第17話
飯を食ったところで、さあ、宿探し。と席を立とうとしたところで、これまた礼儀正しそうな男性が近づきてくる。え、俺?
「マサツカさん、この度はありがとうございます。料理はいかがでしたでしょうか。お口に合ったのでしたら、嬉しい限りです。」
えっと、シェフの方?
「はい、味は申し分なかったです。えっと、失礼ですがどちら様で?」
「こちらこそ失礼しました。メリッサの父です。妻からもありましたでしょうが、娘の命を救ってくださり、ありがとうございました。」
メリッサのお父さんだったのか。ということは、店長か。そういえば、ここはメリッサの一家が経営している店だったな。母にしても父にしても、なんというか、穏やかな方達で。お転婆娘のメリッサの両親とは思えないな。
「いえ、特別なことはしていません。頭をあげてください。」
「妻からも聴きましたが、なんと謙虚な方で。今日の宿はお決まりですか。まだ決まってなければ、私の伝手で宿を紹介いたしましょう。遠慮なく申し付けください。」
「お!マサツカ君、それがいいよ!お父さん、その宿って、龍の目覚め?」
「ああ、そうだ。そこならきっとゆっくり休めるだろう。」
「マサツカ君、まだ宿は決まってないでしょ。そこ、まだできたばかりだけど、魔術を利用した銭湯がすごいんだよ。」
「そのとおりです。サナカ発祥の技術を利用しています。かなり前から色んなところで普及されていますが、龍の目覚めの銭湯はとてもすばらしいです。是非一度行ってみてください。」
銭湯!?ということは、この世界でも風呂が!?これは是非行かなければ!!いや、落ち着け俺。ここは冷静になるんだ。
「もちろん、料金はいただきません。」
「料理の代金が無料とききました。宿代まで出してもらうわけには参りません。」
「いえ、実はですね。龍の目覚めはまだできたばかりの宿でして、知名度がまだ無いんです。そこでですね、マサツカ様には利用された後に、他の人に宣伝してもらえたらと思いまして。宿そのものはいいんですが、経営者も集客に悩んでいまして。厚かましいとは思いますが、ご協力くださればと思います。」
ほう、なるほど。この世界、テレビやインターネットも無いからな。中々宣伝に苦労しているということか。いや、しかしだな。
「お話しは嬉しいので、そういうことでしたら是非とも。ただ、気になることがあります。そこまでしなくとも、そんなに良い宿であれば私が宣伝しなくとも自然と客が来るのではないですか?」
「ええ、これは内密にしてほしいんですが・・・。経営者は私の友人なのですが、なけなしのお金をはたいて宿を開いたもので、宣伝にかけるお金がもう無いのです。いくら良い宿とはいいましても、このマケニアでは他にも有名な場所はたくさんあります。その為、新しい宿は宣伝にもお金をかけないと集客できないのです。ですので、公ではない、こうした口コミに頼らざるをえない状況なのです。」
ふーん。そういうものか。まぁいいや。無料で行けるというのなら行ってみるか。
「わかりました。そういうことでしたら、もう訊きません。いいお話しを触れ回りましょう。」
「ありがとうございます。よろしくお願いします。」
「はい!行くと決まったなら、私が案内する!」
「メリッサ、頼むよ。それではマサツカさん、よろしくお願いします。」
宿が決まったよ。順調じゃないか。にしても、銭湯か。やーーー、この世界にもあるとは!思えば、ずっとクリーンの魔術ばかりだったからな。いいっちゃいいんだが、やっぱり風呂だよ風呂!
