勇者が魔族の奴隷になるのは間違っている。
皆様こちらの作品をお読みいただきありがとうございます。
本作品は自分の好みを全力で詰めさせて貰いました。ぜひお楽しみください。
目が覚めた時に視界に入ったのは赤と黒を基調とした色合いの広い部屋、正面には大きな椅子にさっきの少女が不機嫌そうにふんぞり返っていて、その横には側近であろう男が静かに佇んでいた。
そして、自分は…縄で縛られていた。
「ふん、ようやく起きたか。」
少女はつまらなさそうに鼻を鳴らす。
「とりあえずお前の素性を明かせ。お前はどう見ても魔族には見えん何者だ。」
「僕の名前はスヴィエット サハリス、人間です。」
「スヴィエット…お前、勇者アザルスの息子か!」
「…。」
相も変わらずあいつの名前が僕を悪い方向に縛り付ける。
「無言は肯定と捉える。」
「お前も私を殺しに来たのか!お前の父が私の祖父を殺した様に!」
「違う!僕はあんな奴と一緒にしないでください。」
「お前の言葉を信じられるか!」
この回答も分かりきっていた。
「だいたい人と魔族は停戦を結んでいて戦えるはず無いでしょ?」
「…最近も仲間が人間に襲われるという事案が増えたと聞く。お前がやったんだろ!」
「違います!僕はまずここが分からないんですから。」
「嘘に決まってる!でなければなぜ勇者の息子であるお前が人間の国からだいたい500キロも離れたこのディオリアまで来るのだ。」
「えっここディオリアなんですか?」
確かに僕が住んでいる町はアルメラウスでディオリアは距離にして500キロ離れているがなぜそんな所に…。
「とにかく私の城に無断で入った罪は重いしっかりと処罰させてもらう。」
すると横の側近が口を開く。
「どうしますかティノッタ様。未来のことを考えて消しておきますか?」
流石に緊張感が走る。
「待て、さっきこいつを攻撃をした時、私にも痛みと衝撃が走ったおそらく身体共有の呪いが掛かっているかもしれん。」
「では、どういたしましょうか?」
「地下牢にでも幽閉しておけ。」
「かしこまりました。」
ティノッタと側近の男の会話が終わり男に引きずり上げられる。
「さあ、歩け。」
「…。」
もう何かを言い返す気が起こらずそのまま連れられて行く。
再び変化が起こったのは地下深い廊下だった。
先に気付いたのは、側近の男だった。
「貴様何をしている!」
「何もしてな…うわっ!指輪が光ってる。」
指輪の方に注目していると頭上から衝撃が走る
「痛っ。」
「きゃっ。」
「ぐえっ。」
衝撃の正体はここにいるはずの無いティノッタであった。
「私は何でこんな所にいるさっきまで玉座に居たはずだ。」
「分かりません。何も無い所から急に降って来ておりました。」
「ところで、さっきから背中が痛いんだが何故か分かるか?」
「足下をご覧ください。」
ティノッタが足下を見ると踏まれているサハリスの姿が…。
「うわっ。」
「気付いていただきありがとうございます、そしてついでに降りていただけると幸いです。」
「うっ、うむ。」
あっ意外と素直にどいてくれる…。
「どうやら一定距離離れると強制転移させる力もあるみたいですね。」
「これもお前の力か!」
僕を睨みながら言ってくる。
「だから、知らないですって。」
「宜しいでしょうか姫様。」
「どうした?言ってみろ。」
「私に見えたのですが、確かにそこの男は何もせずただ歩いているだけでした。」
「じゃあ何が原因だと言うのだ。」
「分かりません…ただ姫様がこちらに来る直前、勇者の手元が突然光だしたのです。」
「勇者の魔力では無いのか?」
「いえ、魔力は感知出来ませんでした。ただ…同族の呪力反応がありました。」
「では、これは同族の恨みだと言うのか。」
「分かりません。ただその様な禍々しさも無かったです。」
「結局は何が原因なのだ!」
「あのっ!」
「なんだ。」
「もしかしたらこの指輪が原因かも知れません。」
「指輪だと…?」
「ええ、これです。」
自分がつけている指輪を目の前にいる二人に見せる。
