第1話
今がその時だ!俺は今、一世一代の勇気と気力を振り絞って、隣を歩く、久中 愛さんに、告白をしようと目論んでいる。
ヤヴァイわー、心臓が口から逆流しそうだ。チキンハート万歳!
や、どうせさ、端から見れば、青臭い高校2年生のちっぽけな、それはもうちっぽけな根性でしかないのさ。
世の中、俺なんかよりも壮大な悩みや重大なことなんて、ありまくるわけよ。そこはさ、あたたかく見守ろうよ!
終業式が終わり、夏休みは目前!ここで俺の熱く滾る想いを伝えれば、これから始まる夏休みは薔薇色となろう!
いざ、サマーバケイショォン!!
「それじゃ、大上君、また新学期だね!私、反対側のホームだから。」
・・・や、ちょっと待とうよ久中さん!ここでさ、ちょっとお茶でも、みたいな、ない?え、高校生の帰宅途中の寄り道はご法度?堅いなぁ。中学校の時には、帰りに買い食いやってたり、超人気のソフトクリーム屋にこっそり寄り道したり・・・久中さんはしてないわな。うん、俺もしていない。見つかった同級生は先生にこってり絞られてたな。恐ろしい。
そんなことはどうでもいい!久中さんが行ってしまう。む、無理だ!引き止められない!久中さんが駅の反対側へ行ってしまう!
ああ!俺はなんと意気地のないウジ虫野郎か!いや、これではウジ虫に申し訳無い、ごめんよウジ虫さん!
俺は、久中さんを見送るしかできない。不甲斐ない。
孤独にうなだれている俺の視界に、ふと何かが映った。黒い何かが見えた。久中さんの行く先に、何か、フードようなものをかぶった、大きなドス黒い人影がたたずんでいるのが見えた。そしてそれは、久中さんの前に、ゆらぁと立ちふさがった。
「な、なに、なんですか?!」
久中さんの声が聞こえた。当然だ。怪しさMAX200%だ。なのに、おかしい。他にも通行人はいるのに、アレに見向きもしない。いや、世界が、時間が止まっている?さっきまでの雑踏も聞こえない、人は、動いていない!!
動けるのは、アレが見えているのは、俺と、久中さんだけなのか!?
「やめてください!離して!」
そいつは、久中さんの腕を掴んだ。掴んで、いつの間にかあった黒い闇へ引きこもうとしている。
「助けて!!大上君、助けて!!」
久中さんに告白すらできなかった俺が、あんな得体の知れないものに立ち向かえるわけが・・・ここはひとつ、お巡りさん!事件です!
や、やめろ、俺の足!勝手に動くな俺の足!どこに行く、そっちはあの得体のしれない何かがいる。止まれ、俺の足!
くそ、俺の体が、久中さんを助けろと叫んでいる。これは、もう止められない。久中さん、今お助けに参ります!
「久中さん!!!」
俺はかつてない程の大声で叫んだ。恐怖を打ち消す為か、少しでもアレを威嚇する為か、そんなのはわからない。俺は、黒いアレにとびかかった。
「ゴフッ!!」
見えない壁にぶちあたるとは、まさにこのことだ。俺は、とびかかった自分の勢いそのままに、全身にダメージを受けた。何かにぶち当たった。チクショウ、痛すぎるぜ。
痛みに悶えながらも顔を上げると、久中さんがいよいよ引きずり込まれようとしている。それを見た俺は、直勘で悟った。
やっぱり、あれはダメだ!あの黒い何かは、絶対にダメだ!何がどうとかそういうレベルではない。俺の本能がそう告げている。
怖くてちびりそうだ。このまま痛みに悶えるフリして、アレが過ぎ去るのを待つか。いや、駄目だ。俺は調子乗りの冷淡な、世の中を斜めに見て皮肉ることを最善の喜びとするクズ野郎だが、それでも久中さんへの、中学1年から今までの想いは本物だ。例え「ねちっこい粘着テープ野郎」と罵られようとも、この想いに偽り無し!
「おおおりゃあああああーーー!!!何すんだーーー!!!」
今度は、壁にぶち当たること無く、アレに突っ込んだ。そう、アレと、闇に引き込まれる久中さんに。ということは、俺も闇に突っ込むわけで。
馬鹿だなぁ。少し考えればわかるじゃん、俺。え、後先考える俺の冷静な頭脳は、どこかに忘れてきちゃった。テヘペロ。
闇の中は、どこまでも闇で、当たり前だが何にも見えない。わかったのは、それだけだった。