・・・ここでもサナカが出てきたな。食の都という以外にも何かあるんじゃないか。ここである程度情報を集めたら、サナカへ行くか。フィネアは、後回しでもいいだろう。そうしよう。
「ところでメリッサ、この街で人探しをするにはどうすればいいんだ?ここに入る前にも言ったが、情報を集めたい。」
「それなら傭兵ギルドに行って依頼を出してもいいけど、時間はかかりそうだね。マサツカ君がいつここを出るのかによるけど、てっとり早くなら、情報屋にあたってみる?」
「情報屋ってなんだ?」
「その名のとおり、色んな情報を扱っている人ってこと。あんまり表に出ない自由業だけど、実は私の知り合いがやってるから、紹介するよ!」
「それは助かるな。で、紹介手数料とかは必要なのか?」
「傭兵ギルドと違って非公式の自由業だから、ウチがマサツカ君に請求することは無いけど、情報屋の人からはいくらか請求されるかも。ウチの知り合いだから、そんなに高い額は請求しないと思うけど、どうする?」
「紹介してくれ。少しでも情報が欲しい。すまんが頼む。」
「りょーかいりょーかい!まっかせなさい!明日の、そうだね、朝の9時頃に、さっきの店の前に来てくれる?あ、もう着いた!さっき言っていた、龍の目覚めだよ!」
目の前には、マケニアの、敢えて例えるなら下町風のガヤガヤした雰囲気とは異なる、高級感が溢れる宿が現れた。
「さ、入って入って。おじさーん!メリッサです!」
グイグイと引っ張るメリッサに連れられて店に入ったところ、一面に広がるのは煌びやかな玄関に、広々としたロビー。え、ここに泊まるの?
「おお、メリッサ。お父さんから話は聞いてるよ。そちらがマサツカ様だね。ようこそいらっしゃいました。」
出てきたのは、恰幅と人柄がよさそうなおじさんだ。
「お世話になります。マサツカです。あの、こんな豪華なところに泊めてもらえるのですか?料金は・・・」
「必要ありません。その代わりといってはなんですが、この街を出てからも、宣伝をよろしくお願いします。」
「わかりました。それにあたって、お風呂以外にも、他の場所を見せてもらってもいいですか。色々見ておいたほうが、周りにも言いやすいと思うので。」
「もちろんです。どうぞご覧ください。何かあれば、私にお申し付けください。」
その会話の後、部屋の鍵を受け取って、部屋に荷物を置いて、風呂へ。ところで・・・
「なあメリッサ君。何故君がいるのかね?」
「ウチはお父さんの娘ってことで、今日はお風呂をサービスしてもらいました。あ、勿論男女は別だからね、覗いちゃダメだよ!あ、でも少しくらいなら・・・」
「はいはい、じゃあな。」
「乙女がここまで言っているのに、なんという冷たきあしらい!ウチは悲しいよ。」
「はいはい。で、用件は別にあるんだろ?」
「お風呂に入るのは本当だよ!いいお風呂だし。マサツカ君への要件は、明日の情報屋のこと、もう少し詳しく話しておきたいから、お風呂が終わったらさっきの玄関のロビーに来てほしいんだ。大丈夫?」
「ああ、そういうことか。わかった。さっと入ってすぐに行く。」
「もー、女心がわかってないな。ウチは行商帰りで疲れてるから、ゆっくり入りたいの。だから、1時間半後位でお願いしたいな。だからさ、ゆっくり入っててよ。どうしても早く上がったら、他の場所を見ててよ。」
ああ、そういうことか。女心がわかっていないとか、グサっと刺さるな。
「ああ、すまんな。気が付かなかった。」
「ちょ、そんなに気にしないでって。まぁ、マサツカ君の想い人には、ちゃんとするんだよ。女ってさ、引っ張ってほしいけど、私のことは無視しないで、私のことも見てっていう生き物なんだから。」
「ああ、勉強になった。ありがとうな。」
「そう!ありがとう、それでいいんだよ!それじゃ、また後でね!」
メリッサと別れて、目の前に広がるのは風呂だ。いや、そんなことはわかっている。俺が言いたいのは、
「で、デカい!広い!」
そう、めっちゃデカいだ!種類も豊富!いやー、良き良き。
さっと入って、なんてもったいない!これはゆったりと堪能せねば!
ザブーーーン
良き湯じゃ。心が洗われ、体がときほぐされるようじゃ。何?体は半分以上機械じゃないかって?ふっふっふ、パッと見は普通の体だし、なんの違和感も無いのだよ。
他にも種類がある、ゆっくりじっくり堪能しよう。俺の心は今、風呂にあり!




