第3話
パチパチ、という穏やかな音で目が覚めた。この音は焚火だろうか。
どうやら生きているようだ。不思議と、さっきまでの疲労もない。手や足も動く。
「目が覚めたようだな。」
呼ぶ声がした。声の方をみると、焚火に照らされた、燃えるような赤髪の超絶美人な女がいた。腰に剣を提げて、俺を見ていた。
「腹が減っているのではないか。こんなものしかないが、食うといい。」
そう言って手渡されたのは、手のひらサイズのパンだった。少しかたくなっているが、今の俺にはこのうえないご馳走だった。俺はそのパンにかぶりつき、あっという間に食べつくした。うん、美味い。美味過ぎる。
「どうだ、落ち着いたか?」
夢中でパンに齧り付いたから気が付かなかったが、ある程度空腹が満たされると、だんだんと冷静に周りをみれるようになった。俺の前には、超絶クールビューティーの赤髪の女。確定したね。俺を助けてくれたのはこの人だろう。周りはとても暗い。夜だな。だが、さっきまであった墓石は見当たらない。焚火に照らされて見えるのは、星空と、草原であった。
「はい、落ち着きました。あの、あなたが助けてくれたんですか?」
「助けた、という程でもない。私の前に魔物がいたから、燃やしただけさ。私はネイアという。そなたの名は?」
「俺は、オオガミ マサツカといいます。」
「オオガミ マサツカというのか。変わった名前だな。どこの出身だ?」
日本です。と答えていいのかわからない。だってさ、ここ、どう見ても俺がいた世界じゃないよね。さっき、黒い何かに突撃しました、死神いました。俺は一人です。そして、あなたに助けられました。運命の出会いです?
・・・アレ?久中さん、いずこに?ちょっ!まずいんじゃないですか!?
「ニホンです。」
口をついて出たのは、結局それだった。うん、素直っていいよね。
「ニホン?過去にそのようなところから来た者がいるときいたことがあるな。」
「え?!ニホンを知っているんですか?」
これは驚いたな。この人、ネイアさんは日本を知っているのか。
「過去の伝説のようなものだがな。昔、人族と魔族との戦争を終結させ、街を作り上げた。その者の出身が、ニホンと伝えられている。」
なんということだ。これは、俺よりも先にこの世界に来た人がいるということじゃないか。
「その人は、街を作った後はどうなったんですか。」
「その後は知られていないな。新たに旅にでたという話もあるし、故郷のニホンに帰った、という話もある。いずれにしても真実はわからない。」
「そうですか。ありがとうございます。」
「いや、かまわない。かまわないが、もしそなたが本当にニホンから来たというなら・・・この世界の者ではないということでいいな。」
半ば確信し、念押しのような形で訊いてくる。
その通りだ。俺はこの世界の人間ではない、これはほぼ確定だろう。だが、俺自身がこの状況に追いついていなくて、そうだ、これはやっぱり夢で、夢から覚めればいつもの光景が広がっていて・・・
「どうした?」
「あー、本当にこれが現実か信じられなくて。頭が混乱しています。ですが、そうですね、これが夢でなければ、私はこの世界の人間ではなく、異世界の人間ということになります。」
「そうか。なら、どうやってこの世界に来たのかわかるか?」
俺は、これまでの経緯をネイアさんに話した。黒い人影に友人(まだ、彼女ではない。いずれは・・・ね)が誘拐されたこと、巻き込まれて気が付いたら墓場にいたこと、そして、ネイアさんに助けられたこと。
「そうだったのか。しかし、不思議なものだな。その話のとおりだと、召喚術か転移魔術の類でニホンからこの世界に来たことになる。が、転移魔術は今は失われた秘術の一つだし、召喚術なんて存在したかどうかも怪しいものだ。伝説にあるニホン出身の者も、詳細はよくわかっていない。」
「でも、俺は今ここにいます。やはり、何かわからないけど、変な力でこの世界に来てしまったんです。」
俺はどうすりゃいいんだ。詰んだ?いやいや、まさかまさか。久中さんと一緒に元いた世界に帰るんだ!だが、どうやって?ネイアさんの話だと、元の世界へ戻る方法は、ある、のか?それも大事だが、久中さんはどこに?
「そなたはここにいる。それは間違いない。だが、どうやってこの世界にきたのかは私にもわからない。そして、そなたの友人、ヒサナカ アイがどこにいるかも、そなた達がいた世界に帰る方法も、残念だがわからない。」
大きく落胆した。本当にどうすればいい?見当もつかない。わからないことだらけだ。それなら、とにかく情報を集めないと。どうやって?
「ネイアさん、お願いです。一番、情報が集まるところに連れて行ってもらえませんか。」
とにかく、何か、何かないか。こんなファンタジー、初めてなんだよな。や、当然だよな。こんなの、小説やらゲームの世界の話じゃん、と今までならそう信じていたんだよな。
「情報が集まるというなら、この近くだとフィーゴ国の王都、フィネアになるな。後は、距離があるがジーン国のサナカという街だな。私もこれから王都のフィネアに用がある。そこまででいいなら連れていくが、どうだ?」
うおお!ネイアさん、いい人すぎる。こんな正体不明の異世界人を、躊躇なく助けてくれるなんて。
「ぜひ、お願いします。」
「なら、夜が明けたら早速出発する。今日はもう疲れただろう。出発までゆっくり休むといい。見張りは私がするから、安心するといい。」
「はい、ありがとうございます。」
そう言って、ネイアさんに感謝しつつ、俺は再び眠りに落ちた。突然異世界に飛ばされ、帰れるかどうか、久中さんに会えるかもわからない。これから先どうなるか、不安や戸惑いが胸を埋め尽くしていたが、ひとまず、寝よう。今できるのは、寝る事だけだ。
因みに、念の為、誤解の無きよう言っておく。念じておく。ネイアさんも美人で素晴らしい人だが、俺はあくまで久中さん一筋だ。例え、俺が「ネイアさ~ん!ビューティフォー!」なんて思ったりしても、それをもって久中さんへの一途な想いを揺らがせることは、万に一つも、兆に一つも無いのである。




