終わろう。