「ティノッタ様がつけている指輪に似ていますね。」
「これは…!ベリュアード、貴様は待機していろ。お前は私と来い!」
ティノッタは側近の男ベリュアードに待機を命じた後、僕の服の襟を掴んで引っ張って連れて行く。
ある一室の扉が乱暴に開かれる、そこはもの凄い散らかった部屋だった。
「どこ?あれどこだっけ?」
ティノッタが散らかった物を退けていく。
こんな調子ではしばらく見つかりそうに無いため僕を手伝うことにする。
「いったい何を探しているんですか?」
「本よ。黒い本に白い文字赤い悪魔の絵よ。」
周囲を見渡すとクローゼットの裏にそれらしきものを見つける。
「もしかしてこれのことですか?」
「ああ!それ…ありがとう。」
「えっ?」
素直にお礼を言ってくれるとは思わなかった、あと口調がなんか変わったような気が…。
「どんな相手であっても自分の利益になる事には感謝する普通のことよ。それよりもその本を渡しなさい。」
とりあえず本を渡す。
「起きなさい!アンモ!アンモナイト」
すると本が開きふくろうの顔した人間が姿を現す。
「姫様!私名前はアモンナイトです。縮めるにしてもアモンとお呼びください!」
「冗談よ。それよりもアモンこいつ、まあ勇者の息子なんだけどこいつの付けている指輪が何か調べてくれないかしら?」
「どれ見せてもらいますよ。ふむふむ。」
アモンと呼ばれる男に指輪をまじまじと見られる。
「分かりました。姫様これは紛うことなきウィザーデュ リング、貴方様のお母上様が制作した呪具ですね。」
えっ呪具?これ呪具なの?
「確かにお母様の作った物ならこれだけの力を持っていてもおかしくないわ。」
原因を理解したティノッタは勢いよく振り返る
「ねえ!これどうやって手に入れたの?」
胸ぐらを掴んで振り回される。
「ひ、拾ったんです…。自分の住んでいる町の草原で…。」
「拾った?何でそんな場所にあるはず無いじゃない、一週間前までこの指輪は城にあったの!」
「本当に拾ったんです。今日、僕の住む町の草原で。」
ティノッタに必死に目で訴える。
何分くらい目で訴えていたか分からないがしばらくしてティノッタは呆れ気味にため息をつく。
「分かった!分かったから!男のくせにそんな捨てられる小動物のような目で見ないで!」
なんとか理解してもらえたようだ。
「ありがとうございます。ところで喋り方が先程とかなり変わってません?」
「あっ。」
しまった、という顔をしている。
「私は城の主よ威厳がなきゃいけないの。ってなんで貴方に説明してるの!」
「す、すいません。」
怒られたから咄嗟に謝ったが、あれ?今のは理不尽じゃない?
「そんな事よりもアモンこの呪術は指輪によるものなんでしょ?どうにかして指輪を外せないの?」
「無理ですね。まあ当然ですよ、呪具は最初に外せない呪いをかけますよね。残りは痛覚共有と一定距離離れると強制転移をさせる呪いですね。」
「なんとかして呪いを解けませんか?」
サハリスも頼んでみる。
「無理無理。その指輪を作ったのは姫様のお母上にして最強呪術師セパル様です。その呪いは私程度の力では全く効果ないです。」
「じゃあこの指輪は何目的で作られているんですか。」
「分からないですね。そればかりはご本人に聞いてみないと…。」
アモンとサハリスの話し合いにティノッタが参加してくる。
「じゃあ、急いでお母さんに連絡して貰える?」
「あの方とはなかなか連絡が取れません、時間がかかるかもしれません連絡が取れましたらお呼びしますね。」
「よし、これで大丈夫次は…。」
とそのタイミングでくぅ〜という音が鳴る。それは、ティノッタのお腹から聞こえてきたものだった。
「ご飯にしよう、貴方もついてきて。指輪で繋がっているからには貴方も一緒にしないと私が苦労するし。」
「分かりました。」
ティノッタに声をかけられてサハリスも一緒に部屋を出る。廊下に出ると側近といた時の喋り方に戻し声をかけてくる。
