第26話
夕暮れの明かりを浴びながら、ギネアを出る。王都への到着は、馬車で明後日の夕方予定のようだ。道中は、見通しのいい平原が続き、特に障害は無い、周辺の森から猛獣が出たり、夜はアンデッドが出るらしいが、本当に稀に出る位らしい。盗賊等は、まぁどうだろう。出たら運が悪かったというものか。つまるところ、何もなければ安全な依頼であり、その何かが起こる確率も低い。その依頼で銀貨5枚、俺以外にもこの依頼を受ける者はいそうなものだが、夕方出発というのがネックのようで、中々傭兵が集まらないようだ。
「通常は朝、遅くても正午過ぎには出発します。夕方出発だと、すぐに暗くなりますので。」
「でしょうね。なぜ、レクトン男爵は夕方に出発を?」
あの脂肪男爵、名をレクトンという。先代を引き継いで男爵となったようだが、甘やかされたようで、大層我侭放題に育ったようだ。そんな我侭ボンボンでも、魔術については一定の知識と技術があるらしく、王都で開催される学術会議に出席できる位には実力があるらしい。
「お恥ずかしながら、馬車の装飾やら食料やらの準備に時間がかかったことが今に響いてしまいまして。王都クレイバまであと少しなのですが、今のままだとギリギリ間に合うかどうか、といったところです。あれでいて旦那様は心配性なので、早く出発したいと焦っております。」
なんだ、自業自得か。ま、いいや。おかげで金が手に入る。正直なところ、俺だけなら走るか飛んで行く方が早いが、金も欲しい。少々時間はかかるが、金が手に入って王都まで行けるなら、悪くない。ところで、だ。
「馬車の装飾は結構ですが、ここまで煌びやかだと、盗賊だとかに狙われやすいのでは?こう、如何にも金を持ってます、とアピールしていますよ。」
「残念ながら、旦那様の意向です。権力と富を誇示し、子爵、伯爵と上り詰めたいようで、あのような装飾に拘っています。その時々に雇う護衛も腕利きばかりなので、大きな被害を受けたことがありませんでしたが、今回の旅では思うように護衛を雇えず。夕方の出発になってしまって申し訳ありません。」
「そういうことでしたか。大丈夫ですので気にしないでください。ウェスターさんも苦労されてるようで。お疲れ様です。」
ホント、ウェスターさんも中々苦労してるな。なんでレクトンなんかの執事をしてるんだろ?独立して傭兵やら商売でもやった方がもっと自由にできそうなのに。
「ありがとうございます。まぁ、代々レクトン家に仕えていますから、今更ですからね。先代はとても賢く領民のことを第一に考える名君でしたが、自分の子どもにはとても甘かったのです。その影響でしょうか、悪い人ではないのですが、あのように我侭に。」
なるほど。名君であるも親としては。ああ、これ以上はやめておこう。レクトンに仕えるウェスターさんが哀れになる。
「それにしても、先程は驚きました。マサツカ様のあの身のこなし、Aランクと言われても納得です。とてもFランクとは思えない、死線をいくつも潜り抜けてきたような覚悟が備わっているように思えます。その若さで、大層苦労されたのでは?」
「ああ、まぁ、色々ありまして。話せば長くなりますが、死にかけたことは一度や二度ではありません。」
主にあのクソ師匠のせいだ。迷宮なんざあまっちょろい。ん!?
「ウェスターさん、後方から何か気配が。距離はまだ離れていますが、注意してください。」
「なんと!マサツカ様の気配察知の魔術は流石ですな。私も警戒しておりましたが、何もわかりませんでした。」
「私は馬車の後方へ行きます。前方はウェスターさんに任せてよろしいですか?」
「勿論です。後ろをよろしくお願いいたします。」
というわけで、馬車の後ろに行く通路を通って、と。この馬車便利だな。横に、後ろに行く通路がついている。屋根を飛び越える必要もないな。こういう機能的なところはいいじゃないか。あとはもっと地味にしてくれ。目立って仕方ない。
普通、護衛は後方の警戒をする為に、今回の俺達みたいに前方に固まることは無いが、俺の気配察知魔術は普通よりも範囲が広く正確だ。だから問題無い。あのクソ師匠が鍛えたからな。
・・・思い出したら腹が立ってきた。
えー、何が引っかかった?遠くて見えん。なら、遠視の魔術。これで楽に遠くを見ることができる。
ん?あれは獣か?お、おお、チーターか?早!!これは・・・しゃーない、俺達を襲う理由は知らんが、おとなしくお帰り願おう。
ファイアボール、連打!
チーターみたいな動物に向けて、ファイアボールを撃ち込む。何発も。そりゃもう何発も。最初の数発は回避できたみたいだが、あーあ、何発か当たっちゃったようだ。威嚇のつもりだったんだがな。だが、大丈夫だ、手加減してるから死にはしない。殺しはしないから、もう来ないでくれよ。
お、願いが届いたのか、動きは止まった、だけどまだこちらを見てる。仲間に、はしないよ残念ながら。ほれ、もういっちょ、ファイアボール!お、びっくりして逃げた逃げた。気配察知魔術からも消えたようだ。にしても、逃げ足も早いな。
「ウェスターさん、終わりました。黄色に黒の斑点の、大きな猫が猛スピードで来てたので、追い払いました。もう大丈夫です。」
「もう終わりましたか。早いですな、ありがとうございます。その特徴はチーターでしょう。足が速くて厄介です。助かりました。」
こっちの世界でもチーターって言うのか。
「もうすぐ暗くなります。どこかで夜営の準備をしましょう。王都までの道中、あまり野生動物に出くわすことはないのですが、今回はいきなり出くわしました。偶然かとは思いますが、用心するに越したことはありませんので、少し早いですが準備します。」
気が付けば鮮やかな紅い夕陽が傾いて、いよいよ沈み込もうとしている。煌めく太陽に心から癒されるつつ、お言葉に甘えて、今日はここまでだな。