「おい!お前をこれから奴隷として扱うお前は私のこと姫様と呼ぶのだ分かったかスヴィエット。」
こちらに拒否権なんてあるはずがない。
「分かりました姫様。」
そして、そのまま食事をする部屋に入り近くにいる魔族の男に命令する。
「食事にする。二人分持ってくるのだ。」
「かしこまりました。」
男は部屋出ていきすぐに料理を持ってくる。
「さあ食うぞ。」
「「いただきます。」」
目の前のスープを口に運ぶ…美味しくない。他の料理も食べてみるも味がしないのと変わらないくらい薄かったり、ところどころ焦げて苦かったり生で食べてはいけない物が生だったりと控えめに言って酷いものだった。
これが魔族の食事かと思い姫様の方を見ると、姫様は食器を置き顔に青筋を立てていた。
「不味い。おい…この料理を作った者を呼んで来い。」
料理を持って来た男は怯えながら部屋から出ていき料理をしていた男を連れてくる。
「お前ふざけているのか?この程度の料理しか作れないのか?」
「お言葉ですが姫様、食事とは栄養補給のために行うのです味など姫様以外誰も気になどしておりません。」
「それはあくまでも戦中の話だろうが…。」
「ですが私以外のこの城にいる魔族は料理を作ることも出来ないかと…もちろん姫様も、だから料理は私に一任していただくしかないんですよ。」
「ぐっ。」
ティノッタは図星を突かれたのか歯噛みする。
「あのっ。」
ティノッタと料理をしていた男の口論にサハリスが間に入る手元を見ると食べられない者は横にはねてあるがそれ以外完食されていた。
「もしよろしければ僕が作りましょうか。」
「お前は作ることが出来るのか?」
「一応料理ならいつも作っていますから。」
「なら一度お前に任せてみるか。」
「良いのですか姫様!そいつは勇者なのですよね料理に毒でも盛られたらどうするのですが!」
「毒だったら私が死ぬ前にこいつも道連れにするつもりだから大丈夫だ。」
そんな発言に恐怖を感じながら厨房に入る。
「冷蔵庫には卵と鶏肉ときのこか…。これならあれが作れるかな。」
作るメニューを決めて取り掛かる。
料理が完成し部屋に持って行くとティノッタは険しい顔で待っていた。
「お待たせしました。」
料理を目の前に置く。
「これは?」
「オムライスという料理です。」
「見た目は中々美味しそうだな。」
ティノッタが料理を口に運ぶ。
「美味しい…。これ美味しい。」
「そんな馬鹿な!」
料理がどんどん食べ進められていく。
「トロッとした卵の食感とトマトを中心とした味付けとした美味しいご飯さらに旨味を引き立てるきのことお肉本来の旨味と食感…本当に美味しい。」
「ありがとうございます。貴方も食べてみますか?」
サハリスは近くに立っていた料理を持って来た男に声を掛ける。
男はゴクッと喉を鳴らす。
「ふふっ持って来ますね。」
再度料理を持って来てティノッタに声を掛ける。
「姫様こちらの机に置かせていただいて宜しいでしょうか。」
男は冷汗をかきながらティノッタの方を見る。
「構わん。今は気分が良いしな。」
今のやり取りに動揺している男を席につかせ料理を振る舞う。
男が料理を一口食べた後、凄い勢いで食べ尽くしていく。
「こいつはうめぇ、また食いてえな。」
男はサハリスにありのままの言葉を伝える。
「ありがとうございます。」
辺り一帯の雰囲気が和やかになっていくなか一人明らかに恨みを持った目線を感じる。そこをティノッタが一瞥する。
「分かったか?こういう事なんだよ。」
「ぐぬぬ、認めない!俺は絶対に認めない!」
料理を作った男は叫びながら乱暴に扉を開けて部屋を出て行く。
一瞬の静寂を挟んでティノッタが口を開く。
「よし、サハリスお前これから炊事係を任せる。」
「え、でも…。」
そして、扉の方を見る。
「…仕方ないのだ。お互いに意見が合わんのならば折衷案を出すか自分の案と合う者に変えるしか無い。」
少し厳しいかもとは思うが言っていることに間違えは無い。だからこそ、この提案を断る理由も無い。
「承りました。」
そして、この会話は終わる。
「ご馳走様。さあ次は風呂だ。」
二人でお風呂のある部屋の前に着く。
「サハリスは部屋の前で待ってなさい。」
ティノッタはそのまま部屋に入って行く。転移距離を気にして部屋の前まで連れて来たのだろう。せっかく一人になる機会を手に入れたのだから今日あったことを思い出す。
「今日は不幸なことばかりだったな…。」
あれ?考えてたら涙が出てきた。
「でも…嬉しかったな。」
料理を振る舞う相手がいてそれを喜んでくれる。それは自分にとっても嬉しいことだ。
そんな事を考えていると扉が開く。
「待たせたわね。」
ティノッタはパジャマ姿で出て来た。
「何て格好をしているんですか!」
「パジャマくらい無視しなさい。」
「違いますよ!あ〜もういいから部屋に戻ってください。」
サハリスはティノッタを押して再度部屋に入って行く。
「やめなさい!何をする気よ!」
「いいからそこに座ってください!」
ティノッタを座らせて櫛とドライヤーで髪をとく。
「はあ…髪なんて別に気にしないのに…。」
ティノッタは不満気に口を尖らせる。
「駄目ですよ…女性の髪は命と言っても過言ではないそうですから。」
「随分と変な事を聞いたのね。お母さんも同じ事を言っていたわ。」
「そういえば姫様の御両親はこの城のどこに?」
「両親はいないのよ。」
ティノッタの少し寂しそうな顔が心に刺さる。
「あっ、ごめんなさい。」
「うん?あっ、違う違う両親は今夫婦旅行中なのよ…私も行きたかったけど私を次の魔王とするための試練らしいし。」
「そうなんですね。」
「私としてはまだまだ勉強中の身だからまだまだやるつもりは無かったのだけどね。」
「…話は変わるけど髪を解くのかなり上手ね、こういう事は慣れてるの?」
「ほんの数回だけですけど。」
「手先が器用がなのね。」
「ありがとうございます。さてっと終わりましたよ。」
「ありがとう。いつもより髪が軽いわ。」
半分くらい湿っていたティノッタの髪は綺麗に乾いてサラサラになっていた。
「そう思っていただけたならこれからは自分で髪を整えてくださいね。」
「え〜面倒ね。あなたが奴隷の間はあなたがやれば良いわ。」
なんかこっちに面倒を押し付けられた気がする。
「さて、後は寝るだけね。」
「待ってください。まさかあの部屋で寝るつもりですか?」
「何か問題ある?」
「部屋の物を片付けません?」
「えっ?私お風呂に入ったし面倒…。」
「はあ分かりました…よろしければ掃除いたしましょうか?」
「えっ?いいの?」
「そうですね私は奴隷ですから。」
「あれ?奴隷ってそんな自分から積極的に行動を起こすものだっけ?」
ティノッタがそんな事を考えている間にも掃除が進められていく。
「ねえ、さっき私の両親の話をしたのだからあなたも話しなさい。」
キツい話題を振られる。
「本当に聞きますか?面白い話でもないですよ。」
「構わないわ。」
「僕の母親は分かりません。」
「えっ?」
「物心ついた時には既にいませんでした。」
「じゃあ、父親はアザルスは存命のはずよね。」
「あんな奴知りません。どこで何してるかも…。」
「だいぶ問題がありそうね。」
「別に大した話ではありませんよ。一つ、僕はあいつとは手の指で数えられるほどしか会ったことしかありません。二つ、あいつは僕のこと嫌いって言ってましたし、僕もあいつのことが嫌いです。三つ、あいつが勇者だったのはあくまでも昔の話です、今は女遊びと酒ばかりの駄目人間ですから。」
「へ、へぇ〜。」
明らかに引いていた。
「じゃあ、今まではどうやって生き延びてきたのよ?」
「仮にも親が子を育てられなかったらいくら勇者とは言えど冷たい目で見られるのは避けたかったんでしょう。ある程度の年までは雑に育てられて今はお金の袋が置かれているだけです。」
「それは…ちょっと…え〜?」
信じられないものを見る目でこちらを見る。
「まあ一人で過ごすのも慣れてますよ。ん?これは?」
乱雑に置かれている物に柔らかい感触があり持ち上げてみると、それは薄い黒色の布だった。
「なっなっ!」
ティノッタの顔がみるみるうちに赤くなっていくが…。
「えいっ!」
サハリスは何も気にせず籠に放り込む。
「…下心を持たれるのもあれだけど全くの無反応なのも女として複雑ね。」
「何がですか?」
「え?」
「うん?」
僅かな沈黙が流れる。
「あっそういうことですか…。えっとごめんなさい?」
「なんで謝ってるのに疑問系なのよ…。別にあなたに異性として見られたいわけではないから。さっきも言ったとおりあなたは奴隷なのよ。」
「分かってますよ。」
口を動かしながらも掃除を続けていく。
「それにしてもさっき私の髪の時や料理をそうだけど随分と手際が良いわね。これなら人間の国では人気だったのでしょうね。」
「いや、別にそんな事は無いですけど?」
「はあ?いやそれだけ様々な事できれば人から頼りにされるものでしょ?」
「勇者の息子って思ったより生きづらいのですよ。」
「なんでよ。」
「嫉妬や羨望、勝手な期待やそれに伴う失望なんかを一心に受けなければいけないのですから。」
「ちょっと待って?なんであなたが語ると一つ一つ重いのよ。」
「なんでと言われましてもそういう思い出しか無いからとしか言いようがないです。」
「まあ…いいわ。」
いたたまれない空気になって会話が終わる。
「そういえば、あなたがさっき作った料理えっと…。」
「それそれ、凄い美味しかったわ。どうやって作ったの?」
「あれはですねケチャップが無かったのでトマトソースを作りまして、肉やキノコと一緒に炒めてご飯も混ぜて全体に馴染ませます、それでベースのご飯は完成です。次は卵です、とは言っても卵をよく混ぜて程よく焼いてふわふわになったらご飯にのせて完成です。」
「なるほど…ねえ他にも料理作れるの?」
「多分そこそこ作れるとは思いますけど。」
「ふふっ。じゃあ明日も楽しみね。」
「あの…。」
「何よ?」
「先程から思うのですが態度が…。」
「さっきも言ったでしょ。周りには威厳が必要だからよ。」
「いや、僕に対しての棘が…。」
「ずっとあの態度でいるのも疲れるし、あなたは奴隷で離れられないんだからずっとイライラしてられないし、何よりあなたは色々役に立ちそうだしね。」
ティノッタがニコッと笑う。
正直今の笑顔は可愛いと思ってしまった。
サハリスはティノッタの方に向けていた顔をそらす様に正面に戻す。
その動揺を、隠す様に掃除の手を早めていく。
「おおっ。早い早いどんどん片付いていく。」
「はい!終わりました。」
「ありがとう。じゃあ寝ていいのね。」
「大丈夫です。それではおやすみなさいませ姫様。」
部屋を出ようとする僕を姫様が止める。
「ちょっと待ちなさい。」
「どうかしましたか?」
ティノッタが近づいて来る。
「何も説明していないのにどこに行く気よ。」
「あっ!…大丈夫ですよ廊下で寝ますから。」
「いや、いくら奴隷だったとしても痛覚共有してる相手なんだからそんな所で眠らせる訳ないじゃない。はい、これ隣の部屋の鍵。」
「ありがとうございます。」
「気にしないで。それより明日からコキ使ってあげるからさっさと休みなさい。」
「ありがとうございます。おやすみなさいませ。」
「おかしな奴ね。おやすみ。」
その言葉を聞いて姫様の部屋をあとにする。
説明された部屋の扉を開ける。
誰も使っていなかったからか閑散とした部屋だったがそれなりに良い部屋だった。
「おぉ〜凄い部屋、ベッドも家よりもずっとフカフカ〜♪」
ベッドの感触をほどほどに楽しんでからベッドの中に潜る。
「今日は過去一番不幸かと思ってたけど今日は色々な経験できたし幸せだな〜。姫様もコキ使ってくれるらしいし明日も頑張るぞ〜!」
奴隷にされたはずなのに何故かやる気を出しているサハリスだった。
こちらの作品をお読みいただきありがとうございました。
勇者が何かヤバい奴ですね。
本当にヤバい奴は恐ろしいくらい優しい奴の気がします。